拝啓 クロウ・ホーガン様





拝啓だって。
俺の人生初の拝啓だ。
クロウ・ホーガン様だって。
クロウに様つけるのも人生初だよな。



近況報告。
今俺は、何とかっていう国の何とかって町にいる。町っていってもなんかこう、村に毛が生えましたくらい。シティなんて想像したら罰が当たるぜ、だって普通に農道とかが町の真ん中通ってるもんな。でもこの国では、十分に町って言えるレベルらしい。勿論シティくらいのでかい町もあるんだろうけどさ、国のほとんどが畑とかみたいで、ほとんどが田舎だからやっぱり町は町だ。
結局お前どこの国にいるのよって、お前は思うかもしれない。でも標識も言葉も100%理解できない俺には、何とかって国としか言えないんだ、ごめんな。
で、その何とかって町の、何とかって喫茶店と酒場の中間みたいな場所に、俺はいる。看板の目立つところに『BAR』って書いてあったからバーだと思ったら、こっちでは『バル』って読むんだって。それだけは辛うじて理解した。
んでそのバルってやつは、どこの町にも村にも一軒はあるという代物で、兎に角世界中の観光客とかがまず探す場所らしい。らしいってのは、旅行客が置いてった日本語のガイドブックにそう書いてあったから。ぼろっぼろになってて、結局俺がなんていう国のなんていう町にいるのかわかんないんだけどさ。





とかいう説明はもうこの辺にして、この町で遂にギガントのバッテリーが逝っちまった。ご臨終だ、完膚なきまでにぶっ壊れた。だから当然交換しないといけないんだけど、ジャンク屋もガススタもギガントの巨体を動かせるレベルのバッテリーがねぇ!なんとか交渉して、勿論言葉なんて通じないから身振り手振りで、最後にはその辺歩いてるおっちゃんおばちゃんまで会話に参加して、1週間後に取り寄せてもらえるらしい、ことになったんだけどよ。
今度は金が足りない。
いや足りるんだけど、心もとない。
てわけで次は恒例の、飛び込みバイト依頼だ。
会話に参加してたおっちゃんおばちゃん捕まえて、またもや身振り手振りで交渉した結果がこのバル。
このっていってもわかんねぇと思うけど、要するに喫茶店と酒場の中間みたいなとこだ。そこで俺は昨日から、ウエイター兼お握り担当してる。なんでお握りかっていうと、昼食で食ってたのを店長が見て面白がったからだ。
この国は米料理があるんだ。だから米は手に入る。まあ俺らが食べてるのよりパサパサしてて、お握りには向かないんだけどな。けど旅に出てからほぼ毎晩握っていた俺の手にかかれば、たいした問題でもなかった。俺の炊飯器もフル稼働で頑張ってるぜ。気張って5合炊き買って良かったと、心から思う。
物珍しいからか、結構お客さんが注文してくれた。具はカウンターに吊るされてた生ハムだ。刻んでそのまま突っ込んだ。つってもその生ハム、ものすげぇしょっぱい。舌が痺れるほどしょっぱいから、少し刻んで入れるだけでも十分具になるんだな。おかげで俺の秘蔵の梅干が出る幕なくて本当に良かった。
具が生ハムの、ノリも巻いてないパサパサのお握り。俺は1週間これで乗り切ろうと思う。





今は昼の3時頃だ。
この町は、てかこの国はお昼寝タイムが義務づけられている。かどうかはわかんねぇけど、2時から6時くらいまでは店が全部閉まるからそうなんだろうと思う。まあ暑い国だから、昼間出歩くなんて馬鹿じゃねぇ?とかレベルに暑いから、それは仕方ない。んでもってバルは夜中の4時くらいまで平気でやってる。夜の12時くらいから本領が発揮される国みたいだ。皆が皆夜型だから、昼に寝るんだなきっと。
俺も昨日、てか今日朝の5時くらいまで働いて、3時間仮眠とって、9時くらいからまた働いて、今休憩入ったところ。本当なら俺も寝た方がいいんだろうけど、睡眠ってのは強制的に分割されてもなかなかうまくとれないってのが始めてわかった。ようするに寝れない。
眠れない、仕方ないじゃあ…ってとこで、そうだクロウに連絡いれなきゃ!って唐突に思い出したのがついさっき。んで馬鹿みたいにテンション上がって、俺から連絡いれたら絶対クロウ驚くなって思ったらホント馬鹿みたいにテンション上がって、慌ててギガントのとこに飛んでって、漸く気付いた。

そうだ、ギガント今動かねぇ!!

なんていうか、そんなのバッテリーが逝った時点で気付け馬鹿って、お前は言うと思う。でもなんていうか…そのときの俺の心情に一番近い言葉は“なんてこったい!!”だった。なんてことだ!でも、なんてこと!でもなく。

なんてこったい!クゥに怒られる!!

今思うともっと考えなきゃいけないこととか、困る事別にあるだろって思うんだけどさ。そのときの俺はそれしか考えられなかったんだ。クロウに怒られる!って。
んでちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、嬉しくなった。





そんなわけで、俺鬼柳京介は、微妙なテンションを維持したまま店に戻って、暇だからガイドブックでも見ようかと思ったら見つけました。何故かあった国語辞書。小さな奴ね、持ち運び用の。
で、辞書なんて産まれてから2回くらいしか見た事ないから逆に珍しくて、ぱらぱら開いてみたわけ。そしたら見つけたんだ、拝啓って文字。
そのページだけがくっきり開いた跡があった。ぱらぱら捲ったら、絶対そのページで止まるくらいくっきり。
最初なんでかわかんなかったけど、この辞書持ってた人は手紙を書こうとしたんじゃないか、拝啓って文字がその人にとっては物凄い大切な言葉だったんじゃないかって、そのページを10分くらい見つめた後思った。
大切な人に言葉を運ぶための、一番最初の言葉。
めちゃめちゃ大切だ。凄い言葉だ!今までなんで気付かなかったんだろう!って頭を掻き毟りたくなるくらい、俺にとっては衝撃だったんだよな、なんか。
だから手紙を書こうと思い立ちました。安直に、シンプルに。クロウに。
紙は適当にその辺にあるやつ。ペンも伝票書くやつ。でも拝啓って書いたら、同じ言葉がわかる奴には一目で手紙だってわかる。
なんかすげぇ。よくわかんないけど、凄いことだ。
俺の事だから、すぐに忘れるかもしれないけど。もうこれっきり書かないかもしれないけど。そもそも手紙なのに出さないかもだけど、でもこの感動を紙に残すってのはちょっと凄いことだと思うんだ。
だからできるだけ忠実に、誠実に、空き時間に手紙を書こうと思う。
今、この瞬間、俺が思った事感じた事、全部。





気付いたら4ページも書いてた。
そろそろ本気で寝ないと困りそうだから、この辺で止めておこうと思う。
最後に披露しとくな。
今、この瞬間、俺が思った事感じた事、全部。
全部、全部だ。伝えたい事なんて言いたい事なんてひとつしかねぇよ。

俺ら、何処いたって繋がってる

いつも通り。
でもこれ以上に言いたい言葉なんてない。愛してるとか、大好きとか。そんな簡単なことじゃねぇよ。いや愛してるも大好きも簡単じゃないけど。俺がクロウに、クロウが俺に伝える一番大切な言葉は別格だよな?

それじゃ、バイバイな



2→




PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル