一緒に入ろう
「バスフィズ?なんだそりゃ」
ベッドの上に並べられた色とりどりのパッケージ。
二人並んでそのベッドにどっかり座ってそれを眺めていた。こにこしながら話をするバーナビーは、とても嬉しそうだと思った。
「入浴剤ですよ」
「ふうん?…にしても、たくさんあるなぁ」
ざっと見ても20は越えているだろうか、しかもどれもきれいに包まれていて、プレゼントであることは明白だった。
しかし、バーナビーの誕生日はとっくに過ぎているのでバースデイプレゼントというわけでもないだろう。だったら何故こんなに、としばし逡巡したけれど、バーナビーのことだ。何かの折に今欲しいものとかでぽろっとこぼしたのだろう。ファンはいつだってそういうものに敏感だ。
「ええ、すべてファンの方々から頂いたものですよ」
「こんなに?」
一応聞いてみようかと問えば、少し前のインタビューで以前誕生日にヒーローの仲間たちから入浴剤のプレゼントをもらったことがきっかけでブームが来ていることを話したせいか、ファンレターに添えられるようになったと話してくれた。予想通りだと苦笑する。
そういえば確かに、もらったというあわあわができる液を入れて一緒に風呂に入ったことがあった。なかなか面白かったことは覚えているが、ブームになるほどバーナビーが気に入っていたことは知らなかった。
――ああ、しゃれた名前など覚える気などない。オジサンはそういう横文字に弱いんだ。
「そうですね……量は多いですけど、定期的に使っていけば問題ないと思いますよ?」
なにか訴えかけるように顔を覗き込まれて、虎徹も、ん?と返す。
たまにバーナビーはこういう様に言葉では言わないけれど分かりますよね、みたいな態度をとる。そういうときは大抵恥ずかしがって言えない、といったところなのだけれど、今回は違うみたいだ。
それなら、こちらもそれに乗らないわけにはいかないだろう。もちろん、彼の思惑とは逆の方面に。
「そっか、なら毎日違う風呂に入れてお得だな、バニーちゃんは!」
虎徹がそう言えばバーナビーは、むっと眉根を寄せる。聡いバーナビーは、それだけで虎徹の考えを見抜いたようだ。
「ええ、今日はバラの香りにしましょうか?明日はシトラス、次はミント!毎日愛らしい色と香りのバスに入ることができる僕はなんて幸せものなんだろう!」
あからさまなオーバーリアクションで舞台に立っているかのごとく、かわるがわベッドに並べられたパッケージを眺めたり、掲げたり、撫でたり。指先までぴんと伸ばして、さながらバレエのようだと虎徹は思った。
もちろんバレエなんて、テレビで特集を見たことがあるだけだけど。
「ねえ、虎徹さん?」
「なんだ、バニー?」
「毎日、虎徹さんが、僕に使ってほしいバスフィズを選んでくださいませんか?」
キラキラと、王子様のように動いていたかと思えば、突然しおらしくなった。
とすんとベッドに腰掛け、手の甲を上向きにスッと虎徹に手を伸ばしたその姿は、エスコートされたがっているようにしか見えなかった。おそらく、それも『フリ』なんだろうけれど、そう見せ掛けた本音だと、捉える。
それでも、まだ。
「君がまとう色気も香りもすべて、どんなものであったとしても俺を虜にさせるんだよ」
跪いて、恭しくバーナビーの手を取った。割れ物を扱うように優しく、それでいて、離れていってしまわないようにしっかりと。
目を閉じて、その指先にキスをした。
それから顔を上げ、できうる限りの穏やかな表情で微笑みかける。
「……お願いですから、一緒に、入ってください」
口を手で覆い、ギリギリ聞こえる程度で声を発したバーナビーのうつむいた頬は、見てわかるほど紅潮していた。見上げた綺麗な顔が悔しそうに歪んで、これこそ自分に許された特権だとほくそ笑む。
「承知いたしました」
もう一度、指先に触れるだけのキスをした。
明日会うひとたちに、二人の香りが同じだということが気付かれませんように。
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