森絵都 「永遠の出口」
☆☆☆☆☆
森絵都の小説ってのはなんでこんなに私の琴線に触れるのだろう。
と真面目に考えるふりをしても判るはずがないが、「カラフル」で初めて森絵都の世界に触れてから、私はその虜になってきた人間の一人でして。初めての「大人向け」作品である「永遠の出口」も最高に面白い一冊でした。
森絵都の物語は、かなり珍妙な世界を舞台にしている。
「カラフル」は死んだはずの「僕」と天使プラプラが、「僕」の死の謎について探っていく物語だし、「宇宙のみなしご」は屋根に上ることを秘密の遊びとしている奇妙な姉弟の物語。「DIVE!」はスポーツものだが、題材は水泳のダイビングというマイナースポーツ。
これだけを見ると、奇妙な舞台設定を売りにしたキワモノを書く作家だと思われる向きがあるかもしれないが、決してそんなことはない。森は奇妙な舞台を描く脇で、心理描写の巧みさや、ストーリーのツイストで勝負をしてきた作家だからである。
「永遠の出口」は決して特異な舞台設定がなされているわけでもなく、どこにでもいる少女の10代を描いただけの作品。取り立てて奇妙な事件が起こるわけではなく、小さな事件とそれに動かされる主人公の姿が書かれているだけ。
だが、巧い。本当に巧い。「永遠の出口」には、何もできないくせに自意識ばかりでかくて、それでも必死でもがいていた10代のあのころが完全に納められている。
この物語に関しては多くを言うまい。とにかく、この文章を読んでいる人全員に読んでもらいたい。上半期ベストはほぼ確定。恐らく年間ベストになると思う。
2003年5月20日
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