戸籍なんていくらでも変えられるんだぜ?
あっさりとそう言って、兄はゆるり首を傾げ笑う。
戸籍が簡単に変えられてたまるか、クロウは思ったけれど勿論言わない。兄が変えられるというのなら、それは本当に簡単に変えられるのだ。
見たことも聞いた事もない両親の名が載り、確り血の繋がった兄弟になっている戸籍。急に引っ越すと言われ、今まで住んでいた街のふたつ向こうに移動してから見せられた新たな兄の戸籍には、クロウが配偶者欄に記入されていた。
凄く、犯罪臭い。
「婚姻届にハンコ押した記憶がねぇんだけど…」
それすら飛び越し戸籍が完成してしまった日、喉から搾り出すような声で告げてみても。
「結婚式あげてもよかったんだけどな…俺式の間耐えられる自信一切ねぇし、今度ドレスだけ買ってやろうか」
兄は見当外れな事を言ってにぱっと笑うだけ。やるのは式じゃなくてセックスだと、あっさり頭の中で変換出来てしまう自分がちょっと切ない。
着た瞬間ズタボロにされるドレスに、それでも兄は法外な金をかけるだろう。きっと、お腹の子が生まれた後に。





引っ越した理由はほぼ間違いなく、クロウの妊娠。基本面倒くさい事が大嫌いな兄は、昔から住み続け近所付き合いも多少ある今までのマンションで、色々と聞かれるのが面倒になると予測したのだろう。それに心配性の兄は、出産が快適に行われるよう産婦人科の横に新居を構えた。といってもまたマンションだけれど。
そこでの新しい生活は、クロウが身構えていた事態もなく。妊娠中兄は一切クロウに手を出さなかったし、かといって何処かで処理をしてきているわけでもないようで。
「クゥの中出し解禁したのに、なんで抱きたくもねぇ女抱かないといけねぇの?」
心底不思議そうに言う兄は、本当にただ子供が欲しくてあれだけの美人揃いを落としていたのだと、大変ろくでもない事実をクロウに伝えた。わかってはいたけれど、なんて可哀想な被害者達。
「それに初産って大変なんだろ?俺の我儘でクゥがしんどくなるの嫌だ」
へなりと眉を下げてそんな事を言う兄に、耐えられなくなったのはクロウの方。安定期に入ったから、心配ならアナル使っていいから、言ってもなかなか手を出さなかった有り得ない兄に、最後は泣き落としまで使ってしまった。
既に子供が生まれた今、その事実はクロウにとって黒歴史に分類されている。





十月十日…より少し早めに産まれてきた子供は女の子で。クロウの髪より赤に近い橙と両親の色が絶妙に混じった灰緑の目という、なんともクリスマス的な配色以外は見事にクロウに似た。それはもう、クロウが将来を危惧するくらいには。ロクデナシの兄は、クロウに似ているからという理由だけで、自分の子供にまで手を出しかねない。
「…出したとしても3Pだろ」
退院し家に帰って早々釘を刺したクロウに、兄はまたへなりと眉を下げてろくでもないことを言った。否定しないという事は、手を出さない自信はないということ。
この、ロクデナシ…
「じゃあ、次にお兄ちゃん似の子供産む!産んで俺も3Pする!!」
宣言し、初の夫婦喧嘩なるものを勃発させたのも、クロウにとっては黒歴史。
子供に手を出してはいけないという道徳観念よりも、自分と似た相手に互いを捕られるのが嫌だという理由を優先させた時点で、黒歴史にカテゴリしても有り余る事。クロウは後で反省したけれど、兄はきっとしていない。喧嘩して数時間冷戦を続けた後から、今までの禁欲生活を取り戻すかのようにクロウに張り付いてそれどころではなかったから。
「育児休暇取った」
いい笑顔で言い切った兄に、相変わらず謎の職場は大丈夫なのかとも思うけれど。渡されている通帳には毎月給料らしきものが振り込まれるから、気にしないことにした。
勿論兄は、育児休暇のほとんどをセックスに費やしているわけだけれど。一応子供は可愛がっているので。










「ひゃうっ!ぁ、にいちゃ、吸いすぎ、だよっ」
ぎゅうと吸い付かれ、痛みを感じるほどに吸われて。咄嗟に篭りそうになる腕の力を、子供のためにクロウは逃がした。それをいいことに、ぎゅっぎゅっと吸い付く兄の頭を叩く。
「いた、い!」
「だって!」
むうと眉を潜めた兄は、羨ましげに反対側の子供を指差した。子供はそんな大人の事情など気にもせず、寧ろ兄の長い髪も掴んで至極幸せそうに母乳を吸っている。
麗らかな午後のひと時、柔らかなソファで母乳を与える母子の姿は神々しくすら見える…はずなのに。
「お前吸うのうまいよな、どうやってんの?」
ぷにぷにと柔らかい赤ん坊の頬を突く兄という存在が入る事で、絶望するほどいかがわしくなってしまう、ご丁寧に毎回。
赤ん坊がぐずり始め、クロウが母乳を与え始めると何処からともなく近づいてきて、毎回子供と競うように吸い付いてくる兄は。毎回頭を叩かれては、子供に羨望の眼差しを向ける。
子供の小さな手が、きゅっとクロウの胸に添えられているのを見て。兄もマジマジと自分の掌を見つめるけれど、比べようもない。
「クゥが想像以上に…」
「それ以上言ったらもう一発殴るぞ」
手をわきわきとさせる兄を、クロウはきつく睨みつけた。想像以上に巨乳にならなかったことを、クロウだって残念に思っているのだ。ならなかったも何も、呆気にとられるほど変化がなかったのだから。
ひと時の夢とわかっていても、一度でいいから胸重い…なんて言葉を吐いてみたかった。吐いてみたかったのに。
「いやでも、前よりはおっきくなった」
「ひんっ」
今度は吸い付かずやんわりと揉まれ、ひくりと跳ねた肩に兄が笑う。揉めば少量母乳が滲み出て、兄の手にかかるから。
「甘い」
ぺろりと嘗め、満足そうに頷く兄は心底駄目だと思う。思うけれどクロウも、そんなに好きならジョッキで飲ませてやりたいと思うから、どっちもどっちだ。





お腹がいっぱいになったのか、きゅぽと口を離した子供に兄の眼が輝く。
「ぽんぽんタイム!」
背中を優しく叩きゲップをさせることを、兄はぽんぽんタイムと言う。といっても、いくら可愛い言葉を使ったところで、やることはえげつない。
彼が抱き上げるのは、子供ではなくクロウの太腿だ。
このやり方、産婦人科の先生が見たら目を剥いて本気怒りするだろうな…思っても、兄は止めない。クロウも止めない事をわかっているから、ぎゅっと赤ん坊を抱きしめるだけ。
「んんんっ」
「…柔らかい」
いつでも遠慮なく入ってくるので、クロウはもう家の中で下着をつけない。ぐちゃぐちゃになった下着を子供服と一緒に洗う瞬間ほど、切ないものはないから。
「すっげ、柔らかくなった」
「そんな…ッわかんな、よぉ!」
ガツンと、一気に奥まで突き上げられて。咄嗟に強く抱きしめた子供は、慣れているのか眠たそうなだけ。兄は遠慮なく突き上げるし、抱きしめているといってもクロウの身体もガンガン揺れるけれど。
いつか絶対吐かれると思っていたけれど、この子が特別無頓着で丈夫に出来ているのか、今までぽんぽんタイムが失敗に終わった事がない。流石は自分と兄の子…いっそ感動を覚えてしまうクロウはでも、これはもうロクデナシ直行だなとも思ってしまって。
「かわいそ…ゃうっ」
呟いた瞬間だ。けふと、子供の口からゲップが漏れた。空気が読めるんだか読めないんだか…微妙。
「ぽんぽんタイム終了」
ほぼ同時に兄がぴたりと止まり、するりと中から抜け出して。子供を受け取り、ベビーベッドに寝かせるのはいつものこと。食事が終ったらすぐにおねむで、夜も確り寝る手のかからない子。
きっとこの子はもう、幼いながらもわかっている。こいつらに関わったら碌な事がないということ。クロウも兄も、ちゃんと子供を愛しているけれど。自分達基準の愛しているが正しいのかは、ちょっとわからないから。



「…親失格?」
ちゅっと子供の額に唇を落とし、すぐに戻ってきた兄に手を差し伸べながら呟けば。兄はかくんと首を傾げて、わからないと呟いた。
「まあ…普通の親は多分、こんなことやんねぇけど」
ぽんぽんタイムとか?
「でもこのご時勢、何が正しくて何が悪いかなんて、誰がわかる?」
批判も正当理論も、やりたいやつがやればいい
倫理道徳なんて、最終的に決めるのは政治か宗教
言い切る兄は、あまりにも自己弁解に過ぎるとは思う。
でも
「俺の持てる限りの愛は、全部クゥとあの子に捧げる気だけど?」
さらっと何でもないことのように本心を言うから。比率は五分五分ではないことを、知っているけれど。回答としては上等。
「…とりあえず、勃起したまま子供あやすのはやめとこう?」
くつりと笑えば、恭しく抱き上げられそのままソファに座って、兄の上にすとんと乗せられる。
ロクデナシだなんて、最初からわかっている事。



今まではわりと、何かに押し付けてのセックスが好きだった兄は。多分期間限定で、騎乗位が好き。
だって零れる。
「あんっ、ゃ…おにぃちゃ…ッ!」
いくら咎めても、兄は御座なりにしか腰を振らない。母乳が溢れる胸に夢中だから。
一生懸命腰を振るクロウの目の前で、さほど張っていない胸を揉んでは零れ落ちる母乳を嘗め取る。時々飛び散って顔にかかればひどく喜んで。
「クゥに顔射された」
馬鹿なことを言う。
もうどうしようもない、本当に。本当に、それすら喜んでくれるならいい、思ってしまうなんて。
「ぅんっ…ずる、い」
「クゥも顔射してほしい?」
こくんと頷けば、頬を流れ落ちる母乳をペロと嘗め取って。それから、凄く悪い顔の兄になる。
「あぅっ!!」
くるりと体勢を変え、ソファに押し付けられればもう苦労することはない。今目の前にいる兄は、兄ではなくなるから。父親でもなく、ただの鬼柳京介。
貪欲に妹を愛する、多分この地域で一番駄目な男。
「あんん!あっ、おにぃ…ッすごいのっ」
「クゥの中も、すげぇよ?」
凄く凄く凄く柔らかい
心底幸せそうに、柔らかいを連呼するのもどうかと思うけれど。お気に召したならなにより、だ。
「ふぁ、も…ッ」
ビクリと震える身体に、一瞬だけ触れた唇と唇。深く口付けられるよりもそっちの方が感じるのだと、知っていてやるのは先にイかせたいから。
「も、いっちゃ…ッッッ」
抗うつもりなんてない。全身に走る痺れと、瞼を閉じた瞬間顔にかかった熱い液。何度も何度も吐き出され、それでもクロウは笑う。
目を開ければ、兄が楽しそうな顔で汚れた頬に指を滑らせると、知っているから。










汚れを落とすために風呂に入ったクロウが出てきてみたら、兄が子供をあやしていた。今度はちゃんと、スウェットを履いて。多分起きてしまったのだろう。
振り向いた兄の髪は、子供の小さな手に確りと握られている。それを嫌がるでもなく好きにさせている兄は、心底楽しそうに笑っていて。
「クロウ、ママ来たぞ?」
囁くものだから。クロウはいい加減慣れないと、思っていても混乱する。



そもそも戸籍を取ってきた理由が子供の名前で。
絶対クロウ!!
言って譲らなかった兄が、凄くいいこと思いついた顔で家を出て、帰って来た時に差し出された戸籍の配偶者欄。
クロウは名前がクゥになっていた。
直したのそっち?!
叫んでも、きっとこの件については誰も非を唱えないだろう。
兎に角赤ん坊は戸籍上クロウになり、クロウはクゥになって。今までの二倍名前を呼べるという理由で、兄はご満悦。
本当に、馬鹿だ。兄はクロウという名が好きすぎる。
でもだからこそ…まあ、子供に最大級の愛を注ぎたいという言葉にも頷けるわけで。
「…男の子産んだら、絶対京介って名前つけてやる」
呟いて、少し嫌そうな顔をする兄から子供を受け取り。クロウはその柔らかい頬にひとつ、キスをした。



END




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