だから!!
こんなやつ、大ッ嫌いだ!!
浅黒い肌、彫像のように整った美麗な容姿。
俺だけを見つめる蒼い瞳は宝石なんかよりずっと綺麗だ。
そして鍛え抜かれた、無駄な贅肉など一切ない美しい体。
でも!
湯に濡れたワカメヘアは正真正銘のワカメみたいだ!!
はははははは!!ざまあ見ろ!このワカメ野郎!!
・・・・・。
そのワカメの髪からは水滴がポタポタと落ちて、その美麗な顔に滴り落ちて流れている。
そうだ・・・・これこそ・・・・正真正銘の・・・・・・。
水も滴るいい男!!
なんなんだよ、このムンムンに匂ってくるようなフェロモンは!!
この、絵に描いたような「抱かれたい男 No.1」なエロ野郎はよ!!
「何をしている。早く来い。」
「そんな恥ずかしいモンに入れるか!!」
キーンは今、湯船に浸かっていた。
しかし、だ!
その湯船はただの風呂じゃねえ!!
薔薇の花をいっぱいに浮かべた・・・そう、薔薇風呂だ。
こんなモンに入って様になる男など
いくら世界は広いといえども、そんなにはいないだろう。
ジェフ・キーン。
コイツは紛れもなく、その一人だ。
くっそー・・・・!!
悔しいくらいに絵になってやがる。
「恥ずかしい?何故だ。」
だから・・・!!
あー、もー!!
だからお前なんか大ッ嫌いだって言うんだ!!
恥ずかしげもなくキザな事を当たり前のようにやって見せて。
しかもそれがとてつもなく様になるばかりか・・・・
そこにいるだけで魅力的なヤツなのに
この恥ずかしい薔薇風呂が
もっと、もーーーーーっと!!お前を引き立たせるんだ。
薔薇風呂なんて笑えるほど洒落た設定も、コイツにとってはただの小道具に過ぎない。
普通・・そう、その辺の男だったら
薔薇風呂に飲まれちまうのに、絶対にギャグにしかならないのに
コイツと来たら・・・・コイツと来たら・・・・・・。
だから嫌なんだよ。
そんなお前と薔薇風呂になんか入ったら
俺のほうが平静を保てない。
俺のほうが・・・・・お前を襲っちまう・・・・・・。
「茂野。早く来い。」
キーンがもう一度、その美しい唇からその言葉を紡いだ。
薔薇の中からキーンの美しい腕が真っ直ぐに俺に伸びてきて。
その腕を、そして俺の名を呼ぶ唇を
薔薇の香りをいっぱい含んだ湯が滴り落ちていく、その様子に目を奪われてしまう。
滴り落ちる、その湯になりたいとさえ・・・。
「くっそ・・・。」
俺はヤケクソ気味に覚悟を決めた。
・・・・知らねーからな。
ソソクサと衣服を脱ぎ捨てて・・・。
それにしても・・・・。
無造作に脱いでいく俺って・・・・お世辞にも美しい脱ぎっぷりとは言えないよな。
色気なんて欠片もねーし。
なんつーか・・・興ざめ?
・・・おわ・・・・。
にもかかわらず、こっちはこんなに元気だし・・・。
なんでお前ばっかりそんなにセクシーなんだよ!!
俺、こんなに色気ないしガサツだし・・・なんで、お前は・・俺、なんだよ・・・・。
そういえば、コイツは脱ぎっぷりもカッコいいし色気がある・・・。
・・・つか、何やっても色気があるんだ・・・!!
「脱いだら早くしろ。風邪を引くぞ?」
「わ、わかったよ・・・。」
俺は元気なそれ隠すように湯船に入った。
ああ、ホント、不恰好な俺。
・・・コイツがその気になったら、手に入らない女なんて(男も)いないだろうに
なんでよりにもよって、俺なんだろう・・・・。
そんな事を考えながら
大急ぎで顔が半分隠れるくらいまで浸かってみたら
目の高さに薔薇、薔薇、薔薇・・・・。
綺麗だ・・・・・。
そしてなんていい匂い。
湯に浮いた赤い花びら・・・
ああ、なんだか花畑で風呂に入ってるみたいで夢のようだ。
「何を、そんな隅で沈んでいる。」
それでも沈んだままでいたら、キーンがフッ・・・と微笑んだ。
この微笑み。
これがまた、たちが悪いんだ!!
キーンのこんな微笑みを向けられたヤツは、その気がなくてもその気になっちまう。
また、逆にその気満々なヤツが、別の誰かにこの微笑みが向けられているのを見てしまったら
微笑みを向けられた相手を殺したくなるほど、嫉妬の炎を燃やすに違いない。
それほどのパワーを秘めた、無敵の微笑み。
微笑みだけじゃないか、コイツの場合・・・・。
・・・実際、こいつの周りで情愛の縺れによる殺人沙汰が起きてないのが不思議なくらいだ。
俺がブツブツと考え事をしていたら
「なにを一人でブツブツと・・・。」
その笑みを湛えたまま、キーンは俺の手を引いた。
こいつ・・・絶対俺が考えてる事、お見通しだ。
あーもー、ムカツク野郎だぜ!!
ちょっとカッコいいからって、ちょっと魅力的だからって、ちょっとフェロモンが・・・・!!
・・・・「ちょっと」じゃ、・・・・・ねーよな・・・・。
キーンに手を引かれて、キーンの肩に頭を乗せられて、まるでベッドの上のように胸に抱かれた。
「・・・・・。」
至近距離のキーンの顔。
こんなに近くで見ても・・・こんなに綺麗な・・・・正真正銘の水も滴るいい男・・・。
その唇が近づいてきて・・・・。
だから・・・お前なんか・・・お前なんか・・・・・ダイッキラ・・・・!!
唇が触れる。
風呂に入っている為に、いつもよりあたたかい唇。
しっとりと濡れて柔らかくて・・・薔薇の香りがして・・・・・。
舌が入ってきた。
無理やり絡め取られて摩られて。
ジン・・と体の中心に痺れるような熱が集まってしまう。
キスだけなのに感じてしまう、自分が恨めしい。
キーンの胸に置かれた俺の手につい、力が入って
そしてキーンの美しい胸板に傷を付けちゃったんじゃないかと、心配になりながらも
舌を絡め合わせる、それだけの事が病みつきになってしまったように止められなくて。
唇が離されても尚、舌先で触れ合って。
もう・・・駄目、だ・・・。
お前なんか、お前なんか・・・・・・!!
好き、だ・・・・・大好きだ・・・・・・・・。
唇が離されて、舌も離されて。
至近距離で見つめ合う。
コイツの蒼い・・・不思議な色合いの瞳に酔わされる。
もう・・・ダメだ。
もう、限界!
俺は起き上がってキーンの上に跨った。
そしてキーンのそれを自らの後ろの蕾にあてがう。
「どうした。珍しく積極的だな。」
「・・・・お前の・・・・せい、だろーが。」
キーンは「何の事だ」とは聞かなかった。
したり顔の笑みが憎たらしい!!
そうだ、分かってるんだ、コイツには。
自分の魅力も
香り立つ薔薇の効果も
その香りが移った湯に身を横たえる姿が、どれだけそれを見る者の、ある感情を刺激するかも
何もかも知り尽くしているんだ。
俺がどんな気持ちになってしまったのか、知り尽くした上で、コイツは・・・・!
俺は、ゆっくりと腰を下ろしてキーンの怒張を推し進めようとしたが、キーンは。
「濡れたままでは体を冷やすぞ。」
これだけ煽っておいて突然の保護者ぶり。知るかよ!
「・・・すぐに熱くなる。それに・・・・。」
俺はキーンを見下ろした。
深紅の薔薇と、浅黒い肌のキーンが・・・どう表現してよいのか分からない程に美しいと思った。
「薔薇とお前を・・・見ていたい。」
するとキーンは、また綺麗に微笑んで。
「そうか。」
これが、俺の腰を下ろす合図となった。
チャプン・・・とバスタブの湯が揺れる。
薔薇の中のお前は俺の腰をがっしりと掴み突き上げる。
揺れる湯の勢いが増していく。遂には溢れ出す。
薔薇と共に溢れ出す。
それでも止まらない。
キーン・・・・・!!
薔薇とお前が、俺を狂わせる・・・・!!
そして今、美しい赤い薔薇は、白色の湯に浮かんでいた。
俺とお前は、事後の唇付けを交わしながら白い湯に浸かり、薔薇と共に戯れて・・・。
「どうした。薔薇に酔ったか。」
キーンは再び俺を胸に抱き、頭を撫でながら耳元で囁くが
「・・・・。お前が悪いんだ。」
「・・・・。」
「お前が・・・こんな・・・笑えるほどキザなもんが似合いすぎるから・・・っ!!
つか、普通、入るか?薔薇風呂だぞ?薔薇風呂!!」
「たまには・・・違った趣向の方が燃えると思ってな。予想以上の効果だったが・・・。」
そしてキーンはニヤリ・・と意地の悪い笑みを浮かべる。
俺は思い切り赤面してしまった。そして思い切りカチン・・・ときた。
キーンに湯をぶっかけてやろうと思ったが、そんな俺の行動もすっかりお見通しで
俺の手が動く前に強く強く抱きしめられて後頭部をがっちりと掴まれて唇付けられてしまった。
俺は悔しくて暫くジタバタともがいていたが
やがて・・・舌を交し合うのに夢中になってしまって、そしていつの間にか俺の腕はキーンの背にしっかりと回されて・・・。
結局。
俺はキーンが好きなのだ。
このクソ意地の悪い、自信満々なフェロモン野郎が好きで好きでたまらないのだ。
「あ、・・・。キーン・・・・。」
再び熱が昂ぶりはじめてしまう。
気分は完全に第二弾モードへ突入、って時に。
「出るぞ。」
と、キーンは無情に言い放った。
落胆が俺の顔にありありと浮かんでいたんだろう、キーンはまた綺麗に微笑むと。
「さすがにこれ以上、湯に浸かりながらヤり続けたら風邪をひく。」
「・・・・・。」
「そんな顔をするな。ベッドで可愛がってやる。」
「え・・・。」
「薔薇の中でスッ・・・と立ち、突き上げられて悶える姿は、なかなか扇情的だった。」
そしてキーンは一瞬、舌打ちを打つような顔をして続けた。
「クソッ・・・!ヤり足りない。行くぞ。」
・・・・・驚いた。
あのキーンが感情を露わにするなんて。
で、俺が・・・このガサツな俺が「扇情的」って・・・・。
俺がポカン・・・としていると
キーンは珍しく、少し照れてバツが悪そうな顔をした。
その顔を見られまいと、そっぽ向きながら・・・・。
薔薇に酔ったのは俺だけじゃ・・・なかった?
キーンも・・・薔薇に酔わされて、そして俺と同じ気持ちでいてくれる・・・のか?
なんだか嬉しくて。
たったそれだけの事が嬉しくて。
俺の顔はきっと、喜びに輝いていただろう。
薔薇の移り香が残る、互いの肌を堪能しながら
俺達の、長い長い夜が始まる。
確かに、たまには二人で薔薇の狂気に酔わされるのも・・・悪くない。
end
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2011.9.6)