さあ遊戯の時間だ
さあ、さあ
Burning up with my desire
I’m not in love with you
When the world stops turning
機嫌の良い声が、歌を紡ぐ。
軽い足取りで歩きながら、闇の中を縫うようにさ迷いながら。
黒いマントが、持ち主の心情を表すかのようにひらりひらり、広がっては戻り忙しなく動き回る。
I’m not in love with you
When the river stops running
普段は甲高く声を張り上げ、耳障りの悪い笑い声を響かせる彼。
しかし今、彼の紡ぐ歌声は甘く、とろとろと官能的とすら感じるもの。
When the midnight sky is red
ニィと唇が上がる。
意味を理解しているのか怪しい…以前その歌声を聞き思った同志は、どうやら間違っているようだ。
絶望的な状況になったときに、愛しはしない…その歌の本来の意味と、解釈は違うようではあるけれど。
And the daylight never ends
甘やかな声が震える。
今にも笑い出しそうなほど。
Then baby…
ぱたと、歌声がそこで止まった。
柔らかな雰囲気が。闇を纏ってすら柔らかいと感じた雰囲気が、一変する。
耳を澄ませ、徐々に徐々に寄って行く眉間の皺。ビリビリと撒き散り始めた怒気。
彼の影の中からうっすらと覗いた紫の瞳が、慌てて目を閉じなおすほどに強烈な。
ビリビリと、グラグラと。浮かび上がった表情は、狂気。
「……クロオオォォォウ?」
絞り出た声に、先ほどの甘やかさは欠片もなく。
足早に向かった先、蝶番が軋むほどに勢いよく扉を開いたその奥。
クロウが、生贄に跨っていた。
クロウは無邪気。
昔立てていた髪は下ろし、押さえていたバンドもどこかに投げ捨てて。黒い輪郭のほとんどを覆い尽くす青灰の瞳を細め、無邪気に笑う。
無邪気に笑いながら、お気に入りに与える鎖。拘束するための椅子。口を塞ぐギャグ。目を塞ぐバンド。
声はいらないと無邪気に笑う。目もいらない、動く事は許さない。
ただ座って身体を硬直させ、必要なものおっ立ててりゃいい
それ以外はなんもいらねぇ、言って笑う。
無邪気、だからこそ残酷な一言、仕草、行動。
「クロウよぉ…俺はそいつ、知らねぇんだけど?いつ増えた」
クロウは耳を塞がない。拘束され、目を塞がれ口も封じられながら。唯一自由になる耳で拾う音は、自分に跨るダークシグナーが漏らす吐息ではない。喘ぎ声でもない。そんなもの、クロウは一言たりとも零さない。
彼らはやがて知る、大抵は早い段階で。
クロウが耳を塞がないわけ。
「2日…3日?わかんねぇ、その質問重要?」
「んじゃ、前のお気に入りは食わせて貰っていいよなぁ」
「京介、我儘〜」
ケラと笑う。
「そいつは何日だぁ?」
「わかんねぇ、次いついいのが見つかるか…と、萎えたじゃねえかこいつ!京介!」
怒った声を作っていても、すぐ傍にいるからこそわかる。言葉のそこかしこが震え、笑みを堪えている事。
耳は塞がない、塞いだら楽しくない。
毎回交わされる会話、それを聞いたあとの行動は大まかに2通り。
躍起になって縋るか、恐怖に戦き萎える。
「面白くない」
クツクツと、笑みが漏れた。
「だから、もういいや」
途端に掴まれる首と、何かに覆われる感触。その後はもう、何もない。
椅子の背もたれに向かい合うように座るクロウ。
いつの間にか傍らに来た京介を、ゆると見上げて微笑むクロウ。
不機嫌な顔を隠さない京介に、きょとんとした顔で眉間の皺を押すクロウ。
可愛い。
可愛くて仕方ない、でもそれとこれとは別じゃないか。
「しょうがねぇ、セックスしようぜ京介」
「してたじゃねぇか!」
別。別のはず。
は?
と、不思議そうなクロウの顔が可愛いなんて思ってない。
「お前馬鹿。何度も言ってんだろ、これはオナニーだって」
とん、と。もう何もなくなった椅子を指で弾き、不機嫌そうな顔で。
「言っちまえば、これは効率的なオナニーだ。俺ケツになんかないとイケねぇもん」
セックスすんのはお前とだけ
なんて。
嬉しくない、にやけてない、騙されてない
「…してくんねぇの?」
――――――無理でした
ちょっと悲しそうな顔とか、うん知ってるかわってる作ってるって事。でも色々無理でした勝てる気がしません全面降伏です。
敗北を宣言しましょう、鬼柳京介の名の元に。
「……ああぁぁぁもう!!ケツ出せ!!」
先ほどまで生贄のモノを咥え込んでいたクロウのアナルは、あっさりと京介を迎え入れる。
入った瞬間絡みつき、奥へ奥へ飲み込んでいく卑猥な肉壁。
「ふぁ…ぁんん」
ガタンと椅子がなる。先ほどとは逆、クロウが椅子に深く座り込み、大きく足を広げ。京介がクロウに覆いかぶさり、腰を進め。
届く奥の奥にまで、到達した途端きゅうと抱きついてくる小鳥。
黒く塗りつぶされ、その羽を汚されてすら輝く事を止めない。何処にいたって何に染まったって、それだけは変わらない可愛い小鳥。
「愛してるぜぇ?」
「俺も…っ!あっ!あんっあ!」
「コイツもお前が、大好きだって、よ!」
奥底にグリグリと亀頭を押し付けてやれば、ぎゅっぎゅっとその度に収縮を繰り返し、甘い痺れを京介に伝えてくる。
黒に縁取られた青灰の瞳が、最も綺麗になるのはこの辺り。
最初は楽しんでいるそれ、最後は視点が合わなくなるから。
早々見れるものではない。翻弄され始め、うっすらと水の膜を張った瞳。それでも京介の言葉に、やんわりと微笑み首を傾げてみる仕草。
「俺、もぉ」
ぎゅうと、一際強く締め付けられる。こんな行動は、とてもとても即物的ではあるけれど。
「京介に、突かれんの、好き…京介に、中出されんの、好き…俺を孕ませろよぉ、できんだろダークシグナーなら」
いつもの遊戯、言葉遊び。
根拠のない発言と、掛け合い。ルールはひとつ、絶対に否定しない事。
「何産まれんだよ、それ」
クツクツと笑いながら、ゆっくりと腰を進める。遊んでいるときは、なるべく長く持たせる事。
「んんんっ…ぁ、ちっさい、アプ様ぁ?」
「既にそれアプじゃねぇ」
小さな巨人、意味がわからない
当然の事を言っただけなのに、否定したからペナルティ。
かぷと食らい付くような、クロウからのキス。
ペナルティ?思うようなそれでも、京介はもどかしいからペナルティだ。貪るな、舌を動かすな、夢中になるな。
でもそれはただの遊びだから。
「んっん…ゃあっ!」
終わらせればいい。簡単なこと、腰を抱え上げ、椅子から浮くほどに抱え上げ、激しく打ち込めばいい。
安定感の悪い椅子はがたがたと揺れ、クロウは必死で椅子にしがみ付く。
他に縋るものがないから。ただっ広い部屋には、椅子がひとつだけ。いるのはクロウと京介だけ。
しかしそれすら腹立たしいのか、京介が椅子を蹴り倒す。勿論クロウは落とさない、確りと抱え込み椅子から引き離して。
「あああぁぁっ!」
もっと奥に。突き進まれクロウの身体が仰け反る。京介のシャツにこすり付けられた彼のペニスが、耐え切れずとろと液を漏らした。
「ぃんっ!あっあっあ、すご…っ」
ひくと震えた喉に噛み付く。
深く食い込んだはずの犬歯はしかし、舌に鉄臭い味を送ることはない。
もう、血は流れていないから。
京介は、それが嬉しく思う反面多少残念でもあるけれど。そんなことを言えば、口では言えないお仕置きをされるのは目に見えているから。
笑顔で黙って腰を振る、それが流儀。
「あん、ぃ…っぃん!」
そしたらほら、ご機嫌なクロウが完成するから。
「クロっチンポ、好きだよ、な!」
「んんっあ!好きっ、好きぃ!」
「ざぁん、ねん!も、俺イク」
「ふぁ?!ちょ、あんあっ!こ、の…早漏っっ!」
なんて言いながら締め上げてにんまり笑うのって最高に可愛い。
お返しにイイところばかりガツガツと抉る。摺り上げるとかのレベルじゃなく、ガツガツと。
そうすればクロウは目を見開いて、喘ぎすら洩らせなくなって、あとはもうガブガブと肩や首や手近にあるものに手当たり次第噛み付く。それが京介のささやかな楽しみだ。
「うっせぇよ、お前もイケ!!」
楽しみすぎて爆発するくらいには。
I'm not in love with you
When the world stops turning
性的な意思もなく、悪戯に京介の指がクロウの中に入り込む。
I'm not in love with you
When the river stops running
クツクツと笑いあいながら。いつの間にか移動したベッドの中で。
When the midnight sky is red
機嫌の良い甘い声が、笑い声に混じって歌を紡ぐ。
And the daylight never ends
シーツに伸びる京介の影から、ぱちと紫の瞳が覗き込む。
Then baby I'll confess it's true
先ほど中断した以上に達したとき、その瞳は機嫌良く瞬いた。
I'm not in love with you
百眼は京介のお歌がお好き。
知っているクロウは、紫の瞳を見つけ眉を潜める。
Tell me how do I pull through
覗きは駄目
クロウの口が、声を発することなくそう紡ぐ。
ぱちと、紫の眼が瞬き。不満そうな仕草。
俺がいないときなら
ぱち
「何やってんの」
無言の攻防に気をとられ、いつの間にか歌が止んでいる事に気付かずに。
「歌い終わってねぇだろ」
不思議そうな顔の京介に、慌ててクロウが先を促す。紫の瞳も影に沈む。
もう1フレーズしかないのは知っているけれど。
When I'm not in love with you
「ばぁか、世界が終わったときこそ俺らアイシアウんじゃん」
「じゃあこれは何よ」
クツクツ笑うクロウに、京介の指が深く入り込む。
とろとろと、一度分ではない量の精液が止まったままの中。
「んん…前夜祭?」
「長ぇ夜」
世界は存在し続ける、シグナーがいる限り。阻止し続ける限り。
なのにクツクツ、クツクツ笑ってベッドの中。
「俺とお前の神様頑張って」
歌うように呟いたクロウは丸投げで、京介もどうやら咎める様子はない模様。
「もう一回」
だって。
するりと伸びてきた腕が、引き寄せるから。
咎める暇も、ありやしない。
END
|