◆下克上Heaven◆
「話にならぬ」
マ・クベから提出された書類の束を、キシリアがそう言ってデスクに放り投げた。
ポーカーフェイスを崩さぬマ・クベの視界に、放り出された白い紙に印字された文字が目に入る。
最初の概算より低く設定された数字の羅列から視線を上げると、腰に手を当て、マ・クベを睨みつけるキシリアの厳しい瞳とぶつかった。「何の為にお前をサイド6まで行かせたと思っているのだ? お前は私が『できるか』と問うた時に『できる』と答えたはずだ。今更修正案を出してくるとはどういう事です」
キシリアの苛烈な瞳とすさまじい怒気にびりびりと空気が震えるようだった。
その瞳に睨みつけられれば、どんな士官も震え上がる。中将や少将といったご大層な階級証をつけた威張りくさった大の男達が、キシリアの前ではみっともなく狼狽し、ここから逃れる事ができれば何でもすると神の前に這いつくばって真剣に願うほどだった。「申し訳ございません。予想したより状態が……」
キシリアの全身から発せられる威圧感にさすがのマ・クベも気圧される。美貌をこわばらせ、鬼神もかくやという美しく恐ろしい瞳の前には、どんな男でもひれ伏すだろう。
「言い訳など聞かぬ。この案を受け入れてやってもいい。だが、出来もせぬものを出切ると言い、私を謀った罪は到底許せるものではない」
マ・クベに最後まで言葉を言わせず、キシリアの怒声が空気を震わせた。けして大声を出しているわけではないが、その迫力にマ・クベのポーカーフェイスが崩された。叱責は覚悟していたが、キシリアの追求は予想以上に厳しく、マ・クベが居住まいを正す。
「は……」
冷や汗が背を伝うのをマ・クベが感じた。キシリアの苛立ちは豪胆なマ・クベの厚い面の皮さえも容易に貫き通し、脂汗を滲ませる。
「お前以外の者がそう言うのなら私も咎めはせぬ。無理を言っているのは十分承知です。お前だからこそこのレベルを要求しているのだ、判るな?」
「承知しております」
苛立った声のキシリアの問いに直立不動でマ・クベが応じた。次に来るメギドの火を最小限のショックで受け止めようと、腹に力を入れる。
「では二度とこのようなばかげた事はするな!」
目をかっと見開き、一層大きくなった威圧と怒声と共に先ほど提出した書類の束を投げ返された。反射的にそれを受け止める。
「……申し訳ございません。あと五日頂ければ、再度交渉してまいります」
「三日だ」
マ・クベの言葉にキシリアがふざけるなとぎろりと睨みつけて言った。十日でまとまらなかった交渉をあと三日で何とかしなければならない。それでも、キシリアの怒りに比べたらそちらの方がはるかにましだ。
「どうした? 下がれ。私は忙しい」
普段なら這う這うの体で謝り退散するはずなのだが、マ・クベは無言でキシリアの前で立ち尽くしている。それを見咎めたキシリアが不機嫌そうに言った。
「キシリア様が以前お気に入りだった士官、まだお会いになっていらっしゃるのですか?」
叱責された後での、キシリアを不快にさせるような発言は自殺行為としか思えなかった。マ・クベがそれを判らぬはずがないのだが、度重なる緊張に神経が麻痺したのか、いつにも増して無表情でマ・クベがそう唐突に言った。
「なに?」
案の定、キシリアの細い眉が不機嫌そうに顰められる。不愉快だと睨みつけ、無言でマ・クベの発言の撤回を要求するが、無謀にもマ・クベはそれに応じず、キシリアの答えを待っている。
マ・クベがサイド6から久しぶりにグラナダに帰って来て最初に聞いたのが、キシリアが他の男と会っていたという噂だった。
どうせ叱られるのならばと自暴自棄にでもなったのか、この状況でも問わずにはいられなかったのか。「それがお前に何の関係がある? 私のする事にお前ごときが口を出せるとでも思っているのか?」
キシリアの怒りが爆発した。部下として出すぎたマ・クベの言葉にキシリアの平手打ちが飛ぶ。警告しても判らないのなら、身のほど知らずには制裁を与えなければならない。誰が主人で誰が下僕かを教えるために、ぱんと派手な音がして、マ・クベの左の頬が赤く染まった。
「申し訳ございません。出すぎた事を申しました。ですが、キシリア様の失脚を狙う者がどのような事を利用して足元を救うか判りません。私としては事が起きれば万全の対応ができるように、些細な事でも把握しておきたいのですが」
「だからといってお前に私の男まで管理されるいわれは無い! でしゃばるな」
それでも食い下がるマ・クベに、キシリアの一喝が飛んだ。支配する者であるキシリアの何人たりとも逆らう事を許さない声に、所詮支配される者でしかないマ・クベは引き下がるしかない。
「……失礼いたします」
キシリアの方ではなく、無表情で空を見ながらマ・クベがそう言い、踵を返した。
「あ……」
キシリアがかすかに開いた唇から小さな声を漏らした。
マ・クベの手が、被服部がキシリアの体形にあわせてぴったりと仕立て上げた軍服の上から、優しく乳房を掴み上げる。そのまま五本の指を蠢かしてその柔らかさと質量を確かめ、布地の上から先端を探り当てる。親指と人差し指の第二関節の辺りでそこを優しく挟んでやると、もどかしい刺激にまたあっと声が漏れた。直接は触れずに、あくまでも服の上から胸を愛撫し、椅子に腰掛けたまま後ろから抱きしめる形のマ・クベがキシリアの耳の後ろに舌を這わせた。
「はぁぁぁん」
マ・クベの舌の動きに忠実にキシリアが声を上げた。キシリアのそこが弱いと知っているから、何度も何度も舌を往復させ、時折優しく耳を噛んで舌を入れては甲高い声を上げさせる。
「マ・クベ、もう……っ」
懇願するようにキシリアが甘い吐息と共にやっとの思いでそう言った。キシリアの濡れた唇から、何かを求めるようにちろりと赤い舌が突き出される。
「そう焦らずとも、お望みどおりにして差し上げますよ」
マ・クベがそう言うと、キシリアのかっちりと着た軍服の前を開いた。繊細なレースに彩られた黒い扇情的な下着の中に包まれて、白桃のような二つの乳房が微かに震えている。
「黒に白い肌が映えて、美しいですね」
既に充分熱くさせられている自分と違って、マ・クベの冷静な声がキシリアの羞恥心を煽った。
舐めるような男の目が自分に注がれている。普段の彼女なら絶対に許さないその卑猥な視線も、快感を増す刺激になって体中を疼かせる。「でも、まあ、取ってしまいましょうか」
そう独り言のようにマ・クベが呟くと、背中についと手を伸ばし、ぷちんとホックを外す。背中に触れたマ・クベの指先の感触に、ああっと声を上げて仰け反った。
仰け反った白い喉にマ・クベがまた舌を這わせる。左手からブラジャーの肩紐を抜き、黒い布地を取り去ると、窮屈な空間から開放されて嬉しかったのか、二つの果実がぷるんと美味しそうに揺れて姿を現す。右肩にはまだ軍服がかろうじて引っかかっている。乱された衣服と、キシリアが荒く息をするたび微かに上下する乳房との眺めにマ・クベの口の端が少し上がった。自分は一切着衣を乱さず、手袋さえも外さない。
その手で、キシリアの乳房を掴み、ゆさゆさと揺らした。それだけでキシリアが快楽に嬌声を上げる。
もう先ほどから充分焦らされている。服の上からのもどかしさが、後々余計に快楽を呼び起こす事をマ・クベは知っている。脱がされる前からキシリアの体は充分潤され、少し強く触れられるだけで簡単に快楽の頂点へ追い上げられる。
乱暴に掴み上げる事などせずに、あくまでもソフトに、しつこいほど丹念に、キシリアの胸を愛撫する。やわやわと揉みしだくと、そのかすかな刺激で、はあはあとキシリアの呼吸が荒くなり、頬が薔薇色に美しく染まった。マ・クベが思い出したように、桜色の乳首をくいと人差し指と中指で摘み上げた。
「い、や、あぁぁぁぁぁぁぁんっ」
キシリアが溜まっていた物を迸らせるように声を上げ、体を仰け反らせて絶頂にぶるぶると身を震わせる。
ぎゅっと目を閉じて快楽を貪るキシリアの額に汗で張り付く髪を優しく指で整えると、キシリアが白い手袋のままの手を伸ばし、マ・クベがそこに居るのを確かめるようにその顔に触れた。「私はここにいますよ」と、言葉ではなく汗ばんだ首筋をべろりと舐め上げる事でマ・クベが主張する。「ここ、鎖骨もお美しい」
そう言って鎖骨に口付け、触れるか触れないかの微妙な距離でキシリアのわき腹の敏感な部分を撫でる。
「ここも、お弱い」
「ひあああああっつ」
悲鳴のような声をキシリアが上げ、白い腹を蛇のようにくねらせた。マ・クベが意地の悪い楽しげな表情で、乱れたキシリアの長い髪を、まるで刷毛のように使って体をさわさわと撫上げる。いやいやをするように体をくねらせ、逃げようとするが、マ・クベの腕がそれを許さない。
片手でキシリアの体を捕まえながら、もう一方の手でブーツを脱がせる。マ・クベの指がウェストの留めを素早く外し、キシリアの隙を突き、体を少し持ち上げて一気に両足から布地を抜いた。
「ああ、まだここには触れていないのに、もうこんなに濡れてらっしゃるのですか?」
露になった下半身を見て、熱い息と共にキシリアの耳にそう囁く。夢中でうんうんと頷きながら、キシリアが欲望と期待に濡れた瞳でマ・クベを見る。
冷たく美しい彼の女主人がその体に触れるのを許した時だけに見せる疼くような熱を孕んだ目。支配され、組み伏せられる事を望む合図。マ・クベが手をキシリアの口の前に持ってきた。キシリアが何のためらいも無く手袋のままのマ・クベの中指を口に咥え、手袋の端を噛んだまま犬のように顔を横に向けて引っ張った。するりとマ・クベの手袋が取れ、唾液に塗れた手袋がぽとりと落ちる。もう片方も反対側に引っ張り、マ・クベの素の両手が外気に晒された。
「良く出来ました」
そう囁くと、キシリアの滑らかな肌を撫でながら、その手が下腹に伸びて行く。キシリアの目が期待で潤んだ。ガーターベルトにストッキング、黒の下着という扇情的なスタイルに加え、キシリアの下着は見て既に判るほどぐっしょり濡れている。
「マ・クベ、早く、触って……!」
必死に催促するキシリアの声に薄く笑いながら、マ・クベの手は下着の中ではなく、キシリアの白くむっちりとしたふとももの内側に触れた。触れるか触れないかで撫でられ、また悲鳴をあげる。
「ああああっつ、マ、クベ、そこじゃなくってっ」
抗議したキシリアのふとももに、マ・クベがお仕置きのようにぎりっと爪を立てる。
「は、ひいぃぃっ」
もはやマ・クベの与えるどのような感覚さえも全て快楽に繋がってしまう。最早何度追い上げられたかも判らない。
キシリアが満足するまで……ではなくて、マ・クベが満足するまで何度もいたぶられ、イかされるのだという事をようやくキシリアが理解した。「くぅん……んううう、ああっ」
また甲高い悲鳴をキシリアが上げた。
マ・クベの指が黒いショーツの中に潜り込み、割れ目を伝い、指に絡み付いてくる襞を掻き分ける。
レース過多のショーツの中の無骨な男の手が動くたび、更なる快楽が呼び起こされた。
片方の手では相変わらずこりこりと乳首を弄びながら、もう片方ではショーツの中の尖った敏感な部分を優しく指の腹で撫でたり、優しくつまみ上げ、揉みしだく。
二箇所を同時に責められ、気持ちよさのあまり空ろな目で涎を垂らしている。その涎を優しく舐め取り、キシリアに口付けて、じゅる……という音と共にその中の唾液を口移しに飲み込んだ。たっぷりと潤った蜜はマ・クベの手を濡らし、指が動くたびにくちゅくちゅと粘着性の音を立てる。充分そこを指で愛撫し、頃合を見てマ・クベが指をキシリアの奥に沈めた。ぬぷっという指が沈む感触と共に、熱い中に侵入する。
「はああん、ふああ……んっ」
一層高く鳴いて体を仰け反らせ、無意識のうちに腰を動かし、マ・クベの指と自分の中をこすり合わせる。キシリアが動くたび、ぐちゅ、ぐちゅと湿った音が下腹から聞こえた。
「キシリア様、そんなに欲しいんですか?」
「欲しい……っ」
マ・クベが笑みを浮かべて意地悪くそう聞くと、目を閉じて体を仰け反らせながら腰を動かし、うわ言のようにキシリアがそう言った。はしたないと思っても、中に欲しくてたまらない下腹の疼きはどうしようもなくキシリアを狂わせる。
「では、あれからあの男には触れられてないんですね?」
首筋にキスを落としながら、さりげなく尋問するマ・クベにも、素直に答える。
「はあ、ん……、ないっ! あ、一度会った、ああっ、だけ……」
「本当ですか?」
言葉と共に、マ・クベが指をもう一本増やした。キシリアの中は柔らかく、少々の抵抗の後躊躇い無くもう一本の指を飲み込む。
「ひいっ。わ、判ってるだろう!!」
中を広げる二本めの指を入れた瞬間に、キシリアの体がびくっと跳ねた。中で動かしてやると、あ、あ、と気持ちよさそうに喘ぐ。
ここまで乱れさせたのも、この答えが聞きたいが為だったのだが、嘘ではないであろうと判断した。
マ・クベの立場なら調べればいくらでも判る事であり、調べずとも充分キシリアの体の火照り具合でも判ったのだが、キシリアの口から聞きたかった。噂を聞いた時には危機感を持ったが、一度火遊びを楽しんだだけで、あとはちゃんと大人しくマ・クベの帰りを待っていたようだ。
「はあ、あ、お、お前、怒ってる、のか? 昼間の、事」
息も絶え絶えにキシリアが問うた。無意識だろうが、可愛く顔を傾げ、マ・クベの顔を見上げる。乱れた長い髪の毛がキシリアの動きと共に揺れた。
「怒っていませんよ。キシリア様は私の上官なのですから、部下である私が文句を言える訳がないではありませんか。貴女もそう仰ったでしょう?」
いけしゃあしゃあとマ・クベがそう言い、ぐいとさらに奥まで指を突き上げた。それでも、キシリアの体に一度でも他の男の手が触れたのかもしれないと思うと面白くは無い。
「嘘だ! 今日の、お前は、ああっ、とても、意地悪だ……んんっつ」
昼間の叱責の言葉を弾丸のように放った唇が、今度は駄々っ子のように拗ねた言葉を言い、マ・クベを内心喜ばせる。
「それは……、キシリア様のために必死の思いでサイド6まで行って来ましたのに、私の居ない間に貴女が他の男と腰を振ってたと知れば悲しくもなりますよ」
昼間には絶対に言えない愚痴めいた言葉を吐き、キシリアの表情を伺う。下手に理性が残っていれば、後で自分が切り捨てられるかもしれない。きわどい線に賭けてみたが、幸いな事に、キシリアがしゅんとした表情で済まなそうにマ・クベを上目使いで見ている。
「下僕のたわ言と思って聞き流してくれて宜しいんですけれども」
可愛さに思わず顔が緩みそうになるのを慌てて引き締め、済ましてそう言うと、キシリアの乳首を指で弾いた。ああんっと高くキシリアが鳴く。
「駄目ですよ。触らせません」
キシリアが隙を見てマ・クベの股間に手を伸ばそうとするが、素早く掴み上げられ、阻止される。
「どうし、って?」
したくてたまらないのにさせてもらえなくて、涙ぐみながらキシリアがそう言うと、あやすようにマ・クベが優しく髪の毛を撫でながら言った。
「気が散るでしょう。私の事は良いですから、貴女は気持ち良くなる事だけ考えていればいいのですよ」
「お前、やっぱり、怒ってるじゃないか!! 嘘つき……ッ」
溜まった涙がぱたぱたっと落ち、キシリアの頬をぬらした。拗ねたようにマ・クベから顔を反らし、歯を食いしばって耐えている。意地悪しすぎたかと、そっとマ・クベがキシリアの頬に触れた。
「……すまぬ」
「は?」
俯いたキシリアの小さな声に、マ・クベが自分の耳を疑った。
「二度とは言わぬ!」
照れて怒ったようにそう言うキシリアの涙を唇で拭いながらマ・クベが優しく頬にキスをする。まさか、あの倣岸不遜なキシリア閣下がこんな事で下僕に謝るとは思わなかった。
「痛かった……か?」
「平気ですよ」
キシリアの小さく済まなそうな声に、マ・クベが彼らしからぬ優しい笑みを浮かべたが、次の瞬間には意地の悪い顔に戻った。
「まあ、今は指だけでイってしまいなさい。できますね? キシリア様」
マ・クベの意地の悪い言葉にも、キシリアが素直に小さく頷くと、ん……と小さく声を上げて少し前かがみになってまた腰を動かし始めた。
動きに合わせて、両腕に挟まれた豊満な胸がゆさゆさと揺れる。マ・クベが片方の手でショーツを引き摺り下ろすと、キシリアも体を浮かせ、足を引き上げる。小さな布地はぱさっと軽い音を立てて床に落ちた。
大胆に動けるようになったキシリアのその吐息がだんだん激しくなり、あられもない声と共に、腰を振る動きも大きくなる。「ふぁ、ああ、あ、ああああああああっつ」
普段の彼女からは想像も出来ない、グラナダ中の男を欲情させてしまいそうな声をあげ、キシリアが何度目かの絶頂に達した。
ひくひくと痙攣するキシリアの中から指を引き抜くと、びくっと体が痙攣し、ひあっと声を上げた。
座っていられずに、マ・クベと一緒にいた椅子の上から、ずるすると床にへたり込む。
体を支えるのがやっとなのか、四つん這いになって肩で大きく息をする。連鎖したように時折くる小さな絶頂に、んーっと小さく声を上げて耐える。欠伸をする猫のような格好でふるふると体を震わせ、涙で濡れた顔が快感に顰められる。見下ろすマ・クベの目には、ガーターベルトとストッキングのまま四つんばいになったキシリアの白い豊かなヒップが否応無しに目に入る
。マ・クベが見ている事などとうに忘れているのだろう。マ・クベを誘っているのではなく、無意識ゆえの無防備さがマ・クベを余計に挑発した。
引き締まった張りのあるヒップの割れ目から、濡れそぼり充血したピンク色の襞が覗いている。「はあ、はあ、はあ。あ、……マ・クベ?」
乱れた息を必死で整えるキシリアの腰に、ふと手が触れた。振り返り見上げるのと、マ・クベがキシリアの腰を引き寄せるのと同時だった。
「え? あ、あ、ああっ、マ・クベっ!!」
マ・クベの舌が無防備なキシリアのそこに触れた。
ぴちゃぴちゃという音に、恥ずかしさのあまりかっと体が熱くなり白い肌が桜色に染まる。
後ろからヒップの双丘を掴み上げられ、剥き出しになったそこから、じゅる……と蜜を吸い上げられる。
全てを見られているという羞恥が、見えないだけに、マ・クベの舌使いといやらしい音で一層刺激される。いや、いや、という弱々しい拒否の声が喘ぎ声に変わっていった。
硬くした舌が中に侵入し、舌が丁寧に襞を舐め上げ、好きなだけ蹂躙され、一方的に攻められる。
がくがくと身を震わせ、前後不覚に陥りそうなキシリアに、先ほどとは比べ物にならぬほど熱く、質量の大きい物があてがわれた。「あ」と思うと同時にゆっくりと貫かれる。
「ふ……、う、ん、んんんんんん……っ。あっ」
何度も味わった事があるはずなのに、今日のマ・クベのそれは何時もより熱くて大きい。
舌でかき回され、指である程度慣らされていたはずのキシリアのそこも、受け入れるのに抵抗を感じた。
ずぷっというマ・クベの先端が入ってくる感触と共に、狭い入り口をじわじわと押し広げられる。圧迫感がきつくて、思わずキシリアの白い手が床に敷かれた絨毯に爪を立てた。
その抵抗さえもやがて気持ちよくなり、自分の中に圧倒的な熱さと質量を持って居るマ・クベをもっと感じようと夢中になって腰を使った。
欲しくてたまらなかったマ・クベ自身をそこに入れられ、犬のように四つん這いで後ろから犯される恥ずかしさも快楽を呼ぶ媚薬となる。細い腰を何度も引き寄せられ、ぎりぎりまで引き抜かれて浅く突かれたかと思うと、今度は深く体を貫かれる。
尻を高く上げられ、屈辱的なポーズを取らされても逆らう事は出来ない。獣じみた二人の荒い息と、交わった部分から聞こえるぐちゅぐちゅという音だけが室内に響き渡る。絶頂にたどり着く寸前、ずるっとマ・クベが引き抜かれた。
イヤっ! とキシリアが抗議すると、ひょいと抱きかかえられ、体の向きを変えられる。
向き合う形になり、キシリアが不思議そうにマ・クベを見ると、「どうぞ」とマ・クベが言った。「好きにして良いんですよ、欲しかったんでしょう」と言うマ・クベの言葉に、キシリアが無言でマ・クベに飛び掛り、上に跨った。
自分の手でマ・クベを欲しがって涎を垂らしているその部分にあてがい、あ、あ、と快楽の声を上げながら腰を沈める。もどかしそうにマ・クベの軍服とシャツのボタンを外し、前をはだけさせて両手で胸板を撫でまわし、喜んで舌を這わす。マ・クベも自由になった両手でキシリアの両乳房を愛撫し、美味そうに乳首を口に含んで転がし、きつく吸い上げたり、たまに軽く歯を立てる。そのたびにキシリアの体がびくっと跳ね上がった。
キシリアの細い腰を掴んで揺らしては悲鳴を上げさせ、両手でヒップを持ち上げるようにしてその丸みを楽しみ、思う存分キシリアの体を隅から隅まで慈しんでは、その手触りや形を愛でる。「マ・クベ、あ、あ、あ、イイ。ん、とても、あ、はあっ」
「ああ、キシリア様、私も、もうすぐ……っ」
キシリアが快楽に喘ぎながら薄く眼を開けてマ・クベを見ると、マ・クベの顔が歪められ、きつそうにそう言った。
言葉と共に上体を起こしてキシリアを抱きしめ、そのまま「あ……」という小さな声を上げて押し倒される。長い髪の毛が床に広がった。
キシリアの上に覆い被さったマ・クベが、ぐいと腰を突き上げた。自分は既に何度もイかされたのに、マ・クベはそうではない。それがずっと不満だったので、そのマ・クベがようやく自分の中で絶頂に達しようとしているのを見て、嬉しくてしなやかな両足をマ・クベの腰に絡める。圧し掛かるマ・クベの体重や荒い息使いまでもが嬉しい。えぐるような腰の動きに喜びと快感が増すたび、キシリアの足がマ・クベの腰を締め上げる。
マ・クベの腰使いが一層力強く、激しくなった。キシリアの男を受け入れる体の喜びに歪んだ顔さえマ・クベは美しいと思う。
キシリアがマ・クベを呑み込み、マ・クベがキシリアを突き上げ、支配しているのか、逆にいいように取り込まれているのか判らない。どろどろに融けた肉欲と快楽の底なし沼に二人で沈み込んでいき何処からが自分で何処からが相手か判らない。二人が一つになるようなその感覚、それはとても心地いい錯覚だった。快楽の先の白い絶頂が、もうすぐそこまで来ている。
「あ、ああ、ん、マ、マ・クベ、お前も、早く、ここまで、来てぇぇっ! あああああ……っ!!」
「キ、キシリア……様ッ。く……」
軍服がしわになるんじゃないかという位、マ・クベの背にまわされたキシリアの手がぎゅっと掴み上げた。
極限まで背を反らして、キシリアがこれまでよりも一層激しい絶頂を迎える。
腰に絡ませた足がマ・クベをもっと自分の奥へ導くように締め上げ、悲鳴じみた嬌声と共に、キシリアの中も一層強くマ・クベを締めつけた。
キシリアの望みどおり、頭が白くなるような快楽と共にどくどくっと白濁した液体がマ・クベから吐き出され、一滴も残さず絞り上げるように収縮するキシリアの中で共に絶頂後の空白を味わった。
「キシリア様、怒ってらっしゃいますか?」
あちこちに散らばった衣服を集めながら、おそるおそるマ・クベがキシリアのご機嫌を伺うように尋ねた。
「そんな事を聞くという事は、私に怒られるような事をしたという事か、マ・クベ?」
ガーターベルトとストッキング、ショーツのままで、先ほどまでマ・クベが君臨していた立派な椅子に座り、足を組んだキシリアが冷たい目で逆にマ・クベに問い返した。
情事の後の倦怠感も、甘い睦みあいも充分に楽しみ、満足してすでに女王の威厳を取り戻しているキシリアの声にさーっと肝が冷える。キシリアを満足させたのは良いが、すでに自分が最強の時間は過ぎ去り、もとの女王様と下僕の関係にもどったのだと瞬時に理解させられる。「あ、はあ、いえ、その……」
下克上のルールが過ぎ去った今では、トランプの2は最も弱いカードに逆戻り。クイーンに敵うわけが無い。
キシリアの顔が見られないので、ストッキングとガーターベルトの高く組んだ綺麗な足だけが視界に入る。しどろもどろに言葉を濁すマ・クベを、きっとクィーンが睨みつけた。
「貴様、覚えてろよ、明日からもっとこき使ってやる」
恐ろしい言葉に、自分の明日に恐怖した。
マ・クベが下着を手に近づくと立ち上がり、当然のように軽く両手を上げる。
キシリアの両手にブラジャーの肩紐を通し、形を整えて後ろのホックを止める。キシリアにぴったり合うこの下着はオーダーメイドの高級品だ。先ほどと同じようにぷるるんと美味しそうに乳房が揺れたが、手を出してもはたかれるのは目に見えているので、お預けになる。
「な、何故ですか!」
自分の後ろで抗議の悲鳴を上げているマ・クベに、有無を言わさないキシリアの声がかぶさる。
「何となくだ!」
その理不尽さには眩暈がしてきそうだったが、もちろん何も言う事敵わず、マ・クベにできることは、せいぜいキシリアの機嫌を伺いながら甲斐甲斐しく軍服を着せる事だけだった。
明日のマ・クベの未来はまだ保証されていない。
終