「クロウ遊ぼ!」
「クロウにいちゃーん!」

 はしゃぐ子どもに混じって、チームで一番小さいくせにたまに大人びる鉄砲玉が笑ってる。オレンジの頭はやっぱ、目立つな。
 声を掛けようかとも思ったが、当人は子供に囲まれてこっちに気付いてはいないようだった。無理に呼ぶ気分でもなかったので、そっとアジトの入口をくぐる。

「よお、遊星!」
「鬼柳」

 落ち着いてはいるが芯のある声。デュエルディスクの修理をしていたらしい遊星は顔を上げて、俺に笑みを向けてきた。俺も笑って片手を上げる。けれど、なぜか落ち着かない。

「ジャックは?」

 まだ顔を見ていないチームメンバーは、今日は確か周辺地区の視察をすると言っていた。遊星が頷いて「視察だ」と答えたので、ああやっぱり、とぼんやり思う。

「喧嘩売られてねえといいけど、な」
「大丈夫だろう」

 威圧感のあるジャックに絡んで来るとしたら相当な実力者かその逆の雑魚だ。どうなろうがジャックなら負けることはないだろうから安心だ。
 途端に、退屈が襲ってきた。そして思い付く。デュエルしよう。決めた。デュエルしよう。

「どうした」
「デュエルしてくる」
「なら、俺と」
「いや……」

 遊星は強いし、いいデュエルができるとは思う。だけど、今俺が闘いたいのは遊星じゃないから、首を振る。

「鬼柳!」

 去ろうとしていた入口から飛び込んできたのはクロウだった。俺が来たのに気付いていたんだろうか、驚くほどキラキラした目で見上げられてこっちが驚いた。なんか、子供か子犬みてえ。

「来てんなら声かけろよ、何かやんのか?」
「ん、ちょっと外でデュエルしてこようかと思ってな」

 尻尾があったら振り放題だろうな。そう思いながらじゃあな、とクロウの肩を叩いた。残念ながら、俺は子犬も子供も好きじゃない。
 出口に向かって踏み出す、と。
 違和感に、振り返る。


「……クロ、ウ?」


 ジャケットの裾は、クロウの指に引っ掛かっていた。と言うよりは、クロウの指が俺のジャケットを引っ張っている。
 ちょっと俯いて見上げてくる。満足できねぇって顔してる。でかい目。子供みてえ、だけど。

「つまんねーって。おれとやろうぜ」

 ぱっと顔を上げたら、マジな顔。どうしてもって目で言ってる。クロウをここまでさせてるのはよく分からないが、俺、なんだよな。
 じわじわ込み上げて来るものは何だろうか、考えてみる。

「な、デッキ改良したんだ!」

 今度は歯を見せて笑う。
 それを見て、やっとわかった。
 子供みてえ、子犬みてえ、いや、いやいや。

 こいつ、可愛い。

 思わずかき回すように頭を撫でてしまったが、クロウは上機嫌のままだった。おかしい、クロウってかわいいんだったか?
 チームで一番小っちぇえけど、鉄砲玉で生意気でよく笑ってよく怒る。でも案外しっかり者で、戦略も緻密。頼もしい仲間で…

 確認のため見つめてみる。
 返事待ちのクロウは見上げてくる。

 あれ。可愛い。

「…わかった、悪いが俺は本気だぜ?」
「あったりめーよ、おれも弾けてやるぜ!」

 外でやろうと背中を叩かれ、クロウに合わせて歩いてみた。スキップしてるみたいになって、訳も分からず楽しくなってくる。

「鬼柳とデュエルすんの久々だよなぁ」

 相槌を打ちながら横顔を盗み見る。口の端がちょっと上がって、猫みたいに笑っていた。名前はカラスで、犬か猫みたいで、同年代なのに子供だったり大人だったりするチームの仲間。
 なんか、お互い牙を向くようなデュエルもいいけど、クロウを構ってんのもいいな。



『甘えたその2/服の裾を掴んで構ってアピール』





遊星から見てみた。





「クロウ遊ぼ!」
「クロウにいちゃーん!」

 外できゃあきゃあと子どもがはしゃぐ声に混じって、大人気の幼馴染みの楽しそうな声が聞こえる。
 今日もみんな元気だ。自然と浮かんだ笑みをそのままに、俺は目の前に置かれたデュエルディスクの修理のためにドライバーを手にした。

「よお、遊星!」
「鬼柳」

 好感を持てる涼風のような声。チームのリーダーである鬼柳に笑みを向けると、鬼柳も笑って片手を上げた。

「ジャックは?」
「まだ視察だ」
「喧嘩売られてねえといいけど、な」
「大丈夫だろう」

 立ち振るまいや容姿から圧倒的な威圧感をもつジャックに絡んで来るとしたら相当な実力者かその逆だ。どちらに絡まれたとしてもジャックなら負けることはないだろう。
 鬼柳も俺の言葉に頷いて、突然俺に背を向けた。

「どうした」
「デュエルしてくる」
「なら、俺と」
「いや……」

 鬼柳は時々、酷く餓えた顔をする。鬼柳にとってデュエルはもうひとつの命なのだと以前に聞いたが、正しくその通りだ。その強すぎるほどの情熱は俺たちにとって憧れでもあった、しかし同時に、溝となることもあった。鬼柳のデュエルはたまに、驚くほど凶暴になるのだ。攻めることに比重をおいた戦略を好む鬼柳のデッキでは、当たり前のことかもしれないが。

「鬼柳!」

 飛び込んできたのはクロウだ。機嫌がいいらしい、大きな瞳がますます大きく見える。

「来てんなら声かけろよ、何かやんのか?」
「ん、ちょっと外でデュエルしてこようかと思ってな」
「は…?」

 じゃあな、と鬼柳はクロウの肩を叩き、早足にアジトを出ようとする。相当疼いているのだろう、ならば引き止めても無駄だ。
 俺はそう判断し、ディスクに向き直った。


「……クロ、ウ?」


 鬼柳が明らかに戸惑った。何があったのかと、俺も顔を上げる。

「つまんねーって。おれとやろうぜ」

 クロウの右手は鬼柳のジャケットを引いていた。つい先刻まで子供達と遊んでいたから、おそらく同じ仕草で引き止められたばかりなのだろう。信念は譲らないクロウだが、仕草や口癖は拾ってしまいやすいのだ。
 実際、鬼柳の口癖が一つうつってしまったらしく、何かにつけて「弾ける」ようになってしまった。

「な、デッキ改良したんだ!」

 歯を見せて笑いかけると、鬼柳の表情が変わった。いつものリーダーの顔、いや、それよりも穏やかな顔でクロウの頭に手を置く。かき回すように撫でられているクロウは上機嫌のままだ。やめろよ、なんて言ってはいるが怒ってはいない。今日のクロウはとにかく鬼柳と何かをしたいらしい。数日前の作戦決行後、鬼柳の采配に感嘆したクロウが「兄貴ができたみたいだ」と呟いていたのを思い出した。

「わかった、悪いが俺は本気だぜ?」
「あったりめーよ、おれも弾けてやるぜ!」

 デュエルは外でやるらしい。浮かれた足取りで出ていった二人を、俺は目線だけで追いかけた。
 何だか、混ざるのは野暮な、気がして。

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