なあ、どうにかしてくれよ。俺はお前じゃねえんだ、宥めて愛でて甘やかされて、好きなだけどろどろに溶かされたってどうしようもねぇ。お前みたいに毅然とした態度で跳ね返せない。ころころ手の上で転がされては、我儘を言ってなんて優しい我儘を言われてみろ?俺は芯までぐずぐずで、一言だって我儘なんざ言えやしない。第一俺は言い慣れてないんだ、そういうの。
なあお前、ちょっと我儘すぎたんじゃないか?ちょっとあいつを振り回しすぎたんじゃないか?勿論お前が悪いなんて言ってない、それ以上のものをあいつに返してるってわかってる。だけどな、俺はどうしても、お前みたいには出来そうにねぇんだ、残念ながら。でもそのせいで、今の関係が抉れるなんて事があったら、たまらねぇんだ、本当にたまらねぇんだ…
なあ、そこんとこどうなのよ、お嬢さん」





きゅきゅっと、そこで大体終了。ホワイトシルバーの刀は、普段から磨かれまくって鏡みたいに綺麗だけどな。しゃがみ込んで話してるうち、気付けば磨いていたんだ。美人に化粧を施すってのはこんな気分かもしれないって程、顔が勝手に笑っちまう。でもそれと同時、溜息が出るのはしょうがねぇ。
「鬼柳は絶対メンクイだよな」
大きな溜息と共に出た自虐的な言葉は、余計俺を落ち込ませた。
刀使いの鬼柳が、Z1000乗りの俺ってどうなの、正直な話。いや、Z1000は最高の相棒で最強のバイクだ、それは譲らねぇけど絶対…でも、なぁ?
いい加減待ちくたびれた。随分長い間屈んじまって、立ち上がると膝がぽきぽき鳴る。思いっきり背伸びして、顔を上げれば相変わらず。
相変わらず、鬼柳はヤマハのバイクにかかりっきりだ。なんだっけあれ、白いやつ。ドラグスター?クラシカルなあのバイクは、確かジャックが気にしてたやつ。今はどうでもいいけど。
いやに時間がかかっているのは、多分ギャラリーが多いから。遠目で観てる俺でもわかるくらい、鬼柳は苛立ってる。でも投げ出さないのは、きっとプロ意識が強いからだろう。
あともしかしたら、俺が手伝ってやれって言ったから。
休憩で立ち寄ったパーキングエリアで、なんかの不備で困っていたライダーに、渋る鬼柳を行かせたのは俺。ルドガーさん仕込みの整備の腕は相当だ、少しの不具合ならあっという間に直すから。
トイレいって、飲み物買って戻ってくる間に直るだろうと、そう思っていたのに。
戻ってきてみれば、さっきまで俺達とドラグスターしかいなかったはずのパーキングエリアには、バイクが結構な数止まっていた。でも整備する鬼柳の周り、取り囲むだけで誰も手伝わないで、食い入るように手元を見ては、たまに何か質問とかしてる。
すげぇもんな、鬼柳。まるで魔法みたいに、何でも簡単にやっちまう。
ライディングだってすげぇよ。たまに、たま〜に俺がドジやっても、動揺とか絶対ないし。後ろを走ってくれてるっていう安心感は半端ない。鬼柳は俺の走りに引き付けられてるだけだって言ってくれるけど、そんな走りが出来るのは鬼柳が後ろにいるからだ。
…なんかなぁ、どうしてだろうな。



そんな事を悶々と考えていた俺の横に、いつの間にか年配のライダーがひとりいた。どんだけ考え込んでたんだ、俺。
「その刀、あいつの?」
鬼柳の方を指差しながら声をかけられるまで、本気で気付かなかったとか。
「あ…はい、そっす」
慌てて答えてから、俺が半分よりかかっちまってる刀を、的確に鬼柳のバイクだと判断したそのライダーに脱帽だ。でもまあ、普通に考えたらZ1000より刀だろ、鬼柳は。観察中のバイクの輪から外れてるの、この二台だけだし。
「そっち、お前の?」
「はい!」
これは聞かれると思っていたから、直に答える。そのライダーは俺の相棒と刀を暫く眺めて、それからひとつ頷いた。
「…すげぇな」
それは、心の底から出たような感嘆の声で。
「はい、凄いんすよ」
思わず笑顔になってしまうほど、嬉しい言葉だった。ルドガーさんの手はかなり入ってるけど、維持しているのは俺と鬼柳だ。それも含めて褒められたんだから、嬉しいにきまってる。たった一言で全部を含んだライダーの言葉。少しだけ気持ちが浮上した。
「いいもん見せてくれてありがとな」
そう言って離れて行ったライダーに、慌ててぺこりと頭を下げて。
お前ら、褒められたぜ
心の中で告げれば、相棒と刀は同様に、当然!とでも言いたげに、キラキラとタンクの滑らかなカーブに光を集め弾いていた。



それが綺麗で。磨いたばかりなのに、もっと磨いて綺麗にしてやりたいって思うほど、綺麗で。
だから俺は、その時鬼柳が俺の事を見ていたなんて、気付かなかった。
質問やなんか全部投げ出して、故障だけは直して。気を抜けばすぐ潜めてしまう眉を気にしながら俺のところに戻って来たなんて事。








今回はメットに仕込んだインカムを使おうって事で、行き先は鬼柳しか知らない。指示されるまま峠を越え、右左と、鬼柳の言うとおり。耳元で聞こえる少し掠れた声はくすぐったいけど、なんだかより近くなったようで嬉しかったりして。
だから夕方、大分日も沈んだ頃。簡素な散策路のあるパーキングエリアに入るよう指示されても、特に気にはならなかった。
普段は夜に走る事を嫌い、日が沈むまでには宿泊先につくようにする鬼柳にしては珍しい、ちらっと思っただけ。
Z1000から降りるなり、手を引かれ。人気のない散策路に連れて行かれたときだって、そんなに深くは考えなかった。いい眺めの場所でもあるのかと、そう思っていただけで。
ただ明らかに散策路から外れ、茂みの中を分け入ったときは…あ、これはやばいって思った。
まるで当然の事のように、随分前から決まっていた事のように。すんなりと入り込んできた、身体の関係。基本的にロンツーの間は手を出さないって暗黙の了解があるけど、完璧じゃない。いくら次の日バイク乗るの辛いってわかってても、鬼柳が止まらない事とか…俺もたまに、止まらない事とかあるし。
でもまさか、これからまだ走るってのにやるとか、そういうことか。それは流石に辛い。本当に辛い。
なのに。辛いとわかっているのに、掴まれた手を振り払う事が出来ないのは…なんで、なんて考える必要もねぇよな。
変な依存かもしれないけど…鬼柳としてるときが一番、なんも考えなくてすむってわかってるから。何で俺なんだろう、とか。そういうこと。
本当はここで、確り拒否すればいいんだろう。ちょっと恥ずかしいけど、宿まで待てって一言言えば。でもそれすら出来ないなんて、刀が見たらきっと笑われるよな。
「…な、口でする、から。入れるのなしな」
少し震える声で、言うだけで精一杯なんて。




くちゃりと舌の上に飛んだ先走りに少し驚いて、顔を上げれば鬼柳が見ている。
なんか、不機嫌そう。でも目が合えば、きゅっとレモンイエローを細めて笑う。笑ったまま頬を撫でてきて、それから項に手を滑らせて。
「んぅ…」
押し付けがましくない程度に、深くまで。勃起したペニスを入れられて、一瞬喉が詰まった。
自分で言い出した事なんだから、もたもたしないで最後まで。じゃないと、鬼柳は焦れて…
「…悪い、やっぱ無理」
「んぁ?!ッ、きりゅ!!」
挿れられる。わかってたはずなのに、なんでもたもたしたかな俺!
一気に抱き上げられて、身体の位置を変えられて。鬼柳が持たれていた木は、今俺の背にある。相変わらずのライスーが一気に降ろされ、中に来ていたハーパンも。
「駄目、だって!!」
「悪い、俺マジで心狭いんだ」
それ関係ねぇだろ!
叫びたかったけど、外だし。もうほとんど日が沈んでたって、誰も来ない保障はないし。
「ひゃうぅ!!」
躊躇っている間に、べとべとした指が中に入ってきて。何時の間に、思うまもなくかき回されて。もうここまで来ちまったら、身体は正直だ。

欲しがっちまう。
何も考えられねぇくらい激しく、欲しいと思っちまう。

「クロウ」
少し息を乱した鬼柳が名前を呼んだ。それだけで痺れる身体は、確実にこの先を期待していた。
少し顔を上げれば、鬼柳が俺を見ていて。熱の宿った目に、顔を真っ赤にして少し泣きそうな顔の俺が写ってる。
まるで引き合うように…俺の相棒と鬼柳の彼女が、風に溶け込む瞬間そのままに。すうっと合わさった唇と、感じた熱。もうこれだけで、後には引けない事がわかる。
「ふうぅっ!!」
行き成りだった。まだまともに慣らされてねぇケツから指が出てって、その代わりに熱の塊みたいなのが一気に入り込んで来て。
痛みで身体を強張らせた俺を、鬼柳は強く抱きしめて。
「イッ…んぁ!」
奥の方。何でこんなとこまで、思うほど奥の方、小刻みに突き上げられた。
痛いんだか、気持ちいいんだかわからなくて。ただ先っぽが、腹の中で確実にその形を主張してる。俺はここにいるぞって、なんか…ここは俺の場所だって、言うみたいに。
「あん、ぅぅ…ゃ、だ!きりゅ、もっと!」
そう感じた途端、わけがわからなくなって。気付けば強請っていた。
そこだけじゃねぇだろ、お前のもん、他にも沢山あるだろって。全部使って、全部にちゃんと痕残せよって思ったら、勝手に強請ってて。
「ひぅ!ぃ…んん!ぁ、ああっ!」
そしたら鬼柳は、一度だけ額にキス、した。そしてもう、背中がガンガン木に当たるくらい突き上げられて。 馬鹿みたいに感じた。外とかもう気にならなくて、勝手に上がる声もそのままで。
本当にそのとき俺は、なんも考えてなかった。
「ごめ…ックロウ、ごめんな」
何度も何度も謝り続ける、鬼柳の思いなんて。










「俺本当に、お前に関してだけは自分でも異常かって思うほど、心狭いわ」
わしゃわしゃと頭を撫でながらそんな事を言った鬼柳は、本当に申し訳なさげに眉を下げる。
でも俺は、顔を上げられない。怒ってるとか…まあ少しは怒ってる。けど、途中から俺も欲しがっちまったし。だから、あんなところでとかはなしで、ただ…ああもう、恥ずかしいんだよ!



あのパーキングエリアから宿までは、実は3キロほどだった。俺が痛い腰を抱えて走るにしても、ほんのちょっと。なのになんで、せめてそこまで耐えられなかったのか。
鬼柳、なんて答えたと思う?
『Z1000ほど俺、お前の事大らかに受け止めてやれないって、まざまざと思い知って自暴自棄になった』
んだと。
少しだけ言葉を交わした、見ず知らずのライダーに俺が笑った、それだけの事に嫉妬して。そのあとずっと我慢していたけれど。どっしりと、俺の全てを受け入れて支えるZ1000の、一瞬も揺るがない姿を後ろから眺めているうちに、どうしようもなくなったと。
部屋に着くなり何も言わずに布団をかぶった俺に、鬼柳はしどろもどろにそんな言い訳をして。
「なあ、お前の相棒はZしかいねぇってのわかってるけど。恋人だけは絶対に誰にも譲りたくねえんだ、絶対に」
鋭くそれだけを言い切った鬼柳は、その後独り言のように呟いた。
「ほんと…お前がなんで俺でいいのか、わかんねぇんだけどな…」
その声がなんかもう、心底困り果てているようで。どうしていいかわからないって、そう言っているようで。
なんだ、同じこと考えてたのか
そう思った瞬間、もう俺は布団から顔を出していた。
「俺も、お前の彼女は刀ってわかってるけど。恋人だけは譲らないからな」
物凄く安心した。なんかもう、物凄く。それしか言えないくらい。
途端顔をくしゃくしゃにして笑う鬼柳は、折角の美形が台無しだったけど。
「頭おかしくなるくらい、好き」
言われて、顔が溶けるんじゃないかってほど熱くなるのがわかったけど。死ぬほど恥ずかしいんだけど。
結局は、深く考えず。ただ俺の相棒と一緒に、あと鬼柳の彼女と一緒に。何も考えず、空気に溶け込む。そんな何もない、完璧な一体感だけ覚えていればいい。
そう、思った。




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