その名を確かに読んだ瞬間、見えないはずの、鬼柳の嘲笑が見えた。
口を開く間もなく、衝撃は訪れる。限界まで逸らせた喉が痛むことも忘れて、クロウは悲鳴を上げた。
「い、ぁあああぁあッ!?」
抵抗をしても奥へ奥へと潜るその感触は、クロウの精神までも犯していく。一度壁を突いた時点で止まるかと思いきや、当然のように進行方向を変えてさらに奥へと目指す。腹を突き破って飛び出すのではないかと思わせるほど勢い良く進み、勢いを変えずに引き抜かれる。食いしばって耐えようとした悲鳴も、情けなく零れた。
「い、……っぎ、ふっ、くぅうっ……!」
出入りの度に必ず一点を狙われ、その刺激が直接的な快楽をもたらす。気付けば張りつめた性器を2本の触手に緩く締められ、それもまたクロウを追いつめた。
「あ、っぃ、やめ、えええっ、うあ、あ、あっ」
水音の間隔が狭くなる。後ろの出入りが早さを増して、小刻みに体が跳ねる。
上半身を撫でる動きも乱暴になりはじめたが、そこから与えられるものもまた苦しいほどの快楽だった。感覚の変化に戸惑い焦る暇もなく、引きずり堕とされる。
「クロウ、そんなにイイかぁ、コイツはよぉ」
「……うぅうっ」
鬼柳が忍び笑いをしながら近付いてくる。足音も何も聞こえないが、声と気配があれば充分だった。数本の触手がクロウの上体を持ち上げ、それによってまた鬼柳と目が合った。広げられた両足の間が悲惨なことになっている事実も目に入ったが、伸ばされた鬼柳の手の行く先から目がそらせなかった。
鬼柳京介の感情が、クロウにとっては最後の希望でもあったのだ。
目を細めて、彼は微笑んだ。暗闇と同色の眼球には変わりないが、かつての面影を感じさせる笑顔を目の前にしてクロウが無意識に詰めていた息を吐く。腹の奥で留まっている感触も一瞬忘れて。
「クロウ」
「っあ、」
鬼柳の指先が、張りつめた先端を撫でた。
「イっちまいなァ」
クロウは何を言うこともできず、下された宣告に呆然と鬼柳を見つめる。耐える意志を手放していた身体は鬼柳の言葉に素直に従い、半透明の液を吐き出しクロウの腹を汚した。訪れた脱力感、倦怠感に身を委ねることも出来ず、闇はクロウへの侵食を再開する。
鬼柳へ向けて伸ばせなかった手のひらを、強く握りしめて。
腹の底から、喉を絞りながら、涙が浮かんだ眼を見開きながら。
「ぃ……やめろぉおおおおおおッ!!」
あとは、叫ぶことしかできなかった。
どこで何を間違えてしまったのだろう、片隅で浮かんだ疑問が泡沫のように弾けて消える。
救いの手を取り逃がしたのは、クロウ自身なのか、それとも。
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