don't want to kiss
バーナビーはキスが好きだ。意外とオープンな彼は、外で仕掛けてくることもある。会社で、トレーニングセンターで、たまに野外で。もちろん、誰にも見られていないという確信の元でではあるが、こちらのほうがヒヤヒヤしてしまう。
自分の人気を考えろと言っても態度はあまり変わらず、そのうち虎徹も開き直ってしまった。だから、一番キスをする頻度の高いトレーニングセンターではいつか見つけられてしまうだろうな、とは思っている。勘の鋭い仲間もいることだし。
もちろん虎徹もキスは好きだ。唇を重ね合わせる行為は、恋人同士であるというはっきりした証明である――なんてのは建前であると、キスを知らなかったあのころの自分に教えてやりたい。キスとは、互いの熱を分け合って、愛しさと、たまに苦しさすら分け合える行為だと。それから、愛を伝えたり、……他にもいろいろ。別にキスとは何ぞやなんて深く考えるつもりはない。
くいとこちらを向かせて見つめる瞳のエメラルドにくらりとする。立った状態だとほんの少し高いバーナビーの見下ろす目線はとろり、溶けそうにゆっくり瞬きをする。きちんと閉じられずにほんの数ミリ開いた口の艶やかさたるや、フェロモンという物質が実際出てるのではないかと錯覚するほどだ。その開きが、あとから息継ぎするのに楽なようにだと言うのだからたまらない。
腕に掛かる頭の重みのいとおしさを感じながら、無防備にふくらむ艶やかな唇に指を這わせつつ、いつものキスを思い出す。
それの感触を知る前は、つんと澄ましたきれいな唇に触れたらどんな感触がするのだろうと、そればかり気になっていたこともあった。
知ったら知ったで、いつでもそれに触れていたくて悶々した日を過ごしたこともある。
悪いバニーちゃんだと、くすり笑う。いい歳したおじさんをこんなに夢中にさせてどうしようというのだと。
「安心しきっちゃって……子供みたいだな」
そんな毎日いつでもしていたいキスで、許せないことが、ひとつ。
口淫後のキスだ。
自分のペニスなんてどうしても汚いと感じてしまって、してもらった後はつい避けてしまう。
そんなものくわえさせて申し訳ないかなと思う気持ちと、逆に、あのバーナビーを汚しているということに愉悦を感じている自分もいる。しかも圧倒的に後者の占める割合が高いのだからどうしてもやめさせられないのだ。
優秀な若者は飲み込みも早く、技術的な意味でも夢中にさせられて、これではいつか取って喰われるのではないかという心配すらしてしまう。とはいえ、マウントポジションを譲る気も、おそらくバーナビーにだってセックスする上での役割を逆転させる気は多分ないだろうとは思う。
例えばそれが、騎乗位であるとかそういう乗られ方なら大歓迎ではあるが。
「は……ふぁあ」
サイドランプの光をキラキラと反射させるようにまつげを揺らすバーナビーを見ていたら、虎徹の方も眠気が出てきた。
おやすみのキスが、したいなとぼんやりした頭にうかんで、それから先程の行為を思い出しはたりとする。
やっぱり自分のちんこと間接チューは無理。
これは絶対に譲れないことだ。今日だってのらりくらりと避けられたから、まだ気付かれてはいないだろう。
虎徹の方がバーナビーをくわえた後は、何の抵抗もなくバーナビーとキスできるというのに、不貞だなあとは常々思う。
警戒心などみじんも感じられないくらい気持ちよさそうに眠るバーナビーの額をつるりと撫でる。
いつもは前髪にきちんと隠されているきれいな額は一筋の陰りもなく、彼の身体を構成するパーツの中でも好きな部分である。
そこにちゅっとキスを落として、もう聞こえていないであろうバーナビーに囁くように呟いた。
「おやすみ」
口へのキスは、朝までお預けだ。
バーナビーを少し引き寄せ、腕にかかる重さに幸せを感じながら、虎徹は目を閉じた。
明日の朝は、何時に起きようかなぁ。
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