◆Bath Cats◆
「失礼いたします、キシリア様。お背中をお流しいたします」
声と共に浴室を隔てる戸が開き、そう言ってバスタオルを体に巻いたマ子が入ってくる。
キシリアがお気に入りのこの風呂は、高層ビルの最上階にあり、夕日や夜景が見えるよう三方がガラス張りになっている。豪華な浴室を目でキシリアを探すと、美容にいい色々な湯の入った薔薇色や白の浴槽がいくつも設えてあり、そのうちの一つに、ガラス越しに夜景を見ながら湯につかっていたキシリアの白い裸身が動いた。
キシリアがずっと湯に浸かっていたせいか、辺りに若い女の甘い香りが漂っている。その桜色の靄のような芳香と、視界に映ったその身体の白さに、マ子の心臓の音が高まる。
「そうか、すまんな」
そうキシリアが声をかけると、マ子が近づき、ローズピンクの美しいタイルの上にちょこんと正座してキシリアが上がるのを待っている。
浴槽は床をくりぬくように低い位置に作られており、浴槽の縁の部分は床と段差が無い。そこに座られて、上からじーっと見下ろされる不自然さにキシリアが笑った。
「寒いだろう? お前も入ったらどうだ」
「はい、ではお言葉に甘えて」
キシリアがそう言うと、立ち上がりはらりとタオルを取った。一糸纏わぬマ子の裸身が晒される。
細い体がぼんやりとした明かりに照らされて、浮き出た鎖骨や腰骨に陰影を作る。僅かに膨らんだ胸が少女めいて、成熟した女の色気とアンバランスな妖しさを醸し出した。
キリストの磔刑像のように、どこか罪の匂いのする艶かしくエロティックなその体に、同じ女のキシリアでさえも一瞬ドキッとさせられる。
マ子が湯に入ると、反対にキシリアが豪快に水音を立てて立ち上がった。
「私は少しのぼせそうだから、涼むとしよう」
そう言って縁に腰掛ける。側に用意されていた良く冷やされたワインをグラスに注ぎ、美味そうに口にした。
仄かにピンク色に染まった頬が美しい。軍服を着ているときの硬質な魅力は無いが、リラックスして口元に浮かぶ笑みと共に、マ子とは反対の健康的な色気がある。
綺麗な鎖骨の下には、重力に逆らうように上を向く丸く大きな乳房が二つ、動くたびに躍動的にぷるんと揺れる。引き締まった腰に続く円やかなヒップと、むちむちとした白い太股。膝から下は湯につかっているので見る事が出来ないが、それでも見事な眺めだった。
心地よい音楽がかかり、水の妖精を模した像が持つ黄金の壷からは薔薇色や乳白色の湯が流れ、床や壁の美しいモザイクが目を楽しませる。
いかにも女の園めいたここに、全くタイプの違う美しく魅力的な女体が、仄かに肌を桜色に上気させながら無防備に供されている。その美を愛で、味わう者がいないのがいっそ勿体無いほどであった。
「……羨ましいですな」
湯につかり、キシリアの体を上目使いでじっと見ていたマ子がぽつりと呟いた。
「何がだ?」
キシリアが何の気なしに尋ねると、マ子がねっとりとした目でキシリアの両の乳房を見つめている。
「キシリア様のお胸、はちきれそうです」
「……肩がこるぞ」
心底羨ましそうなマ子の声にキシリアが苦笑した。大きすぎて困る事は有っても、小さい者の悩みはわからない。マ子の言葉にも苦笑して返すしかなかった。
「ですが、私のなど可愛いものですよ、ほら…」
ざばっと水音を立て、キシリアの前にマ子が立ち上がった。言葉と共にキシリアの手を取り、自分の乳房にそっと触らせる。乳房を持ち上げるように手をぐいと押し付けると、キシリアの柔らかな手のひらがマ子の感じやすい小さな乳房を刺激し、ああ…と声を上げそうになるのを堪えた。
キシリアの手が自分の乳房に触れている。それだけでもう頭がおかしくなってしまいそうだった。
「確かに、小さいな」
少し驚いたが、女同士の気安でさほど気にせずキシリアがそう言った。
マ子の乳房は、キシリアの手のひらにすっぽりと収まってしまう。これはこれで可愛いと思うが……と考えたが、言ったってマ子は納得しないだろう。
大きさを確かめるように手でそっと包んでやると、感じてしまったのか、手の平に感じるマ子の乳首が硬くなった。
「でしょう! だから、羨ましいのですよ。……大きいお胸ってどのような感じなのですか? キシリア様のお胸にも、触らせてください」
むきになったようにマ子がそう言い、拗ねたようなねだるような声でキシリアに懇願した。別に拒むような事でもなかったので、キシリアが軽く頷く。
「構わないが……」
ちょっと変だろうか? とは思ったが、小さい胸にコンプレックスを持っているのならまあそんなものかもしれないと思う。キシリアの許可が下りたので、マ子がぱっと嬉しそうな顔をした。
マ子がそっと手を伸ばし、白い胸に触れる。大切な宝物に触れる期待と緊張で手が少し震えてしまった。女同士の悪戯以上の意図が有るとキシリアに気付かせてはならない。
だが、キシリアの顔を見ていると、いっそのことなにもかも壊したいような気にもなる。
幾夜もキシリアの事を想っては泣き、自らの指で疼く体を慰めた。
側にあるのに触れられず、満たされぬ苦しさに身を焦がした。
その事をキシリアは知るまい。そう思うと無性に悲しくなった。
キシリア様が、欲しい。
飢えたマ子が心の中でそう呟き、指先が乳房に触れた。指が柔らかい乳房に沈むと、びくっと痺れたように一瞬手を引いた。
「柔らかいですな……」
だが、そう呟くと、次の瞬間にはマ子の手に一つづつ乳房を包み、ゆっくりと円を描くように手を動かす。
「お前、遠慮会釈無く触るな」
キシリアが呆れたように、それでもまだ呑気にそう言うと、マ子が舌なめずりしそうな顔で唇を吊り上げ、笑った。両手でそのまま掴み上げるように揉みしだく。
貴女、何も知らないで。
私がどれほど貴女の体を欲しがって身悶えたか。貴女が恋しくてどれほど涙を流したか。
それをこんなに簡単に許すなんて…。
知らぬが故のキシリアの残酷さと無情さに、だんだん心が冷たく麻痺していくような気がした。
キシリアの忠実な部下から、恋をする女へ、恋をする女から、想い人が自分を見てくれぬのを嘆くネメシスへ。
軽くキシリアの乳房を鷲掴みにすると、適度な弾力と共にマ子の細い指が食い込んでエロティックに形を変える。マ子の手の中で、キシリアの乳房は驚くほど従順に弄ばれた。
キシリア様の心は思うままにならないのに、キシリア様の体はこんなにも従順。
貴女が悪いのですよ、ちっとも私の気持ちに気付いてはくれないから。
そう思うと、ある一定の意図を込めてマ子の手が意地悪く動く。
やがてキシリアが何かに耐えるように唇を噛み、目を伏せてそっぽを向く。声を出すのを必死に堪えているのだ。
キシリア様が感じている。と思うと、マ子の体が熱くなった。
いくら隠そうと思っても、体は正直に反応し、キシリアの乳首が充血してつんと立っている。とうとう我慢できなくなって、可愛いそこを指で摘み上げた。
「あっ!」
不意打ちに思わずキシリアが甲高い声を上げ、びくっと体を反らせた。
おかしいと思った時点でマ子の手を振り払ってしまえばよかったのに、じわじわと感じる快感につい怒鳴るタイミングを失ってしまった。キシリアらしからぬ失敗をマ子が見逃すわけが無い。
「キシリア様、可愛い……」
うっとりした声でマ子がそう言った。目をぎゅっと閉じてふるふる震えるキシリアは、マ子の知らないキシリアで、マ子がずっと知りたいと思っていたキシリアだ。
ああ、もう我慢ができない。
キシリアの声がマ子に越えてはならぬ一線を越えさせる。
キシリアが怯んでいる隙に、素早くマ子の体が動く。キシリアを押し倒し、側にあったハンドタオルを紐代わりに、慣れた手つきでキシリアの手を頭の上で縛り上げる。
「うふふふふふ」
キシリアの上に馬乗りになり、顔を覗き込んだマ子が心底楽しそうに笑った。ねっとりとした情欲がその瞳に浮かんでいる。
「お前、何をする!! 解け!!」
急に視界が動いたかと思うと、気が付けば束縛されていた。マ子が怪我をしないように気をつけているのは判ったが、これから自分がどうされてしまうのか、マ子の瞳の得体の知れない感情にキシリアらしらかぬ怯えを感じ、虚勢を張ってキシリアが叫んだ。
まさか自分の腹心の部下に、しかも同じ女に、こんな事をされるなんて、キシリアの想像の範囲外だったのだ。
情欲が燃えるその瞳の奥に、一筋寂しい光を宿らせて、マ子がキシリアの身体を組み伏せる。ずっと、ずっと、待っていたのだ。こんなチャンスを。
「ちょっとした悪戯ですよ。火照った体に丁度よろしいかと……」
マ子の瞳の中で、暗い炎がちろちろと燃える。後は美味しく食べてしまうだけの最高の獲物を前に舌なめずりし、赤い舌がちらりと唇をなめて素早く奥に隠れた。
肉の快楽に狂ってしまえば、焼け付くような心の飢えを忘れられる。
ほんの一時の救いを求めて、自らを滅ぼす劇薬を口にするマ子が悲しいほど美しい笑みを浮かべた。
先ほどまでキシリアが飲んでいたワインを冷やしていた氷をひとつ取り出す。何をするのかと凝視するキシリアを充分意識しながら、氷をそっとキシリアの唇にあてる。
「冷たくて、気持ちがいいでしょう? キシリア様」
マ子の言葉は嘘ではなかった。のぼせそうに温まった体には、氷の冷たさは不快ではなく、むしろ心地よい。
マ子が目を細め、もうすぐもっと気持ちよくしてあげますからね。と心の中で囁きかける。
「あん、ああっ、やっ、冷た……っ」
キシリアが身をくねらせた。マ子の手にした氷がつつ…とキシリアの体の上を滑る。うなじ、二の腕の裏、わき腹…、氷はマ子の指と共にキシリアの敏感な部分をなぞり、抗えぬ快楽に甘い声を漏らした。
縛られた体を弄ばれ、どうにもできぬ屈辱と快楽が交じり合いより一層の甘美を引き出す。
氷を口に含み、白い体に舌を這わせると、冷たくて暖かい、ぬるりとした奇妙な感触にキシリアが身をよじった。
不自由がまさに甘美を生み出すという事をマ子は知っていた。キシリアの白く滑らかな肌を氷がすべり、溶けて小さくなってゆく。氷が滑るたび、キシリアの甘い声が上がる。
マ子の情欲の炎が大きくなった。自分の行為がキシリアを感じさせている。そう思うととても興奮する。
氷の尖った先で乳首をくりくりと苛めると、ああっ! とキシリアが声を上げた。キシリアの目がどんよりとした肉欲に支配されかけている。嬉しいような、悲しいような複雑な気分でマ子がキシリアの様子を見る。
欲しいのは、キシリアの体だけではないのだ。キシリアが快楽に引かれて自分を求めても、やっぱりどこか満たされないだろうと思う。
悲しい事に、余計に飢え乾くという事が判っていても、それでもマ子にはキシリアの体だけを愛するのを止めることが出来なかった。
溶けかけた氷を再び口にくわえ、キシリアに口移しに与えた。
かすかに開いた唇を舌が割って入り、上唇の裏の敏感な部分を擦り上げる。マ子の巧みな舌使いがキシリアの快楽を更に高めた。
マ子の舌がキシリアの舌を求めると、なすがままにされていたキシリアが、初めてマ子の舌に自分の舌を絡ませる。キシリアの舌の動きに、マ子が驚く。
ん、ん、と可愛く声を出し、何度も角度を変え、深く浅く口付けては互いを貪る。
舌が唇をなぞり、溢れる唾液を飲み込むと快感に身を震わせる。お互いの口の中を行き来する氷がキャンディのように甘い。
「ああ…、キシリア様が可愛いお声を出すものですから、私、濡れてきてしまいました」
長いディープキスの後、離れがたいように二、三度キシリアの唇に軽く口付け、マ子がそう言った。
体を起し、指を自らの下腹の淡い茂みの奥へ滑らせる。思った通り、そこは熱い蜜で溢れていた。
「はう……ん」
指の腹で尖った部分を撫でると、よがって甘い声が出る。そのまま最奥へ指を差し入れ、くちゃくちゃと指を出しいれすると、はあぁ…ンと身を反らせてあられもない声を出した。
「キシリア様も…ですか?」
最奥から抜いた指が透明な粘液で濡れている。わざとキシリアに見せるようにくちゅと指を動かすと、指の間にとろりとした透明な糸が引かれた。マ子の問いに、キシリアがむきになったようにぶんぶんと頭をふって否定した。
「……それは残念」
キシリアの頑なな態度に、マ子が嫣然とした笑みを浮かべた。キシリアの下腹も溢れるほどに蜜を湛えている事など、とうに知っているのだ。それでも、それを確かめるような意地悪はしなかった。
その代わり、指や舌、マ子の全てをもってキシリアを愛撫し始める。
夢にまで見たキシリアの白い体。それはマ子が思ったよりもっと柔らかく、美味だった。飢えた心と身体が際限なく欲しがり、夢中で貪る。
ちゅっと可愛く唇に口付け、首筋に舌を這わす。鎖骨をなぞり、両手で大事そうに揉みしだいた胸の先にある乳首を美味しそうに口に含み、無邪気にちゅくちゅくと吸い上げる。尖ったそこを唇で挟んで首を振って転がし、軽く歯を立てると、キシリアの顔が快楽に美しく歪んだ。
「あぁん、やあ……っ、マ子! ふあ……っ」
声を出すまいとするが、鼻にかかった甘い声が唇の間から漏れる。拒否している訳ではないその声に満足し、マ子が充血しきった乳首を優しく吸っては乳房を揉みしだき、何度もそれを繰り返す。
与えられる快感の大きさに体をクネクネと動かし暴れるが、マ子はキシリアの体を離さない。
かすかに桜色に染まり、汗ばんだ乳房に唾液で濡れた乳首がとても妖艶で美しい。片方の乳首を口の中で舌がくにくにと苛める。もう片方は、くにゅとマ子の指がつまみ上げ、指の腹や爪の先で執拗に責められる。
キシリアが弱い所を両方責めたてられ、我慢できずに、あああああっ! と高い絶頂の悲鳴を上げた。身をよじり涙を流しながらマ子の手で高まった快楽を解放される。
キシリアの声に、マ子もぞくっと体を震わせた。同じ女だから、キシリアが感じる快感がどれほどのものか判る。それを想像すると、自分でも感じてしまった。
「体が、余計に、火照ってしまいましたな……」
優しくマ子がそう言い、片方の手をそっとキシリアの体のラインに沿って撫でながら下げてゆき、太股の内側を優しく撫でた。そのまま奥に入っていこうとするが、キシリアが小さく嫌だと呟いて足を閉じてしまう。
無理に入ろうとはせず、今度は丁寧にキシリアの体を舌で愛撫した。柔らかい舌で、毛づくろいをする猫のようにキシリアの体を隅から隅までなめ上げる。
白い身体に、ねっとりと赤い舌が這い回った。わきの下も、艶かしい腹のアクセントになっている臍にも、足を担ぎ上げ、膝の裏にも舌を這わせた。
感じやすい部分を舐られ、ぞくぞくと感じる快感に身を震わせると、キシリアを見ずにマ子が笑った。マ子にとっては、感じやすいキシリアの身体自体が美味しいキャンディなのだ。
ちゅぱ……と指を口に含み、指の間を丹念になめ上げると、うっすらとキシリアが目を開けた。思わずにっこりと微笑むと、つられてキシリアもかすかに笑った。マ子の舌が指を愛撫する快感に、はぁ…んと大きく喘ぐ。
また頃合を見て、太股に軽く歯を立てながら、そっと足を開かせる。今度は抵抗しなかった。それをいいことにM字に大きく足を開かせる。
白い太股の間の唇めいたキシリアのそこはぱっくりと開き、透き通るような鮮やかなピンク色がマ子の目に映る。その色の美しさに感嘆しながら、じっくり目で楽しむと、溢れ出しているとろりとした蜜を指ですくい上げ、その指で顔を覗かせているピンクパールのような粒に触れる。びくっとキシリアの体が跳ね上がった。
敏感な部分を指の腹で優しく撫で、その下の部分を揉むように愛撫してやると、キシリアの体も嬉しいのか、体をひくつかせながら快楽の喘ぎと共に奥からとろとろと蜜が溢れてくる。
マ子がもう一つ、小さい氷のかけらを取り出した。氷の欠片をキシリアのそこに押し付ける。
「ひあ……っ!!」
「ここ、熱くて、すぐ溶けてしまいます」
そう言いながら、その塊をキシリアの奥へ指先で押し込む。冷たい感触となにかもっと別の衝動に体が震えた。僅かながら入り口を押し開かれ、キシリアが快感に震える。だが、氷はすぐに取り上げられ、別の場所を滑る。
もっと、大きくて確かなものを入れて欲しい。狂おしいほどにそう願うが、プライドの高い彼女はそう口にする事が出来ない。欲望と戦っているキシリアの目が急に開かれた。
「あ……、あ……、ああ……っ! ひあぁぁっ……、んんっ!!」
ぞくぞくっと快感が下腹から生まれ、全身へ広がった。思わず声を上げ、仰向けのまま慌てて見ると、丸く盛り上がった乳房のもっと下、マ子がキシリアの足の間に顔を埋めている。
マ子が真珠を口に含み、ちゅっと吸い上げた。キシリアの身体が跳ね上がる。愛しそうに熱いキスを落とし、舌でねっとりとなめ上げる。舌が襞を丁寧になぞり、軽く咥えて引っ張った。
舌は別の生き物のように動き、掻き分けて奥へ入る。貪欲に欲しがる入り口から奥へ舌を出し入れし、唇と舌を巧みに使って、くちゅくちゅ、ぴちゃぴちゃとわざと音を立ててそこを愛撫する。
見られているだけでも恥ずかしいのに、マ子の唇や舌がそこに触れている。自分から溢れる蜜を美味だと言って啜っている。
キシリアが羞恥と快楽の狭間で激しく戸惑った。その間も、暴力とも言えるほどの激しい快感がキシリアに与えられる。
マ子が飽きる事を知らないようにキシリアを貪り続けていたが、やがて顔を上げた。もう拷問のように何度もキシリアを絶頂へ導き、キシリアは足をぴんと伸ばしたまま硬直している。感じすぎて声も出ない。
あ、ああ、ひい! という断続的な喘ぎと、荒い息をして体をひくつかせているキシリアのその様子を見ると、マ子が悪戯な顔をして、ぬぷっと指を奥へ差し入れる。暖かく湿ってとろけるその中で指を悪戯するように動かし、ぐちゅぐちゅとかき回す。
「はぁっ! はぁ! あぁぁぁぁぁぁあっ!! んん、ふぁああああん」
指を出し入れしてやると、キシリアの腰が動いた。奥に指を入れられて、もう限界だと思っていたのにまだ快感を貪欲に貪る。
マ子の愛撫はどうしようもなく下腹の奥の部分を疼かせた。快感を与えられながら、そこは逆に飢えて欲しがる因果な体が、これが欲しかったのだと喜んでいる。疼いていた体が望みのものを与えられ、白濁した蜜がマ子の指にまとわりつく。
「キシリア様が気持ち良いと、私も気持ちいいです……」
そう言って赤い唇を吊り上げ、淫らで優しい笑みを浮かべながらマ子の指がキシリアを責めたてる。
そこに欲しがるのは、太古の昔から続く抗えぬ女の本能なのだ。女の腰が欲しがるままに指を動かし、くちゅくちゅと音を立てて出し入れする。
マ子の指の責め苦に耐え切れずに、キシリアが一層大きな悲鳴と共に身を反らせた。どれほどキシリアが気持ち良かったのか教えるように、マ子の指がきつく締め上げられる。
びくんびくんと痙攣するそこにまた入れたままの指をゆっくり動かすと、いやいやをするように体をくねらせ、甘い悲鳴を上げた。弱々しく、切ない表情で荒い息をつくキシリアを優しい瞳でマ子が見ている。
「キシリア様、そんなに乱れておしまいになって……。気持ち良かったんですね」
赤い唇をキシリアの蜜で妖しく濡らしながら、マ子が歓喜の声をあげた。
うふふと嬉しそうに笑うと、またキシリアの身体に覆い被さり、先ほどのように優しく体を舐めはじめた。母猫が子猫にするように優しく、優しく。
その温かい舌が、マ子の優しさをキシリアの肌にじんわりと伝え、キシリアの体温と一つに融けてゆく。
今度は下から上へ上がり、唇までたどり着くと、ぐったりしたように目を閉じたキシリアにそっと口付けた。幸福感が胸一杯に広がる。口付けたまま、慈愛に満ちた微笑がマ子に浮かんだ。
「解け! 命令だ」
マ子の唇が名残惜しそうに離れると、かっと目を見開いてキシリアが低い声でそう言った。油断しきっていたマ子が飛び上がって驚く。
「……解いたら、その後で私怒られるんでしょうか?」
しょぼんとした顔でマ子がそう尋ねると、キシリアの怒声が響いた。
「当たり前だ! 二、三発は覚悟しておけ」
キシリアの怒気に首を竦めて、上目使いで拗ねたようにキシリアを見る。
「どうせ怒られるのなら、もうちょっと堪能いたします。やっと思いが叶ったのですから」
珍しくマ子がキシリアに反抗した。拗ねて頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向く。怒られるのももちろん嫌だが、自分の気持ちをちっとも判ってくれないキシリアが恨めしい。
「マ子!」
苛立たしげにキシリアが名を呼んだ。
「どうせキシリア様は、なぜ私がこんな事をしたのかお判りではないのでしょう?」
自分でも何を言っているのだと思ってはいるのだが、気持ちが収まらなくて言葉が止まらない。挙句の果てには涙まで出てきた。
「あんな遠い所に追いやって、私のことなどすっかり忘れていらっしゃったのでしょう?」
ぽろぽろ涙をこぼすマ子を、キシリアが驚いたように見ている。泣きたいのは私だ…と思ったが、先手を取られた。
マ子の方は、やっぱりキシリア様は判ってらっしゃらない! と思うと、悲しくて感情の赴くままわんわん泣いてしまう。先に泣いてしまえば、キシリアの怒りをいくらか反らすことができるだろうという計算も無かったわけではないが。
「私、本当に、寂しかったんですから。通信していてもキシリア様はいつも冷たいですし!」
「勤務中なのだからしょうがないだろう……」
しゃくりあげながらマ子がそう言うと、キシリアが呆れたような宥めるような声で諭そうとした。マ子の涙が、キシリアの白い胸の上にぽたぽたと落ちる。
「大好きですのに!!」
なあなあなキシリアの返答に、涙に濡れた瞳できっとマ子がキシリアを睨みつける。マ子の剣幕にさすがのキシリアもちょっとたじろいだ。
「マ子、いいから……解け」
騒ぐマ子に、キシリアが有無を言わせぬ声で命令した。
「はい……」
叱られた子供のようにしゅんとして、恐る恐るキシリアの束縛を解こうと身を伸ばす。
ぐずぐずめそめそしながらマ子が束縛をとき、申し訳ございませんでした。と三つ指を突いて頭を下げる。
キシリアが結局マ子のしたいようにさせてやったのは、マ子が健気でいじらしかったからだ。キシリアが本気で嫌がれば、無理強いはしなかっただろう。だから、好きにさせた。
絶対的優位に立って自分を抱きながら、キシリアを一途に求め、泣きながら震えてうずくまるマ子の心に、哀れみとも優しさともつかぬ感情が芽生える。
身を起し、しばらく縛られた手首をさすっていたキシリアが、じろりとマ子を見た。怒られるか! とびくっとした表情をしている。
キシリアがいきなりマ子を乱暴に押し倒した。
え? え? え? とマ子が狼狽する。自分の上にキシリアの冷たい美貌と、見事な乳房が二つ。確かにある。
信じられないといった表情で自分を見上げるマ子に、キシリアが少しざまあみろという気になった。仕返しだ。
ふ……と唇の端を吊り上げて笑い、マ子の細い体に圧し掛かって、噛み付くようなキスをする。むにゅっとマ子の細い女体にキシリアの豊満な女体が重なり、暖かい柔らかさとキシリアの体の重みに、震えるほどの喜びを感じる。
噛み千切るような荒々しいキスに、キシリアの体の下で少しマ子が身悶えた。
「キシリア様、もっと優しく……、あん!」
「贅沢を言うな!」
抗議するようにキシリアにそう言ったマ子に、キシリアがそうぴしりと言い、逆らう事は許さないと首筋をきつく吸い上げた。手の中のマ子の小さな乳房をぎゅっと掴み上げる。
ひっ! とマ子が悲鳴を上げた。キシリアがマ子の体にキスを落とし、体を舐めまわす。所々噛み付き、白い肌に赤いあざが出来た。
乳首を吸い上げ、下腹に手を伸ばし、ぐしょぐしょになったそこをキシリアの指が探ると、マ子の唇から信じられないほど卑猥な声が漏れる。
そのハスキーな喘ぎ声と細い体に、キシリアの奥に潜むサディズムが刺激される。マ子の体はじっとりと艶かしく、退廃的な気だるい美しさがあった。白い歯をその柔らかい体に食い込ませると、倒錯した性愛に二人で溺れた。
青白い血管が透けて見える白い肌、思わず指を絡めて締め付けたい衝動に駆られる細い首、水のたまりそうな鎖骨。幾人もの男を惑わし、堕落させたその体のかすかに膨らんだ乳房の上の乳首は、穢れの無い処女のようなピンク色をしている。
そこをキシリアの指がつまんで軽く歯を立てると、体を反らせて喜んだ。
「ああ、キシリア様にしていただけるのならどのようにされても嬉しいです!! あん! ああ、もっと強く、痛くして!! 歯形が残るくらい強く噛み付いてくださいまし」
マ子の乳房にキシリアの赤い唇が吸い付く。キシリアの頭を掻き抱き、歓喜に涙を流しながらそう言った。
マ子の言葉に、キシリアが乳房に歯を立てた。マ子の望むままに顎に力を入れる。痛みが強くなれば強くなるほどマ子が喜んで身悶えた。ひあああっ! とかすれるようなマ子の悲鳴が何度も何度も生まれて消えてゆく。
はあはあと息をつきながら、体と心が満たされる満足感に体が震えた。喜びの涙が一筋頬を伝う。口元には至福の笑みが浮かんでいた。
初めて体に触れられた時よりも新鮮だった。キシリアがマ子に触れるたび、世界が鮮やかに変わるのを感じる。今までに味わった事の無い喜びに、マ子自身も戸惑った。
うっとりと閉じていた目を開けると、息も絶え絶えだったマ子がキシリアがしようとしていることを察して慌てた。
「キシリア様、貴女はそんな事をしては駄目です」
マ子の足を開き、そこに口付けようとしたキシリアに必死で抵抗して腰をよじって隠す。捩れた女の体のラインと、マ子の可愛いヒップが余計に情欲を誘う。反抗するマ子をキシリアが睨みつける。
「お前がして私がしてはいけないという、そんな馬鹿な話があるか。生意気を言うな」
「私のキシリア様はそんな事はしてはいけません!!」
「貴様の都合など知るか」
「では私もキシリア様のを一緒に…」
「その手は食わぬ」
一緒に…などしおらしい事を言っているが、マ子の舌技の凄さは先ほどで充分思い知っている。そんな事をしたらまたお前に主導権を握られてしまうではないかと目の前にある尻を引っぱたき、体をひっくり返して足を広げさせた。マ子が泣きそうになっている。
キシリアの舌が触れた瞬間、電気が走ったような快感が襲い、んんっ……と小さくうめいた。
唇と舌で全体をかき混ぜると、襞と襞が絡み合い、蜜が交じり合ってちゅくっと粘着質の卑猥な音を立てる。敏感な部分を硬くした舌の先でつついて刺激し、すくい上げるように舐めると、先ほどの言葉も忘れて体をくねらせ、キシリアの頭を押さえつけた。
「あんっ、キシリア様。あ、いやいやいやっ!!」
「嫌なのか?」
いやいやと駄々っ子のように身悶えて言うマ子に、キシリアがマ子から唇を離し、意地の悪い上目使いで笑ってみせると、マ子がはっとした。
「も、申し訳ございません。嫌ではありません。凄く、い、いいです。だから、意地悪はしないで下さい。止めないでください」
キシリアから与えられる快感が途切れてしまった事に気が付くと、目に涙を溜めて首を振って否定する。
キシリアの機嫌を損ねてしまったのかと怯えるマ子を冷たい目で一瞥して、キシリアがまたマ子を大きく舐め上げた。ああっと声を上げ、歓喜に舌を出し、思いっきり仰け反る。
「キシリア様、お願いです。キシリア様の指をマ子に入れて下さい。お願いです、お願いですから!」
獣のような声を上げ、蛇のように体をくねらせて、ついにマ子がそう言った。
マ子にそう言わせた事で、キシリアが唇を吊り上げて笑い、その願いどおりに奥へ指を入れた。ぬるりとした狭い中をゆっくりと押し広げると、悲鳴と共に髪を振り乱しながらマ子の背が反る。
熱くて、気持ちよくて、恥ずかしげも無く卑猥な声を上げる。マ子の反応に面白がってキシリアの指の動きが大胆になる。
体が高ぶる、とても気持ちいい。ああ、もっと、もっと、と腰を動かす。ちゅくちゅくという擦れ合う音がだんだん激しくなり、マ子の荒い息と本能のままにあられもなく快楽に鳴く声がかすかに壁に反射しては吸い込まれて消えてゆく。
「キシリア様、私、凄く、嬉しいです。あ、あ、もう、我慢が出来ません。あ、イク、イク、あ、んぁぁっ」
眉をひそめ、苦痛に顔を顰めたような表情で喜びと快感に喘ぎながらマ子がそう言うと、キシリアが残酷な笑みを唇に浮かべた。
「イけ、イってしまえ!」
イク、イクと繰り返し絶叫する子の声にキシリアの声が被さった。もっと奥に、マ子が感じる部分を指が突き上げる。キシリアがそう命令すると、今まで少しずつためてきたものが一気に解放される。
「あ、んく……ッ。あっ! ひぁぁぁぁぁぁっ!」
極限まで身を反らし、最愛の人の手から与えられた焼け付くような快楽を味わう。極限まで上り詰めて弾ければ身も世もなくよがり狂った。
「あん、くすぐったいぞ」
先ほどの浴槽からキシリアを引っ張り出し、体を洗うため泡でいっぱいのお風呂に移った。泡を手ですくい、洗うというよりは悪戯するようにキシリアの両わき腹を撫上げた。
お返しに膝の上に向かい合うように抱き上げ、擽りかえしてやる。派手な悲鳴を上げてマ子が逃げようとするのを抱きしめて捕まえた。
キシリアが片手でマ子を抱きながら、もう片方の手を伸ばしてグラスを取り、ワインを口に含む。マ子がキスを欲しがり、そのまま口付けて、とろりとした甘いワインを口移しに楽しむ。唇からこぼれたワインをキシリアが舐めとった。もっと欲しいとマ子がねだる。
遊び好きの猫のように無邪気にじゃれあっている。キシリアの膝の上に載せてもらい、抱っこしてもらったので、くっついて甘える。
ずっしりと重い乳房をたぷたぷと波打たせたり、乳房をむにむにと弄びながら身を寄せると、キシリアの心臓の音が聞こえる。こんなに近くにいる喜びを噛み締め、甘い雰囲気を充分に楽しむ。
隙を見てちゅっと乳首を吸うとキシリアが「んっ」と甘い声を出した。馬鹿者! と頭を小突かれる。キシリアを見上げると、キシリアも自分を見ていたので、首に腕を回し、口付ける。
柔らかい唇の感触を楽しんでいたはずが、だんだんと官能的なものになってゆき、舌を入れて、何度も角度を変えて深く口付ける。ごくり……と唾液を飲み込むマ子の喉が動いた。
相手の女らしい優しさがとても心地よい。柔らかい唇としなやかな指が何処をどうすれば感じるか、知り尽くした同じ性の相手の体を弄り、柔らかさに溺れる。弾けて終わる事の無い女同士のねっとりと甘い交歓は、貪欲に、どこまでも終わらない。
「同じ女相手にこんないやらしいことを……」
「いやらしい? こんなのいやらしい事のうちに入りませんな」
唇が離れ、ぽつりとつぶやいたキシリアの声を聞きとがめてマ子が言った。
「貴様、無表情だから気が付かなかったが、こんな事を考えていたとは……」
「それはもう、いろいろな事を考えておりましたよ」
呆れたようにキシリアがそう言うと、マ子が楽しそうに笑った。冷酷なポーカーフェイスの司令が小娘のような激しい恋をしているのをキシリア以外の人は知っていたのだが。
「さ、お体を綺麗にして差し上げます。ぬるぬるですよ、ここ」
悪戯するようにキシリアの足の間に手を入れ、太股が閉じる前に素早く逃げる。
恐ろしい事に今にも歌を歌いだしそうな陽気さで、嬉しそうに自分が付けたキスマークで一杯のキシリアの体を丁寧に洗い始めた。
「いやらしい事というのは……、ふふふ」
意味ありげにマ子がキシリアの背中を洗いながら笑った。ぞくっと嫌な予感がキシリアを襲う。首の後ろの産毛が逆立つような気がした。
ふさぎこんでしまったキシリアに比べ、マ子はこれからキシリアにする「いやらしいこと」を想像してうきうきしている。
「キシリア様のベッドでお教えいたしますよ」
マ子の知らないキシリアをもっと知りたい。
ねっとりと絡みつくような視線を向けられて、頬をぺろりと舐められた。食われる!? と少しパニックになりかけるキシリアにぎゅっと抱きつき、愛しくてたまらないとマ子が心の底から嬉しそうに、とろけるような笑みを浮かべた。
マ子がかすかに笑みを浮かべ、乳房につけられたキシリアの歯形を盗み見た。少し紫色になっているそこを手でそっと弄ると、甘い痛みがズキンと走る。明日になればもっとはれ上がり、見るに耐えない紫色と黄色とのまだらになるだろう。
醜く、とても美しい愛の印。
キシリアが自分を愛した証がとても嬉しく、誇らしかった。
終