クロウをベッドに引きあげ、向き合って。クロウだけが脱いでるのもどうなんだと思って、俺もシャツを脱ぐことにした。
「服、脱ぐのか」
「…い、いちいち聞くなよ、そういうの」
「駄目なのか?」
きょとんと開いた目が、あんまりにも邪気ゼロで、力が抜ける。
何はともあれ、同意とあれば。
ぽかんと開かれた唇を一気に塞いで、行き場を無くした手をしっかり掴む。驚いたクロウの身体が強張るのが分かると、俺は身震いした。悪いものじゃない。
きれいなものは汚したいタイプだった、らしい。
ベッドの上、倒れ込んで。重ねていた唇を離し、頬に、顎に、そのまま曝け出された喉にキスを繰り返す。
くすぐってえ、とクロウが笑うので、俺は喉から肩口へ、胸の上、心臓のあたりまで下げていく。軽く音を立てて吸い上げると、いつの間にかクロウは黙っていた。ふる、と震える体と声。きりゅう。呼ばれた時に、俺の唇は右胸の先端をかすめたところだ。
「その、さっきから、何してんだ…?」
「痛いか?」
突起を弱く噛んでやると、クロウは小さく唸って首を傾げる。
「痛くねえけど……ん、いや、痛…?」
歯を立てたあとの突起に舌先を押しつけて、そのまま、ふわふわしたクロウの声が結論を見つける前に、吸い上げた。クロウの体は飛び跳ねて、ベッドの方がぎゃあと叫んだ。
「や、や、やめろ、きりゅっ」
ちくちくと吸い上げるのは、わざと。そのたびに歯が触れて、クロウが分かりやすく反応してくれるから。ぱたぱたと暴れる両足の間に膝を滑り込ませて、根元に押しつける。
こういうとこまで素直なんだな。発見。
左手を離して、放置していたもう片方も抓ってやった。
「ひゃ、っめ!」
高い声を上げてから真っ赤になって、口をぱくぱくと動かしている。心臓の音、きっと耳を付けたら聞こえる。
くくっと笑って顔を上げると、クロウは丸くした目を向けた。茹でダコ。いや、湯でトリ。
「お、おか、しぃだろ、これっ」
「そうだな…知ってる」
「せっくぅ、て、こんな…っと、すんのか…?」
おろおろと問われて、俺を見ては顔を背ける。混乱しきった彼には、表情をどれかに定めることすら難しいようだ。
泣きそうで笑いそうな顔で、たどたどしく紡ぎ直すのは。
「べ、べんじょいきたい」
……。
いくらなんでも。
「ムードねえこというなよ…」
「仕方ねえだろっ、だってなんか、急にっ」
真っ赤になった顔を両手であわあわと隠しながら、クロウは両足を閉じようとする。
クロウが何に追い込まれているのか知っていたので、俺は苦笑しながら、膝をぐいと押しつけてやった。
「急にココ、ヤバい感じ?」
「ひぁ」
下着とジーンズ越しにも分かるほど熱い、クロウがオスだと証明する場所。膝を捻じこむようにくっつけてみると、クロウは両手で俺の肩を押し返してきた。
力は、中途半端。ぐっと膝で擦りあげれば、かくんと抜けてしまう程度。
「起ってんじゃん…はは、俺と同じ」
「鬼、柳と…?」
「興奮したらこうなんだよ、男ってやつは」
片手で下着を引き下ろしても、クロウは暴れない。相変わらず顔は真っ赤で、目は潤んでいるが、別に脱ぐことは恥ずかしくないらしい。
そりゃ、確かに、俺はしょっちゅう見てたけど。そういう問題じゃねえ、……これはあとで教えてやらねえとな。
飛び出してきた性器の大きさが想像通りだったことにちょっと安心して、息を吐く前に握りこむ。びゃああ、とひどい悲鳴を上げて、クロウは跳ねた。
「心配すんな、痛くねーから」
「う、えぅ?!」
先端を開くように指でぐるりと撫でると、急すぎて痛んだのか、クロウは顔を顰めた。俺の肩を掴んだ手を撫でて、熱くなった性器を先から根元まで撫でてやる。
ぴくんと爪先に力が入ったのを感じながら、手の平でクロウの性器を覆い隠してやりながら、握る手を緩め、掠める程度の力で擦る。
クロウの手はいつの間にか俺の左手を掴み、もう片手はシャツを掴んでいる。うろうろと彷徨っていた目は、どうやらどこかを見ることを諦めたようだ。とろんと瞼を落として、端に溜った涙もそのまま。
「ふ、わ…ぁ」
ぽかんと開いた口から洩れる声が、驚くほど、甘ったるくて。
思わず両手に力を込めてしまって、クロウが痛みに目を見開く。
「あぅ!」
「っ悪、クロ…」
正直今の悲鳴もわりとキた、なんて、ムードのなんたるかを心得ている俺は言わない。
ココでやめるのは、こっちもわりとキツイ。
くう、と動物が鳴くように呻き、クロウは眉間に皺を寄せる。辛いのだろう、手の中のものは擦るたび音を立てるほど濡れて、随分と可愛らしく震えている。
「う、ぃ、きっりゅ、う、もう、も、はなし、」
「それはちょっと早いだろ…な」
「ん、ん、んぅう、…っ」
俺の肩を押し返す手に、もうほとんど抵抗の意思はない。着実に近づいている解放の瞬間を、身体の方は望んでいるはずだ。
それなのに抗おうとするのは、恥ずかしいって理由じゃないなら、もしかして。
「……そっか。これが初めて…だもんな」
口にしてみるととんでもなく責任を感じてきた。性教育なんて受けてないクロウにとっては、今の状況をなんて呼んだらいいかも分からないだろう。
怖いんだ。
そういう意味じゃ、さっきのトイレ云々も、仕方がなかったのかもしれない。出すところ一緒だし。
限界だろうに、意志で抑え込もうとしてる。俺に出来るのはそのリミッターを外してやること。
「これ、おかしいことじゃないからな。でも、もし、恥ずかしいとか思ってたらそれは間違ってない」
俺の声は聞こえているだろうか。強弱をつけて、自分でするよりずっと丁寧に、気持ちいいだろうところばかり擦ってやる。
クロウ、何度も名前を呼んでやると、俺の肩を押し返していた手が、縋るように握りしめられる。クロウの限界は聞かなくても分かる。開いた唇からこぼれる声が、少しでも苦痛から離れるように、優しく、優しく。
恥ずかしいことなのかと、クロウは真っ赤な顔を更に真っ赤にしたように見える。うん、そう。だから。
「俺じゃないやつに、絶対、させんなよ」
低く囁いてやった。少し早口になったけど、クロウは目を見開いて、俺の手の中で射精する。クロウの体格的に多いのか少ないのかも分からない量。
まだひくついている先端を比較的きれいな指で拭ってやって、そっとベッドの上に座る。ゆるやかに揺れたベッドの上で、クロウは放心状態だ。左手、濡れてない手でクロウのデコを撫でてやると、汗ばんでしっとりしていた。俺の手の方も、だけど。
「きりゅう、も」
ぽつ、と、独り言くらいの声。クロウが、力のない拳を持ち上げ、人差し指だけをのろのろと差し出す。指したのは俺。腹。いや、
「ほんとに、ソコ、でかくなってんな」
ズボンの奥。言われて見下ろしてみれば一目瞭然。カッコつけてもカッコつきませんってくらいには。
本当にムードのなんたるかを教えてやらないといけねえよな、なあ俺よ。で、こんだけぶち壊されても一向にヤル気なくさない俺も頭を冷やす必要がある、な。
「まあな、そりゃ俺も男ってこった」
「きりゅーはいいのか?」
「はい?」
くりんと首を傾げる。変わらない無垢な目を向けて、小鳥のようにくりん、と首を傾げて。
「おれ、覚えたぜ」
な、
にを?
「ここ、握って擦ればいいんだろ?んでなんか出し」
「クロォォォォっう!!」
平然と手を伸ばしてきたから慌てて飛びのく。ベッドから落ちるかと思ったが、持ちこたえた。
「いい、じ、自分でする」
「なんでだ?」
「ンでって……」
「おれがいるのに」
ムードはゼロ、のくせに俺を煽るのだけは数値にして100オーバー。
この行為の意味をクロウは知らなくて、だからこそ言えるんだろう。知ったとしても、言うのかもしれない、けど。
この誘いに、何も知らないクロウの言葉に甘えたい気持ちはある。本当の本当に小さかったクロウを知らなければ、喜んで誘いに乗ったと思う。
ぐちゃぐちゃになる、欲望と罪悪感。
ここまでやっといて引き留めるなんて、俺、空気読めってんだ!
「ん、鬼柳」
目に浮かんだ涙を腕で拭って、クロウが腹に力を込めて起き上がる。ベッドの上、野郎二人、ぺたんと二人して座りこんでじっと見つめ合う。しかも片方はほぼ全裸だ。パンツ下がりっぱなしだ。
間抜けな恰好、指さして笑ってやれるくらい。
でも、俺は笑おうとして泣きそうになってた。
「クロウ、俺はおかしいかもな」
「最初っからだ。ってみんな言ってる」
みんなって誰だ。予想はつくが、これは後でちゃんと聞いておこう。
俺はできるだけ笑って、クロウににじり寄る。相当じれったかったろうが、クロウはちゃんと待っていてくれた。
「うつ伏せ、なれるか?」
近づいて近づいて、俺の言った言葉に、クロウは首を傾げてから元気に頷いた。罪悪感が俺をぶん殴る。だからこれは精一杯の、ズルだ。
見ていられない。見せたくない。俺は今これだけの罪悪感を振り払ってでも、クロウが欲しい。相手が他の誰であろうと、きっとこんな気持ちにはならなかった。
良く知ってる。クロウのことなら、よおく知ってる。知ってるから苦しい。知ってるから、愛しい。
これでいいのか、とベッドにうつ伏せに転がったクロウの下着を膝まで引き下ろす。クロウはぱたんと足を動かしたが、それだけだ。どうせ見られてるから気にすることじゃない――相変わらず、この考えは変わらないらしい。
言い方を変えたら、俺だからってことだ。悪い気はしないが、もっとこう、恥じらいがあってもいいと俺は思う。出てきたきゅっと引き締まった尻に、正直テンションあがってる時点で俺も相当常識外れだけどよ。
「なあクロウ、絶対こっち見んなよ?」
「どうして」
「…後で教える」
「絶対だからな」
むっとした口調ではあったが、クロウはあっちを向いたまま。こうなると、とことん素直なところが有難くなる。
そろっと撫でてみると、別にふわふわでも、吸いつくような手触りとかでもなかった。なのに何となく、ぐにぐに揉んでしまう。その時、手にクロウの精液がまだ残ってたことを思い出して、濡れた手を穴の周辺に擦りつけた。
「っきりゅ?」
「……痛いかもしれねえ」
親指を咥えてたっぷり濡らし、割れ目を開くように力を込める。ィッ、と押し殺した悲鳴、クロウが驚いて跳ねた。
まずい、そう、思って手を引こうとするより早く。
「やめ、んなよっ!」
ぎゅっと目をつぶったクロウにくぎを刺された。
「大丈夫だからな、やめるなよっ、俺無理してでも、分かるまで、我慢するからなっ!考えるから、ちゃんと、ちゃんと答えるから!」
大丈夫か、無理すんな、今度でいい、いや、今度じゃなくてもいい。
取っておいた言葉が、全部、クロウの言葉に打ちつけられて出口にたどり着けなくなってしまった。喉にへばりついて、俺の逃げ道を奪う。浅く息を吐いて、吸って、割り開いた間の窪みへ、右のひとさし指を捻じ込んだ。
「ひ、ッ」
引きつった声。理由なんて分かってる、から、どうにかしてやりたいと切に思う。強張る体を宥める術を探して、達したばかりの性器の存在を思い出した。
左腕を伸ばして、指をからめてできるだけ優しく掴む。ぎゅっと中の指は締め付けられたが、二か所の種類の異なる刺激にクロウの意識は戸惑い始めたようだ。前を刺激すれば後は緩み、その隙に指を進めれば強張る。繰り返していけば、少しずつ指は奥まで沈んでいく。
埋めてしまえば、後は中からゆっくりと。
時間がかかることは分かってるから、焦らされる準備は出来てる。埋め込んだ指を少し曲げて、手首を捻る。
「ゃ、ぐ……」
高く鳴いて慌てて、ぎちりと奥歯を噛んだ。見えないけど、伝わってくる。
ごめん。
言葉は頭を何度もよぎるけど、「謝るな」と、クロウは言う。間違いなく。気なんて使わなくていい。そう言いたいから、俺も少し、酷くすることにした。
嫌だと言ったら止める。俺は訊かない。
クロウも訊かない。答えるのは俺の役目じゃない。
…クロウの中を押し広げていたら、急に冷静になる俺がいて、なんで俺は同じ男と、って立ち止まって。でもすこし顔を上げたら、背中が見えた。
傷のある背中。小さな翼を埋め込んだように、不自然な傷のある肩甲骨。
あ、クロウだ。
ふっと、そう思えば。
止まらないし、止めたくないし、止めなくていいかと、簡単に覆るんだ。
二本目を押し込んで中を抉ってやりながら、くくっと笑ったのが聞こえたのだろうか。もそもそとクロウが動いた。
何気なく弄っていた性器はまた硬くなっていて、濡れてきてもいるようだった。吐きだされる息も、さっきよりは静か。
ありがとう、受け入れようとしてくれて。ありがとうな、俺のところに来てくれて。俺を選んでくれて。
「ぁやっ?」
涙、出そうになったところでクロウがびくんと跳ねた。自分でも驚いているらしく、今度はぴったり動きを止めている。
「どした」
「あ、え?きりゅ、いまのっ、ぇ?」
中。指先に触れた内側の一部分を、ぐいと押す。また、跳ねる。泣いてる余裕なんて俺にはなかった。ほらみろ、男の情けねえところ、今の声で元気百倍だ。
「っき、りゅ、そ、ぇっ……ひ、ひぁ、ら、ぁう」
指二本、かりかりと緩やかに、撫でるように掻く。体は跳ねるどころか、痙攣する勢いだ。でも、クロウは耳まで赤くして、開きっぱなしの口を閉じることもできないでいる。
顔、見たい。
見たら、何も、出来なくなるだろうけど。
「クロウ、もういいと思わねえ?」
「ィ、…っあ、ぃ…っは、う」
狡いよ、俺。
お前に詰られたって仕方ないくらい狡い。
指を引き抜いて、汚れるのも構わずズボンを下ろして、張り詰めた自分のソレを、開いた穴に押しつける。
「俺、もう、無理」
無理やり押し込んだもんだから、クロウは悲鳴すら上げることもできなかった。
今までとは比べ物にならなくて、想像もしなかっただろうモノが、入っている。そんなの恐怖でしかないだろう、何にも知らないクロウにとって。
嫌だ嫌だと悲鳴を上げて、暴れるのを、腰から下だけ押さえつけて、さっきまでの優しさなんて放り出してがっつく。
強姦だって言われても俺、反論しねえ。
酷いことしてる。
助けを求めるべき相手に、こんな目に合わされて、どれだけ傷つけてるか、想像すらできない。
熱い。
熱くてキツくて、溶けるどころか引きちぎれそうだ。だが俺の身体は喜んでいて、もっともっとと、奥を求めて。勢いをつけて、角度を変えて、探す。
「ごめん、ごめんなクロウ…ッ」
「あ、っぁ、ぅあ、あっ」
「ンなことしなくたって、させなくたって、ホントはきっと良かったのに、俺が、俺が我儘で、ごめん」
「んぁあっ、ぃ、きりゅっ、ゆ…っ」
がくがくと震えながら、まだ名前を読んでくれる。
それが嬉しくて悲しくて、俺は身を屈めて、クロウの背中の傷に額を押し当てた。脳髄から、罰して欲しかった。
それでも、でも、でも。
「っでも、好きだ……!」
やっぱり嫌だと言われても、俺の気持ちは揺るがないだろう。
避けられたら、俺の両手両足切り落としてでも、傍にいてくれと頼むだろう。俺と二人でいることが、この世では決して生産的じゃない事実を知っても、離さないでいてくれと喚くだろう。
だから。
俺の身体をゆっくりゆっくり引きはがして、やがて向き合った時のクロウが笑顔だったことに、俺は驚きすら通り越して卒倒してしまいそうになった。
「少しだけど、分かった!」
「…え?」
「セックは、痛ぇな」
首を傾げて、少し困った顔をする。声はかすれていた。そりゃそうだ、もう声なのか分からない声ずっと、あげてたし。
「でも鬼柳は、そうならないようにってしてくれた」
首を振る。
クロウも、首を振る。
「痛いとき、ごめんって言ったろ。そうしたくなかったんだってことだろ」
首を、二人で交互に振る。俺はもう言葉も出ない。
クロウが、飛びついてきたから。
「おれはこっちの方が好きだけど、鬼柳がセック好きなら、おれも頑張る」
「ッ、そん、」
「鬼柳がすげえ近くにいるのは、おれも嬉しい」
ひょいと上がった顔。何かと思う間もなく、唇にぶつかってきた、これは、えーと、クロウ、これはえっと?
「テレビでやってた!」
後ろに向けて倒れ込んだ俺を、クロウが覗き込んでくる。
ほんっとうにムードも恥じらいも何もねえ、なのに何で俺はさ、こう……にやけてるかなあ!
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