「鬼柳!!」
クロウの叫びと、二体のドラゴンが住居代わりのお化け屋敷をぶち壊したのは同時だった。天井半分と壁一枚。これじゃあ居間(のような場所)が丸見え…って、確かに既に半壊していたが、これはない。
鬼柳は呆然と灰色の空を見上げながら、そんな事を思う。
堅実逃避しなければ、この二体のドラゴンを直視してしまうではないか。効果付きドラゴンの最上位、スターダスト・ドラゴンとレット・デーモンズ・ドラゴンを。
「鬼柳!!」
クロウの声がする。バラバラと今だ崩れる壁の向こうから、弾丸のように走ってくる橙の髪がちらと見えた。しかしそれより早く駆けつけた…というか、飛んできたのはアーマード・ウィングだ。すっげ、攻撃食らわね、建物は壊れるけど。
地味に関心している間に、今度はゲイルだ。何これ助けに来たの?!思ったらどんぐりを投げられた。よし、いつものリズムだ。
ここで漸く平常心を取り戻した鬼柳は、奇跡的に無事だった壊れかけのソファから立ち上がり、今だぽかんとした顔のベビードラゴンを抱き上げた。
まだちっちゃいもんなぁ、怖いよなぁ。大丈夫だ、俺も結構怖いから。お願いだから逃げないどいて。
「何よこれ」
永続トラップどんぐり無間地獄を使用中のゲイルもついでに抱きかかえ、やっと到達したクロウに聞く。っても、ゼ〜ゼ〜言ってて話せないだろうけど。
「っっじみ!おま…っ試す!京介が…っ」
地味?試す?京介が?
おいおい、京介はこんなドラゴン持ってねぇよ?てか地味って俺?
更に混乱した俺の耳に、爆音が飛び込んでくる。なんかさっきからうるさいなぁと思ってたけど、あのバイクか?
バイクが二台、うちのソニック・ダックと張り合ってすっ飛んでくる。てか確実に張り合ってんのはソニックだ。素晴らしいぜその競歩。徒歩で音速だもんな、走ったら光速か?
うっかりドラゴン二体を忘れてほのぼのとしていたら、バイクの後ろからワンハンドレッド・アイ・ドラゴンが飛んできた。
きもっ、我が弟のモンスターながらいつ見てもきもっ!きも可愛い!!
「待てよおおぉぉ!!まだ終わってねぇだろうが!!」
あ、我が弟の罵声も聞こえてきた。あっちもバイクだ。距離的に、お前どんだけ声でけぇの京介。
というわけで、ベビードラゴンとゲイルを抱っこしてる間に、なんかキャストは揃ったようだ。
クロウが俺の前に立ちはだかる。ここカメラテスト的には俺が立ちはだかる場面じゃね?と思うんだけど、多分一番意味がわかってないのも俺なので大人しくしておく事にした。
メットを外した男ふたりは、なんか…蟹とひよこ?
「…不動遊星」
「ジャック・アトラスだ」
「はあ、どうも」
「そこにいるクロウの幼馴染にあたる」
…地味……幼馴染か!
「お前の方が、クロウの自称恋人だな」
…自称?
「ちょ…」
「れっきとした恋人だっつってんだろうが!」
「ふん、手間取らせおって!!同じ顔のトラップを張っていたようだが、俺たちには通用しないわ!!」
え、別に張ってない。ってか京介トラップと違う。
「ひゃはははは!途中までがっつり引っかかってたよなぁ、大口叩くんじゃねえぇぇよ!!」
いやだから、お前トラップじゃねぇだろ!
「話が逸れている。そこの…なんとか」
……俺?
「き〜りゅ〜う〜〜〜!!京介じゃなくて鬼柳だ!」
あのクロウ?なんでさっきから俺に一言も喋らせてくれないの?俺何かした?!
「鬼柳。クロウの恋人と言うならば、俺達と戦え」
「うちの幼馴染が世話になったようだからなぁ、せいぜい瞬殺されないくらいの気合は見せてもらおうか!!」
「誰がさせるか!!フィールド魔法発動、ダークゾーン!!」
「いいねぇクゥ!!出してやるよ俺の神様って奴をさぁ…跪いて拝みやがれ!!地縛神コカパクアプ!!」
ちょちょちょ
止める間もなかった。巨人によって、俺の住居 全 壊 。
ここで一応説明しよう。現実逃避に付き合ってくれ、じゃないと泣きそうだ。
この世界の魔法は、念気の強さに比例する。魔力って言えばわかりやすいか。とりあえず多い少ないは個人差ではあるが産まれたときから持ってるもので、強い使い手ほど念気が多いのが基本となる。でもドーピングは可能だ。
トラップって呼ばれてるカードがある。それは念気を練ってこつこつ手作りするんだ、地道に。そのトラップには念気を増やすものもあるから、念気ちょっと使って製作、ドーピング、を繰り返せば結構溜まるんだな。
まあ上級モンスターと契約する時点で相当の念気を消費するから、ここに揃ってる奴らはひとりたりともそんな内職はしていないだろうけど。
兎に角、今クロウが張った魔法はクロウが習得し念気を使用して発動してるから、クロウの念気が尽きない限り、なんやかやで破壊されない限りあり続ける。モンスターも呼ぶ分には別に制限はない。契約カードさえ持ってればな。
手札とかコストとかそんなものはない。魔法は習得してれば念気が続く限り出し放題、モンスターも契約を交わすときにしか念気はいらないから条件を満たせば出し放題。あれだ、アプみたいにフィールドじゃないとやる気起きなかったり、アーマードみたいにゲイルに呼ばれないと出てこなかったり。そしてトラップも、作ってあれば出し放題。京介は面倒くさがってあんまり持ってないだろうけど、奴は俺から借りパクするから問題ないだろう。
んで、勝敗だけど。モンスターは倒されると契約者のとこに戻って回復する。その間契約したときと同じ念気を奪われるから、デュエル中にモンスターが倒されれば倒されるほど、ガンガン念気を奪われるんだな。念気がゼロになったら魔法も使えないし、戻っても食いもんない奴にモンスターは従わないだろ?だからゲームオーバーってわけだ。
だから、念気の多い奴は上位モンスターと契約できるけど、デュエル中により早く念気を消費させられる可能性も多いってわけで、その辺は考え所ってやつ。
よし、以上。俺、解説乙。
………現実逃避してる間に、なんでかバスター・ブレイダーが出てるよ。お前俺の持ってる数少ない効果モンスター…ああ、ドラゴン揃ってるからホイホイされたか。京介と仲良いもんな、うちのやつらの中では珍しく…鎧だしな。
「よし、バスターいけえぇぇ!!」
“御意!!”
って使ってんのクロウかよ!お前鳥獣使いだろ!あれか、お前の物は俺の物戦法か?!
おお、ダークゾーン張ってんのにレッドデーモン一撃かぁ…異常に強くね?レッド、スターダスト、ハンアイ………あ、いたねお前、ベビードラゴン。今なら究極龍も倒せんね。レッド倒したからもう無理だけど。
……つうか。
「んだよおおぉ!マジで口ほどにもなくねえぇ?あんな調子こいてっと犯すぜ?そこの金髪野郎よおおぉぉ!!」
「くっ…」
「いい加減お前らのスルースキルにはうんざりだぜ!言ってんだろちゃんと告白しあって付き合ってるってよぉ!!それ以上グヂグヂ言うなら一度潰されとけ!!」
「クロウ、俺はお前を思って…」
……明らかに、うちの弟と恋人の方が悪役です。しかも容赦ね〜〜〜…。
そりゃそうだ、遊園地にいる時点で俺のフィールドみたいなもんだからな。うちの奴らは基本的に小さい奴には寛大なんだよ…だからモンスターは大抵クロウが使える。んで京介は俺のトラップ借りパクするから、実質3人分の切り札をガンガン使ってる状態だ。
正直、卑怯。
あ〜、もうあいつら念気ほとんどねぇよ、どうすんだよ俺結局何の話し合いもしてねぇしそもそも喋ってねぇよ……。
……………あ〜もう!!
「ベビー?これ持ってあのデュエルの中にポイしてきてくんね?」
よし、いってらっしゃい。じゃあゲイル…うん、どんぐりは後で当たってやるから、ちょっと俺と30歩ほど下がろうか。
…よし、行けベビードラゴン!
「トラップ発動〜、自爆スイッチ〜〜〜」
多分聞こえてないだろうけど。
4人とも、仲良く念気0になってくれ。じゃないと話もできやしねぇ。
「ジャックと遊星だっけか。とりあえず俺が言える事はひとつだけだ。直せ、俺の家。お前らがこなければ半壊しなかったし、アプに止めを刺されることもなかったからな。京介、お前は暫く自宅謹慎だ、遊びに来ても構ってやんね〜。ついでにルドガーにちくっとくから。クロウは…可愛いから許す!って言いたいとこだけどよ、いくら幼馴染がスルースキル持ちったって、いきなり挑発に乗るのはどうかと思うぜ?だから罰として、いい加減ゲイルのどんぐりどうにかしろ。んで自己紹介が遅れました鬼柳です、うちの弟が暴走しちまったみたいで申し訳ない。んでもってクロウと正式に付き合ってます、自称とかじゃなく。そこんとこは間違わないでくれないか、俺はクロウに本気で惚れてるし、お前らが反対したってそれでクロウが悩んだって、絶対放したくないし放さない。だから無駄な労力使わないで、祝福とまでは言わなくても認めてくれねぇかな。まさかこんな幼馴染がいるとは知らなくて、先に挨拶しにいけなかったのは俺の責任だから、それは謝るし、ごめん」
いまだかつてないほど喋った俺。
伊達に原種何十匹も飼ってねぇよ?念気だけで言ったら、きっと一番あるよ?モンスターの効果使えない分、魔法がものをいうからな、俺の場合。つわけで、取りまとめるのはちょっと得意なんだ、腰が重いだけで。
というわけで、スパイラルドラゴンが過去最高の4人を口に入れてもがもがしながら解決とあいなった。
…多分説教してもこれ以上は増えないと思…いたい。ごめんなスパイラル。
END
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