獣の世界というものは、割合簡単に出来ている。
テリトリーを侵食しようものなら牙を剥き、勝つか負けるかのどちらかで。大抵の場合、目を逸らした方が負け。
そのテリトリーは、場所であっても、物であっても同じ事。勿論、雌であっても。





「なんだよ、もう終わりかぁ?」
だからこの状況。
ただひとり、悠然と立ち。長い水色の尻尾をぶんと振り。耳など既にピンと立ち上がって、もう戦闘態勢ですらないような。そんな雄が、及び腰になって目も合わせないその他大勢の雄の中心にいたら。誰が見たって、勝者は歴然。
「俺のモンに手ぇ出そうってんだ…腕の一本二本覚悟してんじゃねえのかよ!!」
誰が俺のモンだ!
クロウは通常ならば、そう叫んでいただろう。叫ぶどころか、拳の一発くらいはお見舞いしていたはず。なのにそれが出来ないのは、喋ることもしんどい状態だからで。
はぁと熱い息が漏れる。それだけで、ぴくりと水色の耳が動き。怯え後ずさる雄達から全ての興味をなくしたかのように、くるりと振り向いて。
かくんと首を傾げた京介は、珍しくも無闇に笑うことはせず。ひどく不機嫌な顔で、ゆっくりと近づいてきた。
「言ったよなぁ…この時期は家出ないで、俺待っとけって」
京介が少し前屈みにそう告げたのは、クロウが木の根元に蹲っているからだ。蹲って、熱をやり過ごそうと必死になっているから。
言い返すことも出来ないなんて、なんて不覚!
思ってみても、こればっかりは京介の言う通り。ひょこひょこと気軽に出歩ける時期ではなかった。わかってはいたけれど、まさかこのタイミングで…思っても仕方がないじゃないか!
ゆると顔を上げ、京介を睨みつけたつもりのクロウは、その顔がひどく魅力的に見えることを知らない。熱の篭った青灰の目が、雄を誘うように濡れているなんて。
あぁくそっ
京介が小さく吐き捨てた。苛立ちが全身に現れていて、尻尾などバシバシと自分の脛に叩きつけている。
「お前ら全員、今すぐ消えろ!じゃねえと片耳削ぎ落とすぞ!!それとも何か…内臓ぶちまけられてぇか!!」
振り向きざま耳を伏せそう叫ばれて、それでもクロウを狙う雄などいない。多分今いる森の生態系、トップクラスの雄が京介だから。彼にかかれば種の保存、以前に最低限殺し合わないというルールすら無効化されることは、わりと有名な噂なので。
いくら濁った頭でも、京介がかなり本気で言っていることはわかったのだろう。脱兎の如く逃げ出した雄達の姿を、しかし京介はその金の目に写すことなく、本格的にしゃがみ込み。大きな大きなため息をついた。
「マジ、信じ、らんねぇ」










オレンジ猫のクロウが水色猫の京介に出会ったのは、数年前の事。その頃クロウはまだ子猫で、京介が見上げる程に大きく感じたものだけれど。でもけして目を逸らさずはっしと見つめ続けた根性のあるクロウを、京介はすっかり気に入ってしまった。
そもそもが、京介は…京介以外にも数匹いる猫達の特徴が、睨みの強さだ。京介の場合は、闇に浮かぶ金にも似たレモンイエローの瞳。睨まれるとまるで吸い込まれそうなそれは、目を合わせ続けると恐怖に囚われる。
喧嘩の醍醐味、睨み合いが不可能な場合、それは必然的に敗北を意味してしまうわけで。
だから成猫の雄ですら嫌う、京介との喧嘩。なのにクロウは、京介の腰にも満たない子猫であった頃から、一歩も引かなかった。気に入られてしまっても、仕方がない話。
猫は成長が早い。翌年にはさっさと成猫になったクロウは、その頃から頻繁に京介に絡まれるようになる。
発情期まだ?!発情期まだ?!発情期まだ?!
時期になると京介が喚きながら家に飛び込んできて、憤慨したクロウに爪を立てられるを繰り返して…2年ほど?
個体差があるにしても、発情期の遅かったクロウは正直京介に辟易してもいたけれど。大変残念なことに、京介は喧嘩以外全く全然役に立たない駄目猫で。残念なことにクロウは、大変大変世話焼きで。この頃では半同棲といえる状態にまでなっていた。発情期以外わりとドライな関係を望む猫達の間では、それは珍しいことで。
そもそも一匹の雌猫に固着して、2年の間発情期をスルーし続けた京介の行動も珍しい。発情期において、最も重要なのが喧嘩の強さであるにも拘わらず。



クロウは別に、京介を独占しているつもりはない。京介がクロウを独占しているだけで、独占されているつもりもない。
それでも…しょうがない。京介は突拍子もない猫ではあるけれど、事クロウに関してだけは評価できる、言えるほどに一途だ。
発情期を迎えていない雌猫に手を出すなという、これまたシンプルで当然の掟。苦痛しか与えないからというごく真っ当なその掟を、京介は文句を言いつつ確り守ったのだから。



胸もねぇ、色気もねぇ。えらいヤンチャですぐ爪立てるし、蹴りだって入れるし
…でもしゃあねえ、勝手に惚れたのは俺だからなぁ
なんの衒いもなく、京介はそう言って笑うから。
しょうがない、発情期くらいくれてやる。クロウがそう思うのも、時間の問題だった。勿論、来たらの話ではあったけれど。





なのに、それなのに。
散々止められていたにも拘わらず、発情期に入った森の中出て行った先、まんまと発情期に入るなんて誰が思うだろう?当然ながらクロウは想像もしていなかったし、初めての発情でどうしていいかわからずに。
楡の木の下に蹲り、ただひっそりと息を整えようとしてみても。うっかりすると口から漏れる、くぅくぅと鳴く声。雄を呼ぶ声。
けして出してはいけない、けして気付かれてはならない。なのに身体から発するらしい匂いだけは、どうしようもない。
気付けばぐるりと、雄猫達。カタカタと震える身体は恐怖からではなく、期待から。気持ちだけを置き去りに、すぅと空気を吸い込んで。





反吐が出る





本能が、そう告げていた。
知っている、知っているはず。
ここにいる誰よりも、どんな雄よりも強い存在。
いない、ここにはいない。
いない、いない…ならば、呼べばいい。


「…っっきょう、すけええぇぇっ!!」





ざりと抉られた楡の木の幹。
ただの一振りでくっきりと爪痕を残すほどの一撃など、クロウは見なくてもわかる。ぱらぱらと髪や耳に落ちてきた木片が、その激しさを教えてくれたから。
「お前ら、何」
ひどく静かな声。普段の甲高い声とは比べようもなく、だからこそ冷気のように冷たく感じる怒気。
森全体にひたひたと忍び寄るそれは、黒い塊が膨張し破裂しそうなほどの恐怖。ただの一突きで、それは爆発する…簡単にわかるような。
「わかってんのか…ここ俺のテリトリー、んでこいつは俺のモン」
長い水色の尻尾が、ゆうらと揺れながらクロウの視線の端を通り過ぎていった。その時点で、クロウは顔を伏せ大きく息を吸い込む。
もう、大丈夫。
「わかってんのか…誰に喧嘩売ってんのか!!」
パーン、お終い。
膝に顔を埋めながら、それでもクロウはゴロゴロと喉を鳴らしていた。










「クロウ、いい感じに限界なんだけど俺」
すんと、京介が鼻を鳴らす。
濃厚な雌の香りは、クロウの傍に行けば行くほど強く漂う。首筋なんて、余計に。
すんすんと、鼻を近づけるごとにクロウの身体は後ろに下がったけれど、さくと地面に立った爪は、京介に振るわれる事はなく。
「ふぇっ」
変わりに出たのは、濡れた声。京介が顔を上げれば、そこには今にも泣きそうな…というか、涙をいっぱい青灰の目に溜めたクロウがいた。先ほどまで余裕を漂わせるほどに絶対的な力を見せ付けていた京介が、これだけでぺたんと耳を伏せる。
「なっ…まだなんもしてねぇ!つか泣くほど嫌なのかよ!」
「いやっ」
そんなはっきり!
一瞬身を引きかけた京介は、それでもクロウ以上に深く地面に爪を立て、思い止まって。
「おま、俺が何年待ったと思ってるよ!今更嫌って…大体こんな時期にふらふら出歩いたのはお前の方だからな!俺が折角柔らかいとこでちゃんと…」
「きょ、京介がかっこよく見える…っ俺明日死ぬんだっ」
「ってそっち?!!」
だってありえない!
ついにぽろぽろと涙を流し、ありえないありえないと言い募るクロウに。京介は珍しく、心底困った顔。
発情期に入っているから、クロウの感情が激しく揺れているのはわかるけれど。普段の勝気さを残したまま泣かれると、どうしていいかわからない。
「…あ〜」
こんなことなら、レンアイカンジョウなど猫には不要とも思うけれど。物凄い据え膳を前に困りきる獣ほど、笑える図もないわけだけれど。
惚れてしまったものはしゃあない
「死なれたら困るし」
他の雌の声など、大きな耳の先にも触れないくらいの番を見つけてしまったのだから、覚悟を決めるしかないではないか。
「…まあとりあえずお前、俺にやられとけ?」
さわりとオレンジの髪に触れれば、うにゃっと零れた声と震えた身体。ぽろぽろと涙を零した青灰がきゅっと閉じ、ぺたんと伏せた耳とふらふらと揺れる落ち着かない尻尾。
「死にたくねぇ!って思うほど、よくしてやるから」
なぁ、クロウ?
耳の後ろをカリカリ引っ掻き、それから顎を掴んで顔を上げ。うっすら開いた目尻に唇を落として。
正直な話し、京介は全く全然始めてのクロウ相手に手加減出来る気はしなかったけれど。最低でも努力はしよう、ギリギリ理性が残っているうちに決めたのだから、まだいい方だ。何の準備もなく襲い掛かかられ、項を噛まれ血だらけになる雌はよくいるのだから。





かぷりと噛み付くように唇を食まれ、クロウの肩が大きく揺れた。それでも一度開けてしまった目は閉じず、目の前にある京介の顔をぼんやり眺めていた。
影色の目を閉じてしまえば、本当に綺麗な顔。白い肌に、銀にも見える綺麗な髪。長い睫は見事なカーブを描き、目元に影を写していて。
「ぁふっ」
京介の顔を見ているだけで、クロは身体の芯がじんわりと痺れるように感じていた。なんだかふわふわと、心許ない感触。
唇が触れるたび、ざらざらの舌が口内で犬歯をなぞるたび、ゴロゴロと鳴りそうになる喉を必死で押さえつけなければならない。そうでもしないと、プライドを投げ捨ててしまいそうだから。
そんな気持ちが強すぎたのか、歯をなぞっていた京介の舌に、牙が触れた。少しだけ、食い込むくらい。なのに京介が少し慌てて引き抜いたから。
「…っ」
「あ…」
口の中に少しだけ残った、鉄の味。
「痛ぇ」
少しだけ眉を顰めた京介が、ぺろりと唇を嘗めた。血が出てしまったのは舌なのに。
それだけでふわふわだったクロウの中の感触が、鳥肌が立つほどに膨れ上がった。これはもう、本能だ。
「京介、舌」
気付けばするりと伸びた手が、京介の両頬を包んでいた。なんて綺麗なんだろう、思っていた顔が間近にあるのに、見入ることもせず。
「クロ…っ」
最後まで言わせない。言い終える前に自ら舌を差し込んで、ぺろりと血の味がする舌を絡め取った。ざらざらの表面が傷口を掠るから、けして癒す事はないけれど。京介は最初目を見開いて、それから嬉しげにゆるりと目を細めていた。
ゴロと、喉を鳴らさんばかりに。



「痛ぇよクロウ」
もっと、もっとと唇を寄せるクロウを離し、ころころと。笑う京介は、心底楽しげで。
「違ぇだろ、お前が欲しいのこれじゃねぇだろ」
するりと服の中に入り込んだ手が、グローブの感触ごと肌を滑って。なぁう、零れた声はまるで、甘えるように鼻にかかっている。
臍から胸へ、ゆっくりと滑っていった指が、爪を立てないように乳首を弾いた。途端、クロウの身体が大きく揺れ、ぎゅっと目が閉じて。
「ヴヴ…」
ぺたんと伏せた耳が、ふるりと震える。それと同時、もぞと太腿を擦り合わせて、いやいやと首を振り。
「お前無防備なんだよ、だからちゃんと下着つけろってあれほど…」
「違っ!っんんんん!!」
…違う?
揉むほどもない胸を、京介の両手が掴んだ。普段から下着を着けないそこは、すんなりと侵略を許してしまう。
ぐりぐりと少し乱暴に親指で弄られるだけで、ぷくりと立ち上がった乳首は熱を帯び。ふるふると震え続ける身体が断続的に跳ねる。
「ゃあっ、あ、あんんっ」
止める事の出来ない喘ぎが、後から後へ溢れ出て。クロウは頬を朱に染め、何度も首を振った。
こんなの知らない、まるで自分の身体が何かに操られているようで。熱を逃がすことも、冷ますことも出来なくて。
「やっ、指っやぁ!」
「我儘言うんじゃねぇよ!」
「ふああぁぁ?!ちがっ、だめ、きょうす…っ」
触らないで欲しい。おかしくしないで欲しい。そう言いたかったのに、京介は全く聞いてくれず。どころか、服をたくし上げかぷりと乳首を口に含んで。
「あん、あぅ!」
びくりと、また大きく身体が跳ねた。跳ねるたび、クロウの視界が真っ白になる。擦り合わせた太腿の間は、じんわりとズボンの生地を湿らせる何かが溢れて。
「にゃっぅぅ!きょうっおかし…っこれ、だめぇ!」
胸にしゃぶりつく京介の肩を、必死で押し返そうとするのに。彼は外気に晒されたクロウの腰を抱きしめ引き寄せるばかりで。
必死になりすぎたクロウは、だから気付かなかった。いつの間にかズボンのファスナーが下ろされ、ぐちょぐちょに濡れていた下着の中に指が差し込まれるまで。
「ひゃんんっ!」
「すっげ、ドロドロ」
ぐちゅりと、耳障りな音。三本の指で抉るように掬われた液が、京介の手をどろどろに汚し。見せ付けるように晒されたその手を、クロウは呆然と見つめた。
ありえない量の液。てらてらと光る指を、京介が目の前でぺろりと嘗めた。それもまた、信じられない光景で。
「なあ、クロウ。ここ、いつでもいいみてぇ。今すぐ突っ込めって催促だよな、これ」
「そんなん…ふぁっ!ちがう、も…っ」
大きく首を振りながら、それでも太腿がゆるゆると開いていく。もう一度差し込まれた指は、果てることなく溢れ出る液ですぐに濡れ。
「突っ込めって、事だよな?!」
「あああっあんっ!ゃ、ちがっうぅ!」
ぐちゅりと大きな音をたて、勢いよく膣内に突き刺さった指。ぎゅうと締め付けながらも、クロウはまた首を振った。濡れた青灰も、熱に浮かされながら逸らされる事はなく。
京介が笑う、ニィと。
「はっ!それでこそクロウだぜ?でも素直じゃない子猫はお仕置きな!」
また勢いよく指を引き抜かれ、何度目かわからないほど視界が白く染まり。それでも漸く逃れた熱に息を整えていたクロウは。取り出されたペニスに、一瞬目を奪われた。



残念なことに。本当に残念なことに、半同棲中何度か見る機会があったそれ。なのに今まで見たこともないほどに膨張し、反り立っているもの。
くちゃくちゃと、クロウの愛液を擦り付けられたペニスは、そのままほとんど脱がされていないズボンの隙間からクロウの性器に当てられて。
「!ぁ、やめっ!前からじゃっ」
「仕置きだっつってんだろうが!!」
「奥までっっあああうぅっ!」
止めようと伸ばした手が、京介の服を強く掴んだ。一気に肉壁を押し広げ深く深く入り込み。
初めてのときに感じる痛みなど、クロウは一切感じなかった。強烈な熱さと、意識が飛びかけるほどの快感。休む暇もなく突き上げられ、それでも今の体位が正しくないことだけはわかっていて。
「あっあっ、っうんん!や、ぅぅ」
「嫌、じゃねえだろ!こんな食らいついて、きてっ」
そういう意味での嫌、ということを。きっと京介はわかっている。ニィと笑っているから。
十分な長さのある京介のペニスは、クロウの膣内の深いところにまで届くけれど。快楽を得るだけならば、それでも十分だけれど。
発情期の交尾は、お互いを貪ることだけが目当てではない。
「いっちゃ…っやぁ、いきたくなっ」
それなのに、いうことを聞かない身体は貪欲に快楽だけを拾い上げ。十分な深さにまで達していないペニスに絡みつき。
「っ…俺も一回、出す…!やばい」
「あぅっ!だ、ふあぁぁっっ!!」
どくりと精液が流れ込んできた場所は、深くはあるけれど満足できる場所ではなかった。ビクリビクリと身体を震わせながら、初めてだというのにクロウはそれがわかった。



「ぅぅッ…ば、か!京介の、馬鹿っ」
それはもう、目に涙が滲むほど。睨みつけたクロウに、それでも京介は笑みを崩さずに。
「何で」
何度か体内に精液を擦り込ませ、するりと抜き取って。いまだ息の整わないクロウの、伏せたままになった大きな耳。その後ろを優しく掻く仕草は、普段の彼のガサツさからは考えられないけれど。
顔はいつも通り、余裕綽々で余計に腹立たしい。
「前から、じゃ!ちゃんと届かないかもしれないだろっ」
ヴヴヴと唸り声まで上げて、牙まで見せたクロウは本気で怒っているようで。
「ちゃんと奥まで挿れないと、京介の子供…」
ぽろりと零れ落ちた言葉。怒りに任せ、言いかかった言葉。途中で気付き慌てて止めても、そのほとんどを発してしまったクロウは、途端に視線をさ迷わせた。
「俺の子供、何」
なのに京介は、にやにやと笑うだけ。
ヴヴヴとまた、喉の奥で声を濁す。今度は、悔しげなそれ。
暫くさ迷った視線が、それでももう一度戻ったとき。クロウは一睨み、睨みつけ。それから京介の身体を押しやるように背を向けていた。
ゆらりと長い尻尾が晒され、胸の代わりとばかりに柔らかな曲線を描く尻が晒される。先ほどまでペニスを食んでいた性器は、少しの血痕…でもそれ以上にとろとろと精子と愛液を溢れさせながらひくりと蠢く。
一瞬だけ振り返ったクロウの頬は、真っ赤で。それでも切なげに寄せされた眉が、どこか物欲しそうに見えて。
「ちゃっ…ちゃんと、挿れろっ!俺お前の子供、欲しい、から…っ」
最後の方は、すぅっと空に消えてしまうほどか細い声。それでも十分。



尻にちゅっと音をたててキスをされ、オレンジの尻尾が一瞬ぴんと伸びる。それでも、がっしりと捕まれた腰に、へなりと垂れたそれが、京介の腕に絡まった。
「俺もお前以外、産ませる気ねぇよ?」
「あうぅっ」
「待った甲斐があったよ、なぁ?!」
「ッッッ!!」
先ほどよりもゆっくりと入り込んできたペニスは、それでも半ばほどから一気に押し込まれた。ずっとずっと深くまで。子宮口をも押し広げ、更に奥まで。
「くぅっん…!ぁ、っ…ふかいぃっ!」
奥をノックするように何度も浅く突かれ、クロウの腰がゆると揺れた。まるで誘い込むように、ゆらゆらりと。
「はふっ…あぅ!ゃ、こんな…ッきょうすけぇ」
「焦んな、どうせ収まんねぇほど出すぜこれから」
毎日な
付け加えられた言葉はきっと、クロウの耳には届かなかった。嫌々とまた、首を振っていたから。
初めての性交から間をおかず、なのにひどく欲しがる身体はもう、ゆるい動きには満足出来ないようで。
「やぁっ!」
「ったく、我儘子猫」
それでも嬉しげに。呟き大きく突き上げれば、ぎゅっと膣内が絞まる。絞まってなお、柔らかくうねる。
「お前、ちょっと良すぎだろ、これ!」
「あんっあああっ!!」
ぱんと、音が鳴るほどに激しくなっていく挿入。ぎちぎちとさらに太さを増したペニスが抉るたび、オレンジの尻尾がきゅっと絞まった。まるで催促だ。
今までよく我慢した俺物凄い据え膳だった
腰を打ちつけながら、京介はそんな事を一瞬だけ思い。それでももう解禁、好きなときに好きなだけ。
「ここで確り形覚えろよクロウ!俺専用だからなぁ!」
「ばっ…ぅぅっ!おま、以外入る隙、つく…なっ」
それはもう
快楽に囚われながらも、最後まで強気を押し通す雌など。クロウ以外いるかという話。
「愛してるぜぇ?」
告げれば、ぴくりと震えた耳と、きゅうと絞まった膣。口から返事がくるのは多分、もう暫く先だろうけれど。今はこれで満足。
「…ッ出すぞ、受け止めろ!」
「ふぁ、う…んっ、ちょうだ…っいっぱい!」
ガクガクと震える身体が、全身で待ち望んでいるようで。際奥に押し入れた亀頭を、肉壁がぎゅうと絞め付けて。
「あつ…ッあ、あっっ!!」
「っ!」
子宮に直に注ぎ込まれた精液が、クロウの腹を熱く潤したとき。お互いの口元にはうっすらと、笑みが浮かんでいた。










「子猫じゃ、ねえ!!」
楡の幹がずたぼろになるまで。とりあえずやるだけやり抜いた京介が満足する頃には、クロウの腰は抜けていて。散々やったというのにふら付く気配もなく、上機嫌でクロウを抱えて帰る途中。
酷く不機嫌なクロウは、そう言ってぷいとそっぽを向いた。抱っこされているから、そっぽを向いてもさほど意味がないのに。
「もうちっさくねぇ!発情期も来た!だから子猫言うな!」
といってもいまだにクロウは、京介の首までも身長がないけれど。確かに昔よりは大きくなっている。
そういう意味の抗議なのに。
「じゃあ嫁な」
全く何も汲み取らなかったらしい京介の、心底どうでもいい返答。脱力しながらも、水色の耳を引っ張るだけは引っ張って。途端罵声を響かせる京介は、それでもクロウを落としたりなどしないから。
まあいい、嫁でも
クロウはそれを、いつか言ってやろうと思った。いつになるかは、わからないけれど。



END




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