mixing


「はあ、ん……んぁっ」
 イワンの身体を這う、ごわごわしたその感触に背徳感がよみがえる。
 でも、この手は今、僕のものなんだ。
 この街を守る、この街の市民を守る、優しくておおきな手は、今、僕に触れている。
「ふっ、…あ」
 ぴたりと肌を覆う伸縮性のあるそれは、完全に彼の手を保護していた。
 その手のひらが少し暖かい、彼の体温を感じる。
「これが、いいのかい?」
「…う、ん……ん、」
 ごし、とうすい脇腹をその手で撫でられれば、擦れた布の感覚が脳に伝わりびりびりと痺れたように身体が震える。
「もう、焦らさないで、ください……ここ、ね、スカイハイさん……」
 口から垂れる唾液も拭わずに彼の顔を見下ろし、イワンは自分の中心へつかんだ手を誘導する。
 それでも、相手の表情は読み取れない。
 無表情なわけではない。ただ、無機質だった。
 だらだらと溢れる先走りが白いスーツを汚している。その光景も興奮材料にしかならない。
 するりと、待ちわびた刺激がそこに触れた。
「ひあっ!」
 ごしごしと強く擦られて、めまいがした。
 素肌とはちがう、ざらりとした質感に気持ちが高揚する。
 本当に、スカイハイさんに、触ってもらってるんだ。
「どうだい?」
「んん、……いい、です…。すごく、いい」
 手袋が濡れて、濃いしみを作った。
 汚れている、スカイハイさんが、自分のもので。
 そっと手を伸ばして彼のスーツの裾を捲れば、彼のものも大きく膨らんでいた。
 イケナイコトをしているということを強く認識すればするほど、快感も強くなる。
 僕が、スカイハイさんの上に乗って、扱いてもらって、そんな僕を見てスカイハイさんも興奮してる。
 なんて、罪深いことをしているんだろう。
「あっ、え、」
 手に溢れんばかりのローションを垂らすスカイハイが見えた。
 ぐちぐちとよくなじませて、背後に回す手を目で追う。
「ん、君はこっちに集中しなさい」
「んあっ」
 ぐり、と鈴口を刺激され意識をそちらに向けさせられる。
 先端を強く押されて、声ばかり溢れてしまう。
 ふと、後の窄まりに触れる気配を感じたすぐ後に、 つぷりと指が進入した。
 ローションのぬめりで痛みはそれほどなかったが、手袋による抵抗が素肌の比ではない。
「う…、く……」
 少しずつ、じわじわと入り込んでくる指をもっと奥に感じたい。
 もっと、擦って欲しい。もっと、熱く。
「スカイハイ、さん……、ひどくしても、…いいんですよ」
 精一杯の笑顔を浮かべたら、ぐぐと指を性急に埋められた。
 そう、そうやって僕に夢中になって、この時間がいつまでも続けばいいのに。
「そんなに私の指を締め付けて、好きだね、君も」
「ん、ん、すき、です……、はぅ、ん」
 耐え切れなくて、彼を抱き寄せた。
 硬質のヘルメットを両手で包み込むと、それをぺろりと舐める。
 ヒトの頭部であったら目の辺りになるのだろうか、一心不乱にそこにキスをし、歯を立てた。
 されるがまま頭をイワンに預けて、後孔とペニスを刺激し続けていたスカイハイが突然イワンを解放した。
 ずるりと抜ける指の感覚に、ぞわりと鳥肌が立った。
「すまないね、君はこのままのほうがいいのかもしれないが、私も、君とキスがしたい」
 そう言ってスーツのヘルメットを脱いだ姿は妙に艶やかで、あの中にフェロモンを溜め込んでいたのかと錯覚しそうになる。
 自分もかぶっていてわかるが、あの中は暑い。通気性は悪くないはずだが、閉鎖的なのがいけないのだろうか。
 汗で頬に張り付いたブロンドに目を奪われる。
 くいと顎をつかまれ、キスをされた。
 あれほどいやらしい動きをしていた指が、今度は紳士的にイワンを撫でる。
 湿った手袋と、咥内を蹂躙する舌にこれからされることを予感させ、後孔がひくりとうごめいた。
 互いの唾液が混ざりあい、卑猥に水音をたてる。受けとめきれないものが重力に従い、彼の喉を伝った。
 我慢が効かなくなり、ゆるゆると腰が揺れる。狙っていたわけではなかったが、スカイハイの硬くなったものと自分のものが擦れ、もどかしい悦びが湧き起こる。
「はっ、……んむ、ん、ん」
 その間もキスは続いていて、多方からの刺激にもっともっと身体が疼いて仕方ない。
「僕、もう……っは、待て、ません……いい、ですよね、」
 返事も聞かずにスカイハイのスーツの前を寛げて、張り詰めたそれを取り出した。
 ごくり、息を飲む。
 身体の中で、頭とそこだけ晒して、なんて淫猥な光景なんだろうか。
 もう一度しっかりスカイハイにまたがり、そそり立つそれを後孔に充てがう。期待に収縮を繰り返す窄まりにイワンは、浅ましい自分の欲望に自嘲した。
「あっ、…く、……ふ……」
 中途半端に解されていたそこは、彼の大きな中心を受け入れるにはまだ十分ではなくて、酷い圧迫感に無意識にいやいやと首を振る。それでも、重力でじわじわと埋め込まれていく彼のペニスに充足を感じた。
 堅く瞑っていた目を開けてみれば、目下に広がるのは押し倒されたスカイハイで。自分が、ヒーロー・スカイハイを犯しているような気分にもなってくる。
「ほら、あと少しだから」
 ふ、と優しげに微笑むスカイハイに、もう一度ぎゅっと目を閉じた。
 腰を少し浮かせて、それからさっきより深いところまで埋める。この方が、少しだけ楽に、そしてより快感を得られるから。
「うっ……ん、はぁっ……」
「よくやったね、全部入った」
 脇をやさしくなでられて、じんじんと疼く後孔が痙攣した。
 ゆっくり深呼吸をして、いきを整える。ふぅ、すー、ふぅ。
「動いてくれないのかな?」
 撫でる手の動きは止まらず、それから移動した手はイワンの下生えの周りをごしごしと擦った。
「んっ」
 もどかしい動きにゆるりと腰を揺らしたら、食い込んでいたペニスが角度を変えイワンの中を抉った。
 その待ち望んだ快感をもっと感じたくて、さっきよりも大きめに腰を揺らす。
「あっ、は、……は、ああんっ」
「いい、光景だよ……」
「や、んっ……ここ、やぁん、とまん、な……」
 奥を掠めた感覚に、快感より強い恐怖を感じた。それでも揺れる腰は止まらなくて。
 涙がこぼれた。
「ううっ、やぁ、……や、やだおぅ……」
 無意識にスカイハイのスーツを掴んで、夢中で腰を振る。でも、望んだ場所になかなか当てることができない。あとからあとから涙は溢れて、イワンの頬を濡らした。
「ごめん、なさい……僕、うまく、動けなくて……きもちよく、ない、ですよね……」
「いや、君が感じてくれればそれが一番だよ……ただ、このままでは君も辛そうだ」
「……え、わっ」
 呆れられたのかと俯いたら、突然引っ繰り返された。
 上から見下ろされ、ぞくりとした。
 青く輝く目が、僕を、射抜く。
「あの、……スカイハイ、さん?」
「イワン君、私は、……キースだよ」
 眉を歪めて苦しそうに笑った彼の真意は掴めなかった。
 激しく抜き差しされ、意識が曖昧になる。
 彼は、スカイハイなのか、キースなのか。
 伸ばした手のひらにキスをされ、奥を、抉られ。限界を迎えたイワンの中心は、白濁を吐き出した。
 それから少し後に、身体の奥に熱い飛沫を浴び、限界を超えた意識は静かに落ちていった。
 ふと感じた頬を撫でるその指は、どちらのものか、わからなかった。



 融けゆく脳に、混ざり合わない、二つの意識。
 近くにいて尚、正反対の存在。
 ゆっくりと、目を閉じた――。

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