「クロウ遊ぼ!」
「クロウにいちゃーん!」
外できゃあきゃあと子どもがはしゃぐ声に混じって、大人気の幼馴染みの楽しそうな声が聞こえる。
今日もみんな元気だ。自然と浮かんだ笑みをそのままに、俺は目の前に置かれたデュエルディスクの修理のためにドライバーを手にした。
「よお、遊星!」
「鬼柳」
好感を持てる涼風のような声。チームのリーダーである鬼柳に笑みを向けると、鬼柳も笑って片手を上げた。
「ジャックは?」
「まだ視察だ」
「喧嘩売られてねえといいけど、な」
「大丈夫だろう」
立ち振るまいや容姿から圧倒的な威圧感をもつジャックに絡んで来るとしたら相当な実力者かその逆だ。どちらに絡まれたとしてもジャックなら負けることはないだろう。
鬼柳も俺の言葉に頷いて、突然俺に背を向けた。
「どうした」
「デュエルしてくる」
「なら、俺と」
「いや……」
鬼柳は時々、酷く餓えた顔をする。鬼柳にとってデュエルはもうひとつの命なのだと以前に聞いたが、正しくその通りだ。その強すぎるほどの情熱は俺たちにとって憧れでもあった、しかし同時に、溝となることもあった。鬼柳のデュエルはたまに、驚くほど凶暴になるのだ。攻めることに比重をおいた戦略を好む鬼柳のデッキでは、当たり前のことかもしれないが。
「鬼柳!」
飛び込んできたのはクロウだ。機嫌がいいらしい、大きな瞳がますます大きく見える。
「来てんなら声かけろよ、何かやんのか?」
「ん、ちょっと外でデュエルしてこようかと思ってな」
「は…?」
じゃあな、と鬼柳はクロウの肩を叩き、早足にアジトを出ようとする。相当疼いているのだろう、ならば引き止めても無駄だ。
俺はそう判断し、ディスクに向き直った。
「……クロ、ウ?」
鬼柳が明らかに戸惑った。何があったのかと、俺も顔を上げる。
「つまんねーって。おれとやろうぜ」
クロウの右手は鬼柳のジャケットを引いていた。つい先刻まで子供達と遊んでいたから、おそらく同じ仕草で引き止められたばかりなのだろう。信念は譲らないクロウだが、仕草や口癖は拾ってしまいやすいのだ。
実際、鬼柳の口癖が一つうつってしまったらしく、何かにつけて「弾ける」ようになってしまった。
「な、デッキ改良したんだ!」
歯を見せて笑いかけると、鬼柳の表情が変わった。いつものリーダーの顔、いや、それよりも穏やかな顔でクロウの頭に手を置く。かき回すように撫でられているクロウは上機嫌のままだ。やめろよ、なんて言ってはいるが怒ってはいない。今日のクロウはとにかく鬼柳と何かをしたいらしい。数日前の作戦決行後、鬼柳の采配に感嘆したクロウが「兄貴ができたみたいだ」と呟いていたのを思い出した。
「わかった、悪いが俺は本気だぜ?」
「あったりめーよ、おれも弾けてやるぜ!」
デュエルは外でやるらしい。浮かれた足取りで出ていった二人を、俺は目線だけで追いかけた。
何だか、混ざるのは野暮な、気がして。