「それではこれから、お盆休みに向けての家族会議を開きたいと思う」
「私にお盆があると思っているのかしら?それより京ちゃん、期末はどうだったの」
「5科目合計991点でてんぷら蕎麦」
「あんたって本当に、頭だけ!はいいんだよね〜」
「あらカーリー、京ちゃんは顔もいいじゃない」
「それは好みの問題なんだから…悪くはないけど」
「姉ちゃん達、既に父さんが泣きそうだから止めてやって」
「だから私にお盆はないの」
「私も〜!大学のサークルで心霊写真合宿するんだから!」
「では………くっ」
「父さん、俺は行くから」
「京介!やはり墓参りは重要だよな!来てくれると信じていたぞ!」
「勿論クロウも。だから父さんは田舎の家に泊まらないでな」
「京介〜〜〜〜っっ!!もう父さんと裸の付き合いはしてくれないのか!!」
「………あの」
「どうした?クロウ」
「なんでお…私、がここにいるんすかね」
8月前半家族の団欒
美丈夫と言っても過言ではない、一家の大黒柱ルドガー・ゴドウィン。クロウにはよくわからないけれど、力学がどうの新しいエネルギー物質がどうのと小難しい研究をする研究所の所長であり、科学者。彼の発明や発言は国家機密を変動させる、とまで言われているらしい。しかし残念ながら家での彼に威厳はない。
ミスティ、京介の上の姉はファッション・デザイナー。パリコレ?とかにも招待されるような有名人で、たまにその美貌をブラウン管の向こうに見ることもある。彼女の持つショップはファンが多く、遊星と同じクラスのアキにいたってはオーダーメイドを頼むほど。しかし家での彼女は、弟溺愛の空気クラッシャー。
カーリー、京介の二番目の姉は映像関係の大学生。専門学校ではなく大学らしい。将来フリーのジャーナリストを目指し、目下驀進中。既に彼女の書いた記事がどこかの雑誌に買われるほど、その業界では注目株。行動力は人一倍で、気付いたら日本にいないこともしばしば、らしい。しかし家での彼女は大雑把にもほどがある。
京介、末っ子。姉達とは母親違いの高校生。将来は企業コーディネーターになりたいとついこの間熱烈に語られた。頭はすこぶるよく、研究所のマネージャーもどきもしていて営業経験も豊富。ルドガーの開発したなんとかエネルギーを売るときには、軽く億単位を動かすこともあるらしい。しかし家では…いや外でも、素の彼は壊滅的な馬鹿だ。
クロウ・ホーガン。京介が未来の嫁と家族に紹介してから、何故か家族会議にまで出席させられるようになる。出生に関してはどうでもいい、素直で可愛いのが一番だ!とルドガーに語られるほど馴染んでしまった。一番怖いだろう未来の小姑ミスティは、基本的に京介の決断力を評価しているので口出しはなし。バイトの斡旋などもしてくれて、もうそろそろ抜け出せないところまで来ている気がしないでもない今日この頃。
クロウ目下の悩みは、物凄い家族に入り込みながら、人生の終焉を感じることだ。
この家族とこれからずっと関わらなければならない、そう考えるだけで欝になる。残念な事に。
「あら、クゥちゃんも行くの。なら私達は尚更いけないわよね」
「元から行く気ないんだから、いいでしょ」
「京ちゃんが行くなら行こうかとは思ってたわよ。でも折角あの家で2人っきりになれるなら、それにこしたことはないものね。まあ井戸だけど」
…井戸?
「洗濯板なんだから」
……洗濯板??
「そもそも電気が通ってないな」
「それは日本すか」
「日本すよ。だから言ったろ?うち庶民なんだって」
「せめて昭和三種の神器くらいはあんだろ庶民でも!!」
冷蔵庫洗濯機テレビ!!
「あれ、掃除機じゃね?」
「どっちにしろ電気がなければ意味がないな」
「大丈夫だってクロウ!俺洗濯板神だから!」
「京ちゃんレクス叔父さんに仕込まれてたものね。指を血だらけにしてきたときは、叔父さん裏の沼に本気で突き落としたけど…まあ今となってはいい思い出」
「ミスティ……あの時は救助ヘリまで出たというのに…そうだクロウ、メロン食べるか?ディマク…俺の部下がお中元にくれたんだ」
「え、ここ話ぶった切る場面ですか。なんか軽く犯罪くさかったんすけど」
「ミスティ姉さんの武勇伝に突っ込みは無用なんだから」
「中学のとき家帰ったら泥棒がうちの二階から逆さに吊るされてたときは、本気で感動したもんだぜ」
「何の話?はいクゥちゃん、いっぱい食べなさい」
「これ、半分すけど…」
「ラム酒もいる?」
「すらっと未成年に勧めるな」
「京ちゃんは小学生の頃からラム酒だったのに…でも酔ってなし崩しは、最初くらいは止めておいた方がいいものね」
「だよなぁ。結婚前提としても、順序があるもんな。俺ちゃんと考えてるから大丈夫」
「京介が順序とかwwwないしwwwあ、はいこれ叔父さんとこの」
「そうだな、餞別はこれが一番だからな。ほら、2人とも持って行け。それと経費は気にしなくていいからな、クロウ」
「京ちゃんは大丈夫だろうけど…クゥちゃん?いざとなったらあなたがしっかりしないとね。はいこれ」
「…え、叔父さんとこの?」
「話してなかったっけ?レクス叔父さん、大人の玩具業界でぼろ儲けしてんの。しかもフリーメーソンっぽい秘密結社作ってて、世界各国の高官や金持ちが酒池肉林。どんな法律使っても検挙できないわ、あの人」
「そのクラブでしか手に入らない、ハイパーなゴムなんだから!避妊率97%という驚異的な数字を叩き出した次世代ゴム!!」
「いや、え?」
「孫を早く抱けるのはありがたいことだが、学業も大事だからな。俺の事は気にせず学生時代はきちんとしなさい」
「でもいざとなったら、バックアップは私に任せて」
「3%の壁は厚いんだから!」
「ちょ、話し飛びすぎ…」
「止めろよ皆!!あまり期待したら、土壇場でクロウが膣痙攣「うっさいボケェェ!!」
お気づきだろうか。最初から最後まで、クロウは行くとは言っていない事を。
勿論、事前に承諾を得ていたわけでもなく。
でも勿論、はいそうですかと言う家族ではなく。
「ごめんなさい私ったら!そうよね、初夜は緊張するものよね。いざとなったら寸前まで意識をなくす事は可能だから」
「京介お前、ちょっとマッサージの勉強もしておけ。最終的に痛いのはお互い様だからな」
「まあ初夜なんて所詮幻想って場合が多いから。気負う必要はないんだから!」
「待ってちょっと待って!何決定事項になってんの?!この話題どんだけ押すの?!」
「いやあ、うちの家族おおらかだからさぁ」
「おおらかを辞書で引け明らかに使い方間違ってるだろ!」
現段階。どんなに嫌がっても。どんなに逃げても。きっと絶対行く事は決定。
京介をパシパシ叩きながら、クロウはそれだけは理解した。そして再度思う。
この家族と一生お付き合いするのはきつい!!
END
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