全ての苦痛を受け
全ての厄害を受け
全ての穢れを受け
それでも
意思を保つ
自我を保つ
心身を保つ
それでもまだ、人間といえますか
「俺は酒持。お前の村ではそう呼ばれてるよな。でも正式名称、本来の肩書きは違う。俺は獣戦士のかみもり」
かみもり
「そもそもこの世界には、人間以外にもあらゆる種族が領土を持ってる、って説明でわかるか?わかんねぇか、村から出た事ないから。これからも、見る事ねぇし」
見ることがない
「まあ、沢山いるんだ、村の中州みたいなもんだ。細い川に分けられて、それぞれ自分の土地に執着がある奴らが」
「それならなんとなくわかる」
クロウが頷いたところで、ガタと大きくジープが揺れた。道がなくなる場所。
浮き上がりかけたクロウの肩を、京介が掴み座席に戻す。その後小さく何か呟いた…思ったときには、空気が変わった。
獣臭い
クロウが最初に感じたのは、空気の変化。何かがこちらを伺っている気配と、獣達の小さな唸り声。
森、それは変わらない。ジープは森の中を走っている。しかしクロウが見慣れている、いつもの森とは違っていた。
いつの間にか続いている道は轍が出来、ジープが何度も走った痕を残している。
何かを抜けた
感じた瞬間襲ったえもいえぬ恐怖に、クロウは京介を見た。かち合ったレモンイエローの瞳が、楽しげに細まる。
「ようこそクロウ。ここが俺の管理する、獣戦士の森。お前のこれからの巣だ」
もう一生抜けることの出来ない領域
「でも大丈夫、真綿で包んでやるぜ?その前に説明だけどな」
世界は最初、混沌だった。
様々な種族が領域を主張し様々に争い、滅び、また生まれていた。
それが何世紀も何世紀も、長い長い年月延々と続いていた。それだけの長寿と能力を、全ての種族が平等に持っていた。
そんな中現れたのが、戦う能力に欠けた人間。しかし彼らには、頭があった。
群れを成す自分達の中から、素質を持った者が選ばれ全ての種族に差し出される。戦い傷付いた身体を、心を癒すことの出来る…肩代わりすることの出来る人間を。
その人間が全ての種族に行き渡ったとき、戦う事に意義を見出していた多種族達の意思が崩れる事になる。
優れた種族がいなくなった。戦っても戦っても全てを飲み込む人間のおかげで、後に残るは空しさだけ。結果の出ない戦いに、やがて全ての種族が飽きてしまう。
ならばそう仕向けた人間を根絶やしにし、また始めればいい。
言ってしまえば簡単だが、どの種族も全てを肩代わりする人間を手放したがらない。
この時点で人間が提案する。
素質ある人間を一度に管理し、お互いに節制しあってはどうだろう。最終的に全てを手中に収めた種族がトップとなる、しかし今はその時期ではない。何世紀も争えるなら、少しくらいの休戦を挟み体制を立て直しては?という意見。
悪くはないと、全ての種族が同意した。
これにより、人間は存続を勝ち取ることとなる。人間を根絶やしにしてしまったら、新しい素質が生まれないからだ。
しかし管理において、どの種族もが人間に任せることを嫌った。人間は力がない、しかし狡賢い。いつ思いも付かない方法で噛み付かれるか、わかったものではない。
この時点で始めて、各種族が代表を出し話し合い、素質ある人間の管理をドラゴン族に任せることを決める。
最も平等を理解し、頭においても人間に太刀打ちできると判断されたから。
「俺達がその管理されてる人間ってことはだ、ジャックが…」
「ああ、あいつはドラゴン族のかみもり。人間じゃねぇよ?つかいや、人間…に近いか。じゃあ次はかみもりの説明だな」
村が作られた。素質ある人間が生まれると、一定の条件をクリアした場合自動的に集めることの出来る村を、魔法に長けた種族が力を合わせて。
力に長けた種族は、警備とドラゴン族への節制。機動性に優れた種族は、通常の人間の管理と全種族に対する偵察。
こうして絶妙なバランスが保たれたとき、各種族がそれぞれに人間のようなものを作る。
何故なら素質は、無垢でなければならない。無垢、無欲、無知。限りなく純粋に近い、類稀な存在。そうしないと、いざとなったときに本来の能力を発揮することが出来ない。
知らしめてはいけない、自分がどのような存在か。
生贄という、その立場を。
いずれ全ての厄害を受ける器になる可能性がある、その事実を。
そのためには、監視する種族の代表が、人間以外の姿では不都合。ある程度の能力を保った、しかし限りなく人間に近い者。狡賢く、無駄に前向きで、唐突に弱音を吐くと思えば、些細なことで自分を犠牲にすることの出来る、理解不能な生き物。
そのように生まれた人間は、自種族の意思を受け入れながらも独自で判断し、管理された村で自分の種族に相応しいと思われる素質をひとり、常に選んだ。もし相応しい相手がいなくても、人間は次々に素質を生み村に飛ばす、いつか相応しい相手は見つかる。
見つけるだけの寿命を、作られた人間は持っていた。
人間の狡さと判断力、各種族の特性を最大限に使いこなす者達を、名前をつける事が好きな人間はいつしか『かみもり』と名付け恐れた。
最も人間の傍にいる者。最も深く種族に組し、しかし最も遠い所に身を置く者。
かみもり達は、その名称を好み使うようになる。
また、素質…厄害を肩代わりする者達を、人間は『持衰』と名付けた。
面白い、人間は実に面白い。名前を付ける事に置いて人間の右に出る者はいないと、かみもりは持衰も用いるようになる。
いつしか各種族と人間、それ以外にかみもりというカテゴリが追加された。
独自の判断で新たな体制を作り、お互いに節制しあうためのタブーを作り上げる。
持衰に長寿が怪しまれぬよう、人の器を定期的に入れ替える。
自分に適した持衰を探していると怪しまれぬよう、自分達に役職をつけ村に訪れる理由を作る。
更にカモフラージュするため、本物の人間にも役職を付け持衰を分け与え、不穏な行動を見せ付けさせる。
持衰は一種族1人まで。人間は種族に選ばれた持衰以外ならば、4人までを同時に選択できる。
種族の持衰に選ばれた者に他種族のかみもりが話しかけてはならない、触ってはならない。
いつか選ばれるかもしれない可能性を考慮し、自らが選んだ持衰以外には話しかけても触れてもいけない。
どのような状況であれ、持衰に穢れを与えてはならない…
タブーを犯した場合、そのかみもりはハンデを与えられた。一定期間の能力の弱体化。選ばれた持衰に対する、特例的ないくつかの特権を剥奪する。
その場合かみもりは、色素を抜き誰が見てもそうとわかる容貌にすること。
緩く首を傾げる仕草が、いつまでも忘れられなかった事。
間違えた、呟いたその意味。
選ばれていたにも関わらず、最後まで何も知らなかったその理由。
「鬼柳、お前…」
クロウの鋭い視線を浴びながらも、京介は気軽に首を傾げて見せた。楽しいときに京介がよく見せる、癖のような仕草。
「俺は見られたからな、可愛い可愛い俺の持衰に、人殺しを」
「だから何も…俺は何も知らなかったのか!」
さあ、どうだろう?
「自分の存在を明かし、持衰に自覚を持たせるのは各自の判断だ。強制じゃねえよ?」
京介は軽く言ってのけた。しかしクロウはどうしても、どうしても納得できない。
出る寸前に見た村の様子を思い出す。かみもり達が集まり、そして選ばれた持衰も出ていた。一同が向けてきた視線、あれは…あれは、全員が何らかの事態を理解していたからではないか?
強制ではない、しかし隠す必要もない。選ばれた持衰同士は、普段からある程度意見の交換があったのでは?だからこそ何も知らないとわかっているクロウよりも、遊星に多くの非難が集中したのでは。
タブーを犯したかみもりに選ばれた持衰…わかっていたから、許可された範囲の真実を誰も語らなかった。遊星すら。
「お前、最初から俺に、何も教えないつもりだったんだな」
そう考えれば納得出来る。
そしてもうひとつ
「なぁ…本当に偶然俺に見られたのか?」
バフンと派手な音を立てて、ジープが止まった。
ジープ一台がやっと置けるほどの狭い空き地、そこで道は途切れている。
「ここから少し歩く、大丈夫だよな?」
「鬼柳答えろ!」
さっさとジープから降り助手席のドアを開けに来た京介を、クロウは強く強く睨んだ。
途端ざわと森がざわめく。何者かが…いや、何かが見ている。突き刺さる数多の視線、威圧的な空気。今にも聞こえてきそうな、舌なめずりの音。
「お前ら勘違いすんな…クロウは持衰、食いもんじゃねえぞ」
硬直したクロウを視線から庇うように、京介が前に立った。ぐると周囲を見渡し、はっきりと言い放つ。
グルと、すぐ傍の茂みから聞こえた唸り声。しかしそれはもう威嚇ではなく、何処か甘えた声にも聞こえた。それを合図に、ひとつまたひとつと何かが遠ざかっていく。
「そう、いい子だ…クロウを早く見たくてうずうずしてただけだから、気を悪くしないでくれよ?」
全ての気配が消え、ただの森に戻って。それでも申し訳なさそうに振り向いた京介は、変わらない。変わらない、けれど。目だけが違っていた。
「!っ…鬼柳、目」
レモンイエローのキャッツアイ。瞳孔が縦に伸び、白目を覆いつくした黄。
告げれば、京介は初めて動揺を表し、慌てて手で目を覆った。
「悪い、気持ち悪ぃよな…ハンデはあの村だけだから、こっち戻ってくると気が緩むんだ」
言いながら手を離せば、そこには通常の目。奇抜な色を除けば、ごく普通の。
しかしこの変化は、クロウに確りと認識を持たせた。京介は、人間ではない。人間に擬態してはいても、限りなく似せて作られていても、人間ではない。
「…気持ち悪く、ねえよ」
それが現実ならば。
何も知らないまま渦中に巻き込まれているよりは、ずっとまし。
「歩ける、歩くから。だから答えろ」
多分何らかの術が施されている。
雁字搦めに縛り付けられたあの村なら、当然考えられること。
運び手…かみもりが交換すると、徐々に前任者が記憶から消えていく術。そうすれば、変に毎回姿形を変えなくても誰も疑問に思わない。共同作業期間も、年齢を変えるなら近親者で片付けられる。
クロウが仕草だけを記憶に残したのは、人を屠った光景のインパクトと、京介の癖が重なったからなのだろう。
だから覚えていないのは仕方がない、それはクロウも理解できる。
しかしどうしても、どんなに考えても。前任の京介と接触したとは思えなかった。前任の時点でもう既に、京介はクロウを持衰に決めていたとほめのかしているというのに。
何故
考えられることはひとつ。
一種族の持衰になることで、大抵の場合明かされる真実を教えたくなかった
何故
「無垢、無欲、無知…持衰は普段、徹底的にそうなるよう管理されてる。なのになんで自分の懐に入れたらその禁を犯すことを許される?馬鹿じゃねえ、それが持衰に対する自愛だと思ってるやつら、全員馬鹿だ」
種族の持衰になると、最初に問われる選択。
ご褒美か、死か
本来人間は、旅の厄害を払う名目で持衰を用いる。旅の間何もなければご褒美を、何か厄害があれば死を。厄害を身に受ける間、持衰は髪を切らず爪を切らず身体を洗わず、肉を食べず人を寄せず。それを行った結果の、本人には選ぶ権利のない選択。
しかし種族達は違う。持衰に選んだ時点で、最初にどちらかを問う。何故なら実際にその能力を発揮させる場合、その選択を与えることができるのは先の先のずっと先。
多分そのとき、持衰は人ではなくなっている。
だからこそ先に。大抵はご褒美を選ぶ、当然ながら。持衰達は自分がどのように使われるかまで、本当の意味では知らないから。
その結果無欲が取り除かれ、無知も取り除かれる。それでも無垢であり続けられるからこそ、種族の持衰に選ばれるのだと…本気で信じているならおめでたいこと。
人間も大概即物的。種族に選ばれたから、物凄い持衰なのだと勘違いして。何も知らないクロウに近づこうとして…クロウは飛びぬけて素晴らしい持衰というわけではない。ただそうなる要素があった。やりようによっては、誰よりも純粋で誰よりも無垢になり得る要素。
「俺がお前に望んだのは、100%の純粋。それを保つことが出来るなら、タブーを犯すくらいたいしたことじゃねぇよ。有利なこともあったしな…ここまで髪の色と目の色変えられりゃ、それ相応のタブーを犯したことはまるわかりだろ。他のかみもりは敬遠するし、衣持なんざビビッて近付きもしねぇ」
京介はコロコロと笑う。
無垢、無欲、無知…これを保つためならば、多少クロウに穢れが触れたからといって、どうということもない。後で拭う事は簡単なのだから。村人達が口にする米、肉、酒全部。種族達が作り出した、神聖な食物なのだから。
狩に行って仕留めた獲物も、厳選され清められたもの。村を流れる水も、村に満ちる空気も。全て清められ、知らぬうちに純正培養された持衰達。
「…だから、血がかかるくらい近くであいつ切っても良かったんだよな。見られただけなんて、俺も生温い」
失敗した、家の中でやりゃよかった
唐突に。残念そうに呟く京介の言葉で、クロウは唐突に思い出す。…そうだ、あの時前任の京介は、そう言った。
「何で…タブーを犯すだけでなんでそんな!あそこには…」
「お前が懐いてる姉さんがいたな。でももうあの時点で、彼女人間に連れてかれるってわかってたしな。それよりもクロウが別種族に捕られる方が問題だろ?」
「別、種族?」
「鳥獣。俺ら獣戦士と、獣と鳥獣。仲悪くはねぇんだけど、持衰の好みが似ててさぁ。あの時鳥獣のかみもりもお前のこと狙ってる感じだったから、ちょっと焦っちまった」
まあ結果として、問題なく事が進んだからいいけど
あっけらかんと京介は言う。
他の種族にクロウを取られたくないが故、チャンスを逃さずあっさり人ひとりを殺して、穢れを受けたクロウから他の種族の視線を外す。禁を犯した京介は弱体化のハンデを受けたがため、安易にクロウを取り込んだ。
あえてタブーを犯すことで、望み通りのクロウを作り上げ。
そして戦いが起こる、獣戦士族が完璧な持衰を手に入れた状態で。
「何で…どうしてそんなハンデ付けるんだ?明らかにお前が取った行動の方が有利だろ!」
「そりゃ誰も、つかどのかみもりも、こんなに早く戦いが再開されると予測しなかったからな」
戦いが始まるとかわってりゃ、あんな甘い選択など出すわけがない
また京介は、あっけらかんと言った。
あまりにあっさり言われすぎて、一瞬クロウも納得しかけ。
でも…ああ、なんてこと。
「お前、知ってたのか…」
「ああ、まあ予測はついてたな」
「何をしたんだ!なんもしてねぇって事はないだろ、俺ひとりにこれだけの根回ししてるんだ!」
「何もしてねぇって、それはマジで」
「嘘だろ、絶対何か…」
「ただ、黙ってただけ」
好きにすればいいと、最初から思ってたぜ?
ジャック…遊星。
「……村を管理しているドラゴン族が、タブーを犯したら…」
「大問題だよなぁ?俺がタブーを犯したところで、ハンデで終わる。でも村の中核を守護する種族は話が違う、秩序を乱すからな。穢れが広がる前に自分の持衰を連れ出して…残るは、制裁という名の戦争だ」
黙っていた…黙っていた?
「何をした!ジャックは、遊星は?!」
「な〜んも?あえて言うなら、恋をした」
「なんだ、それ?どういう…」
「お前達持衰が、絶対に持ってはいけない感情の名前」
知らないだろ?
どんな穢れよりも恐ろしい…一度手にしてしまえば、全てが終わる。
「前に聞いただろ、お前。遊星がジャックに連れて行かれるとき、変な顔するって。不安そうで、心細い感じで、恥ずかしそう…それな、恋しいって顔だと思うぜ?」
恋しい
知らなくていいと言われた、感情の名前。
「愛は愛しむもの、全てに向けられる要素がある。でも恋は焦がれるもの、たった一人だけに向けられる激しい感情。種族全てに慈愛を向けなければならない持衰が、絶対に持ってはならない感情。ご褒美としては致命的だな」
こんな性質の悪い冗談、聞いたことがない
京介は楽しそうに笑って、唐突にクロウを抱き上げた。話に集中しすぎて、ただ京介に促されるまま歩いていたクロウは、ここで漸く自分が行き止まりに立っていることに気がつく。
行き止まり、行き止まり、行き止まり。
今度は壁。
…壁?
「掴まってろ」
片腕で軽々とクロウを抱きかかえながら、京介は空いている腕を壁に当てる。よく見ると、壁には至る所に爪の引っかいた痕。深く食い込んだもの、長く引き裂いたもの。食い込みすぎて抜けなくなったのだろうか、暴れた痕まで残っている。
その傷の中に、今京介の爪が…鋭い爪が、突き刺さった。
ふわりと身体が浮く感触に、クロウは慌てて京介の首に縋る。しかし視線だけは、忙しなく周りを見渡していた。
時折感じる衝撃は、京介が壁に爪を立てる感触だろう。腕一本で人ひとりを抱え、軽々と壁をよじ登っている…いや、壁ではなかった。
2回目の衝撃で、果てしなく続く森の頭を見。3回目の衝撃で、視界が枝と葉に遮られた。
巨大な、あまりにも巨大すぎて壁に見えた、それは巨木。
「俺達獣戦士族の聖域」
4回目の衝撃で、太い枝に到達して。それでも京介はクロウを抱えたまま、告げた。
「例え獣戦士が全て死に絶えても、この場所は朽ちない。だってこれからは、クロウがここを司るからな。何世紀も何世紀も、飽きることなく続けられる戦いの間、ずっと」
「…俺は、死ななくなるのか?」
「ああ、この樹に守られている限り」
「じゃあ前の持衰もいるのか?」
もし途方もないほど長い年月を生き抜くなら、村が出来る前に存在した獣戦士の持衰も生きているはず。
問えば、京介が楽しげに笑う。心底楽しげに、笑い声が森に木霊するくらい。
「前!クロウ、変なこと気付くのな!残念ながら前の持衰はぶっ壊れた。ぶっ壊れてそれでも、溜め込んだ厄害が余りにも多くて破棄できねぇ」
どうしたと思う?
「再利用することにした。次の持衰を汚すための、貪欲な道具として」
欲しい、欲しい、欲しい
穢れのない純粋な器
身体の奥底に溜め込み、きつく封じてもけして消えることはない
最大限に溜め込んだ欲が、害が、狂気が
ただひとりを欲したときから、全ての歯車が動き出す
手に入れるためならば…完全に手元に置く事が出来るなら
「どんなことだってする…な、怖いだろ?恋って感情は」
ニィと笑った京介が、緩く首を傾げる。
「完璧な持衰にするためにお前が必要だったわけじゃない。お前だから、完璧な持衰にしたいと俺は願った」
他の誰でもない、クロウという存在を、心行くまで貪るため。
溜まりすぎて果てなどない欲を、全て搾り出し注ぎ込むため。
「タブーなんてどうでもいい、戦争だってあってもなくても構わない。でもお前を手に入れるためなら…いつまでだってやってろって話」
だって、漸く与えられたご褒美だ
「俺は、もう、待てない。行こうぜ」
「待て!結局ジャックは、遊星は何をしたんだ?!」
確りと抱えなおし、更に上にと爪を立てた京介に。クロウは慌てて問うた。
話は終わっていない。
京介は首を傾げ、楽しげにクツクツ笑う。
「上に行けばいやでもわかる。教えてやるぜ?じっくりとな」
後編→
|