降りしきる雨。

カイ・・・何故お前はここにいない?
俺、ずっとお前といっしょに・・・・戦いたかったんだぜ?
それが叶って・・馬鹿みたいに大喜びしちゃってさ。
お前と一緒に世界を旅して・・・またあんな日々を送れるなんて
本当に夢みたいに嬉しかったんだ。
レイとマックスがいないのは残念だけど
俺はお前さえいれば・・・それで・・・
何よりも、お前がそばにいてくれたら・・・・
俺はそれだけで・・・!!
なのになんで?なんでユーリなんだ?
俺じゃ、なんでダメなんだ?
なんで兄ちゃんには言ったのに、俺には何も言ってくれなかったんだ?
なんで・・・なんでだよ・・・・カイ!!

俺がユーリに劣るっていうのか?
俺より、なんで・・・・どうして・・・・・。
なんで俺じゃないんだよ!!

冷たい雨が俺を濡らす。
髪から、帽子から雫が・・滴り落ちて止まらない。

顔も体も腕も足も何処もかしこも
冷たい雨が俺を濡らす。

空を見上げると、どんよりとした雲。
そこから無数に落ちてくる水滴。

気持ちいい・・・・。
冷たい水滴と、熱い涙が混ざり合って
俺の頬を伝って落ちる。

やっと・・・手に入れたと思ったのに・・・・
やっと・・・俺の・・・手の中に・・・なのに・・。
どうしてお前はいつも・・・

掴んだと思ったらすり抜ける。
俺は虚しい空白を抱きしめる。

そばにいて・・。
俺と一緒に。
そして俺とお前の二人で世界の頂点に・・一緒に・・・・。

なのに・・・なんで・・・・。


雨も涙も、お前への想いも、悔しさも寂しさも惨めさも
何もかも洗い流してくれたら。
いっそ、俺という存在ごと・・・全て!!



カイ─────。
何故、お前は・・・ここにいない・・・・・・。


















「やっと捕まえた。」
路地裏の壁に追い詰めて、カイの顔の両側に手を突いて・・俺は心から・・その言葉を口にした。
「もう、何処にも行かないでくれ・・。頼む・・・!」
それは本音。
険しかったカイの表情にふと、柔らかいもが浮かぶが・・それは一瞬だけの事だった。
「俺、お前がいないと・・・・・。」
「フン、甘いな。甘すぎる。」
しかし俺の懇願など物ともせずに
カイは俺をキツイ瞳で見据えて、吐き捨てるように言い放った。
「本当に強くなりたいなら・・・修羅に身を置き、たった一人で己を磨き上げろ。
いつまでも甘ったれるんじゃない。」
「カイ・・・。」
そんな苦言も、カイのその唇を通して出ると愛の言葉にしか聞こえない。
俺はその唇に、ゆっくりと俺のそれを近づけた。
どう強がっても体は反応するものだろう、と踏んでのこと。
しかし。
ガツ・・・・!!
「・・・・っ!!」
舌を噛まれた。
それはまさか、の反応。
俺は条件反射で飛びのいて口の端から流れる血を拭う。
「・・・たった一度のことで・・勘違いされては困る。」
カイも口元を手の甲で拭いながら、その紅い瞳を輝かせて。
「!!」
「お前のものになった覚えはない。」
「な・・・何言ってんだよ・・・。」
「・・・。これだからガキは・・・。」
「なっ!じゃ・・・じゃあ、なんであの時・・・・お前は・・・・!」
「ただの気まぐれだ。」
「気まぐれ?」
「押し倒したのはお前だろう。俺は・・・ただ、なんとなく抵抗する気が起きなかった。それだけの事。」
「な・・・何、言って・・・!」
「それだけの事で自分のものだと勘違いされては迷惑だ。」
「・・・・!!じゃ、じゃあ・・あれは・・・・ただ、なんとなく・・・!?」
「貴様はなんだと思ってたんだ。まさか俺がお前に本気になったとでも?」
「お、俺・・・・!!」
俺はカーッ・・と顔に頭に血が上っていくのを抑える事が出来なかった。
「・・・。俺はお前と違って・・・何人もの男の手に抱かれてきた。
お前は俺にとって、その中の一人に過ぎん。」
カイは瞳を逸らしながら言う。
「しかし・・・どうしても、と言うのなら、また遊んでやってもいい。」
カイはマフラーをゆっくりと解き始めた。
その物憂げな表情。
そしていつも隠されている首筋が顕になっていき・・・・自然、一度きりのあの時を思い出してしまって。
その手馴れた誘い方。
「ば、馬鹿にするな!!」
気付けば俺は大声で叫んでいた。
「遊んでやってもいい、だと?ふざけるんじゃねえ!!」
カイはマフラーにかけていた手を止めた。
「俺・・・俺は・・・俺は本気だった・・・俺は本気でお前の事を・・・・・!!」
「・・・・それは・・・すまなかったな。」
「!!」
カイが・・あのカイがこんなにあっさり謝るなんて・・・・。
「俺などに本気にならない方が貴様の為だ。
俺にとってセックスなど・・大した意味を持たない。挨拶程度・・いや、それ以下かもな。」

わからない・・・・何を言っているのか、何が言いたいのか・・・
全然・・・さっぱり・・・・わからない・・・・!!

でも俺は、本当に・・・
そう、初めて会った、あの瞬間から・・・・本当にカイが・・・・!!

「馬鹿・・野郎・・・・・・。」
最初は搾り出すように。
「・・・・っ、馬鹿野郎!!」
今度はカイを睨みつけて大声で。
叫びながら拳を思い切り突き出した。
カイは避けなかった。
でも俺は元々当てるつもりじゃなかったから・・・カイのすぐ脇の壁に当たった。
俺の拳から流れた血が、壁を伝って落ちていく。
その間中、カイの瞳は俺に、俺だけに向けられていた。
何が言いたいのか。
「すまなかった」、「挨拶以下の行為」だったと・・そう、伝えたい瞳には見えない。
ただ、何かを強く訴えようとしている、強固な意志とでも言おうか。
カイの意思は変えようがない、それだけは嫌というほど伝わってくる。

カイの瞳と、カイが言う言葉と・・・・それらが、何かとんでもなく正反対なように見えた。

しかし何がどうであろうが、カイの意思は変わらない。

俺は血に濡れた指先でカイの頬に一瞬だけ触れる。
何を思っていたのか分からない。
意識などしていなかった。
ただ、頬に触れたかった。
カイの頬は、あの日と同じようにあたたかくて柔らかかった。
そして。

そのまま背を向けて走り去った。
カイのいる路地裏から・・・一目散に・・・・ひたすらに駆けた。

雨の中、俺の涙も流れる血も、全て雨に紛れてしまうのを願いながら・・・・・・・。





















「・・・・。つくづく不器用なヤツだな。」
そんな失礼な事を言いながら現れたのは
白い白い肌にオレンジ色の髪、そしてアイスブルーの瞳を持った少年。
「・・・・。なんの事だ。」
カイはそう言いつつ、そっぽを向く。
「まあ、俺には関係ないがな。」
「そうだ、貴様には関係ない。バトルに勝ちさえすれば、文句はないだろう。」
「・・・・。当然だ。勝ちさえすれば・・・な。」
「・・・何が言いたい。」
カイはユーリを睨みつける。
「別に、そのままの意味だ。俺はお前のプライベートにまで関与するつもりはない。」

「・・・・・・。」
「しかし・・・お前は幸せにはなれないタイプだな。」
そんな尤もらしい事を言い出すユーリに、カイは笑って言い返した。
「貴様の口からそんな言葉が出るとはな。
ユーリ・イヴァーノフともあろう者が・・・随分と腑抜けになったものだ。
ヤツの元にいた時の方が、ずっとマシに見える。」
ヤツとは・・・。言うまでもなく、あのヴォルコフだ。
「なんとでも言え。俺は素直に感じたままを言ったまでだ。
俺にはまだ人の感情というものが、よくわからない。
そんな俺でも今の場面を見て、そう思った。何か間違っているか?」
そう、悪びれもせず逆に問い返すユーリに
「俺の最たる望みは最強の称号を得る事だ。それ以上もそれ以下も有り得ん。」
すると、ははは・・・、とユーリが笑う。
「何が可笑しい。」
「まあいい。さっきも言ったように・・・
勝ちさえすれば、お前がどこで何をしようとも、このネオボーグでは誰も文句は言わん。」
フン・・・と鼻を鳴らすカイ。


ユーリは物心着いた頃から、つい数年前までずっと
最終兵器として扱われていた男だ。
その為、人間の感情というものが未だ理解しきれないところがある。
しかし数年前のあの世界大会で、タカオと戦って初めて・・・・・。
初めて人の心の優しさ、強さ、弱さ、悲しさ・・・・そんなものに触れて
そして初めて人間らしい笑みを浮かべることができた。
人らしい感情を初めて持てた、そんな瞬間だった。

だからユーリにとってもタカオは「特別」な存在。
はじめて人間らしい笑みを与えてくれた存在。
しかしユーリにはまだ「恋愛」というものが理解できない。

カイと肌を重ねても、何度重ねても理解できなかった。
これがもしタカオなら違っただろうか・・・そう思ったことがない訳ではない。

だが・・・・。

  カイ、お前が俺に対する時とタカオに対する時、その違いくらいは見ていればわかる。
  また・・・・タカオが俺に対する時、カイに対する時の違いも。
  俺にはまだ人の心は難解すぎて理解できん。
  理解せぬまま肌だけを交わし続けた俺達は、世間一般から見たら異常なのだろう。
  俺達はそういう風に育ってしまったのだから今更どうしようもない。

  俺には届かぬ光────。
  しかし。
  お前なら届くかもしれないのだろう?

そんな事をユーリは思ったが・・・。



あまりにもユーリとカイは、ボリスもセルゲイも・・・・あのヴォルコフの元、世間一般からかけ離れた育ち方をし過ぎた。
あまりに・・・・・。

勝ち進む事が出来た者だけに与えられる未来。
あの地獄を地獄と感じることも出来なかった。
あれが日常、だった。
そしてヴォルコフの異常な性癖。
ヴォルコフに無理やり可愛がられる日々。
時にはヴォルコフの目の前で性交や自慰を強いられた事も何度もあった。
ヴォルコフはワインを傾けながら、薄笑いを浮かべながら
その一部始終を、まるでショーでも見るように眺めていた。
そんな異常な状態ではあったが、とにかく性の快感を知ってしまった彼らは
時々それぞれの部屋で、適当な相手とそれをした。
それだけが楽しみだった、のかもしれない。
それを、世間一般では「愛し合うもの同士」がする行為だということを
ユーリは、いやユーリだけでなくあの修道院にいた者たちは
ヴォルコフから開放されて初めて知ったのだ。

そしてそれはカイも同様だった。
が、しかしカイは、カイだけは
あの偶然の事故によって幼くして日本に返された。
その分だけカイは地獄を味わった期間も短く、また、より早く人の心を取り戻しつつあるようだ。
ヴォルコフにとっては皮肉な事態だったが。
ヴォルコフは誰よりもカイを可愛がっていたのだから。

とはいえ・・・・。
一度沁み込んでしまった常識、というものは
そう簡単に覆せるものではない。
あの世界大会の間、一時ボーグに戻ったカイは・・・・結局・・・・・。
そして現在、ユーリとカイの間では未だ・・。
しかし、そこに愛はない。
それはカイにもユーリにもわかっている。
カイが求めているものもユーリには分かっていた。
ユーリが求めるものが・・・・カイと同じだろう事も。
ユーリには全てわかっていた。
自分が本当の意味でタカオを手に出来る日など来ない事も。
しかし、不思議とそれほど悲しい気持ちにはならなかった。
それは、やはり人としての感情の欠如ゆえか、
それとも自分と幸せとは無縁だと考えていたからか
それはユーリには分からなかった。

  俺には所詮、さほど縁のなかった光、だ。
  でもお前には・・・お前なら・・・・・・。


そう、思っていたとはいえ、仲を取り持ってやろうとまで考えるほど
ユーリは世間に慣れていない。

  いずれ、なるようにしかならない。

当人以外、誰がどう頑張ろうとも結局はそういう事なのだ。
そして世間一般の観点から見たら大きく矛盾しているが
恐らく今夜もユーリとカイは・・・・・。

これも当然・・・・タカオには到底、理解し得ない事。


  俺には縁のなかった光ではあるが、あの光と・・・この紅い宝石が
  今、この状態からどうやって一つになるか。
  それを見届けるのも、なかなか楽しいかもしれんな。
  本人同士はどう思っているかは知らんが・・
  どう見ても惹かれあっている・・それはあの世界大会の時からそう見えた。
  だから俺には立ち入る隙などないと・・・あの時はその感情を自分では良くわからなかったが
  後になって・・・外の世界を勉強しているうちに・・自分の感情も少しは分かるようになった。
  しかしカイがもたついているのなら、俺が・・・という気にまではなれない。
  それは恐らく俺がまだ世間慣れしていないから。
  今は。
  しかし・・・俺も成長する。
  その時になって、まだもたついているようなら・・・それは分からないな・・・・。
  今はまだ・・・そこまでしたいとは思わない。

  タカオという光・・・・俺には眩しすぎて。
  あまりに地下に篭り過ぎた・・・俺達は。
  だからといってカイを羨ましいとは思わない。
  俺にはまだ、恋愛という感情は難解すぎる。



「カイ・・・。」
ユーリは自分の下で悶えるカイに話しかける。
「・・・なんだ。」
「お前、どうやって・・あの木ノ宮を誘った?」
「・・・・・・。何故そんな事を「今」聞く。」
今とは。
今はまさにカイはユーリに貫かれている状態だった。
「今だから思った。
俺達の間ではこういう事は当たり前の事だが、世間ではそうではないらしい。
そもそも、この歳でこういう経験がある方が少数で
しかも一般的には異性間で行うものだとか。」
「・・・・・。」
「俺もあれから色々世間というものを勉強したが・・・
木ノ宮のようなタイプは一番、こういうこととは遠い存在のように思った。」
ユーリはどこまでもマイペースに、思った事をただ口にしているに過ぎない。
「別に・・・。話をしていたらいきなり押し倒された。だから相手をしただけだ。」
「その時、お前は「抱かれた」のだな?」
「・・・・どういう意味だ。」
カイの紅い瞳に鋭い光が走る。
しかしユーリは。
「いや・・例えばだな、俺が木ノ宮とどうにかなった場合
俺が木ノ宮を抱くのか、木ノ宮が俺を抱くのか、どちらなのだろう?と・・・・。」
「お前が・・木ノ宮と?」
「そうだ。
しかしどう考えても俺は自分が木ノ宮に抱かれている状態を想像できない。
それは木ノ宮とて同じだろう。
その場合どちらがどちらを抱くんだ?挿れた者勝ちなのか?」
「・・・・・。ユーリ、お前・・・・・。」
「・・・・。どうした?」
カイはユーリの心を探るように見つめるが。
「・・・・そうだったな、お前もヤツに救われた者の一人、と言う訳だ。」
そう言って、ふふ・・・と笑んだ。







外は雨。
窓ガラスに雨粒が叩きつけられては、伝って落ちる。

やまない雨。

タカオの心の雨と、カイの心の雨。
そしてユーリの・・・。

この雨が止む日は来るのだろうか。

縺れた赤い糸は雨に濡れて、尚一層、絡まりはしないか。

雨に紛れて・・涙も、感情も、縺れた糸も何もかも・・・流れてしまえ、と・・・・。



雨、雨・・・・雨が降る───────。



















end


覚えていて下さった方もいらっしゃるかもしれませんが
冒頭のタカオ独白は、日記に書いたものです。
それからつらつらと続きを書き始めて・・・数ヶ月(汗)。
何をどうしたくて書いた訳ではなく
ただ、この頃のタカオやカイの心の迷路を思って書きました。
この先、タカカイでハッピーエンドになる事は既に公式で放送されていますので(すみません・・!!)
まあ・・それは書かなくてもいいだろうと。
とにかく、この頃の心の闇を思ってしまって。
そしてユリカイもどき。初挑戦です。
実際はどうだったんでしょうね、この二人。
無印を見る限り、カイがヴォーグに戻ってからのユーリとカイを見て
この時初めて出会ったように見えましたが・・。
「新入り!」と言って目の敵にしてましたし、ユーリはカイを。
でもこの時、初対面なら
なんでユーリはBBA代表に決定済みのカイにラブコールを??とも思っちゃいますし。
まあ・・それはいくら考えても謎のままのような気がするので、勝手に考えちゃいましたが。
それからユーリはやっぱりタカオじゃないかと思っています。
カイとは体の関係はあったかもしれませんが、それは修道院時代の習慣からであって。
無印最終回のあのユーリの綺麗な微笑み。
これを見てしまっては、ユーリは絶対にタカオだと!!
ユーリもタカオという光を求めて止まないのだと・・・・。
これらを踏まえると、この話は
タカカイ大前提、ユリカイ&ユリタカ・・・・という、ややこしい事に・・・・。
本当に・・こんなややこしい、しかもどうにもならない話をここまで読んで下さり・・・ありがとうございました!!
(2010.3.15)




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