タカオはスッと手を伸ばした。
天へ向かって。

「紅い・・・。」
サンルームのように天井の一部までがガラス。
そこに浮かぶ紅い月。
今日は皆既月食。
つい先ほど、地球の影に月が完全に隠れた。
いつもは美しく金色に輝く月が、このひと時だけ紅く神秘的な光を放つ。
その紅い月へ向かって、タカオは手を伸ばした。
「カイの瞳と同じ色だ・・・。」
タカオの蒼い瞳は、遥か彼方を追った。

「皆既月食だからな。月は紅く染まる。」

今まさに貫かれ、腕の中で喘いでいたタカオを見下ろして、カイは囁いた。

紅い月、紅い瞳。

「この状態でよそ見とは・・・。余裕だな、木ノ宮。」
「よそ見じゃねーよ。あそこにもカイがいて、俺を見下ろしてるみたいで・・・気持ちいいんだ。」

そして天へと伸ばした手を、カイの首に絡ませた。

「抱いてくれ。もっと激しく。壊れるくらいに。」

紅い月と紅い瞳がタカオを狂わせる。
カイを狂わせる。
紅い月夜は狂気の宴。

月が互いの体を妖しく艶めかしく照らし出し・・・
特定の波長のみが届けられる、この月の光のように
特定の感情のみを刺激し、増長させる。

「カイ・・カイ・・・!!
気持ちいい・・・カイの瞳が・・・紅い光が・・・
ああ、カイ・・・!!
もっと、もっとカイを感じたい・・・・もっと・・もっと・・・!!」

紅い光の魔力に操られ、狂ったように互いを求め合う。
足りない・・・足りない・・・。
打ち込まれれば打ち込まれるほど
打ち込めば打ち込むほど
もっともっとっ欲しくなる。
どこまでも続く、永遠の枯渇。
果てしなく、ひたすらにむさぼり続けて・・・・。







そして。
カイの腕に抱かれ、安らぎの時。
タカオは空を見上げた。
「ついさっきまで、紅い月だったのに・・・今はもう、いつもの月・・・綺麗な満月だ。
さっきまでは宇宙の神秘の中に俺達はいたのに・・・なんか不思議だな。」
カイはフッ・・と小さく笑んだ。
「皆既月食などそうそうあるものではない。
たまには紅い月の魔力に酔わされるのも悪くないかもな。
狂ったように俺を求めるお前の姿。なかなかのものだった。」
そう言われて、ついさっきの自分を思い出し、タカオは思わず赤面してしまった。
「だ、だって・・・紅い月があんまり綺麗で・・・
カイの紅い瞳と紅い月とで・・・世界中がカイ一色になったみたいで
俺、何が何だか分からなくなっちなって・・・!!」
必死に弁解するタカオに、カイは微笑んだ。
そしてタカオの額に唇をそっと落として。
「では、その紅い月に感謝するとしよう。」

美しく輝く満月の光の下、唇付けを交わした。

月の光はいつも人を惑わせる。
人を狂わせる。

ただの満月の輝きでさえ・・・。

カイの唇は次第に降りて行き
タカオの腕は、カイの背に肩にまわされて
そして再び喘ぎ声が響いていく。




月光の魔力に酔わされた夜──────。






















end

裏ベイ部屋へ


2011年11月10日の皆既月食を堪能して、紅い月を見て思わず妄想して日記に上げた話です。
タカオなら、「カイの瞳みたいだ」って言うんじゃないかな〜と。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2012.12.29)










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