「じゃあ、今回はジャックの案で」
「……げー……」

作戦会議はリーダーである鬼柳のその一言で誰がどうあがいたって終わることになる。遊星は小さく頷き、ジャックは「懸命だな」、と得意げに腕を組んだ。最後まで異論を唱えていた残る一人、クロウだけが盛大に不満を示した。
思わず、といった様子で洩れた声に三人が振り向き、リーダーが唇を尖らせた。
 
「なんだよクロウ、不満なのか」
「うー……」

もごもごと口を動かし、クロウはさっと目をそらした。
自らの問いの答えを待つ金色の瞳の持ち主は、先日、正面切って男であるクロウの記憶にある限り最初のキスを奪って告白らしきものをしでかした当人である。
こうしてチームとして集まると、公私混同はしない主義と言わんばかりにそれらしい素振りを見せることはないとはいえ、執拗に二人の時間を作ろうとするあたり、何もかもが現実であると思い知らされる日々。クロウは相当参っていた。思いきりデュエルをして、声がかれるほどデュエルをして、すっきりしたい気分だったのだ。

だが、ジャックの作戦ではそうはいかない。チームの人数が多い割にはトップが不明であり、頭を潰す策がとれない相手であるから、裏をかこうと言うのだ。
先陣をきって罠に飛び込むのは、遊星。緻密で冷静、だいたいバックに控えているチームのブレインに等しい存在である彼を陥れたと勘違いした敵チームは、ここぞとばかりに動き出すはず。それを、遊星に加勢したジャックが叩いていく。
鬼柳とクロウはふたりの通信を元に動き、チームの統率を取っているであろう相手を絞って攻め込む――確かに、名が知れ渡り、役割分担までほぼ割れている少数精鋭のチーム・サティスファクションが取る策としては悪いものではないだろう。

「……全てを叩きつぶす手ももちろんありだ。だが、効率を考えることもそろそろ必要だろう」

意外にも、諭すように告げたのはジャックだった。クロウは視線を彼に送る。サテライトを歩くだけで女子が振り向く整った顔立ちだが、男であるクロウがみてどう思うこともない。

「……つったってよぉ」
「なあ、クロウ」
「ん?」

クロウは判ろうしようとしたものの、続く言葉は浮かんでいない状態だった。そこで名を呼ばれ、クロウは今度は彼をみる。遊星だ。深い藍色の瞳が、じっと見ている。
彼も整った顔をしているし、本当に他人と会話する際は目をそらさないので気恥ずかしくなるとよく言われるほどまっすぐなのだが、幼馴染であるクロウにとっては慣れたものだ。

「鬼柳と何かあったのか」

が、その名が出た瞬間、目をそらしてしまった。
明らかに不自然だったと自覚もあったが、そうするしかない。遊星に嘘は吐けない、吐きたくない。反らした視線を足元に落として、クロウは考え、悩み、迷った。ほんの数秒だが、必死に思考を巡らせて。

「や、その……」
「あ、俺達付き合ってんだ」

巡らせながらも開いた唇は、思考ごと停止させられた。
遊星とジャックが目を丸くしている。明らかに変わった雰囲気に、クロウは足元を見つめたまま、ただ冷や汗を流すことしかできずにいた。 

「……なんだと?」
「だから、お付き合いしてる」

あまりに鬼柳が嬉しそうに言うので、一瞬場の空気も和らいでしまう。だが、クロウは即座に夢から覚めた。当事者であるからこそ、流されるわけにはいかないと本能が叩き起こしたのだ。

「ち、ちげえ!ちげえぞ!?そりゃコイツが勝手に、勝手におれに、っ……」

ここまで早口で告げて、また何も言えなくなってしまう。
勝手に、で止めておけばよかった。これでは、まるで、何かされましたと言っているようなもの。案の定、ジャックがはっと顔を強張らせる。

「何かされたのか?」
「う……」
「クロウ、顔が赤い」

単純な心配だったのだろう、遊星が俯けたクロウの額に手を押し当てる。ずいぶんとひんやりと感じられて、クロウは自分の顔の熱さを外側からも知らされた気分だった。

遊星は同年代のわりに気配りに長けていて、このサテライトでも年長者に一目おかれる存在だ。だからこれは遊星の本気の配慮だったのだろう、根から優しいこの幼馴染を、だからこそクロウは好きだ。
真剣な顔をして答えを待つもう一人の幼馴染、ジャックも、促そうとはしない。そういうところが、やはりクロウは好きだ。好きなのだが、今回ばかりは恨みたい気持ちであった。

「うあ、……そ、そりゃ、言えねえ……けど」
「言えないようなことを」
「チューしただけだろ?」

クロウはその場に崩れ落ちる。
ジャックは唖然としているし、遊星は鬼柳をみている。
鬼柳の声にも表情にも、反省の色はない。さも当然、と言った様子だ。
ニヤニヤと揶揄するでもなく、かといって無感動でもなく。
それが、遊星の目には、真摯な恋愛の真っ最中であると映ったようで――


「そうか……おめでとう」
「おう、応援してくれ」

否、遊星も混乱していたのかもしれない。それほど場面にはぴったりなのだが最高に空気を読み違えた言葉。

ジャックは不格好に噴き出し、クロウは頭を抱えた。ただ鬼柳だけが、へらりと気楽に笑っている。

鬼柳はどうやらこの恋が、祝福されるべきものと信じて疑わないらしい。

信じたままに突き進む。鬼柳のそんな部分を、確かにクロウは好きでいる。だがしかしそれと恋とは別の話であると、何度説けば鬼柳は考え直してくれるのだろうか。
信じる者は救われる――道端の説教など笑い話にしかしていなかったが、鬼柳の恋愛論は、これに通ずるものがあるのかもしれない。

 だとしたら、長い勝負になりそうだ。
 
更に詳しく聞きだそうと身を乗り出すジャックの脚を殴りつけて、クロウは胸中でほろりと泣いた。
愛し方、方向性はともかく、ひとりの人間として鬼柳に愛されることそのものに、正直な話、不満はないのである。

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