巨木の洞に作られた、否…まるで巨木自身が作ったが如くあまりにも自然に備わっている、舞台。
年に二度、春と秋に行われる村の祭りで、特別に設置されるあの舞台の名前はなんと言ったか。クロウにとっての祭りは、酒樽を大量に転がす日としか認識されていないから知らない。
京介に悪態を付きながらも、その日だけは運び手達が一晩中村に留まるから。ケラケラ笑いながら、京介が常に傍にいたから。
周りのことなんて、気にもしなかった。
京介と共にいる事が楽しくて、何も疑問なんて感じないで。
そのとき遊星が、どんな気持ちで自分を見ていたかなんて、勿論クロウは知らない。
無知であることは最も尊い事だと、何処かの哲学者が言ったらしいけれど。尊いってことは多かれ少なかれ、誰かを苦しめる。
自業自得と、京介は笑うだろうけれど。
舞台の四隅に、京介は何か細工をしたようだ。中央に置かれたままその様子を眺めていたクロウは、徐々に何かが洞に入り込んできた気配に緩く首を振る。
獣戦士の聖域
入り込んでくるものなんて、すぐにわかるというもの。
ただ姿は見えない。靄がかかったようにぼやける舞台の向こう側、時折過ぎる影が獣戦士の存在を確認させるだけ。
「クロウ」
ぼんやりとその影を目で追っていたクロウは、傍らに近付いてきた京介にゆると顔を向けた。
舞台に上がった瞬間から、なんだか頭がはっきりと動かない。まるで熱に浮かされたように、身体が火照りまともな思考が組めなくて。
「きりゅ…」
「ごめんな、もう少し待ってくれるか?面倒だけど口上があんだよ」
ひどく優しい京介の声。
口上
京介がその言葉を言うたびに、何かが変わっていった。クロウの周りが、村全体が、きっと運命すらも。
くるくる廻す、京介の言葉が世界を廻す。
「口上を述べる」
ぼんやりと立ち尽くしたクロウの前に、胡坐を組み両手をついて。
途端靄の向こうで、ざわと影が動いた。多分その場にいる全ての獣が、可能ならば京介と同じ体制をとったのだろう。そんな気がする。
「申し給わし御贄奉り候」
くるりと、クロウの視界が回った。
立っているはずなのに、静かで深い京介の言葉が祝詞を紡いだ途端、くるりくると視界が回る。
「兵集い奉り急かに御前に侍り」
暫くぼんやりと京介の声を聞き、そして漸く理解した。
靄がうねっている。舞台を取り囲んだ靄がうねり、そのゆっくりとした動きにクロウの目が回る。
「何卒御身垂れ御慈悲給いし候」
ぽたと、クロウの頬に何かが滴った。ゆるりと上を向けば、遥か彼方。頂点など薄ぼんやりとして見えない洞の、何処から何が零れたのかわからない。
「御贄が名クロウ。只今より我ら獣戦士の司なり」
ぽた、ぽたと。次から次から零れてくる液。
ふわりと香る若草の匂いと程よい冷たさは、クロウの意識を全てそちらに向けるかのようで。
「番、鬼柳京介。謹んで御贄頂戴奉り候」
ぽたと一滴、クロウの唇に液が落ちた。
「獣戦士、只今より戦場に馳せ御名誉奉る」
ザン―――ザン―――ザン――――
四方から音がする。何かが突き刺さる音。
くるりと辺りを見渡したクロウは、景色が若干変わっていることに気がついた。
舞台に、何か太いものが幾本も突き刺さっている。等間隔に、まるで図ったように。隙間は人3人が同時に潜れるくらいか。
一体何の意味があって…ぼんやりと考えていたクロウは、そこからじわと液が滴っていることに気がついた。
「…囲われた」
なんだろう…
近くで見ようと、ゆると一歩を踏み出したクロウを制するように。京介が立ち上がり、歓喜を含む声で呟く。
「囲われた。聖域はクロウを認めた、樹液は零れた…見たかお前ら!もう何も愁いはねぇ、何もかも俺とクロウが引き受ける。後ろなんざ心配すんな、前だけ見てけ!!」
巨木が震えるかと思うほどの嗚咽が轟いた。
京介の声に、獣達が答えている。
たかがこれだけの事で…。少しの口上と、景色の変化。これだけの事で、何が変わるというのだろう。
ぼんやりとそんなことを考えていたクロウは、ぴちゃぴちゃと滴る液を鬱陶しげに振り払い、唇についた液をぺろと舐め。
そこで、少しだけ。目が見開いた。
幾重にも分断された舞台の向こう、外の景色が見える。まるで沢山のスクリーンが設置されているかのごとく、海、山、空。
右端の空間を、巨大な龍が飛び立った。岩山の上から、沢山の龍が。
海…多分そうだろう。海の中からは海龍が頭を擡げ、空には数多の鳥が舞う。森からは奇怪な虫が大量に湧き出て、それに向かって獣達が吼える。羽の生えた人間が、角の生えた化け物に襲い掛かり、おかしな格好をした人間が何かを唱え、形状の判別しがたいもの達がそれを阻止し。
炎が、雷が。風が、大地が、水が。光が、闇が。狂おしいほどに混沌と化し、もつれ合っている。
これはなんだろう。
これが、戦いというものだろうか。
戦い。戦争。
目の左端に、獣が移る。
先ほど見えた、四足ではない。二足歩行をし、しかしそれでもなお獣とわかる様相。あれがきっと、獣戦士。守るべき種族。
鋭い爪が、何かを引き裂く。京介が先ほど見せた爪以上に強靭なそれは、簡単に肉を裂き骨を砕いているように見え。
それでも、少々動きが遅いのだろうか。大きな鳥が、その鋭い嘴を獣戦士の目に…
「あああぁぁっ!!」
攻撃を受けた。獣戦士が嗚咽を上げる仕草を見せ、地に片膝をつく。その瞬間に感じた痛みに、クロウは頭を抱え蹲った。
でも感じたのは痛み、ではない。最も最適な言葉は、熱だろう。
今まで感じていた熱とは比べ物にならないほど、痛みを従う熱さ。錯覚なのだと思う。精神が何かに連動しているだけで、実際は痛くなどないはず。
なのに、何故。
「…っきりゅ!」
咄嗟に呼んだのは、京介の名。実際この場でクロウをどうにかできる者は、彼以外にいないけれど。
「純粋すぎんのも、問題ってわけか」
するするとクロウの傍によってきた京介が、ひっそりと呟く。
「何でもかんでもあっという間に回収しちまう…」
ちろと視線を先ほどの獣戦士に向けた京介は、攻撃の痕跡など残さず颯爽と駆ける姿に舌打ちし。それでも、やんわりと笑った。
蹲るクロウを抱き上げ、膝の上に乗せ。優しく背を摩りながら、靄の向こうを確認する。
聖域に入った獣戦士は、ざっと20。どの固体も戦いの要といっていい者達。だからそこ、残ることを樹に許されている。
「ちょっと早めに、汚しとかねぇと…な?」
かくんと首を傾げた京介は、樹液で塗れたクロウの頬に、優しく指を這わせ。顔を上げ。唇を、奪った。
何をされているのかわからない。クロウは、京介が何をしたいのか、まったくわからなかった。
唇が触れた。唇で、触れた。少しかさついた唇が樹液に湿った唇に触れ、何度も啄ばみ。舌先でちろと、輪郭をなぞる。
「んん…っきりゅ…っぅ」
何を
問おうとし、小さく口を開けたのがいけなかったのか。何の躊躇もなく滑り込んできた舌が、口内をかき回しだした。
優しさすら感じた動きから一転、京介の手がクロウの頭を掴み、唇に押し付けて。
「ん!んんっ!」
それが、あまりにも乱暴で、今までの京介とはかけ離れた行動で。クロウの中に、初めて京介に対する恐怖が生まれた。
何度も何度も京介の胸を叩く。もがく。それでも京介はピクリとも動かず、かえって腰を抱かれ引き寄せられて。
まるで覆いかぶさるように、唇を貪られていた。クロウの頭には、滑り込み舌を絡めとり唾液を嘗め回すそれに噛み付く、というごく簡単な動作すら出来ない。
危害を加える、という習慣がないから。
とろとろと流れ込んでくる唾液が、喉に詰まる。口の端から、樹液も一緒に入りこんできて、咽たいのにそれも出来ない。
最初はさらさらと、水に近かった樹液は。いまやとろみを持ち濃厚な香りを醸し出していた。
初夏の若葉から、夏の森の匂い。舌に触れる味は、眩暈がするほどに甘い。
「ゃ…っやだ…!」
痺れるほど。感覚がおかしくなるほど。
それに身を任せてはいけない、じゃないと戻れなくなる。どこに戻れないか、はわからないけれど。
思ったクロウは、どうにか京介の舌から逃れ、顔を背けた。
喉に流し込まれた唾液と樹液は、そのまま飲み込むしかなく。ごほと咽たクロウを気にすることなく、京介は首筋に、かぷと歯を立てた。
犬歯の鋭い歯で食いちぎらないように、慎重に。
うっすらと日焼けした肌は随分とほてっていて、抵抗を試みる腕や足にも力は入っていない。
「お利口な身体」
京介は、それが嬉しくてたまらない。
巨木はクロウを、贄と認めた。樹液の種類は、司となったクロウの身体に直結する。清々しい匂いを纏っていた樹液が、口付けだけで彩を持った。意識しないながらも、クロウの身体は貪欲に性を感じている。
「俺のご褒美…もっと乱れろよ」
「ふあぁ?!」
ジャケットを毟り取り、Tシャツの上からぷくりと立ち上がった乳首に、親指の腹を擦り付けて。仰け反った首にまた、舌を這わせて。
「やだっ、や!…なんっ…」
「気持ち良い…な?」
「違っ…こんなん、ちが、う!」
ふるふると首を振るクロウのバンダナが、樹液でずり下がって。クロウの青灰を隠すのが不快。取り払えば、今度は橙の髪がぺたんと垂れ下がり、それでも。
橙の置くから覗く、涙で濡れた青灰が。今だ、強い光を宿していることに感嘆のため息をつく。
「お前の気の強いとこ、大好きなんだけど」
「っ!止め…」
まるで紙を裂くように、簡単にTシャツを引き裂いて。京介は、かくんと首を傾げながら、笑った。
「俺、お前のこと愛してるから…ずっと、大切にするから」
だから
「壊れちまえ」
理性なんて、ない方がいい
自我なんて、持たない方がいい
途方もない長い時間、延々と続く苦痛を受け入れてしまうから
そんな苦悩も苦痛も、クロウにはいらない
かりと乳首に歯を立てる。ビクンと震えた身体は、まだ抵抗しているけれど。最初は強引にするしかないとわかっているから、京介は気にしない。
「やだぁ…っきりゅ、止めて、くれ…きもちわりぃ」
可愛くないことを言う口も、塞いでしまえば気にならない。
そもそも気持ち悪い、はずがない。従順すぎるクロウの身体は、爪先で乳首を押し潰すだけでブルブルと震える。舌同士が触れ合う感触が、そろそろお気に召したようで。無意識に答えようと、京介の口内にまで入り込んでいるのだから。
貪欲。どこまでも、貪欲。罪悪や穢れに塗れた京介の体液を、欲しい欲しいと無意識に喘ぐ。クロウは気付いていないけど。
「ほら、足開けよ」
不純物のなさ過ぎる身体は、頭よりも柔軟だ。クロウの目に一瞬の好奇心が過ぎったのを、京介は確りと確認した。
ぴくりと動いた太股が、それでも閉じるのはまだ理性があるから。苦笑をもらせば、すぐに目の端が吊りあがるのも。
「駄目だって…ほら」
片腕でやすやすとクロウを反転させ、胡坐の上に座りなおさせる。クロウの視界は、また戦場と靄に向けられて。
でも、その向こう。
「仲間達に見せてやれよ、このエロい身体」
「!!っ嫌だ!離、せっっ」
耳元で囁けば。忘れていたのだろう、まだこの場には、自分達以外にも獣が残っていることを。気付けばもう、羞恥しか感じない。
ばたばたと、かなり本気で空を蹴るクロウの足を、京介は笑いながら押さえた。パンツのチャックを下ろし、あっさりと足から引き抜く。
「いやだああぁ!」
「なんで、こんなに感じてんのに」
クロウのペニスは、半分以上立ち上がっていた。
多分初めてだ。穢れから遠く離れた純正培養の持衰達は、自慰行為すら知らないのだから。
なのに本能で、これは恥ずかしいことだと認識する。それともただ、戸惑っている自分が恥ずかしいと感じているのか?
「こんなに可愛いのに」
「ひゃあ!!っあっああぁ!」
太股から手を離した途端閉じようとしたそれは、ペニスに与えられた快楽にあっさりと動きを止める。
なんでもない
この行為は、隠すものじゃない
わからせるように、落ち着いた声で大丈夫と囁きながら。クロウのペニスを激しく扱く京介の口元は、ずっと笑っていた。
何処まで信じるだろう。何処まで従順になるのだろう。何処まで…きっと、何処までも。
「あんっあ…っ」
「いい子…いい子だクロウ。これしゃぶってやりてぇけど、後でな。一度イクとこ見せてやろうぜ?」
「ゃんんっ…みん…なっ、ゃだ」
ふるふると首を振りはしても、大きく開いた足は閉じる気配もなく。舞台の上に、力なく投げ出されるだけ。樹液がとろとろとペニスに絡まり、じゅぶじゅぶと音を大きくしても気にならないようで。
ただ京介の手が、自分の身体の一部を大きく変化させていくさまを、凝視するだけ。
「怖ぇ…ひゃっ、ん…ゃ、きりゅ…これ」
むくむくと立ち上がり、張り詰め。先端から流れる、初めて見るだろう精液。精通があっても、本人にすら隠されるそれを、恐怖と感じるのは仕方がないのだろう。
縋る相手を間違えている、それも気づかず京介の腕に縋るクロウは、もう視線を外していた。腕に額を擦り付けて、ぐずるように首を振る。それでもクロウの腕は投げ出されたままだし、足も開いたまま。
「こわ…っや、なんっ…やっ、やああぁぁっ!」
達しても。
達しても、足の裏が一度、舞台を蹴っただけ。
びゅっびゅっと弾け飛んだ精液が、舞台上に零れ落ち。樹液と混じり、また若干匂いを変える。まるでクチナシのような、甘くて濃厚な香り。
最後の一滴まで搾り出し、精液で濡れた手を。京介は戸惑うことなくしゃぶった。その姿すら、クロウはぼんやりと眺めるだけで。
完全に京介に預けられた身体。愛おしげにぎゅっと抱きしめて、ちろと靄の向こうに視線を送り。京介は、ゆっくりと樹液を手に絡め、クロウのアナルに指を伸ばした。
「いっ!」
初めて人が触れる場所。無遠慮に最初から二本の指を差し込んだ京介は、痛みに身体を強張らせたクロウを確りと抱きしめなおす。
「大丈夫…龍の持衰殿もやったことだぜ?お前も平気だ」
クロウの痛みを察知した樹液が、大量に下半身を濡らし、アナルに零れ落ちた。そのぬめりを借り奥へ指を進めながら、ひっそりと囁く。
ぴくりと、クロウの指が動いた。
「ゆ…せぃ?」
「ああ、そんな名前だっけか。あいつな、天才」
クツと京介の喉が鳴る。
「持衰としては最高。多分過去最高だ、ドラゴン族も戦いを再開する決心がつくはずだぜ」
ぐちゅぐちゅとアナルを指で犯しながら、クロウの顎を取り、映像の一面に顔を向けさせる。
底では今まさに、巨大な何かが虫の一団に火を吹いていた。
巨大な。まるで京介が乗るジープのような、鉄でできたもの。
「機械族…龍の持衰殿が生み出した」
「あっあっあん」
「持衰は汚されると、時たま新しい種族を産む事がある。自衛本能が働くから、ってことになってるけど、よくわかってねぇ。何かを守りたいんだろうな、きっと」
腕の中でクロウが身を捩る。アナルが大分具合が良くなって来たのだろう。樹液はクロウの望むまま、痛みを全て快楽へ変換するのだから、当然だけれど。
「何を守りたいかなんて…考えるまでもねぇけど。なぁ、クロウ?」
「ひゃんっ!」
聞こえているのかいないのか、クロウは喘ぎながらも、ひたと機械を凝視している。それが少し気に食わなくて、京介は乱暴に指を引き抜いた。
膝からクロウを降ろし、ズボンの前を開く。
もう随分前から立ち上がっていたペニスは、十分な硬さと大きさで期待に震えていて。舞台の上に転がるクロウの腰を引き起こすだけで、ヒクと揺れた。
「なんも産まなくていいからな、クロウ」
「ひっ!」
アナルに宛がい、ゆっくりと腰を落とす。流石に樹液も痛みを逃がせないのか、クロウの爪が舞台を引っかいた。
「産むな…必要ねぇだろ」
気にせず、ずぶずぶと突き入れる。
樹液と指で慣らした中は、亀頭を銜え込んだ当たりから激しく波打ち、柔らかく京介のペニスを包んだ。
本当に、何処までも従順な身体。純粋で、貪欲。
「笑える!龍の持衰殿が何やったか、お前見てるだろクロウ!汚された身体は害を呼ぶ!汚されれば汚されるほど厄害や苦痛を呼ぶ!俺達にはありがたいけど、あの村じゃ毒だろ」
「ふああぁぁっ!ああっ」
「ばれちまうだろ?新しい種族産んでるってわかれば、ばれるだろうが!あいつな、だから壊してたんだよ!」
ずっと村長の家で何かを作っていると思われていた遊星
片隅でずっと
運び手達が普段寄り付かない、その場所で
でも、作っていたわけではない
運び手ならば、かみもりならばすぐにわかること
「生み出したものを壊して、壊し続けて!それでも龍のかみもりが欲しい?!友達を奪われてからは、そいつを助けるために壊してた機械を使う?!こんな冗談、聞いたことねぇよ!」
獣戦士を倒せば倒すほど、クロウの身体に害が及ぶと。痛みが飛びのだと、そんな冷静な判断も、遊星はもう出来ていないだろうけれど。
持衰を汚す相手を一人に絞っているのは、獣戦士だけなのだから。
「ゆぅ…せっ、は…そんなっ」
「する、してるんだ。すげぇ苦しいだろうな…何かを守るってことは、自我を保ち続けなきゃできねぇ」
クロウの内壁がうねる。
京介のペニスを銜え込んで、纏わりついて。多分、頭よりも身体の方が先に、理解した。
「っ…最高、クロウ。もっと欲しがれ、もっと。そんで、助けてやろうな?」
「んぅ…ふぁ?」
「龍の持衰殿、楽にしてやろう?お前なら、獣戦士達の害をいくら食らっても平気だろ。強く強く強くして、先に機械族ぶっ壊して…そしたら、害が全部あいつにいく」
そしたら、ぶっ壊れるだろ?
優しい京介の声に、クロウはゆらゆらと頭を揺らし、きゅうと京介のペニスを締め付ける。ずくずくと、話している間も抜き差しを止めないその動きに、身体が追いついてきた。
「あんっあ!」
「いい子、可愛いクロウ…俺に犯されて、汚れて」
最も純粋な持衰。
遊星が持衰の中で天才と言えるなら、クロウは持衰の中で最高傑作。
「もう何も考えるな…欲しがるだけ欲しがって、俺を貪れ!」
「ゃ、また…っまた、なん…ひゃあああっっ」
精液がクロウの体内に流れ込む。奥の、奥まで。
靄の向こうで、どよめきが起き。でもそれを、クロウの耳は拾わない。全てを流し込まれ、ペニスを引き抜かれ。抱え上げられ、アナルからトロトロと精子が零れ出るさまを晒されても。
「全部、貰った。お前らの害はもうねぇ…容量はいくらでもあるから、やばくなったらまた戻って来いよ。他のやつらにも伝えておけな」
淡々とした声で京介が指示している間も、ぽやと抱きかかえられたまま。
それでもひとつだけ、心に残っているのは。どろどろとわけのわからない、重いものが入り込んできて。身体のどこかにぽたんと落ちた…それを感じながらも、残っている言葉。
「…きりゅ」
「ん?てか京介、な」
「きょ、すけ?」
耳元で、京介が笑う気配がする。
ゆるりと振り向いた先、やはり京介は笑っていて。猫のような目を、もう隠しもしないで笑っていて。
クロウは笑う。言われた通り、京介が望む通り。
「もっと…」
森の中で、かみもりが2人相対している。
京介と、ジャック。
争いが始まって、どれくらいたっただろう。どちらもそんなこと気にしていないから、聞いても答えられないだろう長い年月。
通常かみもりが相対するときは、何らかの協定を結ぶか…もしくは、最終決戦か。しかし2人の様子からは、どちらともとれない。
ジャックは相変わらず、多少の高慢を滲ませながら腕を組む。背には黒い大きな羽が、慎ましやかに折りたたまれていた。
5メートルほど離れて立つ京介は、相変わらず楽しそうに笑っている。キャッツアイもそのままに、目を細め。
「何の御用だろうな、ドラゴンのかみもり」
歌うように告げた声は、何処までも楽しげ。
「正直用などないが。探って来いと言われたのだ、獣戦士のかみもり」
それとは逆に、ジャックはひどく面倒くさそうで。
「獣、鳥獣との連合は、お前の案か」
「まあ、な。鳥獣は元からクロウ欲しがってたし、獣は兄弟みたいなもんだ。うちの持衰殿は二つくらい種族増えたって、問題にしねぇよ」
この頃、少し戦況が変わった。単独で適当に目についた相手を倒す混沌から、共謀して一種類ずつ潰すかのように。
明らかに、人間的な思考の表れ。純粋に戦いを楽しむのではなく、戦略を巡らせて確実に勝ちを取りにいく姿勢は、今までにないことだ。そんなことを考え付くのは、ひとりしかいない。
そのひとりは、いつ見ても楽しげだ。
「…機械族の減りが早いのだが?」
「ああ、クロウが喜ぶんだ。機械ぶっ壊したら、手を叩いて喜ぶ。だから皆張り切って攻撃してるみてぇ」
人気あるだろ
嬉しげに告げるその様子は、運び手として村に訪れていたときとなんら変わらない。大抵のかみもりは消耗し、既に消滅している者すらいるというのに。
「伝えておいてくれ、龍の持衰殿に。あいつの精神力ははんぱねぇ、賞賛に値する。相当苦しいだろうに、今だクロウを諦めてねぇのはすげぇよ。でもな…クロウ本当に無邪気に手を叩くんだ、歓声まで上げる。だからそろそろ諦めろって」
そんで早く、ぶっ壊してやれ
哀れむかのような声は、明らかに作ったもの。口の端は相変わらず上がったまま。
ジャックはその様子を眺めながら、ゆると眉を上げた。お気に召さなかったようだ。
「…ならば獣戦士の持衰殿に伝えろ。鬼柳京介が目の前で殺したのは、お前の両親だとな」
途端、京介が鼻で笑った。
「憎んで憎んで、頭おかしくなるまで憎んで!わざわざ村に潜入してまで、クロウを殺しに来た両親な」
村に回収される子供は、両親に憎まれた者達。
憎まれてもなお、自我を保つことの出来た者達。
大抵は、前住んでいた住民の子。
それを京介は、クロウに教えていない。子供に関してだけは禁句だと、わかっているから。
「クロウが悲しむだろ、苦しむだろ?そんなもんいらねぇ」
「その方が効率よく厄害を回収できるのにか?」
「もう十分だ、クロウは十分すぎるほどのことやってる」
あんたの持衰も
呟いたとき、京介はもう笑っていなかった。ただ無表情に淡々と、ジャックを見据え。
「ただ楽しんでるだけのやつ、流れに身を任せ気にもしないやつ、罪悪に苛まれ苦しむやつ、何も知らないで笑えるやつ。楽、流、哀、無…どれが一番幸せだと思う?」
考えろ、モンスターさん
「…人間風情が、大きな口を叩くものだ」
「人間風情だから叩けるんだよ、お前見てるとひたすら遊星が可哀想だぜ」
途端殺気を纏ったジャックに、京介はヒラヒラと手を振って背を向けた。
名前を出されただけで逆上するほど、遊星を想っているというのに。何故今の状況を放っておけるのか。人間風情には、さっぱりわからない。
鼻をヒクと動かして、クロウが顔を顰めた。
嗅ぎなれない匂い…きっとドラゴンの匂いを感じたのだろう。
長い年月の間に、随分と獣に近くなったクロウ。それでも目は相変わらず人のままで、それが京介はひどく嬉しい。
「匂い消してくるか?」
「そのままでいい」
身を引きかけた京介の腕を、クロウはやんわりと掴む。途端にふわと香った若草の匂いに、京介は顔を綻ばせながらクロウを抱きしめた。
「龍の持衰殿のな、恋しい恋しいかみもり殿に会ったんだ」
きっともう、そんなことを言っても。クロウの何も、動かすことは出来ないけれど。
案の定顔を上げたクロウは、きょとんとした顔。とても無垢で、幼い顔。
「こい、しい…」
聞いたことがある、でも思い出せない。そんな顔のクロウに、ひとつ口付けて。
「知らなくていい」
やんわり微笑んだ京介の顔を、クロウはマジマジと見つめた。なんだか、いつもの顔と違うから。
だから、手を伸ばして。青光りする銀の髪を、やわやわと梳くように撫でる。なんだか、辛そうだったから。傷ついた獣戦士や鳥獣、獣。彼らが見せる様子に似ていたから。
「大丈夫」
そんなクロウに、京介は完璧に笑いかける。
もう十分
もう十分なことを、クロウはしているから
無駄な感情など、苦しみや憎しみを従う感情など必要ない
「戦況は安定してるみたいだけど…抱いていいか?」
ちろと外の風景を覗いて、異常は見当たらないとわかっていても。聞けばクロウは嬉しげに手を伸ばす。
「いっぱい、な」
それだけで十分。十分すぎるほどだ。
京介にとっては、十分すぎるほどのご褒美だった。
END
|