「どろどろに熱いの、芯までしびれるのもある…それとも、硬くて大きい方がいいか?」
「はっ、どれもごめんだね!だがちょうどいい機会だぜ、少し俺をクールダウンさせてくれよ」
「熱くなりすぎたからな。その熱、俺が冷ましてやる」
「ああ、覚悟は出来たぜ…早く来いよ」
「わかった…じゃあ、海竜族で」
遊星が見るからにドン引きしている。その傍らに立つジャックもだ。
おかしい、彼らは…鬼柳とクロウはただ、デュエルをしているだけなのに。純粋にデュエルを楽しんでいるだけなのに。何故観衆がドン引きする事態に陥っているのだろう。
「…俺の、見た限りでは」
暫くして、漸く遊星が口を開いた。
「鬼柳は、ゴドバ対策に、DNA移植手術を発動させた」
「ああ、その通りだ」
鬼柳は確かに、トラップカードの発動を宣言している。フィールド上モンスターの種族変更。ただ、それだけのはずなのに。
「どろどろに熱いの…」
「炎族だな」
「芯までしびれる…」
「雷だろう」
「硬くて…」
「それ以上言うな!ただの岩石だ!」
何故、こんなに卑猥なのか。
鬼柳はうっすらと笑っている。昔のように笑顔を全面に貼り付けることはなく、部分的に笑みを作る術を覚えていた。
それがなんとも様になってしまう鬼柳。ただ歓喜を浮かべる瞳だけは、昔と変わらない。クロウを前にして、ゆると目を細め口の端をくいとあげる。全身で愛おしいのだと、語っているような…やっていることは、デュエルではあるのだけれど。
対するクロウは、キラキラと目を光らせて、楽しげにデュエルディスクを構えている。強敵を前にすればするほど不敵な顔になるのは昔から。純粋にデュエルを楽しむ姿勢も相変わらず。なのに鬼柳の発言の危うさに気づいていない…何故だろう、何故クロウは平気なのだろう?
「クロウもクロウだ…何故あんなギリギリの受け答えをする!」
「な…慣れ、なのか?」
クロウが一言
何言ってんだよ!
叫べばいいだけの話。今も昔も鬼柳は鬼柳、クロウが嫌がれば改めようとはするだろう。
そう、多分鬼柳は無意識だ。そしてそれに答えるクロウも無意識。
「や〜っと邪魔なトラップ外してやったぜ、そんでお前のフィールドにはモンスターが一体だけ。さあどうくる?」
ドン引きしている間に、移植手術は外されたようだ。それと同時にゴッドバードアタックを発動したのだろう。少し考えているのは、手持ちにモンスターがいないせいか。それとも…
「…俺は、お前を縛り付けたい」
ああ、またか…
「お前の翼を縛って身動きを取れなくして、お痛ができないようにする…いいか?」
「…それ、決定事項なんだろ。俺が嫌って言っても止めねぇだろ?」
クロウは少し拗ねた顔。鬼柳は申し訳なさそうに、やんわり笑う。
「悪いな…その間に、じっくり可愛がってやるよ」
「くそっ、性質悪ぃ」
「トラップカード発動、一族の掟。対象は、鳥獣」
「み、耳が…」
「言うな」
「耳が」
「言うな!」
「言わせてくれ!耳が、犯される!!」
モンスターを捨て続けることに意義があるインフェルニティにとっては、わりと有効なカードではあるな…などと解説をしている暇もない。
低く穏やかに、その分じんわりと耳に絡みつくような鬼柳の声。それに掬われるように、クロウの拗ねた声が重なって、なんだか…もう、なんだか。
「くそっ、これはなんだ!公開羞恥プレイか?!」
「この場合プレイされているのは俺達だジャック!」
全身を、掻き毟りたい。そしてできるなら、逃げたい。しかしデュエリストとしての意地が邪魔をする。相手のプレイを見て戦略を検討し、自分のデッキに繋げるというとても厄介な意地が。
「待たせたなクロウ、これでお前をいかせてやるよ」
「…ああ、思い切りな。でも鬼柳、俺はまだまだ足りねぇんだ!」
「わかってる。望むだけ、好きなだけ…くれてやるぜ」
「あれぇ?クロウ達デュエルしてんの?」
「こら、龍亞!」
「邪魔しちゃいけないわ」
――――――なんという…
「「そのデュエル、即効中止!!」」
これからちょっと大人の説教タイムだから
そう言って双子とアキにご帰宅願った遊星とジャックは、ふて腐れた顔のクロウと不思議そうに首を傾げる鬼柳を床に正座させた。
「なんだよ中止って!俺のが勝ってたんだぜ?!」
全く意味がわかっていないクロウは、正座すら煩わしげに声を張り上げる。同じくわかっていない鬼柳も、もの言いたげに遊星とジャックを交互に見て。
「今日お前達は、重大な罪を犯した」
そんなものを物ともせず、ジャックが重々しくも口を開いた。
「お前達は、遊星と俺の耳を汚した!」
「は?」
しかし残念ながら、有効な説教というものをジャックに望めるはずもなく。
「いや、女性や子供の前では控えろと、先に言った方が…」
冷静に嗜める事の出来る遊星も、まだ先ほどのショックから立ち直ってはいないようで。
「お前さっきの、あそこでトルネードはないだろ」
「って聞け!!」
そんな中途半端な説教を、クロウがまじめに聞くはずもなく。すぐに足を崩し、今だちゃんと正座をする鬼柳の太ももにぽんと手を置いた。
その時点で鬼柳の全興味がクロウに向いたのだろう。全身で愛おしいと言っているような笑みがクロウに向き、やんわりと微笑んで。
「お前に小細工(黒い旋風)なんか必要ないだろ?生身でこいよ」
「はっ、お前の理論武装(チェーン封じ)じゃ俺を剥けねぇのかよ。そんなんじゃ、いつまでたってもいけねぇ…」
「だから、それが駄目だと言っている!!」
ジャックが打ち消すまでに、京介の腕がクロウの腰を抱き、クロウの額は京介の胸すれすれまで近づいていた。
何かがおかしい。なんだか全体的におかしい。
別に会話の内容がわかっていれば、穏やかに甘く会話を楽しんでいるわけでもないというのに。というか、デュエルの話をしているだけなのに。
「お、お前達…」
ぷるぷると遊星が震えている。とても珍しい光景に、クロウと京介どころかジャックまで顔を上げた。
ぷるぷると、拳を握り締めた遊星は、きっと顔を上げ。
「存在が、エロい」
吐き捨てた。
「セットだと、倍率があがる!」
さらに言い募る。
「いつまでも遠恋するつもりなら、もう一度クラッシュ廃棄だ!」
「ちょ、遊星!それは言っちゃ駄目だろ!」
飛び上がったのはクロウ。さっと顔色を変えた京介を心配げに見つめ、嫌々と首を振る。その光景で我に返った遊星は、チラとジャックに不安げな視線を向けた。
ここで助けを求められても…
ジャックですらそう思ってしまう、微妙すぎる間。
「クロウ、俺は大丈夫」
それを破ったのは、鬼柳だった。
「俺は…クロウ、おまえと(デュエル)するのがこんなに気持ちいいって思い出したから。お前の全部(のデッキ)を全身で感じる事が最高の満足なんだってわかったから」
「ああ、そうだ!俺も最高に気持ちいい(デュエルな)んだぜ!」
「一緒に(デュエルを)感じような?お互いの手の内(フィールド)で踊って、目の前に阻む壁(モンスター)も取り去って…最後は限界以上(オーバーキル)まで上り詰めて。ずっと一緒に(デュエル)しようぜ」
「何度も、何度も(デュエルを)な!!」
「……あああああぁぁぁもおおおぉぉぉぉ!!!」
「ゆ、遊星っっっ!!」
「そっとして置いてあげればいいんじゃないかな…」
実は最初から傍にいたブルーノが、小首を傾げながら呟く。しかし勿論、誰もその言葉を拾うものはいない。
「気になるなら、夜自分の部屋でやってもらうとか…ああ、無理か」
それこそ本物やってるだろうし
そこまで考えて、ブルーノはくすと笑った。
「仲が良いっていいことだよねぇ」
なんだかんだでみんなが構いたいのだ、鬼柳を。だからブルーノは、何の提案もする気はなかった。
END
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