出勤は思ったとおり大変だった。
マンションの敷地の出入り口付近には、マスコミが大勢・・・。
俺はいつもは電車通勤なんだけど、暫くは車で通おうと思わざるを得ない状態だった。
とにかくマスコミはとんでもない勢いで、轢かれてもいいからその表情をカメラに!
何か一言でもコメントがもらえたら、腕や足の一本や二本折れても構わない!!と言わんばかりの群がりようで。
車でそいつらを本当に轢いちゃわないように、かなり苦労した。
カイも大変だったんだろうな〜と想いを馳せながら、俺はBBAへ車を走らせた。
BBAに着くと、予想どおり色んなヤツに色んな事を聞かれたり言われたり。
大体において同性愛というのもが理解できないようで
言われる事は遠まわしだったり露骨だったりだけど、主旨は似たようなものばかりだった。
何もかもが予想通りで俺は別になんとも思わなかった。
それよりも・・・昨夜カイが言っていたように・・・
もう、隠す必要はないのだ。
その事の方が、ずっと嬉しかった。
大転寺会長から呼び出しを食らった時は正直どうなるか、とも思ったけど
やっぱり、おっちゃんは昔からのおっちゃんのまま。
世間を騒がせた事へはチクリ・・と言われたけど
やっぱり俺とカイの事は子供の頃から気付いていたみたいで、結局は応援してくれた。
そして週刊誌で大々的に騒がれる前に、こちらから打って出たのは結果的には良かったと思います、とも言ってくれた。
「暫くは大変でしょうが、頑張って下さい。あなたとカイくんなら大丈夫です。」
「・・・ありがとうございます。」
俺は心から頭を下げた。
一方、カイ。
「おはようございます。」
「ああ。」
「昨夜のテレビ、拝見しました。ですが発表前に私にメール下さり、ありがとうございました。」
「・・・・・・。」
「予想通り、あれから、当社にも電話やメールが殺到しておりますが
社長の指示通り、発表以上の事は何も言う事はない、火渡は関与していないと答えさせております。」
「そうか。ありがとう。」
「・・・・・・。」
社長がお礼を言うなんて。
秘書は少なからず驚いた。
しかしこれは社長が今回の事・・・木ノ宮タカオとの事を真剣に考えている証だろう。
「言いたいヤツには言わせておけばいい。
マスコミもそのうち新たな標的を見つけるだろう。問題なのは・・・・・。」
「そうです。付き合いのある会社やその他の関係です。
実際、社長に数々の縁談がその関係から持ち込まれていました。
・・・しかし社長はその全てをキッパリ断って参りました。
変に気を持たせるような事は一切しておりませんので、それを問題にするのは筋違いです。
多少、恨みがましい気持ちは残るかもしれませんが、火渡を敵にしては彼らも生きてはいけません。」
「どうした。昨日はあんなに驚いていたのに今日はやけに・・。」
「私も腹を括りました。」
秘書はニッコリ笑った。
「発表前に私にメール下さって・・・本当に嬉しく光栄に思いました。
私を信頼して下さったご恩返しに、火渡に尽くしたく思います。」
カイはフフ・・と微笑む。
「雑談はここまでだ。早速だが・・・。」
「はい。先ずはこの書類を・・・・・。」
書類に目を通すカイの表情は、とても明るく見えた。
その左手の薬指には、昨夜タカオに貰った指輪が朝日を受けて輝いていた。
それから。
俺達の報道は世界中を駆け巡った。
それを聞いた旧友、先ずはレイとマックスからお祝いの電話がBBAに入り、その後も当時のライバルから次々と。
そして。
BBAがそんな、歴史に残る名選手の相手ばかりしているうちに自然とこの企画が持ち上がった。
彼らはお祝いがてら、「またタカオ達とバトルがしたい!」と口々に言ったのだ。
それなら・・・・。
近々開かれるベイブレード世界大会予選の前日、エキシビジョンとして
「初代世界チャンピオンBBAチームvs当時のライバル選抜チーム」を行おう、という事である。
そしてそれは案外簡単に実現してしまった。
「タッカオ〜〜〜〜〜!!久し振りネ〜〜〜〜〜!!会いたかったヨ〜〜〜〜!!」
遠くからタカオを見つけると、一目散に走ってきてタカオに飛びつくマックス。
抱きつき癖は20代半ばになった現在も健在である。
甘いマスクに金髪碧眼。
マックスは、それはそれは魅力的な青年となっていたのに、やる事は子供の頃からちっとも変わらない。
「アメリカで二人の話を聞いた時は、本当に嬉しかったネ!!」
「ありがとな、マックス!」
「俺も・・・旅先で聞いた時は驚いたが、ようやく収まるところに収まったな。」
懐かしい声に振り向くと、そこには・・・。
「レイ!」
昔と良く似た白い中国服に身を包んだレイの姿。
「久し振りだな。」
ニッコリと笑うと相変わらず白い牙が覗き、それがキラリ・・と光った。
相変わらずの眩しい笑顔。
この笑顔に一体何人の女が、男が騙され続けてきた事だろうか。
「マックスもレイも・・・本当に久し振り!また会えて俺もうれしいよ!!」
マックスは現在、PPBで母ジュディと共に研究に勤しむ日々。
レイは相変わらずの武者修行。
「今は俺が一番強いんじゃないか?みんなぬるま湯に浸かってしまったからな。」
とレイが笑う。
「それは聞き捨てならないネ。」
マックスが不適な笑みを浮かべ
「俺だって絶対、誰にも負けねー!!」
俺が鼻息荒く宣言する。
「皆さん!今日はチーム戦なんですよ?互いに牽制しあってどうするんですか!!」
キョウジュがピシャリ!と締める。
そんなやり取りがまるで、大昔のあの頃のようで。
つい、笑みがこぼれた。
きっと俺達は幾つになっても・・・このままでいられる。
変わっていくもの、変わらないもの。
世の中の技術がどんどん進歩して変わっていく中で・・・この変わらない関係が嬉しかった。
「ところでカイは?」
皆が俺に聞いた。
「ああ、あいつは相変わらずギリギリまで仕事から離れられないみたいで・・でも、間に合うように来るって言ってた。」
かつてのライバルの面々も、次々タカオの所へやってきた。
まずアメリカチーム。
メジャーリーガーとなったマイケル。
昨年のウィンブルドンを最後にテニスを引退し、今は研究に勤しむエミリー。
(密かにキョウジュとメールのやり取りをしている事は、公然の秘密である。)
残りの二人は来る事は叶わなかったが、バスケやフットボールの一流選手として活躍中。
中国チームは誰一人、来る事は叶わなかったが
ライから心のこもった長い手紙を、俺はレイから受け取った。
ユーロチームからはジャンカルロとオリビエが。
他の二人も現在はそれぞれ財閥のトップを勤めていた。
そしてロシアチームからは、ユーリとボリスが来てくれた。
ユーリはなんと医者になっていた。小児科医だそうだ。
あれから人間らしい生活に少しづつ慣れていったユーリは
だんだんと孤児や虐待された子供、愛をもらえなかった子供を救いたいと思うようになったらしい。
医者のいない地域に行っては医療活動を行ったり、ボランティアをしたり・・そういう活動をしていた。
ボリスはそんなユーリをひたすら支えてきた。
ボリスは修道院時代からユーリに心酔していたので
ボリスも医師の免許は取っていたが主にボランティア活動をしていた。
そしてユーリの行く所へは必ずついて行って、満足な医療を受けられない者、中東などの戦災孤児、愛をもらえなかった子供達を助けて回っていた。
ボリスにはおどけたひょうきんな所もあったので、心に傷を負った子供達は素直にボリスを慕った。
そんな彼らもなんとか日程を調整して来てくれた。
しかしこれではBBAチームが4人に対してライバルチームは6人になってしまう。
「あたしはサポートでいいわ。データが沢山取れそうだし。」
と真っ先に言って出たのはエミリー。
「大会の後に、ちょっと気晴らしにバトルさせてくれれば。」とニッコリ笑った。
「じゃ、俺もそれでいいぜ?」とボリスも言った。
「・・・・別に総当たり戦でもいいけどな〜。そのほうが面白そうだし。」
と俺。
素直に口をついて出た言葉なのだが
一応形式は形式なのでちゃんとしなければ、という所に収まった。
皆が和気藹々と当時の話、現在の状況で盛り上がっていた時。
バタン・・・・。
と扉が開く音がして、皆の視線が一斉にそちらへ注がれた。
背後から日の光を浴びているため、そのシルエットのみが先ず目に入る。
たなびくマフラー。
皆が息を呑んで見守る中、その人物は二三歩、歩を進めて入ってくる。
黒や青、紫を基調としたバトルスーツ、頬には青いペイント。
「カイ!!」
俺は思わず叫んだ。
「待たせたな。」
落ち着いたハスキーボイス。
バトルスーツ姿のカイなど何年ぶりだろう?しかもマフラー、ペイント付き・・・。
感動の涙が溢れそうになった。
カッコいいぜ・・・お前は最高にカッコいいぜ!!
「相変わらず、派手な登場だね〜。」
口笛を吹きつつ、冗談交じりに肩をすくめるジャンカルロ。
あっという間に俺とカイを皆が囲んで祝ってくれた。
現在も世界レベルで活躍中である面々が、こぞって俺とカイを祝福してくれるのを見たからか
ただでさえ、伝説の英雄を「一目この目で!」と集まってきた観客達だ
その英雄達にならって観客も拍手や歓声を送ってくれた。
まだ大会は始まってもいないのに、割れるようなこの拍手、歓声。
これには俺達も驚いてしまって。
これではまるで結婚式だ。
俺達は思わず呆然としてしまって。
「タカオ、何やってるんです?」
キョウジュが突っつく。
「カイも突っ立ってないで〜!」
マックスがニコやかに。
予期せぬ展開にカイが戸惑った瞳で俺をチラリ・・と見上げた。
なんだかとても幸せな気持ちになってしまって・・俺はカイに微笑を返すと、その手をしっかりと握った。
「行こう、カイ。」
「え・・・、おい!」
「いいから。」
半ば無理やり、俺はカイと二人で皆の輪から前へ出て
カイの手を取ったまま、その手を上げて観客に応えた。
「ありがとう!みんなありがとう!!」
すると更に割れるような拍手、歓声が沸き起こった。
なにやらおかしな錯覚に陥ってしまう。
拍手、歓声。祝福の声。
その中心には俺とカイ。
昔からの仲間ならともかく・・・
いや、しかしここに集まってくれた人達は
昔からずっと、俺達の事を見守ってきてくれたであろう人達だ。
それでも。
これだけの人が俺達を祝福してくれて・・・・
胸に込み上げるものを感じざるを得ない。
それはカイも全く同じだったようで
紅い瞳が・・少し潤んで揺れていた。
幸せを噛み締めるように俺を軽く見上げるカイ。
・・・それがとても綺麗で・・・・。
その時、歓声も拍手も遠のいて聞こえなくなり、世界には俺とカイの二人きり。
カイのたなびくマフラーが花嫁のヴェールのように見えて・・そのカイが俺だけを見つめている。
カイのあの紅い瞳には俺しか映っていない。
心から・・・幸せで・・・・・・・・。
俺は思わず、そのままカイに唇を・・・・・・。
と、次の瞬間、カイの拳骨が見事、俺の頬に決まっていた。
「って〜・・・・・!!」
観客からどっと笑いが沸き起こり、一気に現実へと引き戻され
カイはフン、とマフラーをひるがえしスタスタと立ち去ってしまった。
ポツン・・と一人、残されてしまった俺。
しかし笑いや歓声、拍手は鳴り止まない。
どうしたものか、と思ったけど、え〜い!と俺は今度は一人で手を振った。
「みんな〜!ありがとな〜〜〜!!」
「さ〜、盛り上がってきたところで!!」
と、突然DJの声が会場に流れる。
「Ladies and Gentlemen!!」
幾分歳をとった、しかしとても懐かしいブレーダーDJの登場だ。
「ここに集まってくれたみんなには、もはや説明不要だと思うが〜!
ベイブレード界の伝説となった初代BBAチームと
当時のライバル選抜チームによるエキシビジョンマッチの始まりだ〜〜!!」
響き渡る歓声。
・・・懐かしい。
ずっとBBAに属してきたのだから、この歓声を聞くのはいつもの事だったが
歓声の中心になったのは久し振りの事だ。
「ざっと見渡してみると、子供より大人のほうが多いかな〜!?
さては、この初代BBAチームと同じ世代か?
BBAや当時のライバル、そしてここに集まってくれたみんなも一緒に年をとって成長してきた〜!
でも、今日だけは子供に戻って!
同窓会のような気分で楽しもう!楽しんだもん勝ちだ〜〜〜〜!!」
再び割れるような歓声。
帰ってきたんだ。
俺達は、ここに─────。
あれから・・・いろんな事があった。
それは俺達だけでなく、レイやマックスもキョウジュも
あの時のライバルも
そして会場の・・・一人一人も・・・
様々な経験、試練を乗り越えてきたんだろう。
嬉しかった事、辛かった事をそれぞれに乗り越えて。
そして今、俺達は皆、ここにいる。
選手と観客。不思議な一体感が会場を覆った。
「一番手は誰にします?」
「俺!俺、俺〜〜!!」
「・・・・そう言うだろうと思いました。じゃあ、タカオ、頑張ってきて下さい!」
「おっしゃ〜〜〜〜〜っ!!」
「どうやらBBAの一番手は木ノ宮タカオ選手だ!
対してライバルチームは・・・オリビエ・ポーランジェ選手〜〜〜!!」
「オリビエ・・・。懐かしいな。パリを思い出すぜ。」
「久し振りだね、タカオ。」
ニッコリ、と微笑むその表情は相変わらず美しかった。
「じゃ、カイ。行って来るぜ?」
俺は皆の激励を受けた後、最後はカイに瞳を向けた。
カイは皆のように俺のそばに近寄ることなく
あの遠い昔のように、ベンチに座ったまま腕を組み、紅い瞳だけを俺に向けて。
「・・・。油断するな木ノ宮。ユニコリオンには角があるぞ。」
それは、あの世界大会の旅の途中
まさにオリビエとバトルしていた、その時。
木陰からカイがアドバイスしてくれた言葉。
姿は現さなかったけれど、皆の歓声が凄かったけど
あの時、俺にはカイの一言がハッキリと聞こえたんだ。
俺は無言で微笑を返した。
カイも口元だけで笑い・・
そして俺はスタジアムに向かう。
カイの瞳を背中に感じながら、あの頃のように。
カイに恥じないバトルを、そう思いながら戦い続けた、あの頃のように。
スポットライトが眩しい。
こんなに眩しかったっけ。
歓声。
チームメイとの激励。そしてカイの強い視線。
スタジアムは何一つ、変わっちゃいない。
対するオリビエも、皆も。
ベイに対する情熱は何も変わらない。
取り巻く環境や立場は色々変わってしまったけど
スタジアムに立てば、俺達はいつだって、あの頃に戻れる。
気付けば俺は涙を流していた。
「・・・っと・・・いけねえ・・・。」
慌てて袖でゴシゴシと拭う。
そんな俺を見ていたオリビエは。
「タカオ。色々あったようだね。特に今が一番大変な時かな。」
「・・まあな。でも、俺は・・俺達は大丈夫だ。
一人じゃないから。皆がいてくれるから。」
「・・・そのようだね。」
オリビエは小さく笑んだ。
きっとオリビエも色々苦労した上で、この場に立っているのだろう。
しかしオリビエにそれを聞いた所で何も言うまい。
「そんな事、僕が言うと思うかい?美しくないだろう?」とでも言って。
「その、「皆」の中に僕も入っているのかな?」
オリビエは俺に問いかけた。
俺は即答。
「勿論!」
それを聞くとオリビエはもう一度、本当に綺麗に微笑んだ。
「じゃあ・・やろうか。」
「おお!!」
「3,2,1・・・・go shoot!!」
「いっけ〜〜〜〜!ドラグーーーーン!!」
楽しかった。
本当に楽しかった。
エキシビジョンマッチが終わった後も
一応「大会」としては終了したのだが
大転寺会長の許可の下、俺達はバトルし続けた。
楽しくて楽しくて。
時間を忘れるほど楽しく熱中してバトルしたのなんて何年ぶりだろう?
観客も殆どが残ってくれて俺達のバトルを応援してくれた。
DJまでが残って盛り上げてくれた。
そして文字通り、総当たり戦が終了した後、皆は名残惜しげに帰っていった。
それぞれの立場へと。
それぞれの生きる場所へと。
帰り際、皆が俺とカイにお祝いと激励を言いに来てくれて
最後はユーリが来てくれた。
「木ノ宮は相変わらずだな。お前ならどんな逆境にも立ち向かう事が出来るだろう。」
「ありがとな?ユーリ!
お前が医者になったって聞いて最初は驚いたけど
でも良く考えたら、ユーリにはこれ以上の天職はないんじゃないかって、だんだん思えてきた。
あれから頑張ったんだな。」
ユーリはそれには微笑で答えた。
そしてユーリはカイへ瞳を向けて
「カイ。」
「・・・・。」
「お前が幸せになれたようで俺も嬉しい。」
カイはフッ・・と笑んだ。
「心配はしてない。頑張れ。」
カイの肩をポン・・とたたいて立ち去ろうとするユーリに、カイは声をかけた。
「ユーリ。」
「なんだ。」
ユーリが振り向く。
「お前は今、幸せか?」
するとユーリはアイスブルーの瞳を輝かせた。
「ああ。やり甲斐のある仕事で毎日が充実している。」
「・・・そうか。」
同じ修道院の仲間だったユーリ。
あの頃は氷のように冷徹で、とても人の心のあたたかみなどとは無縁の男だった。
そしてそれはカイも同様。
しかし今は、カイもユーリも、それぞれに生き甲斐を見つけ、大切なものを見つけ、充実した日々を送っている。
あの頃から考えたら、今の姿など想像もできなかったが・・・。
「ユーリ。俺も心配はしない。お前なら大丈夫だ。」
それを聞いてユーリはハハ・・と笑った。
「お前、本当に変わったな。」
「・・・貴様に言われたくはない。」
そう言い合うと、二人して瞳を見合わせて、ふふふ・・と笑いあった。
「じゃあな。また会える日を楽しみにしている。」
そして今度こそ、ユーリも立ち去った。
つい、さっきまで
この会場には溢れんばかりの観客と、旧友、好敵手達がいた。
熱いバトルが繰り広げられていた。
しかし今は、タカオとカイ
このガランとした会場に二人、佇んでいるだけだった。
静かな会場。
先ほどまでの熱狂振りが、今、ここにこうしていると夢のように思えた。
でも、あの時間は確かにあった。
過去の出会い、別れ、沢山のバトル、様々な出来事、嬉しかった事楽しかった事、辛かった事。
これらがいっぱい積み重なって、そしてタカオとカイは今、ここにいる。
これからも色んな事が起こるだろう。
それこそ退屈なんてしてる暇がないくらいに。
それを一つ一つ積み重ねていきたい。
二人で。
「俺達も帰ろうか。」
タカオはカイに微笑みかけた。
「そうだな。」
そしてタカオはカイにスッ・・と手を差し出した。
カイは迷う事無くその手を取る。
カイはふと・・・思い出した。
今まで何度、この手に助けられてきた事だろう、と。
バイカル湖で、ブルックリンとの戦いの中で
沈み行く俺を、この手がいつも・・・救ってくれた。
この手を取れば、俺は何処へだって行ける。
お前と共になら、何処へでも・・・・。
この先、何が起ころうと、タカオとなら・・・・生きていける・・・・・・。
それから。
あの日のエキシビジョンマッチが全世界に放送された事もあってか
俺とカイの関係を叩かれる事は少なくなった。
それでも陰口を言う者はゼロではなかったが
しかし、マスコミに追い回されるような事はなくなった。
毅然とした態度を取り続けていれば
単なる同棲ではなく、生涯を共にする覚悟だと伝われば、いつか必ず・・・と思っていた。
そしてそれは間違いではなかった訳だが
やはりメディアの力は大きい、と思わざるを得ない結果だった。
「なに不満そうな顔してんだよ。」
「しかし・・これでは俺達が勝利をもぎ取ったとは言えないではないか。」
「そうか?あのエキシビジョンマッチで、お前も俺も大活躍だっただろ?
それを世界が見た結果がこれなんだよ。
あのバトルやあの盛り上がりを見て、俺達を見る目が変わったんだ。
十分、俺達の力でもぎ取ったと思うぜ?
勿論、みんなの・・・あの時集まってくれた観客やDJも含めて、みんなのお陰も大きいけどな。」
「・・・・・。」
「仲間って・・・いいよな。
真剣にバトルして分かり合えた仲間は、こうやって何年かぶりに会っても、あの頃と同じ気持ちで分かり合える。」
カイは何も言わずに俺を見つめていた。
「俺、ベイブレードに出会えてよかった。
ベイに出会って、俺は大切なものをいっぱい見つけた。
その最大のものは・・・カイ、お前だ。」
俺はカイを見つめる。
「俺は・・・「モノ」か。」
と、文句を言いながらも
頬を染めつつ、カイも俺を見つめてくれた。
紅い・・・宝石よりもずっと綺麗なカイの瞳。
俺ははじめてこの瞳を見た瞬間、恋に落ちた。
あの頃は幼過ぎたゆえ気付けなかったけど。
そして今もこの紅い瞳に魅せられてやまない。
瞳だけでなく、カイの全てが俺をお前の虜にする。
「カイ、お前に出会えて・・・・良かった。
こんなに愛せる存在に出会えて・・・こんなに幸せな事はない。」
「・・・・。」
こんな事を言われては・・・カイはタカオの瞳を直視できなかった。
素直になるのは未だに慣れない。
カイもタカオの、どこまでも澄んだ蒼い瞳に魅せられてやまない。
しかし、やはりどうしても・・・そんな事、口が裂けても言えない。
「道は・・・なんとか整った。あとは俺達が幸せになるだけだ。」
タカオの深い愛情が、その瞳から伝わってくる。
カイも、胸の奥に高まる気持ちを伝えたくて、でも言葉ではとても言えないから
カイはタカオの首に腕を回して唇をタカオのそこに押し付けた。
カイからのキスなんて滅多にないことなので、タカオは一瞬驚いたが
すぐにタカオもカイの背と後頭部に腕を回し舌を差し込む。
今まで何度も何度も交わした唇付け。
これからも数え切れないほどの唇付けを交わすのだろう。
愛した相手は同性。
でも間違いなく世界中の誰よりも愛している。
今も、これからも・・・死んでも、魂になっても・・・・愛している。
生まれ変わりがあるのかどうかは、死んでみなくちゃ分からないけど
もしもあるなら
生まれ変わっても必ずタカオはカイを探す。
カイはタカオを探す。
そしてまた・・・必ず愛すると誓える。
誰よりも誰よりも・・・・お前を愛している・・・・・・・・。
そして翌朝。
また、けたたましく目覚ましが鳴る。
まだ・・・できる事ならあと2時間くらい眠っていたいが
そういう訳にもいかない。
「タカオ〜〜〜〜・・・・・・・。」
恨めしげなカイの声。
「この色情魔が・・・・。」
「ご、ごめん、カイ!!」
もうすっかり恒例行事だ。
俺は引き攣った笑いを浮かべながら、なんとかカイを宥めつつ、朝食の準備をする。
「そういえば、もうすぐお前の弟、生まれるんだったよな?」
「・・・そういえば・・そろそろ臨月だな。」
あれから暫くして性別が判明した。
男だった。
「ほら!暗い顔すんなって!なる様になる!俺達はできる事をする!!」
「・・・そう、だな。」
「それに!進さんもお母さんも、すんげー喜んでたじゃねーか!
ああいうの、親馬鹿って言うんだよな。
そんでもって、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいのラブラブっぷり!
あの調子だと、またすぐ子作りしたりしてな!」
俺がそう言うと、カイはちょっと驚いたような顔をして・・そして呟いた。
「・・・そうだな・・・。あの様子だと・・それも十分ありうる・・・。」
「楽しいな〜、にぎやかになるな〜〜!!ワクワクするな〜〜〜!!」
「・・・・貴様のお気楽脳は死ぬまで治りそうにないな・・・。」
「あ?何か言ったか??」
「・・・別に・・。ところでお前のコスプレ兄貴はいつまでフラフラしている気だ?」
「仁兄ちゃん?・・・・あれは・・・多分・・・・一生あのまま・・・・だろうな・・・・。
・・っつーか、兄ちゃんが身を固める方が、かえって恐ろしい・・・・。」
「・・・・まあ、確かに・・・・。」
何もかもが、いい方向へ進んでるように思われた。
───俺はカイとの未来を必ず切り開いてみせる。
そう、宣言した、あの時。
少しは実現できただろうか。
La vie en Rose ───薔薇色の人生。
その言葉から感じられるような、派手なものでなくてもいい。
でも二人なら・・・・きっと・・・・。
これからも、ずっと、二人で。
この、遥かなる道を、共に────────────。
end
ずーっと前から、書いては放置、書いては放置をし続けてきました。
書き始めたのは「黙示録」を上げて間もない頃だったと思います。
新婚な二人を、なんとなく書いているだけで楽しかった。
完全に個人の妄想で終わると思っていたのに、上げることが出来て嬉しいです!
カイタカの「光の中へ」と同じような事を言わせちゃったりしてますが・・・すみません!!
それから・・・・。
進さんの話は実は、サイト開設して間もない頃に上げた「wedding march」を書いている時から頭にあったエピソードでした。
なので、全く当たり前のように書いてしまったのですが
よくよく考えたら、こういう話に拒否反応を示される方もいるんじゃ・・・と思ってしまいました。
ですが、そのことについて注意書きを冒頭に入れるのも、なんだか変な感じがしたので
そのまま書いてしまいました。
誠に申し訳ございませんが、苦情はご勘弁願います、すみません!!
ああ、それにしても「La vie en Rose」が、ここまで続く話になるとは当時は思ってもいませんでした。
タカカイも結婚しちゃいましたね〜。
それにしてもこの話は書いていて楽しかった〜vv。
あ、そうそう、カイはいい歳なのにバトルスーツにペイントまでさせちゃいましたが・・
実際20代半ばの大の男がそんな姿ってどうなんだろう??
と、かなり悩んだのですが・・
でもカイなら幾つになっても絶対似合う!・・というか、カイにしか似合わない!!と割り切りました(笑)。
当時、奇抜な格好だったのは・・他にはユーリにジャンカルロといった所でしょうか。
ユーリもあの頃と似たような姿で出てきそうだな・・・ジャンカルロは甲冑・・・う〜〜〜ん・・・。
まあ、お好きなように妄想して下されば!!
それではこんな長い話をここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
タカカイも結婚しちゃいましたが、これで終わり、とは思っていません。
今まで通り、妄想の赴くままに書いていこうと思っておりますので
これからもどうか、よろしくお願い致します。
(2010.3.9)