「白虎族は・・・日本で言う忍者の末裔のような部族で
古来から皇帝の護衛、なんて
一見華やかな役もこなしてきたが、場合によっては暗殺なんて事もしてきたらしい。
昔から、政治や大事件の裏には常に白虎族がいた。
王朝の影の部分を一手に引き受け、暗躍してきた。
だからその秘密は絶対なんだ。
つい最近・・・ほんの数年前までは白虎族の存在すら、ごく一部の者しか知らなかった。
村へ辿り着く方法を知る者は更に限られる。そんな・・・現代の陸の孤島のような所さ。」
「え・・・。」
「だから、そう簡単には・・・その場所ですら明らかにできないんだ。」
「え、でも・・・じゃあ、兄ちゃんは・・・・。」
そうなのだ。
レイを白虎族の村から連れ出したのは、他ならぬタカオの兄、木ノ宮仁。
「ジンは勝手に迷い込んだんだ。暫くは罪人扱いで囚われの身だったんだぞ?」
レイは呆れたように言った。
「え!?」
「でも・・・ジンは大した奴だよ。
あの牢から脱獄しただけでも立派なもんだが
脱獄した後は、すぐに逃げてしまうかと思ったら
長老に頼み込んで「暫く俺をここに置いてくれ!」なんて言い出して・・・。皆は仰天するやら呆れるやらで。」
「・・・・・。」
タカオは初めて聞く兄の話に、驚きを隠せない。
もっともっと聞きたくて、瞳で先を促した。
「色々あったが結局、皆に混ざって修行を始めて・・・どんどん強くなっていった。
もともと強かったがな、ジンは。
でも、さらにもっと強くなっていって・・・あっという間に誰もが一目置くようになった。
このまま白虎族の人間になる気はないか、と言い出すヤツまでいたくらいだ。」
「へえ・・・。」
「そんな感じで皆の信頼は得られたんだが、村を出る時はさすがに大変な騒ぎになった。
まあ・・・俺を連れ出したい、と言い出したこともあったんだが。
結局、万が一の場合いつでも殺せるように、見張りがつく事になったと聞いた。」
「・・・・!じゃあ、兄ちゃん、殺されるかもしれないのか?」
「ジンが簡単に殺されるようなヤツとは思えないが・・・。」
レイはタカオの様子を見て、しまった・・と思い、慌てて付け足した。
「心配しなくていい。ジンはペラペラと秘密を喋るような男じゃない。
それは村の皆もわかってる事だ。監視だって暫くの辛抱だろう。
もしかしたら、もう、外れているかも・・・。」
あまりの事に、あんぐり口を開けて聞き入ってしまったタカオは
レイの言葉にひとまず一安心したものの。
「・・・・。つまり・・・それだけ白虎族の村が厳重だって事か・・・。」
そう言いながら溜息をついた。
そんな話を聞いてしまっては、やはり「いつか村へ連れてってくれ」だなんて言える筈もない。
タカオの落胆が、横たわりながら抱いていた、その胸から伝わってきた。
このままでは同じ事の繰り返しになってしまう。
レイは心を決めた。
その心のままに、タカオをグッ・・と引き寄せる。
「・・・レイ?」
「タカオ。いつか・・・一緒に来てくれるか?俺の村へ。」
「え?でも・・・。」
タカオはレイの胸で、思わず顔を上げてレイを見つめた。
蒼い瞳が、素直な驚きと戸惑いを如実に物語っている。
「構わないさ。タカオなら。
ただ・・・今も言ったように、色々驚くことがあると思う。
例えば・・・・。・・・・・・。」
やはりどうしても、ここで止まってしまう。
さっき、アノ最中、あんなにもはぐらかした事を後悔したばかりだというのに。
しかし、どうしても・・・・言葉が出てこないのだ。
「・・・・・・。」
「レイ?」
タカオは、ただでさえ大きな瞳を見開いてレイを見上げた。
レイは・・・・。
なんだかレイは、様子がおかしい。
こわばった顔。
とても苦悩しているのが一目で分かる。
レイの心臓がドクンドクンと盛大に鳴り響いている。
それが胸に抱かれているタカオの頬に直接響いていて
タカオまでもが何やらドキドキしてきた。
と、その時。
「タカオ・・・!!」
ガバッ・・と。
レイは、現状を打破すべく、タカオを組み敷いた。
バサ・・ッと長いレイの髪が、タカオの顔のすぐ脇に流れ落ちる。
緊張の一瞬。
互いに瞳を見開いて、固唾をのんで見つめ合った。
「タ、タカ・・・ッ、タカオ!」
「は、はい・・・!」
つられてタカオまで硬くなって、つい、こんな返答をしてしまった。
「その・・・、俺の村は・・・・!」
レイが話し出したと思ったら。
「俺の、村は・・・・・・ッ!
し、知ってのとおり、とんでもなく山奥で・・・・
日本の山奥という観点からは考えられないくらいの山奥で
そうだな、樹海につぐ樹海、その先も樹海の更に果てにあるような所で
タカオからしたら信じられないような事ばかりだと思う。
辿り着くのも大変な所だから、そうだな・・・行き方を知らず闇雲に進んだら、間違いなく死ぬ。
だから、例えば電気なんてないから明かりは火を灯すしかないし、ガスもないから釜戸で火をおこして料理しないといけないし
そう、毎日がキャンプみたいなもんだ、ははは・・・。
インスタント食品なんてある筈もないし、それに小分けされた肉や魚が売ってるわけじゃないから
何をするにも初めからやらなきゃいけないし
魚をさばく程度ならともかく、さすがに鶏や猪をさばく事はないだろう?
ああでも、日本でもやってる人はやってるんだろうが。
料理と言えば、水道だってないから毎日の水汲みが大変で
あ、お風呂は温泉が湧いてるからなかなか快適だぞ?
温泉には動物も入ってくることがあって、のどかなもんだ。
人間も動物も、皆同じ生き物なんだなって思える。
タカオもきっと気に入るんじゃないかな。
テレビもパソコンも使えないようなところだし、娯楽らしい娯楽もなく連絡手段もないし
山や川や谷や崖や森や湖や、広い大空や!
本当に、自然しかないような所だが
たまにはああいうのも現代人が忘れ去ってしまったものを思い出させてくれるというか、都会の喧騒を忘れて・・・だな!」
「お、おい!レイ!何言ってるんだ??大丈夫か??」
「・・・・・!!」
言われてレイはハッとした。
そして自己嫌悪・・・・。
何をどう言ったら良いのか、どう言えばタカオに伝えられるのか・・・・
そう考えるうちに、次から次へと言葉が止まらなくなってしまって
気づけば意味不明・・・でもないが、とにかく早口でまくし立てていた。
「あ、その・・・・。すまない。」
レイは大きくため息をつきながら体勢を整え
タカオを組み敷いていた状態から身を起こして
タカオの脇に胡坐をかいた。
それと共にタカオも起き上がって座りなおす。
「俺の、村は・・・・そんな下界から隔絶されたような所だから
古くからの習わしが・・・・タカオからしたら信じられないような事が・・・
俺もどうかと思うような事が、今でも守られていて・・・・・・・・。」
ともかくも、ようやくレイは語り始めた。
「ああ、でも最近はさすがに「そこまでしなくても・・」と言う者も出てきたんだが・・・・
それでも、大切にしたいと思ってる人達もいて・・・・
でも、それでタカオを縛りたくないんだ。
だから、タカオを連れていく事を、俺はずっとためらっていた。
さっき、タカオに言われて、つい、はぐらかしてしまったのも、その為だ。すまなかった・・・。」
「・・・・。」
「だが、俺は決めた。
縛らせはしない。俺が必ずなんとかする。
でも・・・・縛らせはしないが、縛らずとも・・・・俺は、そうなりたいと思う。」
レイはタカオを見つめる。
願いを込めた瞳で。
「俺の気持ちは変わらない。
いつも、これからもずっと・・・そこにある。
だから・・・・・・俺と・・・・・・・・・。」
ここでレイの言葉が途切れた。
レイはただ、必死の眼差しでタカオを見つめるが・・・・。
結局レイが言いたかったのは。
核心に触れるようで触れない、触れられないレイの言葉だったが
今までの流れからして、なんとなく言わんとする事が分からないではない。
見るに見かねてタカオが切り出した。
「レイ。」
「・・・?」
「もしかして、なんだけどさ。
白虎族では・・・外の世界の者を村に連れて行く場合、伴侶を連れて行く、という意味になったりするのか?
そうでない場合は仁兄ちゃんのような事になっちまうとか。」
「!!」
「やっぱり・・・・。」
レイの顔を見て、タカオは確信して呆れたように溜息をついた。
「何をそんなに悩んでんだよ。俺の気持ちも変わらないって言っただろ?」
「・・・・。」
「だから、連れてってくれ。いつか。」
「・・・本当にいいのか?間違いなくそういうふうに受け取られると思うが・・・。」
「本当の事だろ?・・・って、レイが今、言ってくれたと思ったんだけど・・・・。」
今度はタカオがレイを見つめた。
願いを込めた、蒼い瞳で。
金の瞳に一瞬、喜びの色が浮かんだ。
「だが・・・・。その場合、白虎族の皆は、お前を村に縛ろうとするだろう。」
「おとなしく縛られたりするもんか!仁兄ちゃんみたいに、俺だって何とかしてみせる!
それに・・・・レイも頑張ってくれるだろ?」
レイだけを見つめる強く揺るぎないタカオの蒼い瞳に、強い決意が感じられて。
じんわりと・・・深い喜びが、ようやくレイの胸に込み上げてきた。
「タカオ・・・。・・・ありがとう。」
レイは頭を下げた。
自分が白虎族でなければ、どれだけ良いだろう。
レイがそう思った事は一度や二度ではない。
白虎族であるが故に悩み苦しみ縛られて。
その枷をタカオにまで科したくはない。
いっそ、白虎族であることを捨てられたら・・・とも思った。
しかし白虎族の元に生まれ落ちた以上、それは不可能と言っていい。
ならばタカオを諦めるしかないのか。
それだけは・・・・どうしても、レイにはできなかった。
───手放すくらいなら・・・・俺は・・・・・。
・・・・・・。
では、どうしたらいい?
そこからはいつも、堂々巡り。
だが。
そこへタカオが、光を与えてくれた。
まだほんの少しだが、確かに光が差し込んできた。
全てが解決した訳ではない。
むしろ、これからだ。
だけど、それが・・・・こんなに嬉しいなんて。
「そう・・・そうだな。タカオは強い。ジンに負けないくらいに。きっと大丈夫だ。」
「きっと、じゃねーよ!絶対だ!・・ったく。ホント、レイって案外ヘタレだよな。」
「ヘ、ヘタレ?」
「そう、ヘタレ。でも、そんなレイも、俺、好きだぜ?」
「ハ、ハハハ・・・・・。」
乾いた笑いを浮かべるレイ。
「だってさ、なんでもまず、行動してみないことには、何も変わらないだろ?
やってやろうじゃねーか!!待ってろよ、白虎族!」
勢い込んで言うタカオに。
気を取り直したレイは、ようやく破顔した笑顔を見せた。
「タカオは凄いな・・・。俺はつい、余計な事を考え過ぎていたようだ。」
「あのな。俺だって色々考えてんだぜ?」
「うん、わかってる・・・。」
そしてレイは改めて言った。
「タカオ。」
「なんだ?」
「俺と・・・一緒に来てくれないか?白虎族の村へ。」
タカオは満面の笑みを浮かべて、レイに飛びついた。
「ああ、連れてってくれ!!」
レイはタカオをしっかりと抱きしめた。
今まで何度も何度も、こうして抱きしめた筈なのに
触れ合った肌のぬくもりが、心に沁み入るようで、たまらなくて。
もっと、そのぬくもりを感じたくて・・・・・
レイはさらに強く、タカオをかき抱いた。
「あの、・・・・レイ?」
そうなのだ、二人は裸のまま抱き合っていた。
そのタカオの腹のあたりに、何か硬いものが当たっていたのだ。
「す、すまない・・・・!」
「まさか、また抱きたくなってきた、なんて言わねーよな?」
「うん、だから、すまない!!」
言いながら、レイは既にタカオを押し倒しにかかっている。
だが。
「レイ!いくらなんでも、ヤりすぎ・・・っ!」
「とまらないんだ、タカオ・・・!」
「ダメったら、ダメ!・・・いい加減、尽きないのか!?」
「尽きない。タカオが悪いんだ。タカオが・・・・こんなに可愛いから・・・こんなに嬉しい事ばかり言うから。」
「は?じゃーもう、何も言わねえ!!」
「何も言わなくていい。黙ってろ。」
「だーーーーーっ!!だからスルなっつってんだろ!?」
「何も言わないんじゃなかったのか?」
「スルなら言う、言いまくってやる!!」
「じゃあ、言ってていい。」
そう言いながらも、レイは唇でタカオの唇をふさぎ・・・。
「ん、・・・っ、・・こ、・・・の、卑怯者〜〜〜!!!」
「なんで卑怯者になるんだ。」
「言ってていい、っつったのに、キスするなんて!!」
「キスぐらいするさ。セックスするんだから。」
「シないっつってんだろ?」
その唇を、またレイが塞ぎ。
「タカオ、頼む。」
至近距離でレイはタカオを見つめた。
艶やかな黒髪が顔に体に流れるように垂れていて
その奥に光る金色の瞳が息をのむほどに美しくて。
タカオは、つい・・・またしても心臓が高鳴るのを感じてしまって。
そして結局流されてしまうのだ。
───レイの・・・・馬鹿・・・・・・。
でも・・・好き・・・大好き・・・・・・。
「なあ、レイ。」
「ん?」
「白虎族の村に行ったら、色々教えてくれないか?」
「・・・?もちろん、なんでも教えるが・・・?」
レイにはタカオが何が言いたいのか、正直よく分からなかったが。
タカオは胸に抱かれながら、レイの髪に触れて。
「レイの・・・生まれた頃のこととか、小さい時の事とか・・・・俺、レイの事、もっと知りたい・・・・。」
タカオは敢えて両親の事に触れるのは避けた。
しかしレイはなんとなく感じ取った。
タカオがそんなことを思っていてくれたのかと思うと、なんだかとても嬉しくて。
「・・・・。タカオ・・・・。タカオには全て話す。大した話じゃないけど・・・俺の事は全て。だからタカオも話してくれ。」
「え?」
「俺も聞きたい。タカオが生まれた時の事、幼い時の事。タカオのお母さんの事も。何を思って何を考えてきたのか。全部。」
まだ出会ってなかった頃の思い出も、嬉しかった事も悲しかった事も、何もかも・・・・知りたい。共有したい。
そんな思いを互いに抱いている。
それがとても嬉しくて、幸せで・・・。
「レイ・・・・。うん・・・わかった・・・・。」
タカオは言いながら、思わずレイの胸に顔を埋めた。
「・・・。あのー・・・・。そういう可愛い事されると・・・・。」
「もうダメ!!絶対、ダメ!!!!」
「タカオ・・・。」
「ダメ。」
「・・・・。はい・・・・・。」
さすがに今度はおとなしくレイも引き下がったが。
───そのうち俺、ヤり殺されたりして・・・・・。
タカオは内心、盛大に溜息をついた。
タカオだって本音を言えば、何度だって抱かれたい。
抱かれたいが・・・・レイの言うまま、本当に抱かれ続けたら、身が持たない!!
一体どんな体力・・・精力をしているのだろう。
それは白虎族の特徴なのか?
だとしたら、白虎族、恐るべし・・・・・・。
それにしても、とタカオは思った。
しゅん・・・と引き下がるレイは、まるで猫のようだ。
タカオはうなだれるレイを見て、密かに微笑んだ。
これからもずっと一緒に生きていける。
そう、確信できた
ある夜の夜語り。
end
こんなに長い話になる予定はなかったんですが・・・。
最初の方の、髪を下ろしたレイ妄想が止まらなくなって勢いのまま書き始めて
そのまま、とりとめのない話をしながら
イチャイチャしてるだけの日記小ネタのつもりだったんです。
それが、あんなコトを始めてしまい、あんな話も始めてしまい・・・!!
気づけば、こんなに長くなってしまった!!
書き始めたのは一年以上前で
表の唐辛子ジュースとほぼ同時進行だったんですが
こっちの方を先に、日記にでも上げる予定だったのですが!
なんてこった・・・・・。
でもまあ・・・楽しかったですvv。
こんな話をするレイタカ妄想は、ずっと心の底にあったので
出来栄えはともかく、書けて良かったですv。
白虎族の村へ行く話も書きたくなってきたな〜・・・・。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!
(2014.10.1)