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 ガラス細工のような透明な花を生けた透明な花瓶を手に、少年が走る。古びた外観の簡素な建物。錆びた階段を駆け下りる彼を追って駆けこんでくる、少年そっくりの少女。迎え入れる黒髪と金髪の青年。遅れてやってきた赤い髪の少女。
 黒髪の青年が微笑む。ゆっくりと立ち上がり、眼前に置かれた機械に触れた。小窓の奥にキラキラと光る何かが見える。金髪の青年が口を開く。少し、疲れた顔をしながら。
 彼らはたがいに駆け寄り固く抱き合った。
 希望が生まれた瞬間の歓声にまぎれて、どこか遠くで音がした。


 彼らがそれを、聞くことはない。







 ぱちん。







 森の奥。
 深淵と呼ぶべき空間に、開いた黒い花弁。
 花弁に取り囲まれた中心に透明な花が咲き乱れる様は、ガラス細工の花壇。中央に一本、光をなくした柱と蕾。

 黒いローブを身に纏い、開いたばかりの花弁の上にうつ伏せに飛び込む、橙色の髪の青年。楽しそうに声をあげて笑い、素足でぱたぱたと宙を蹴る。彼の名前はクロウ。その傍らに、黒衣の青年。そっとしゃがみ込み、横を向いたクロウの、笑みの形に歪んだ唇を指先で撫でる。

 未だ夢の中にいるような目を向けて、クロウは彼を呼ぶ。

「鬼柳、」

 ふらりと彷徨う。蜜に濡れた、どこか幼さを残す青年の手。

「京介ぇ」

 ゆっくりと身を起こし、差し出された手を取った。蜜のように蕩けた銀と、蜜のように艶めく金で向き合って、咲いた願いを後にする。叶ってしまえばそれはただの記憶に変わる。クロウには、もう必要ない。 
 
 歩む先にはまだ咲かない蕾のドーム。艶やかな黒に、二人はもういちど顔を見合わせて微笑った。願いを叶えに、踏み入れる。開花に求められる等価は、今や本能からくる欲望だけ。クロウには、もう何もない。

 
「ああ……御祈り、しような」


 薄らと光る蕾の中。素足を蜜に浸して、両手のひらを合わせて握る。
 クロウはくすくす、幼く笑いながら。京介は優しく、穏やかにクロウを見下ろして。








森の奥にたったひとつ、未だ咲かない花の蕾。
生み出すことができたなら、願いを込める。




「チームがいつまでも、ずっと一緒にいられますように」











(誰も森には、くるんじゃねえぞ?)

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