床に転がり放題のどんぐりを見て、クロウはがしと頭を掻いた。
彼の住居は鳥獣族が住まう森の中、緑に囲まれてひとつ、鮮やかな橙はいい目印になると一部で評判だ。
部屋に一歩踏み入れれば、つま先だけで踏み入れても、一つか二つは足に触れるか踏みつけることになるだろう。そうしたところでクロウに被害はないが、この部屋の持ち主にとっては多大な被害となる。掃除が大変、という意味で。
「なんて言うか、その、悪かった」
なのでクロウは、横で毛布一枚を抱えて呆然としている部屋の主に謝罪を告げてみた。
「……いや、いい…責任は俺にもある、いや、俺にある」
ふうう、と長く息を吐く。
古い遊園地には異質な新品の館そのものの主である鬼柳は片手で額を押さえて俯いた。
あまりにも凶悪な効果を持っていたため、いつの間にか覚えたどんぐり連射。どこからともなく無限に増えるどんぐりを投げつけるだけの、非常に無害な鳥獣族モンスター、BF-疾風のゲイルはクロウのモンスターだ。
カラスの濡れ羽色の羽と鳥らしい鉤爪の足を器用に使って、ぴいぴいと可愛らしく鳴きながらどんぐりを放る姿は思い出せばほほえましいが、この部屋をこんなにも荒らすほどの癇癪を起こすとは思いもしなかった。
状況は推測しかしようがないが、おそらくこうだ。
鬼柳の元に泊まってくると言い残したクロウを追ってゲイルはこの部屋にたどり着いた。しかしそこはもぬけの殻。当然だ、昨夜クロウと鬼柳がいたのは、遊園地エリアの隅だったのだから。
鬼柳のモンスター達でもめったに訪れない、まともな形を無くした遊具の陰(近くに巨大なカップが転がっていたので、コーヒーカップだったのかもしれない)。毛布を一枚だけ引っ張り出して、たまには趣向を変えようとはしゃいだ末、そのまま眠りこけてしまったのだから。
そう言えば何か言われた気がする、とは鬼柳談。
荒れに荒れたゲイルを宥めすかすのに、きっと鬼柳のモンスターたちは大忙しだったのだろう、助けを求めて主を呼んだのかもしれない。
「悪いことしたな」
「ホントにな……」
互いをむさぼるのに夢中だったから、なんていいわけにもならない。久しぶりの再会というわけでもなく、実に下らない気まぐれで思いのほか燃え上がってましたなど、聞かせたところで鳥獣達は首を傾げるだけだろうし、原種達+αはがっくりと肩を落とすか、一部はわけも分からず頷いてくれるだけだろう。
「つい朝までノっちまったもんなぁ……」
「止めらんなかった、悪ぃ」
「そりゃむしろ、どーも?」
ひとまず足元まで転がっていたどんぐりを拾い上げて、クロウはひとつ、ため息を零した。悪かったとは思っている、思ってはいるが、鬼柳もクロウも昨夜の冒険に十分すぎるほど満足してしまったので、後悔だけはしようがない。
「まあもともと、朝には戻るって約束してたわけでもねえし……分かってるからあいつもどんぐり投げるしかできなかったんだろ」
コドモみたいなもんだからなあ。
涙目でクロウに突進してくるゲイルの姿を思いだして、クロウは思わず笑みを浮かべた。BF達は生まれて間もない存在ではあるから、未だ年若いクロウにとっても事実、子どもみたいなものだ。
ゲイルは泣きながら、もしくは泣き疲れて強制帰宅させられている最中なのだろうが、不覚にもそれすら愛らしくて、クロウは緩む頬を両手で押さえた。そこに不躾に注がれる視線に気づいて、そっと視線を返す。やわらかな黄色の瞳。
「な、何だよ鬼柳」
「いや……お前ホント可愛いなと」
「言っとくけど、それ褒め言葉じゃねえぞ」
ふいと横を向いたクロウを見つめたまま、鬼柳はくす、と笑った。クロウは視線の行き先を決めかねて、結局ゆっくりと鬼柳の方へ戻す。見上げていると、頬に片手が添えられた。足元に毛布が落ちて、もう片手が瞼を覆う。クロウは促されるまま、目を閉じた。
「ほんっとお前らカーワイイなー」
甘い声で名を呼ばれるかと思った途端、下方から棘のある声がして、クロウは思わず飛びのいてしまった。見下ろせば、臍が出る丈のTシャツを着た青年がしゃがみ込んでいる。黒い眼球に鬼柳と同じ色の瞳と髪。
「ッ京介!」
「たく…空気読めよお前は」
「読んだから出てきたんだろ、なあ?」
鬼柳と京介の双子は、同じ声に同じ身長なのだが、互いに個性的だ。弟の京介は怖いもの知らずでヒャッハー、兄の鬼柳は強いくせに心配性で怒らせると大変。兄の鬼柳はクロウの恋人で、弟の京介は、二人の間にこうして入り込める貴重な存在。
飛びのいたクロウの手首はちゃっかり鬼柳が捕まえていた。細いわりに力の強い指。ゆらりと立ち上がった京介は、兄の手首の上に自分の手を重ね、にんまりと笑う。
「だって、スんだろ?」
何をとは愚問だ。京介の手は片方は兄の手首を撫で、ぺたぺたとクロウの尻を叩いている。クロウはさりげなく、鬼柳に触れている方の手を払ってから、鬼柳の胸に飛び込むように前に出た。京介は相変わらずニヤニヤと笑いながら、懲りずに両手を二人の肩に回す。
「オレ昨日一人ぼっちだったんだぜぇ? その分慰めてくれよ、クゥ」
「放置プレイってやつだよ、嬉しいだろ」
「ぜんっぜん嬉しくねえよォお」
クロウの頬に自分の頬を擦りつけて、京介のターゲットはどうやら絞られたらしい。二人の間を腕で裂いて、クロウの体をひょいと抱え上げた。あまりに自然にどんぐりまみれの部屋に一歩を踏み入れたので、ワンテンポ遅れてクロウと鬼柳が声を上げた。
「「っちょ!!」」
「あんだよ」
どんぐりを踏みつけ、京介はいたってマイペース。鬼柳は慌てて彼の進路を遮り、拳を握って付きつけた。
「あのな、クロウは! 俺の! 恋人だから!」
「オレ、どんぐりまみれの部屋ですんの嫌だからな!」
拳を前へ、自身の胸へ、と移動させながらの力説、しかし京介の腕の中でクロウは真顔で言いきった。そっちかよ、と鬼柳は頭を抱えかける。実際に抱えずに済んだのは、予想の範囲内だったからだ、悲しいことに。
「問題ねえ、ベッドは綺麗だ」
京介は妨害を全てかわしてクロウと共にベッドの上に倒れ込んだ。気が早すぎたのか、クロウの両足はベッドから出てしまっていて、つま先が床のどんぐりを蹴る。
ベッドの上にもどんぐりはあったが、二つだけ。それを手で払ってしまってから、「な?」と微笑みかける、クロウの髪を押し上げるバンドを引き外しながら、それこそ鬼柳そっくりに。
クロウはこのタイプの笑顔に弱い。困ったように眉尻を下げて、居心地悪そうに身動ぎはしたが、ちらと見上げてから頷いた。唇が触れる寸前で、鬼柳は自らの双子の弟の方をベッドの上から引きずり下ろす。
「だから、クロウは俺の恋人だっつってんだろッ!」
「きりゅ、……っむ!」
双子が入れ替わって、すぐさま塞がれるクロウの唇。怒鳴ったばかりの鬼柳の呼吸は荒く、始まったばかりのキスを、一方的に鬼柳が貪る。余裕を残したクロウは自ら舌を差し入れ、両腕を回した。床に尻餅をついた京介が、くつりくつり、わらう。
「何だよ、兄貴だって乗り気じゃねーかァ」
「……っるせ、…ん」
まだ駄目だ、言わんばかりにクロウの両手が鬼柳の頬を包んで引き戻す。また戯れに舌を差し出すクロウに、すっかりいつもの調子に戻った鬼柳は迷わず舌を絡め返した。くしゃくしゃと鬼柳の髪を掻き回す手の動きが止まるのは、陥落の合図。
小さく呻いて、クロウは硬く目を閉じた。ベッドの外に投げ出されたままの足を擦り合わせ、塞がれた唇をもごもごと動かして催促する。
可愛い。
いつもならそう言って、唇を離して、求められるままに鬼柳は次の行動に移る。しかし今日は、ご機嫌斜めの京介がいる。
「なァなァなァ、兄貴、クロウゥ、俺も構えよォ」
口で言えてしまうから大したものだ。随分と長いキスを終えて、しかし不完全燃焼の欲を内側に閉じ込めたまま、クロウと鬼柳は視線を京介へ送った。
「京介、そこ、座れ」
言ったのは鬼柳。顎で指したのは床。
京介は唇をむうと尖らせ、自分の足元を見下ろした。
「……どんぐりだらけなんだけどよ〜…」
「座れ。その気満々のチンコ出して足開け」
淡々と鬼柳は指示を出す。決定事項だ。逃がすつもりはない。言いながら、クロウのズボンを引き下ろした。反論する間もなく脱がされて、クロウは遅れて鬼柳の腕を軽く殴る。鬼柳は笑って、京介の側へ視線を送ってクロウの視線も促した。
しばし悩んでいたようだが、やがて言われた通りにのろのろとパンツを脱ぎ捨て、京介が座ったのは投げ出されたクロウの足が届く位置。クロウは合点がいったのか、足だけで器用にブーツを脱ぎ捨てる。もともと引っかける程度にしか履いてこなかったものだから、クロウの想像以上に簡単に床に転がり落ちた。
顕わになった素足は京介の目の前で揺れる。切られたばかりの足の爪は綺麗に丸く、しっかりと骨張っているにも関わらず子供じみた印象を与える足先。
こくと京介が唾を飲み、晒された性器がひくと震える。鬼柳とクロウは目を合わせ、にっと唇の端を上げた。
「可愛がってやんな、クロウ」
「おー、勝手な駄犬にゃ座れと伏せ、からな」
クロウの足が、京介のこめかみをつついて離れる。どんぐりの上にじっと座ってはいられないのだろう、体をよじりながら京介が唇をとがらせる。
「ンーだよォ、そりゃ」
唇をかすめたクロウの足先に噛みつこうとして口を開いた京介だったが、すいと避けられタイミングを逃す。ちいと舌打ちひとつ、しかし手を伸ばして捕まえようとはしない。
クロウがさらにベッドの端に寄った。臀部が滑り落ちるくらいまで寄ると、脹脛が京介の肩に乗るくらいまではみ出した。こんなもんか。呟いた声に返事はなく、落ちないようにと、片腕を鬼柳がしかと押さえる。
「躾けて、やるってんだよ」
「ひひゃっ!?」
言って、クロウは右足で京介のそそり立った性器を踏みつけた。背を逸らせて、無茶な姿勢ながらも出来る限り体重をかけて。
衝撃に動けなくなっている京介を見つめていたクロウの耳元で、鬼柳が彼の名を呼ぶ。
「ん、鬼柳は俺のこと思いっきり甘やかせよな」
「昨日の今日だもんな……約束は出来ねえが」
ズボンの前を寛げて、鬼柳はベッドの端ギリギリの位置で胡坐をかいて、露出した性器の上にクロウを座らせる。昨夜の行為の名残は未だ残っており、クロウは簡単に鬼柳のものを飲み込んだ。ゆっくりと進んでくる熱さに、たまらず熱のこもった息を零す。京介との距離が遠くなり、つま先が、熱を掠めてピンと振り上がった。
京介が濡れた唇をぱくぱくと動かし、頭上で揺らめく足を見上げて呻いた。
「……う、おぃ、い……集中しろよォ、こんなんじゃオレ、う、ヒィ!?」
胸を滑り下りた足が、立ち上がった性器の先端をも掠め更に下、袋の部分にまで降りた。そのままぐりと押しつければ、どんぐりの凹凸がしかと京介の急所を抉る。
「っはは、今いい声聞こえたな?」
「ックゥ、潰れ…アぅ、イッ……!」
クロウの足を跳ねのけられるであろう両手は、床のどんぐりを握りしめたまま持ちあがろうとはしない。クロウの体が鬼柳の上で揺さぶられるたび、京介にもクロウ達以上の衝撃が伝染する。
前と後ろから聞こえる種類の違う高い声を聞きながら、鬼柳はクロウを更に強く揺さぶってやる。
「っは、ぁ、気ぃつけ、ろよ、ただでさえガバッガバなんだから」
「え……」
鬼柳にしがみついて、クロウが発した言葉の行先は京介。京介は気付きはしたが、意味を理解できずにぽかんと口を開けた。クロウは片足を京介の肩に押しつける。ぐいと押されて、京介の体は傾いた。右の肩、左の肩。ずっと性器を踏みつけていた足もふわと浮いて、胸元を蹴る。衝撃でもなく、快楽でもない感覚を繰り返し与えられ、しかし京介は抗議することができなかった。
「ぅ、ゥウ!?」
かわりに甲高い呻き声。急激な苦痛から解放されて油断しきった体は、余計なものまで受け入れる体制を作ってしまった。ずっと床に転がっていた、ゲイルの置き土産。それを一粒飲み込んだ後穴が、異物感に歓喜した。すぐさま取り出して放り投げてしまおうと手は動いたが、中の刺激は待ちわびていたものの一つだ。
くう、と京介は唸る。まごうことない屈辱。萎えることを知らない性器を見下ろして、また唸る。自ら慰める真似だけはしたくなかった。
顔だけを背後に向けた鬼柳が、唖然とする京介を見下ろして微笑する。クロウは鬼柳の影から、ひょいと顔をのぞかせた。快楽に潤んだ瞳を煌めかせ、きゅうと唇の端を上げる、幼い顔立ちによく似合う笑み。
「どんぐりでも感じんのかよ、相当だな」
「いや、そんな貧相なモンじゃ、満足なんて出来ねえよな?」
鬼柳の一言、揶揄するように揺れるクロウの足。
「ったりめえだろォ…がっ」
「うぁっ、いきなり掴むな、イッ…!?」
京介はクロウの足首を掴み、何を思ったか自分側に引き込んだ。
ベッドの端ギリギリの位置でクロウを味わっていた鬼柳が慌ててベッドに手をついてその場にとどまったため、主導権は一時的とはいえ京介に移る。ケラと笑った京介が、掴んだ右の足を高く上げ、左足を引く。クロウはされるがまま、中に感じていた鬼柳の感触が変化するのを感じて身を震わせる。
更に鬼柳も自身を押しつけるようにクロウの腰を掴んだから、たまらなくなって悲鳴と変わらぬ声を上げる。
「あぁあ、っゃ、鬼柳、やめっ」
「俺としては悪く、ねえけど? 嫌か、クロウ」
「んんんっ……嫌、嫌じゃ、っけど、あ、おぁ、し、……くな……す、ぁあああ」
どう責め立てられいているのか、予想も、想像すらできなくなった刺激に、集中などできない。後ろに倒れ込みかねないほど喉を逸らせ喘ぐクロウを、鬼柳が片腕で支える。京介はクロウの右足だけを自らの性器に押しつけ、もう片足をあちこちへと動かした。力を込めても思い通りに動かない下肢は、やがてクロウの全身を支配する力にまで変わる。
「うっは、ぁ、ああ……兄貴、クロウゥ、ケツもチンコも、こんなんじゃ、満足できねぇえ、よぉ」
クロウの足の甲で慰める性器は限界を訴えているが、未だ射精を迎えてはいない。喉を震わせることすら嫌になったのか、京介は闇雲に引いていたクロウの足を更に引き寄せ、その脹脛に口付けた。弱く噛んで吸い上げ、舐め上げて、次へ。
今のクロウにはそれすらも強烈な刺激であるらしい。首を横に幾度も振り、鬼柳の肩を強く掴んだ。
「あ、あ、きりゅうう、おれ…っ、いく、いっ……」
「もう? 随分感じてるんだな、クロウ…っ、そんな、嬉しいかっ」
「あう、ひ、ゃぁああっ!」
クロウを抱え込むように抱いて、鬼柳が奥へと捻じ込んだ。愚直なまでに真っ直ぐな刺激に、クロウは高く喘いで果てる。虚ろに天井を見上げるクロウの頬に口付けて、両脇に腕を回す。
「…あ、っ」
引き抜かれる感覚にすら声を上げ、クロウの体はベッドの真ん中に放られた。昨夜使わなかったベッドは今の行為のせいで乱れ始めていたが、まだふわりと陽の匂いがする。
シーツに頬を擦りつけ、クロウは欠伸を噛み殺した。乗り上げてきた鬼柳が頬を撫でると、無理矢理に閉じかけた目を開く。優しげな苦笑が、クロウの視界を支配した。
「兄貴ィ…」
取り残された京介が鳴く。あまりにか細い声に、京介のみならず眠りかけていたクロウも吹きだした。
いつもの元気はどうしたんだろうな。な。
二人で囁き合って、鬼柳が京介に顔を向ける。見慣れた顔が、何とも言えない目でこちらを見ている。不安と期待に動けないのであろう弟に、鬼柳はクロウに向けた者よりも柔らかく笑んだ。
「上がってこいよ、京介」
言ってすぐにベッドに飛び乗ってきた京介を、クロウの隣に転がした。うつ伏せて臀部を持ち上げ、すぐ隣のクロウと目を合わせる。クロウは重い瞼をぱちぱちと瞬かせ、恋人と同じつくりをした彼の顔の、右の頬に走るマーカーあたりに唇を押し当てた。
マーカーに触れる、それはまるで儀式。これは京介であると、クロウはそうして認識しているかのよう。
うっとりと、京介が目線を上げる。待ち焦がれた快感への期待に満ちた京介と、心地よい睡魔に溺れかけているクロウの二人を見下ろす鬼柳へ。
「あに、いィ?!」
ばちんと、いい音がした。落ちかけていたクロウも身を跳ねさせ、大きく目を開いて鬼柳を見上げる。
「美味いか、どんぐり」
く、と笑って鬼柳は腕を振りあげる。また、ばちん、と音がして、京介の色の白い尻に赤く跡が残った。色の白い頬を薄紅に染め、目を閉じてしまった京介は黙って次を待っている。ひくつく穴に構うこともなく、じっと見つめるクロウの視線を遮ることもなく、濡れた唇を震わせながら。
「まぁーて」
クロウの手のひらが京介の頬を撫でる。尾を引く痛みが消えかかることに苛立つも、クロウの手は穏やか。
「待、てねェ!」
とはいえ狂犬をそれで宥めすかせるはずもない。京介はベッドを叩き、更に臀部を持ち上げた。唸り声を上げて、もっと、とねだる。
寂しい思いをさせた分は、甘やかしてやるべきか。
鬼柳は京介の穴に指をねじ込み、中で動けなくなっていたどんぐりをかきだしてやった。
「いいぜェ、使えよ兄貴ィ、まだガチガチなんだからよぉ」
途端に誘いをかけた京介を、クロウは咎めはしなかった。少しばかり不機嫌な顔をして、それだけ。
鬼柳は肩を竦め、手を伸ばす。
仰向けに転がるクロウに向けて。
「っ、兄貴!?」
「まずはクロウを満足させてやらねえと、な」
子供をあやすようにまたクロウの体を抱え上げて、今度は京介側が正面になるように座らせる。戻ってきた体内の質量に、クロウは息を詰めた。すっかりなじんでしまった感覚。内側から広がる熱に、ほう、と詰めた息を吐きだす。
鬼柳の手で開かれた足の間で、萎えた性器がほのかに立ち上がった。今度は京介が、鬼柳の意図を汲んだ。解放を心待ちにする体を引きずって、四つん這いでクロウに近づく。
「っげ、京介まっ、ァ、ああ!」
与えられたのは、内側と外側からの異なる熱。クロウの性器は京介の口内に飲み込まれ、その後ろでは鬼柳が中を穿つ。二人ともまだ動かない、それでも体は覚えた快楽を思いだしてさらに熱くなる。
「な、なあ、これ、ぜってぇ……」
「そんな期待すんなよ、お望み通りにしてやるから」
尋常ではない快楽に崩れてしまう理性をほんの少し恐れて、クロウは視線を彷徨わせた。投げ出した足をそうっと京介の背中に絡め、両腕を後ろ、鬼柳の首に回す。
つうと性器を舐め上げられて、跳ねた手首に鬼柳がキスをした。
「ひぁっ、い!」
がつ、と鬼柳が突き上げると、クロウの性器が京介の喉を突く。京介がそれを吸い上げると、クロウの内部は収縮し、鬼柳を締め付ける。循環する快楽に終わりは見えず、確実に、剥がされていく余裕と理性。首筋に唇を押し当てられて、クロウはその頭を掻き抱くように腕を回す。
鬼柳は着たままのインナーシャツをたくし上げて、とがった胸の先端を手のひら全体でこね回した。身をかがめても、逃げ場はない。
「うぅ、っきりゅ、…ぁはう、きょ、すけ、待っ」
「クロウは待てなんて覚えなくていいぜ」
「あぁあ、違ッ! ひぁ、だ、あっんんん!?」
それは卑怯だと、叫べるものなら叫びたかった。無理矢理上向かされて、横から口付けられる。あちこちから聞こえる濡れた音に、クロウはずるずると沈んでいくことしかできない。
文字通り自身を全て貪られ、飲み込まれる。文句も催促も聞き入れてはもらえない。何を望んでいるのかは、クロウ自身よりこの双子の方が知っている。
そのくらい深く、深く繋がる。
「ん、んううう」
口を塞がれたのは何も言わせないという無言の圧力なのかもしれない、ぼんやりとクロウはそう思った。刹那、一層強く突き上げ吸われ、思考が漏れているのではないか、そんな考えすら頭をよぎる。
「んあ、……は、クロウ超かわいー」
一瞬の解放の後、また飲み込まれてクロウの性器はますます膨らむ。鬼柳は口付けたまま薄く笑って、差し入れた舌でクロウの声をさらった。
「っあ、」
唇が離れ、一気に快感が駆けあがる。鬼柳の全てを取り込もうとする体、京介に全てを委ねようとする熱。中と外に放たれる欲に、クロウは乗せる言葉を探せなかった。
「い、っ、あぁあぁぁんっ!!」
鬼柳は恋人で、代わりのきかない存在。
京介はその弟で、親しすぎる義家族。
明らかな性行為の最後、どちらの名も呼べないのは薄情だろうか。
クロウはくらくらと揺れる頭を、そのまま傾け息を吐いた。
「交代」
「ん」
くすくすくす、二人はずいぶんと勝手にクロウを弄んでくれる。背後に回った京介はクロウを愛おしげに抱きしめて、正面に回った鬼柳が真正面からクロウを見つめた。勝手な割に、その腕、その瞳にはいっぱいの愛しさを秘めて。
鳥獣の森、かわいい可愛い黒い翼の相棒達に、クロウは天井を見上げて一つ謝罪し願った。床いっぱいのどんぐりの後片付け云々は水に流すから、もう少し留守番しててくれ、と。
悲しいことに、自分はこの史上最低最高の双子を愛してやまないようなんだ。
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