京クロ?? 触手ネタR-18






「ンだ、よ……これ」

 呆然と声を上げたおれに、答えはどこからも返らない。悔いたところで遅い。後退って、隙間なく閉まったドアにぶち当たって、足が震えるのを誤魔化そうと必死に背筋を伸ばしてみた。
 けれど、それが頬を撫でた感触が現実のものだと自覚した瞬間、矜持などなくなったに等しい。
 おれの悲鳴は、部屋の隅のカメラの奥に届いただろうが、それだけだった。



prototype xxx



 簡単な実験だと言われて、大金を叩きつけられた。発展しきったように見えても未だ進化を続けるシティの灰色の街並み、おれの橙色の髪はよく目立ったのだろう。怪しい薬の実験か、奇妙な鬼界の実験か。口にして問いかけてやれば、おれに金を渡した男はにこりともせず、「死にはしない、終われば解放する」とだけ答えた。
 率直過ぎて、怪しいどころではない。けれど提示された金額と、ちょうどコイビトとの大げんかでムシャクシャしていたおれにとっては魅力的な誘いに聞こえてしまった。子どもたちにいつもこの手の話は信じるなと言い聞かせているおれだが、いつまでも兄貴の姿なんて保ってもいられない。完全に自棄になっていた、だから、金を受け取って、男の示した車に乗った。

 車の外は見えないようになっていて、おれが何を問いかけても男も、車に乗っていた運転手も何も言わない。沈黙がそもそも苦手な俺は、羽織っていたジャケットの胸元を合わせて、クーラーの効きすぎた車内ですっかり寝入ってしまった。



「……んああ、メカの実験かよ」

 連れてこられたのは建物の入り口は左右に開き、少し歩けば寝ぼけた視界に真っ白な壁、ガラス張りの複数の実験室、その中で独特の低い音をたてて動く機械が次々映った。腕を引かれて曲がらされた先は、映像関連の機械を開発しているらしい。大きなモニターが点滅し、丸い機械の上で踊る立体映像がいくつも並び、子どもたちが見ればきっとはしゃいだだろう。それから、おれのコイビトもこういうのは好きだった。秘密厳守の約束はないから、いい土産話になるだろう。謝るつもりは毛頭ないが、謝りに来たら教えてやってもいいかもしれない。
 機嫌がよくなれば眼も覚める。おれは男の手を振りほどいて、自分でその背中を追いかけることにした。男は一度おれの腕を掴み直そうとしてきたが、おれに逃げる気も周囲を探り回る気もないと分かったようで、簡単に許してくれた。
 今度見えた部屋の中では、工場での作業用のアームらしいものが開発されているらしかった。精密機器を精密機器が組み立てる奇妙な光景。人を堕落させる矛盾の山。これが完成したら、おれ達の職場もまたボタンひとつ押すのが仕事になるんだろうな、とぼんやり思う。笑ってしまったのは、その後の仕事についてあれこれ考えを巡らせられたおれの図太さに対してだ。

 突然男が後ろに回って、真っ白な自動ドアの奥に突き飛ばされる。ああ着いたんだな、そう思って顔を上げて見たのは、部屋の壁から伸びた長い金属製のアーム。鋼色のそれは関節部分以外はつるりとしていて、随分と丁寧に仕上げられたものらしい。一本、二本、三本、四本、五本、で面倒になった。
 頭は相変わらずぼんやりとしている。いくつも関節部分がある長いアームは、おれの目の前で機械とは思えないほどスムーズに蠢いている。
 ふと、左腕の肘の内側が痒くなって触れてみれば、そこには小さな白いテープが貼ってあった。しばらく見ていなかったが、採血した傷を塞いだあとと同じ。ぽつりと、赤い点。
 目の前も、ぼんやりとしてくる。霞がかったような。ひょっとしてこれはこの機械じゃなくて何か薬の実験だったのかもしれない。
 揺れる視界、眼前に迫ってきたアームの先端は、なんだか何かに見えてきて。ああ、これ、コイビトとの喧嘩の原因。毎回毎回、嫌だっつってんのに無理矢理咥えさせてくるから、今日はとうとう蹴り飛ばしてやった、コレ。
 
「へ……」

 ボケた思考でも流石に理解する。
 ちなみにおれのコイビトは男だ。
 そんでもってそいついわく、フェラは男のロマン、で。

「お、おい、……ンだ、よ……これ……」

 それらしい形をした金属だったはずのそれが、別のものに変わる。テレビ画面に走るノイズが目の前で散って、目の前の鋼が徐々に色を変える。鮮やかではない。くすんだ肉色。どこからか溢れてどろどろと滴る液体だって、数秒までは、なかったはずだ。
 後退って、隙間なく閉まったドアにぶち当たって、足が震えて。頬を撫でたそいつがリアルにぬめっていると知覚した瞬間、もうどうにもならなくなった。

「おいっ! なんだよ、これぇええっ!!」

 混乱したまま叫んだ。意識はもうはっきりとしているのに、相変わらず視界はぼやけていて気分が悪い。ずるずると重いものが滑る音、液体が滴り落ちて硬い床に跳ねる音、全部が聞こえすぎるくらい聞こえてくる。おれの輪郭を確かめるように動いたそいつを払いのけたはずの腕は、絡め取られて動かせなくなった。それを振りほどこうとすれば、袖の隙間から潜り込んでくる。ぬるりと二の腕まで撫で上げられて、ぞっとした。
 伸ばそうとした別の手も、同じように絡め取られて持ち上げられる。頭の上で手首をまとめて絡み取られて、右の腕に巻きついていた方はそのまま、薄手のインナーの中にまで潜り込んでいた。肌に触れる感触では確かにべっとりと濡れているのに、シャツもジャケットも全く湿らない。おれと、こいつらだけが現実から引き離されたような、あるいは、おれとこいつらだけが現実に取り残されたような。

「っあ」

 目の前に火花が散った。途端、頭のてっぺんからつま先まで一気に駆け抜けた、刺激。ただ、胸の突起を巻き込んで大きく撫で上げられただけだ。それだけなのに、全身がまだびりびりと震えている。

「ゃっう、っふ」

 続けて上がる高い声に嫌気がさした。ただ、背中から入り込んだそいつに背筋をなぞられただけで。体はすっかり力が抜けて重くて、震える両足も使いものにならない。ほとんど、体にまとわりつくやつらがおれの体を支えているようなものだ。伸びてきた一本の裂けた先端が、ベルトのバックルを外しにかかる。
 ここまで来たら目的なんて読めている。おれは、この感じを、嫌というほど味わってきたんだから。

 弱く首を振ると、それを叱りつけるように乳首を抓られた。たぶん、ベルトのバックルを外したのと同じように、シャツの中のそいつらもその先端を使ったんだろう。無駄に柔らかそうな見た目の癖に、ちぎられるんじゃないかってほど強く抓りあげられて、おれはまた首を振る。今度は思いっきり。いやだ、と、情けなく声を上げて。

「いっ……ぃって、ぇっ!」

 両方の乳首をぐいぐい引かれて捻られて、とうとうジーンズをずり下ろされて、太股にぐるぐるとまた巻きついてくる。相変わらず、肌を這うそれはぐしょぐしょにぬれていて冷たいくせに、服は平然と素肌を覆ったまま。もう、何が何だか分からない。息を吐けば妙に熱っぽくて、息を吸えばめまいがする。
 ボクサーパンツを引き下ろして、起ちあがったそこを、撫で上げられたら。

「――ッ!!」

 辛うじて放ちはしなかったけれど、もう、どうにもならなかった。頭の上で拘束された手首をそのままに膝をつかされ、開いた足の間を探る様に一本が行き来する。ビンビンに起ちあがった先端をぐりぐりと弄られれば、開いた口からは涎と甘ったるい声ばかりが漏れた。

「ふぁ、やぁあ、あっだ……ぁ、こ、んっ」

 釣りあげられる手首の痛みも、両方の乳首の痛みも、直接的すぎる痛いくらいの刺激も、尻に液体が吐きかけられたらしい感触も、全てが性的な快楽としておれを蕩かしていく。ほぼ毎日のように開かれ使われている入口は、濡らされて簡単に口を開けた。

「ぁっ、あ、あんっ……!」

 酷い音がした。わざと唾液を溜めた口内に性器を突っ込んだときよりもっと濡れた音。おれの声だって酷いもんだった。ひっくり返って甲高い、気色悪い。でもきっと、あいつはこれを聞いたら喜んでガンガン突き入れてくるに違いない。

「あっ、ぁっぁああ、い、っ」

 下らないことを考えたタイミングで、本当に抉る様にがつがつと突き上げられる。長さに限界のないものが相手だから、本当に、突き破られるんじゃないかってくらい。
 尻から何かが流れ落ちてくる。痛みはない。きっとおれ自身が放っている男のアノ匂いと、音だけが、確か。
おれは硬く目を閉じて、必死になって喘ぐだけ。呼吸が命を繋ぐための行為であることなんて忘れて、水音を掻き消すくらいに声を上げて、反らせた喉を撫で上げられて、声を噛み殺して。

「っ、う、い、いっ、こんな…なんで、うぅ、あっ!」

 びくりと背を逸らせれば、ますます体を這うその動きは速くなる。性器の先をぐりと撫でられ、もともと濡れて見えているそいつをおれが放った精液がさらに濡らした。力の抜けた身体は、それでも床に伏せることは許されない。手首と腰に巻きついてきたやつらはそのまま動かないから。
 他の奴らも、抓っていた乳首を労わる様に撫でてきたり、萎えかけた性器を突いてきたり、動くことをやめない。何が見えているんだか、涙で視界がますますぼやけて、おれは無様に泣きながらカメラがあったと記憶している方へ顔を向けた。

「も……ぃや、だ、おかし……こんな、おかしく……な、っ!!」

 それ以上は言わせまいとしたのか、尻の中のそれが、信じられないほど激しく振動した。動物的な動きを一切排除した、機械的で単調な動きでひたすらにおれの弱点だけをせめてくる。
 だからこそ、どうにもならなかった。

「―――――ぁああああッ!」

 見開いた目と唇から、ぼろぼろと液体が零れた。誰が聞いてもやかましいと答えるだろう悲鳴も聞こえていないのか聞く気がないのか、おれを取り囲むその物体は、割れた先端から次々に粘質の液を飛ばしてきた。髪も顔も服も、今度は全て濡れていく。
 舌の上に乗った瞬間、苦味がするかと思ったそれはむしろ甘くて、一瞬、少しだけ、気が楽になった。
 たぶん、吐き出されあちこちで飲み込まされているこれは、よく似たアレとは、一応違うんだって思えたから。


 浮気は絶対許さないコイビトも、これだけ意味不明な相手なら、流石に許してくれるんじゃないかと思ったから。






(無茶苦茶犯されながら、ンなこと考えてる辺り、あいつの言う通り、おれは呑気なのかもしれねえ)














 人間の感覚をモニターの映像と統一し共有させる機器と薬剤がどうとか。
 何もなくなった部屋に転がったおれに、男はそんな説明をしている。しかしもちろんおれにそんなことを理解するなんてできっこない。それでもどうしてもやりたいことだけは分かっていたから、男に向けて手を伸ばした。

「携帯……とってくんね?」

 男が口を噤む。サツとかじゃねえよ、とおれは笑う。
 体の奥がまだ、熱い。こんなもんじゃだめだと、疼きが伝えてくる。
 浮気は嫌いでフェラされんのが好き。独占欲の塊のくせに羞恥プレイと玩具遊びが好き。生意気なおれが好き。そんで、ぐちゃぐちゃのおれが好き。

「鬼柳、呼んでさあ……もいっかい、テスト……」

 なあ、いいだろ?
 おれのコイビト、こういうのダイスキだから。




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