runners high 3


 先にジャスティスタワーに戻ってきてしまい、一人途方に暮れていた。
 逃げたって、どうせまた顔を会わせる機会なんていくらでもある。
 それはたとえどちらが望んでいなくても、僕たちの立場で抗えるものではない。
「はぁー……」
 深いため息を付いた。
 なぜあんなことをしてしまったんだろう。
 この気持ちは隠し通すつもりでずっと過ごしてきたのに、思わぬ形でチャンスが訪れてしまったのが原因か。
 いやこれは言い訳だ。
 たがを外してしまったのは自分の責任に他ならない。
 とぼとぼとタワーの中に入り、エレベーターに乗り込んだ。
 階数ボタンを押し、他に誰も乗り込まないのを確認しようと、外をちらりと見ると。自動ドアの向こう側にキースさんの姿を発見してしまった。
 同時に彼も僕を見つけたようで、何か叫んでいるようだった。
 今は話したくない!
 とっさにエレベーターの閉ボタンを押す。
 ガコンと音を立てて扉はゆっくりと閉まっていく……はずだった。
 完全に閉まる直前、何かが挟まったように扉の動きが止まった。ぶわりと風がエレベーター内に吹き込む。そして扉は再び開いた。
 エレベーターの外には、青く輝くキースさんが立っていた。
「すまない、驚かせてしまって……しかしイワン君、君と話がしたかったんだ。」
 失礼するよと一言おき、キースさんが乗り込んでくる。
 僕は何も声が出せなかった。扉が開いた瞬間に見たキースさんが、風の効果と相まってビックリするくらいかっこよかったとか、もう顔も見れないと思っていたのに追い掛けて来てくれたことに感動したとか。
 キースさんの場所をあけるために、僕は隅に移動した。
「なぜ先に帰ってしまったんだい?一人公園に残されて、とても寂しかったよ」
 エレベーターが上へ動きだすと、キースさんはこちらを向き僕に話し掛けた。
「君にキスをされたのは驚いた。しかし、いやな気分はしなかったということは伝えなければと思ってね……イワン君、なぜ私にキスをしたんだい?」
 キースさんはどこまでも純粋で、子供みたいだと思った。それに加えてかっこいい大人らしさも持っていて、僕の心をかき乱していく。
「話してはもらえないだろうか…」
 その時、目的の階に着いたことを知らせる音がなった。
「時間切れみたいだね…」
 寂しそうに微笑んだキースさんが、エレベーターから降りた。
 その顔を見たら、きゅっと心臓を掴まれたように痛くなり、とっさにキースさんの腕をつかんでエレベーターホールの隅まで連れてきてしまった。
「……僕、……キースさんのことが、好きなんです。ヒーローとしての憧れだけじゃなくて、キースさんとずっと一緒にいたい、キースさんを独り占めしたい、そういうふうに思うんです!だから……さっきは……つい」
 勢いに任せて早口でまくし立てた。今度こそもうダメだと思った。
 伝えるつもりなんてなかったのに、キスをしてしまってから僕が欲張りになっていく気がする。
「そうか……」
「もう、しませんから!忘れてください!」
 キースさんの顔が見れない。彼の一挙一動が怖い。
 何か返事が欲しいのに、否定されるのが怖い。
 キースさんが一歩踏み出した、と思ったとき、思考が一瞬停止した。
 何が起きているのか、よく理解できなかった。
 気付いたら、彼に抱き締められていた。優しく、包み込むように。
「私は…まだわからないんだ。でも君のことをもっと知りたいと思っている、これは本当だ。だから、逃げないでいてくれるとうれしい」
 その時の僕は放心状態だったから、逃げろといわれてもできなかったとは思うけれど。
 キースさんの目線が僕と同じところまで降りてきて、……キス、された。
 公園でしたキスとは違う、少し冷えたキスだった。
 目を閉じて、とこそっと言われ、慌てて目を閉じたらぺろりと唇を舐められた。
 びっくりして、指がピーンと伸びてしまった。
「ふ、目が離せないね」
 そう言うとキースさんは、また僕を抱きしめた。

 好きでいても、いいんだろうか。
 期待してしまっても、いいんだろうか。
 今は、このキラキラした空気と腕のなかで夢を見ていたい。少しだけ彼の胸に体重をかけた。




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