コロポックル京クロこんな感じ
きょうすけは、ヘビと意志疎通が出来るほど獣に慣れ親しんでいる。
ホヤウは振動に敏感だから
言っては、足でトントンと地面を叩く。叩くとボロボロと、沢山のヘビが木から草むらから。
コロポックル達にとって、ヘビはみな大蛇のようなもの。きょうすけはよく、ヘビを呼んでは同じコタンの少女達を震え上がらせていた。
性格はともかく、容貌は近郊のコタンを含めても上位を取れる。福寿草のような薄青い髪に、オオバキスミレのような綺麗な黄。きゅっと目を細めて笑う姿は、それだけで落ち着きのなさや考えの浅い部分を補えるほど優れていた。近付こうとする少女は多い。
それを煩わしいと感じていたきょうすけは、だから必然的にヘビを呼ぶ技術に優れるようになる。
そんな、ちょっと意地悪で、ほんの少し浅はかな美しいコロポックルが恋をした。
祭は近郊のコタンがいくつか集まり、主に春と秋。人間達と同じ時期、色々ご相伴に与りながら行われていた。
中でも秋の祭は盛大で、山から神を連れてくる。シマフクロウ、そのまま神と名のつけられた鳥。
人間は神を罠で捕まえる。しかしコロポックル達は、呼び寄せる術があるから大丈夫。
カムイ降ろしは本当に簡単。
ほうほほほ
高くもなく低くもなく。独特な音域で鳴くシマフクロウ。その声色を完璧に真似、あっさりと呼んで見せた男の子。
羽を広げれば2メートルにも及ぶ。猛禽類特有の太い鈎爪、そんな巨体がすぐ傍にあるというのに、楽しそう。
ほっほ
短く呼び掛けるたび、首をくるくる回すフクロウは、どうやら男の子とは昵懇の仲。
むうと眉を潜めたきょうすけは、釈然としない気持ちを抱え、その光景を眺めていた。
綺麗で優しい声。体中を巡って芯から疲れを癒してくれそうな、夕焼け色の髪の少年は、そんな声を持っていて。本当に、出来るならばずっといつまでも聞いていたい、そう願いたい。
なのに願うはずのカムイにあの子を奪われるとはどういうことだ?!
むうむうと、その年初めて祭に出たとはしゃぐ少年と、くるくる顔を回す美しいフクロウを見比べていたきょうすけは。だから次は自分の番。真っ白い新雪のような毛を持つキツネ、一番偉いキツネの神様を呼び出せと、脇をこずく同じコタンの少年の合図にも、なかなか気付けずにいた。
それくらい、何時までも何時までも。きょうすけは少年を見つめ続けていた。夕焼け色の髪の、優しい声を持つ少年を。
対抗意識ではないけれど。祭が終わった後、何度もこっそり通った狩場で漸く少年を見つけたとき。話しかけるきっかけに、きょうすけはヘビを選んだ。
空も地も何でも知っているカムイにも、知らないことがあるとすれば、それは水の中。
沼地に住むホヤウカムイ、ヘビの神様。羽のはえたその神様なら、あの子の知らない話をしてくれる。気難しいヘビに何度も頼んでいるから大丈夫。
でもきょうすけは、その計画に固着しすぎ、肝心の少年がヘビを恐れないかどうかには、思いいたれなかった。
鳥達と共に生きる少年が、卵を狙うヘビを本能的に嫌っている、なんてこと。
ホヤウカムイは普通のヘビよりずっとずっと大きくて、コロポックルなどそれに比べれば豆粒くらい。
羽音に顔を上げてみれば、すぐ傍にそんなものがいて、明らかに少年を目指し地に降り立つ。尖った鼻を伸ばして、細い舌をちろちろ覗かされては堪らない。
ああ、普通に声をかければ良かった
きょうすけがそれに思い至ったときにはもう遅い。蒼白の顔で棒立ちになり、ホヤウカムイを見上げたままぴくりとも動かなかった少年が。ひょっこり顔を出したきょうすけを見た途端、ぼろぼろと大粒の涙を流し出したのだから。
驚いて。漸くここで、ヘビが苦手なのかもと思い至って。慌ててホヤウカムイを帰しても、もう遅い。
ヒックヒックとしゃくりあげる少年は、祭のときの溢れんばかりの元気さなどみるかげもなく。フルフルと震え、いつまでも涙をポロポロと、頬は血の気が戻って逆に真っ赤。
ごめん、俺…
泣かれるなんて思わなかった。慰めないと…真っ先に思ったけれど。謝って、慰めないと。
なのにきょうすけは、先程からぞわりぞわりと感じる何かに戸惑ってもいた。ぞわぞわする、少年がしゃくりあげるたび、今まで感じたことのない痺れが背筋に走った。
そしてそれは、少年がもぞもぞと足をすり合わせた事で決定的な刺激となる。
山歩き用の、足首できゅっと絞まった狩衣の、股間がじんわり濡れていた。驚きすぎて、恐すぎて、漏らしてしまったよう。それが恥ずかしくて、顔を真っ赤にして泣きじゃくる少年。
ぞわぞわする。何かはわからないけれど、何かをしたい。この少年に。
あ…大丈夫、だから。洗おう?
それが何かわからないうち、そうっとそうっと。近付いて目を擦り過ぎる手を押さえると、少年は余計縮こまり、いやいやと首を振る。
俺、するから。動くの気持ち悪いなら、おぶってく
夕焼け色の髪にそっと触れ、慎重に撫でると、そろりと伺うように見上げてきた大きな目。髪と同じく夕焼け色の睫毛には、細かな涙がすずなりについていて。少し赤く染まった目尻とか、下がった眉がとても不安げ。
大丈夫
羽織を脱いで。魔よけのそれは、本当は山中で脱いではいけないけれど、気にせず脱いで。驚く少年の下半身を覆う。その羽織ごと抱き上げて。
ちっ ちるちち
歯を擦るように鋭く喉を鳴らす。すぐにぴょこりと顔を出したエゾリスが、するすると木から降りてきて、その長い耳をぴょこんと振り、走り出した。
水場を教えて
頼んだきょうすけの願いを叶えるべく。
エゾリス用の水場は、小川の小さな溜まり。如何にも蛙が卵を産みそうな、流れの穏やかな場所。
川の水が流れ込む入口に小枝を立て、汚れた衣服を引っ掛ける。羽織と胴衣を着たままのクロウは、恥ずかしげに目を伏せながらも、裾を持ち上げ膝まで川に入っていた。
まあるいひざ小僧がほんのり赤い。狩衣を着ているときはわからなかった、足首の細さ。水の中ではそれが一層際立って見えた。
そしてまだ、毛も生えそろえていない、つるりとした性器。
こくんと喉が鳴る。
何かをしたいという思いが膨れ上がって、でも何をしたいのかがわからずに。きょうすけは、だから少年の足をじゃぶじゃぶ洗う。
秋の川は冷たい。洗われる足も、洗う手もすぐに真っ赤。
ウパシチロンノップカムイ…
早く終わらせて、水から出してやろう。思っていたきょうすけは、急に話し掛けられてぴくりと強張る。
雪狐の神様、祭で呼び出した
そんなきょうすけには気付かぬようで、もじもじと押さえる裾を弄る少年は、なんだか可愛い。
凄く、可愛い。
あの、な。俺初めて見て、凄い綺麗で。カムイも綺麗だけど、ウパシチロンノップカムイも真っ白な毛がふさふさで、しゅっと通った鼻先とか、銀色っぽく見えて綺麗で。それで、な?俺、お前の事も…
綺麗だと、思った
一気にそうまくしたて、言い終わってから顔を真っ赤にし、俯いたところで屈んでいるきょうすけには意味がないのに。
だか、ら。俺、こんなの、見られて、俺、恥ずかしく、て…
きゅんとまた、鼻が鳴る。少しだけ忘れかけていた羞恥が戻ってきたのだろう。
ポロリと零れた涙を、きょうすけは慌てて拭って頭を撫でた。
俺のせいだから!俺、祭のときカムイと仲良くしてるの、羨ましくて。カムイが、羨ましくて。お前と仲良くなりたくて、でも脅かしちまったの、俺だから。だから本当はお前、俺のこと責めていいんだ!
責める。濡れた大きな目をぱちりと瞬き、きょとんとした顔の少年は、何で?言うように首を傾げた。コロポックル達は元来温和で、相当な事がない限り責める事はしない。少年の中ではまだ、きょうすけのやらかした事は責める対象にはならなかったのだろう。
ヘビで脅かされて目の前でお漏らしさせられたなんて、きょうすけにとっては相当な事なのに。
そんな少年の、純朴な様子がまた居た堪れない。気を紛らせるため、先ほどより少々手荒に少年の足を洗い出したきょうすけは、だから最初何が起こったかわからなかった。
きゃう!
な!なに、なに
突然ぎゅっと目を閉じて叫んだ少年に、ぱっと足から手を離し問うてもふるふる首を振られるだけ。きょうすけが覚えているのは、叫ばれる寸前何かにぱしと手が当たった事。
手が当たるほど凹凸のある部分といったら、足回りでは一箇所で。
あ…ごめん、痛かった?
ひゃん!
つるんとした性器。慌てて撫でればまた叫ばれる。心なしか形も変ってきたようで、きょうすけの掌に簡単に乗るくらいの大きさだったのに、今はもう少し大きい。
腫れちゃった…痛い?
わけがわからない。ほんのちょっと触れただけなのに、自分で自分のものを触っても、こんな事にはならないのに。
内心慌てふためき、でもそれを出さないよう堪えながら問えば。少年はまた、ふるふる首を振る。
俺、ぞわっとした。それでなんか、力抜けた
少年もまた、わけがわかっていないよう。けれどきょうすけには、その言葉で納得するものがあった。少年をみつけてからずっとずっと、ぞわぞわしていたから。
俺も、ずっとぞわっとしてた。これのせいなのかな
慌てて帯を解き、狩衣を脱いでみれば。少年よりもっと大きくなっている性器。立ち上がりかけているそれに、自分でも驚いて見比べていたら、同じ事をしていたらしい少年がきゅっと眉を寄せていて。
おおきさ全然違う…
少し拗ねたように呟くものだから。ぞわぞわがビリビリになって、きょうすけの背を駆け上がった。それが何かはまだわからない、でも腫れてしまってもさほど痛くはなかったから、多分怖い事ではないと検討をつける。
俺の方が大きいし…もっと触れば、大きくなるかも
きゃっ
徐に、今度はちゃんと触る意思を持って。手で包み込みさすさすすれば、また声が上がった。祭のときから、ずっと聞きたいと思っていた、けれど今は凄く可愛らしく聞こえる声。
もっと聞きたくて、もっともっとと気付かぬうち、激しく扱き出した手に。耐えられなくなったのか、少年がきょうすけの胴衣に縋りついた。
それが何だか嬉しい、凄く。
ぞくぞく、する!あっあっ、なん、すご…くっ
な、俺も触って?
声を聞いているだけで、またおおきくなってしまった性器。でも少年の顔を見ていたら、溶けたような表情で。片方の手を引き握らせたら、それだけで声にならない何かが身体を突き抜けた。
なんだろう、これはなんだろう。でもけして嫌ではない、嫌どころかもっとして欲しい。
すごいっ、すご…
ぁ、俺も、おれ…きゃうぅ!
少年の性器から、ぴゅっと飛んだ白い液。本能的にそれは、お漏らしではない事がわかる。お漏らしではなく、もっと別のもの。
とろんとした顔が、排泄とは違うのだと教えてくれた。
あ…俺もそれ、出したい。擦って
少年の手に性器を擦りつけたら、のろのろと動き始める小さな手。もどかしいような、むずむずする感触が堪らなく…そうか、これ多分気持ちいい、だ。
物凄い発見をしたと、少年に教えてあげようと。顔を見れば、うっすら涙の膜を作った大きな目が、切なげに見上げていた。
もっと、してくれねぇの?
それからはもう、互いにわけがわからなくなって。兎に角擦り合って。胴衣も洗わなければないらいほど、白い液でどろどろになって。
翌日きょうすけの家に四十雀が、
クロウは風邪
そう伝えに来るまで。名前を聞いていなかった事にすら気付かない始末。
俺も風邪
コホコホ咳をしながら、拙いながら鳥の声を模し。けれどもうひとつの伝達には、力強く頷いていた。
治ったらまたしようって
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