バニーちゃんの恋人
3
ぎゃーぎゃー言いながらもスープボウルで入る風呂はなんだかんだ楽しかった。
バニーが気を利かせて深めのフライパンなんか持って来てくれたから、そこでシャワーみたいに上からお湯を流してもらって頭も洗えた。リビングで風呂に入るなんて経験したことなんてなかったから、それもまた新鮮で面白かった。
体洗って差し上げましょうかっていうバニーの申し出は丁重にお断りした。身の危険を感じたから。
「あっ、虎徹さんどこで寝ます?僕のハンカチでよければお貸ししますよ」
「もうそれ、本格的にままごとだな……本格的なままごとってなんだ」
もう少し、楓が小さかった頃を思い出す。ぬいぐるみにハンカチかけて、おねんねしましょうねーなんて言ってたなあ。そろそろあいつは、もうお人形遊びなんてしない!なんて言い出しそうだ。
「ままごとって! 僕を馬鹿にしないでくださいよ」
「してないって。かわいいなあって、思っただけだよ」
「やっぱり馬鹿にしてる」
ほんの少しむくれたようにしゃべるバニーはどうしようもなくかわいくて、さわりたくなる。それから、自分の手のひらをよく見てから、諦めた。
「あ、服服」
せっかく買ってきたからと開けてはみたけれど、どれもパジャマには向かない物ばかりで、見あげたらバニーもちょっと笑っていた。この服は明日にとっておこう。
「やっぱパンツくらいは穿きたかったなあ……」
「いつも穿かないで寝てしまうじゃないですか。いつもどおりですよ、虎徹さん」
「言うなあ、バニー」
それはそうかもしれないけれど、そのときと今日とじゃ状況が違うし、まあでも今更そんなこと言っても仕方ない。
「まあ、いっか」
寝るにはあまりにも健全な時間だけれど、もうすることもないし、したくてもできないからとバニーの布団にダイブした。
勝手知ったるなんとやらだけど、大きさが違うとやっぱり手触りとか、柔らかさとか感じるのが違うもんなんだなと思った。
「えっ、虎徹さんそこで寝ます?」
「おう、バニー、つぶすなよ」
もぞもぞとおおきな布団の中に潜り込む。仕方ないなと言いながらバニーも一緒に布団に入った。
「あー、なんでしょう……虎徹さんと一緒にいるのに、虎徹さんが遠いっていうか、虎徹さんのぬくもりがなくて、ちょっと……」
「何だバニー、寂しいんだろ」
「ちっ! ……そ、うですよ! 寂しいです。虎徹さんに撫でてほしい、抱きしめてほしい、なのに」
「ん、ごめんなー。もどったらたくさん抱きしめてやるから、今日はこれで勘弁してな」
体を覆う大きな手に、腕をいっぱいに伸ばして抱きつく。その指先に触れるだけのキスをした。
赤みを増すバニーの顔を見て、下腹が疼いたような気がしたけれどそれは頭から追いやる。こんなおおきさじゃあなんもできないし、俺だってつらいだけだから。
あと、2日か、1日か。早く元に戻ればいいのに。
俺よりも少し体温の低い手のひらに守られながら、そっと目を閉じた。
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