Saturday 6:08am


 カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。
 もう何度同じ朝を迎えたか、数え切れなくなるほどここは居心地がよくて、幸せな気持ちになれる。
 そして二人の寝るときの格好も、ずっと変わらない。
 イワンの背中を包み込むようにキースがかぶさる形で眠りに落ちる。
 一度、ケンカ(犬も食わないってやつだ。今思えば。)をしてしまったときに、拗ねて背を向けて寝ようとした。そうしたら、キースが優しく背中から抱き締めてくれたのだ。
 それがなんだかすごくフィットしてしまって、それからはその格好で寝たいというワガママをきいてもらっている。
 ただ、この格好が好きなのはイワンだけのようで、たまに、どうしてそっちを向いて寝るんだい、としょんぼりした声で聞かれることがある。
 特に理由を言う気もないので、そんなときは背中をぐいと押し付ける。キースの性器がお尻に当たるのがすこし恥ずかしいけれど、もう寝るだけだしそれ位は我慢する。
 お尻をぐりぐりすると、キースが盛り上がってしまいセックスに傾れ込むことも少なくはないが、嫌だったらそんなことはしないし。
 そっと体を起こし、枕元の時計を確認してみると、6時を少し回ったくらいだった。いつもだったら、そろそろ起きる頃だが、今日は土曜日だ。
 ヒーローに休日はないというのは誰の言葉だったか、しかし事件が起きなければその限りではない。
 寝直そうと、キースの腕枕をつぶさないように寝返りをうった。
 この愛しい人の寝顔が見られるのは自分だけだと、少しの優越感を持つ。
 なんだかうれしくなってきて、彼の鼻にキスをした。相変わらず気持ちよさそうに寝息をたてている。
 イワンは、キースの胸に潜り込んだ。彼の好きなところの一つで、この胸に抱き締められただけで幸せを感じられる。
「うん……イワン、くん…?」
 頭の上から寝呆けた声が聞こえた。
 寝返りのせいか、起こしてしまったようだ。
「おはようございます、キースさん」
「君はいつも、私より早く起きるね……」
 もぞりと体を離したら、頭を撫でられた。
 まだぼんやりしているようで、舌が若干回っていないのがいとおしい。
「かわいいよ…私のイワン……」
 頭を撫でていた手が、ぐっと後頭部を掴んだと思ったら、キスをされた。
 チュ、チュとついばむようなキス、それからペロリと唇を舐める。それに応えるようにイワンも舌を出した。
 ただ布団へ投げ出していた腕をどこか安定させたくて、キースのシャツの裾をゆるく掴んだらすぐに外されてしまった。
 その代わり、閉じた拳を開かれて頭のすぐ横へ縫い止められる。
 絡む舌先と、指と、足と。
 夢中で口付けを受けていたら、キースがイワンの上に乗り上げていたことに気付かなかった。
 彼から少しずつ流れてくる唾液をすべて受けとめたい。
 ず、と舌を吸われ背中がぞくりとした。舌の裏をなぞられる。そこが弱くていつも腰が砕けてしまうのを面白がられるのでイワンはあまり好きではない。
 そこから主導権を完全にキースに握られるから、ということもある。
「ふん、ん……ん」
 キスの最中の息のしかたも大分慣れてきたとは思っていたが、追い詰められてしまえばもうだめで。
 口の端からこぼれた唾液の不快さも今は快感に変わる。
 どのくらいキスをしていたのだろう、ぽやんとした頭で考えてもわかるはずもなくて。わざとらしくチュ、と音を立てて唇が離れた。
「キスに夢中になる君は本当に、かわいらしい……」
 鼻をちょんと当てて囁くキースはすごく幸せそうで、それが伝染した。
 股間がムズムズするとか、快感で乳首がちょっと立っちゃったとか、もう、いいや。
「好きです、キースさん」
「私も、イワン君が好きだよ」
 もう一度横になったキースの胸に擦り寄ったら、ぎゅと抱きしめられた。
 彼と過ごす休日、何にしてもブランチの時間まではもう一度寝ようと思った。

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