SWING ♯--モブクロR-18






 ブラックバードデリバリー、黒ガラスクロウ様の宅配便はご予約いただけりゃいつでもすぐにお荷物をお届けするのが仕事だ。
 鳥たちと違っておれは夜目もきくから、夜中だって依頼がありゃ走る。
 
「遅くにすんません、ご依頼のお荷物お届けっす」

 今日も夜中におれは走った。やけに軽い荷物を片手に、部屋のチャイムを押す。インターフォンから聞こえる何となく機械的な声にこたえていると、ドアが開いた。

 目の前に立った男は笑みを浮かべておれを見下ろしているだけだ。着ていたのはシャツと皺のないズボン。小奇麗な格好だったので少し驚いた。けれど笑顔だけは、見覚えのあるゆがんだもの。おれは少し、挑発するような笑みを返す。
 腕を取られ引き込まれ、玄関の床に落ちた箱はほとんど音を立てることはなかった。



「……んん……」


 唇の隙間から舌を差し入れられて、煙草の味が口内に広がる。わざとらしく声を漏らせばたったそれだけのことで興奮したのか、男はさらに深く舌を絡ませてくる。音が出るように角度を変えてキスを受け入れていると、男の手は背中から尻へするすると降りてきた。
 そのタイミングで、腕を掴んでいた手に少し力を込めて男の体を押し返す。あくまでほんの少し。そのまま顔を逸らして、視線をあちこちに散らす。
 こんなシゴトをしておいて何をいまさら、そう言わんばかりに笑われる。だけど確実に男の中で俺の価値は上がっているようだ。狙い通りに。


 マーカー付きなところが、小柄なくせに気の強そうなところが、いざって時に態度と反応が裏腹なところが、最終的になりふり構わず泣き叫ぶところがいい、らしい。
 おれにこのショーバイの案をくれた名前も顔も思い出せない男が言うには、シティの男たちにとって俺は案外そういう対象になり得るらしい。サテライトとシティが統一されてマーカーへの差別も薄れ始めて(キングを破りシティをも救った遊星にマーカーがあったってことも原因の一つだ)、そんな最中に知った現実はおれを一度たたき落として、それから一気に引き上げてくれた。金になるならそれでいい。
 野郎が野郎とイタしました、なんて俺にも客にも言いふらせることじゃない。お互いに偽名と演技での内密中の内密の取引だ。汚えシゴトなんざ今更どうということもない。

 でもこれで稼いだ金は大会の資金にはあえて入れないようには、しようと思う。

「……なあ、ここでスんの?」

 ジャケットも着たままタンクトップの裾から手を入れられて、壁に背中がついたので聞いてみる。別に非難するわけでもなかったし文句もなかったが、男は何を思ったのか動きを止めて、気色悪いほど優しく笑って俺の頭を撫でてきた。かわいいなあ、と囁かれたが何を言い返すこともせず、男の胸に寄りかかるように身を預けてみると、生唾を飲む音がリアルに聞こえて、こっそり笑みを浮かべた。


 男に肩を抱かれて招かれた寝室は、おれ達の部屋より片づいていた。かといって今日このために片付けた、という感じもしない。笑い方からは想像がつかないが、しっかりした男ではあるらしい。おれを買った時点でなんだか違和感のある評価だが。
 仕事着であるジャケットを脱ぐと、男の手がそれを奪ってしまった。どうするのかと思ったら、きっちりと壁のハンガーにかけてくれている。んなことしなくていいのに。おれがそう言うと、男はやっぱり歪んだ笑みを浮かべて、客人をもてなすのは癖なんだ、とこたえた。それを聞いて少し楽しくなる。おれもそうだ、と応えると、男の笑みはさっきより少し綺麗に見えた。最初の印象とは、どうやら相当違う男らしい。
 気が乗ってきたので、自分からベッドに座って男を見上げる。両手のひらを男に向けて腕を伸ばすと、戯れるようにおれと指を組みながら、ふたりでベッドに転がった。

「重い……」

 のしかかられて首筋に鼻先を埋められると、くすぐったくてつい笑ってしまう。けれど男は不快には思わなかったようで、むしろ勢い付いてしまった。晒された腹を手のひらでべたべた撫でられるのは気分のいいもんじゃないが、それが逆におれを高ぶらせていく。

「な、……ぅん、あんた……あ、ッ」

 ズボンとパンツも脱がされて、ベッドの下に落とされた。さすがにこれを畳む余裕はもうなかったみたいで、性急に直接性器に触れられる。
 おれを見下ろす男の目は、今日見た中で一番輝いていた。おかげで、なんとなくわかる。今日の客が何を求めておれを呼んだのか。
 扱かれて反応する自身の熱を感じながら、眉根を寄せて吐息を洩らす。

「遠慮すんなよ……あんたの、好きにしていいんだぜ」

 首をかしげて男を見上げ、甘えた声で誘いをかける。胸のあたりまで捲りあげられていたタンクトップを自分の手で首まで捲り、投げ出していた足をさらに少しだけ開く。その足を男の手が掴んで、思い切り左右に割り開いてきた。服が汚れるだろうに下半身を密着させて、さらけ出されたおれの胸を舐め上げる。おれの身体が跳ねるたび、おれの声が上がるたび、下半身にお互いの熱が集まるのを感じた。

 男は、きっと自分の手で変わっていくおれを見たいんだと思う。一夜にも満たない間、金で買ったマーカー付きの生意気そうなガキが陥落していく姿を。それがどんな思考から来てるのかは分からないが、この反応から察するに間違ってはいないと思う。正直に反応する自分の身体がなんだか滑稽で、おれは笑って男の頭を抱いた。


 セックスは好きだ。

 思ってたより好きになれた。子供騙しみてえなことしかしてねえから、そう呼んでいいのか悩むところではあるけど。生産性なんて見当たりゃしねえ、でもこうやってる間は、余計なもん全部とっぱらって求めあっていられる。たまに痛い目見せられることもあるが、その場合は帰りに懐があったけえから、別にいい。

 男の髪をぐしゃぐしゃにしておれが遊んでいると、男はふと顔を上げ、おれから離れた。少し戸惑った手つきで、おれのせいで汚れたズボンを下ろす。すでに立ち上がったそれを見て、おれは目を細めた。
 身を起こし、少し皺になっただろうタンクトップを脱いでしまう。
 忘れてた、髪を上に押し上げているヘアバンドも外す。癖のついた髪はそれだけじゃ下りなくて、なんだか唐突に気になって髪の毛に触れてみた。自慢じゃないが、綺麗な髪はしていないと思う。色は鮮やかだと思うが、痛んでるだろうし、何より広がるし。こんなんじゃ立ったもんも萎えるんじゃねえかと思うけど、これもまたこういう奴らにとっては「アリ」なんだろうか。
 男は笑いながら、自分のシャツを脱ぎ捨てた。性器同士が触れるようにおれを抱きしめて、可愛いなあ、と繰り返す。男の肩のあたりに唇が触れる。身長差は理解していたけど、少し悔しい。それに加えて、甘ったるい雰囲気になったのが耐えられなくて、おれは男の腕のなかで身じろぐ。脱がされてない靴下が気になって足をぶらぶらさせていたが、男はそれには気づいてくれなかった。

「っうあ……ぅ」

 男は、性器を擦り合わせるように腰を動かした。押しつけられて、離れて、横をかすめて、離れて。くすぐったいのにダイレクトな刺激に、おれの身体は不規則に震える。足の間、尻の方にすっと先端が滑っていったときはなんだか妙にそわそわした。

「これ、入れられたら、おれ、バイクで帰れねえなあ……」

 ぽそりと言ってみると、男はくつくつと笑った。そこまでの料金は貰っていないから(本業が本業だから、そこまでやんのには結構な条件を出させてもらってる。だって困るだろ、万一バイク乗れなくなったら。おれの本業はD‐ホイーラー兼ブラックバードデリバリー運送員だ!)ありえないのだが、口にしてみるとリアルに想像できて、背筋にぞくりと何かが走る。怖いわけじゃない、むしろ、たぶん、これは期待だ。
 男の腹に先端を擦りつけて、肩に押し当てた唇を開閉してみる。すぐに飽きたので頬を擦り寄せて両腕を背中にまわした。けれどその直後、男は上体を起こしてしまう。おれを見下ろす顔に浮かんでいるのは焦り。
 あ、そういうことか。

「なぁ、舐めてやろうか」

 舌を出して提案すると、男はあからさまに狼狽したので、笑いかけて。

「金の話はいいって、サービス」

 ベッドに横たわるように促すと男は最後まで渋ったが、おれが直接張りつめた個所に触れてやると、観念したように横たわった。足の間に四つん這いになって、そそり立つそこをマジマジと見つめる。
 相当溜まってたんだな、そう呟くと男は苦笑いした。そりゃそうだ、おれを買ってる時点で当然の話だよな、言うまでもない。思いながら、決して見た目綺麗じゃない性器の根元を唇で挟む。舌を少しだけ出して、そのまま、上へ。

 根元まで咥えろってよく言われるけど、無茶苦茶だと思う。苦しいし気持ち悪いし毛ぇ邪魔だし。誰が好きでこんなグロいもん咥えんだよ。金もらってるからやるけど。してほしいって言われっからできる範囲でしてやってるけど。
 この男はどうだろう。やっぱその方がいいのか?
 とりあえず様子を見るべく、先だけ咥えた。

「ん、っ?」

 それだけで反応が格段に違ったので、少し驚いた。先端を舌先で弄ってやると、男が息を詰める。目線だけで見上げてみると、たまんねえって顔してて。余裕のない正直な反応だったから、なんだかおれも気分がよくなってきて。
 
「……ん、決めた。飲んでやる、よ」

 宣誓して、半分くらいまで咥えこむ。男の慌てた声がしたが、気にせず進める。両手で根元と袋を弄ってやりながら、唾液で滑りが良くなった部分を音を立てながら唇で扱く。ときどき吸い上げて、零れてくる体液を舌で掬うことも忘れない。初めの内は見上げるたび合っていた目が、だんだんぶれていく。
 くちゅ、と音を立ててしゃぶるほど男の余裕が消えていく。その顔を見て、耐えきれずおれは笑みを浮かべた。
 
 楽しい。
 
 低く呻く声を聞いて、唇を先端まで引いた。それなりに奥まで咥えていた時、ひどい目をみたことがあったから。
 案の定直後に口んなかに出されて、一瞬反射的に目を閉じる。喉まで届いた分を飲み込み、続けて舌の上に溜まった分、広がった分を舐めとるようにして飲み込んだ。いちど唇を開いて、萎えたのを奥まで咥えて、唇の内側で拭いとる。
 最後に先端を小さく吸って、舌で突いておしまい。

「わりと、巧いだろ?」

 汚れた唇の端を舐めとって、その場に座る。シーツの感触がくすぐったくて、むず痒さに笑みを作った唇が震える。男はぼんやりおれを見つめて、身体を起こして手を伸ばしてきた。頬のマーカーをなぞられるとつい顔を顰めてしまう。肩に手を置かれて、少し後ろに押された。

「なに……」

 乱暴ではなかったけれどまたベッドに倒されて、少しだけ動揺する。脱げかけた靴下を履いたままの足首をつかまれ足を開かれて、まだ解放されてなかったおれのそいつに、男が触れる。
 自分より大きな手で覆われて、すこしきつく握られる。そのまま上下に扱かれて、おれは素直に背を逸らせた。

「……やっめ、……んっ」

 手が汚れることすら、男は楽しんでいるようだった。なるほど、応えてやろうじゃねえか、最初と同じに。
 口を開いて首を振って、拒絶の言葉を零しながら潤んだ瞳で男を見る。演技なんてしなくてもいい。おれの身体は楽しいことには正直だから。内腿が震えて、声が引きつって、ひっくり返る。
 してもらうのって、どうしてこんな、

「っ、も、……無理ぃ……ッ」

 たまらなくなってはじけた熱はおれの腹を汚して、さめていった。









「シャワー、どうもっす」

 まだすこし湿り気の残る髪をバンドで押し上げて、皺になったタンクトップを隠すようにおれはジャケットの前を閉じた。頭を下げると男は機嫌良く笑う。その笑顔を見て思い出し、慌ててズボンのポケットから名刺のケースを取りだした。便利だろうからと作ってくれたものだが、未だに使いなれない。なんか照れくさいし。

「本業の方も、御贔屓に」

 名刺を受取って、男はこれが最後といわんばかりにおれの額にキスをした。


 
 登りはじめていた太陽がおれを焦らせる、急いで帰らないと遊星が心配するじゃねえか!

 帰り際に、料金外の金額を握らされたおかげで懐は暖かい。シャワーのおかげで気分もいい。シャンプーのにおいも嫌いじゃないし、今日も晴れそうだし。
 よし、帰ってひとまず寝たら、10時までの荷物運ばなきゃな。


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