シュー・・・・。
カプセルが開かれると同時に溢れ出る蒸気。
その中の人、カイは自分の体のあちこちに付着しているチューブを
鬱陶しげに自らもぎ取った。
「気分はどうですか?カイ君。」
「・・・いつも通りだ。」
蒸気が少しづつ晴れていき、カイの体が見渡せるようになる。
カイは全裸だった。
「それは良いですね。」
やけに機嫌が良さそうなヴォルコフの声。
そのヴォルコフの視線がカイの体を舐めるように這い回る。
それに気付くとカイは不機嫌そうに舌を打ち、くるりと背を向け立ち去ろうとするが。
「待ちなさい。」
「・・・・なんだ。」
「後で私の部屋に。」
「・・・・・・。」
少しだけ振り向いたカイ、その氷点下の瞳。
「聞こえなかったのですか?」
「聞こえている。この外道が・・・!」
そう答えると、一糸纏わぬ姿で立ち去った。
数時間後、ヴォルコフの部屋。
ベッドの軋む音、不気味に笑うヴォルコフの声
そして時折聞こえる呻き声。
「どうしたんですか?もっと素直に鳴いたらいかがです。」
「・・・っ!」
睨み据えるカイの紅い瞳が冷たく光る。
「ふふふふ・・・。それですよ。美しい・・・・。」
ご満悦なヴォルコフ、その腰がひときわ強く打ち付けられた。
「・・っ!!」
唇を噛み、必死に耐えながらも睨み据える瞳は逸らさない。
「素晴らしい・・・。
そうして私を受け入れながらも決して高貴さを失わないその瞳
どんなにされても屈しない強靭な意志。
貴方は、そう・・・まるでダイヤモンドの原石です。」
「黙れ・・・!」
「ふふ・・。私は従順な子羊になど興味はありません。
高潔で希少な宝石を跪かせる事。
これ以上に楽しい事などありはしません。」
「この、下種野郎・・っ・・!!」
「ふふふ・・・。さあ、そろそろ素直になったら如何です?」
「だ、誰が・・・っ!!」
「屈辱に滲む、その表情・・・どこまでも素晴らしい、私のカイ君・・・!」
ヴォルコフは腰の動きを緩めることなく、その悦びに酔いしれていた。
───この世は地獄だ。
秩序も良心も、夢も希望もありはしない。
強い者が弱い者を蔑み踏みつけ、打ち砕く。
力だ。
力さえ手に入ればこんな所、こんなヤツに用はない。
「カイ・・・君・・・・・・っ!!」
「・・・・っく・・・・!!」
───ああ、ようやく終わる・・・・・・。
ヴォルコフはカイを抱きしめ、その余韻を楽しんでいるようだったが
カイは構わずそのヴォルコフの腕を、まるで無機物か何かのように押しのけ
腹についた液体を拭き取ると無言のまま振り向きもせず、部屋を立ち去った。
ヴォルコフはそんなカイの後姿を見て満足げに微笑む。
「変わりませんね、カイ君・・・。」
そしてカイの部屋。
ろくに身なりも整えず、崩れこむようにベッドに腰を下ろし壁にもたれかかる。
今さっきの出来事で、まだあの汚らわしい男の爪痕や匂いが体中のそこかしこに残っていた。
反吐が出そうになるのを必死に堪えて。
サイドテーブルには、BBAでの自分と引き換えに手に入れたブラックドランザー。
カイは引き寄せられるように、それに手を伸ばした。
───教えてやる、木ノ宮。
この世は地獄だ。
お前の言う夢や希望など、どこにもありはしない。
あるとしたら、それは偽善だらけの虚構の世界。
待ってろ・・・。
この俺が直々に貴様を煉獄の炎で焼き尽くし
奈落の底へ叩き落してやる。
お前の屈辱と絶望に歪む顔が楽しみだ・・・・。
カイはブラックドランザーを握り締めると薄く笑んだ。
ふふ・・・はははは・・・・・・。
全てを焼き尽くせ、黒朱雀。
そして紅蓮の炎の中で美しく舞うがいい─────────。
end
みさき様よりこのイラストを頂いてしまいました!
イラストはこちらですv。
そのメールのやり取りの際
みさき様のお言葉と、このイラストで妄想が爆走しちゃって書いたものがこの話です。
カイがロシアにいた頃、あのヴォルコフの元にいた訳ですから。
ヴォルコフのサディスティックなあの性癖
カイはどう考えてもヴォルコフのお気に入りだったとしか思えなくて
(ベイの実力でもそっちの意味でも)。
BBAを出たカイを待っていたのは当然、こういった事だったのかな・・・と思っていました。
ここはカイタカサイトなので私の中のカイは
ヴォルコフの元へ行っても当然タカオへの想いはあった筈だと思っています。
自覚はなかったと思いますが。
そこで強さを求め過ぎるあまりどんどん堕ちて行き・・・そしてどんな形であれタカオを想う。
ブラックドランザーをカイが握り締めている時
タカオもドランザーを握り締めてカイを想っていて欲しいと・・・いや、想っていると!信じています。
この話はみさき様のイラストと、みさき様にロシアでのお話をふって頂かなければ出来なかった話でした。
本当に感謝しております。
そしてイラストを頂いてしまった事、本当に感謝です。
みさき様、ありがとうございました!心より御礼申し上げます。
(2008.11.24)