鬼柳京介はおれ達のチームのリーダー、いわゆる兄貴分だ。
 わけのわからない理屈と押さえる気のない衝動と惜しみない信頼と妙に様になる笑顔で、たぶんまとめにくいだろうおれ達をまとめているリーダー。
 遊星以上に仲間思いで、ジャック以上に勝負運が強くて、おれ以上にストッパーがきかない。いいのか悪いのかわからないおれ達のリーダー。

 万人に優しくはないやつだと思う。ガキどもが喧嘩して泣いてたら、うんざりだって顔をしておれに後を任せて部屋を出て行ったくらいだ。正直おれには信じられねえ、嫌なやつだと思った、最初は。
 でもガキどもを宥めて一息ついたおれに、苦笑いと一緒に投げかけられた「お疲れ」って一言。頭をくしゃっと撫でられて、ガキ扱いされたって分かってもなぜかそれがおれにはとてつもなく嬉しかったんだ。

 それから、鬼柳提案のデスマッチ・デュエルをはじめて実行したとき。デュエルディスクから伸びたロープで相手のディスクを捉えるってのが上手くいかなくて、自業自得のドジ踏んで、二階のフロアから落ちそうになったとき。
 すぐ隣にいたとはいえ、ロープを投げたばかりの片腕で、おれの服を掴んで引き戻してくれた。
 後でどこにそんな力があるんだと聞いたら、仲間のためならどんな力でも出る、と笑ってた。でもジャックや遊星は少し大変かもしれないって。そりゃおれがチビってことか、そう思ったけどここまでは訊かないでおいた。

 おれは特別なんだって思わされる、鬼柳の触れかたが好きだ。
  
 鬼柳の身体はつめたいって知ったのは、いつだったか定かじゃない。
 手も冷たい。いつだったか、世話焼いておれの頭にドライヤーかけてた手や、おれを励ますように添えてくれた手は暖かかったと思ったのに。

「鬼柳」

 鬼柳はおれにほとんど預けた左腕でデッキの束を持ち、右手の親指で一枚ずつカードをスライドさせて眺めている。覗き込めばおれも見られる距離だが、もちろんそんなことはせず足元に視線を落とす。

「どした、クロウ」

 宥めるような声につられて顔を上げると、少し眠そうな苦笑が目に入る。何を言うこともなくまた目線を下げると、なんだよ、と鬼柳は笑った。

「らしくねえの」

 らしくねえな。わかってるよ。
 両手のひらで掴んだ腕は、もしかしたらおれより細いんじゃないかとすら思う。でもこの腕は、おれを掴んでしまえる腕だ。
 まだ冷えている腕を撫でてみるが、さほど変わらない気がする。現に鬼柳は何も言わない。でも、冷たいっておれが思うってことは、鬼柳には暖かいはずなんだ。伝わってるんだろうか。少し力を込めてみた。

 鬼柳は相変わらずデッキを見ている。おれには何も言わない。でも、嫌な感じはしない。
 なんか喋りたいことはあった気がするけど、喋る時間はまだある。明日になればまた朝も昼もあるとなれば、今喋ることなんざ重要だと思えなくなるから、おれは黙って鬼柳の冷たい腕に触れる。
 鬼柳が何も言わないのは、おれだからなんだって確信したくて、たまに鬼柳を呼んでみるけど。
 おれが何も言わないのは、鬼柳だから特別なんだって、伝わってるだろうか。

 おれの体温は、安売りしてねえんだぞ。
 代金分、おれのわがまま、聞いてくれないか。
 めったに言わねえと思うから、おれのわがまま、聞いててくれないか。
 
 ずっと確かめてていいか、ずっと頭撫でててくれるか、ずっとおれ達の頼れるリーダーで居てくれるか。

 ずっと、特別にしててくれるか。
 おれも、特別にしててもいいか。


 ソファに座って手の中でデッキを眺める鬼柳に、何も言わずにもたれかかってみた。
 遊星やジャック、マーサの隣でこうしていると少し落ち着けたし、ガキどもがこうやっておれにくっついてくるときは、おれもガキどもも幸せだったから。
 こっちを少し見る気配がしたあと、鬼柳の視線はまたデッキに戻る。
 鬼柳の腕は冷たい。決しておれは暑かったわけでもないのにその体温がやっぱり心地よくて、おれはちょっとだけ、眠くなった。

「おやすみ」

 お見通しだって声がして、悔しい気もしたけど。




『甘えたその12/特別扱いされたいクロウ』






おやすみよいゆめを。




「クロウ」

 呼ばれたので、返事をしようかと思ってやめる。
 だって、なんか気持ちいい。もうちょっと寝たい。
 
「クロウ、何甘えてんだよ」

 あまえてなんかいねえよ、ばーか。
 おれは眠いんだ。寝かせろ、ばーか。
 毛布を掴んで引っ張って、潜り込む。

「ばぁか、起きてんだろ?」

 バカって言う方がバカなんだってガキどもが言ってたぞ。
 あ、でもこっち暖かい。取りあえず、そう思った方に近づいてみる。

「っちょ、起きろって、クロウっ」

 暖かいのは塊らしい。でも、肩に触れたものは冷たい。
 こんなんじゃ満足できねえ、なんて、どっかの誰かみたいなことを考えながら、その暖かい物体にしがみついた。

 とくとく。おとがする。
 眠い。ここ、安心する。
 溜息が聞こえた。

「…………ったくよお、人の気も知らねえで……」

 頭の上に触れたのものは冷たい気がして、でもやっぱり暖かい。
 あ、これ鬼柳だ。
 そういえば、鬼柳の声だ。

 鬼柳が頭を撫でてる。ガキじゃねえっつーの。
 でも、おれはたぶん、嬉しかった。
 嬉しいって思ってるうちに、良く分からなくなって。


「   」


 名前を呼ばれた気がして、でも、何も言えないまま、何も聞こえなくなった。



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