拝啓 クロウ・ホーガン様
おはよう、クゥ
今俺は、タイランド、にいる?らしい。米がある方向に向かったらこうなってた。
そもそもがロシア鉄道を辿ってヨーロッパに入ったのに、ふらふらしてるうちに着々と戻ってる俺ってどうよ。上の方かなり制覇したよな〜。本当は地中海?からエジプトの方行こうとしてたのに、掠りもしねぇ。
タイは何処の国に行くにも値段が安い!ってことで、沢山のバックパッカーがいる。でかいリュックひとつに何でも詰め込んで、何処までも何処までもいく奴ら。俺も似たようなものだけど、ギガントがいる分なんか違うらしい。
この話をしてくれたのは、昨日会った日系の男。学生らしくて、初めての一人旅(勿論バックパッカーだ)で早々イカサマトランプに引っかかった緩い奴だ。
俺も今十分緩いけどよ、サテライト出身なだけあるってやつだろ。ちょっとやそっとのスラムじゃ俺は満足できねぇ…って嘘、逃げてる大丈夫。
でもそいつがあまりにも可哀相ってか馬鹿だから、うっかり横槍いれちまった。これくらいは許してくれるよな?
トランプよりデュエルしようぜ、で有り金全部巻き上げ…嘘学生の負け分だけ大丈夫。その後乱闘とか、してない全然。ギガントのあれとかこれとか、使ってない勿論。だってめちゃめちゃ燃費悪いし。
というあんなそんなを経て、まあその青年を助け出したわけだ。楽しんでないぞ、勿論全然楽しくない、ほら正義感で。最初俺の方が怯えられたとか、ないから。
んでまあ、昨今の故郷の情報やらこの国の名前やら、色々聞き出せたわけで。
ライディングデュエルの大会あるんだって?いいなそれ、その頃には帰るわ。
決めた、帰る。
ダラダラ旅を続けてても、俺はそんなに変わらないってことわかったし。
クロウ泣かせてまで続ける旅の意味がわかんねぇってのが、正直な話。
やっと気付いた。
何かを変えるため、捨てるための旅じゃないんだよな。捨てるならきっと、捨てなきゃなんねぇのは俺自身なんだよな。
それが捨てられないのは、結局クロウが好きで好きでたまんねぇって事。
俺自身がいなくなったら、このアホみたいにドロドロして貪欲で、でもどこか純粋にも感じる感情は迷子になる。
そうならないために、俺は一個になんなきゃいけないんだよな。
漸く、なんとなく、わかった気がする。俺は一個になって、クロウの想いを迷子にさせない。これが目標で、方向が決まったあとの俺がどんなかってのはクロウも知ってるだろ?
その目標が決まったってのが、今回の旅の成果。生温いかもだけど、半歩くらいは進んだと思わねぇ?
まあ一個になる方法なんて、今だにわかんないんだけどな。
便箋と封筒がなくなるまでには、完成させてみせるぜ!じゃねえとクロウにも彼女さんにも、店長にもついでに俺にも失礼だろ。
抱きしめてもらった分、泣いてもらった分、俺の精一杯をやってみる。絶対やり遂げてみせるから、待っててくれな?
昨日だけど、この国に入ってすぐ飯食ったんだ。ユーロのレートが中々においしくて、ちょっと小金持ちになったから。
といっても、その辺にあるそこそこ小奇麗そうな店(屋根のある屋台だなこれ)で。全体的に辛そうだから食えそうなの選んだ結果、白米に甘酢漬けっぽい大根のようなものをぶっかけただけのシンプルなやつ。それとスープ。肉!ミート!つったらトムヤムカン?とかいうの出してきたけど…魚じゃねぇか肉!って。
まあ兎に角、それ食ってたときにスコールが降りだした。
こっちのスコールはんぱねぇ。何これカーテン?ってくらい隙間なく膨大に降りやがる。こうなると現地民は慣れたもので、その辺の軒下に適当に座り込んでぼ〜っとしてるんだ。皆一斉に、ぼ〜っと。んで作業してた奴らも表見てぼ〜っとし始める。
慌ててギガント屋根の下に入れながら、なんかいいなこれって思いながら眺めてたら、観光客っぽい老夫婦?だと思うけど、そんな二人連れが店に飛び込んできた。
雨のカーテン潜り抜けて、唐突に。
旦那はジャケットを奥さんの頭にかけてて、自分はぐっしょり濡れてんのに笑顔で。奥さんの方は、屋根の下に入った途端ハンカチ取り出して肩とか拭きだして。
これもいいなって思って見てたら、旦那がジャケットをばさっと振って、水滴が半分くらいギガントにかかったんだ。
その後が見物だった。奥さんがいきなり怒り出して、なんか言いながらハンカチでギガント拭き出して。それから店をぐるっと見渡して、俺が持ち主だって目星つけたんだろう、こっちに来て多分謝った。
何言ってるか全然わかんなかったけど、きっと謝ってた。謝って、それから俺の頭を撫でて。チョコレートを何個かくれたんだ。
ばあちゃん、これはないだろって。
別にちょっとくらいギガントが濡れたって、俺は気にしない。なのに頭撫でてチョコって。
微妙な顔してたんだろうな、俺。奥さんいきなり旦那連れてきて、無理矢理ごめんなさいって頭下げさせたんだ。
結構でかい旦那の頭掴んで、無理矢理。
その夫婦の国に頭を下げる習慣があるのかはわかんねぇ。でも俺が一言二言発した言葉から、そういう習慣のある国だってのはわかったんだろうな。だから奥さん誠意を見せさせた。大丈夫って、慌てて頭上げさせるまでずっと。
なあクロウ、俺らもこうなるといいな。
なんか、そういう風に思える夫婦だった。気の強い奥さんと、奥さんへの気遣いすげぇけど抜けてる旦那。
俺には見えたんだ、そのふたりが確かに繋がってるとこ。
長い年月をかけて、捩れたり絡まったりした後ぶっとい糸が確実に繋がった、そんな感じのものが。
俺らまだまだひよっこだぜ?俺は確実にこれからもクロウに迷惑かけるし、クロウもたまにはなんか失敗すると思う。全然まだまだだ。
でもそれでもいいんだな。それでいいんだよな?
そう思ったら、なんか凄く、満足した。
今だかつてないほど、満足したんだ。
クゥ大好きだ。
求めて求めて、焦がれて焦がれて。俺を見て欲しくて、すげぇとこだけ見て欲しくて。それでも足りなくて、なんか俺物凄い迷惑かけたんだと思う。
でもそれでもクゥがいてくれた事、辛うじて繋がってくれてた事。
未来をくれた事。
一緒にいる未来を見せてくれた事。
全部、全部ひっくるめてどうしようもないほど大好きだ。
だからこれは、俺からクゥに向けたラブレターにする。
上から下まで全部クゥに繋がってて、全部俺に返って来るラブレター。だって俺ら、繋がってるから。
想いは循環してるから。枯れないでずっとあるから。
いつか近い未来、俺はクゥに、鬼柳京介を返す。
それまでお願いだから、迷子になんないどいてくれよ?
でもきっと大丈夫だよな。クロウが迷子になったら、どうせ俺も一緒に迷子だ。
こんな幸せ、他にない。
敬具 鬼柳京介
END
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