Dear My Princess
「ミネバ様、まだ起きてらっしゃったのですか?」
「うん、眠れないの」
「いけませんね」
「おじさまもでしょ?」
「……これは一本取られましたな」
「おじさまがお酒を飲んでいるときは、そうだもの」
「ねえ、お話して」
「いいですよ。楚王と虞姫のお話は前にしてあげましたが、次はどんなお話が宜しいですか?」
「悲しいお話じゃなくて、楽しかったお話がいいな。おじさまのお姫様のお話をして」
「ミネバ様は本当にお姫様のお話がお好きですね」
「ウン」
「そうですね……。地球にいた頃、楽しい事なんてまあほとんど無かったんですが、一度だけ、とても楽しい事がありました」
「なあに?」
「お姫様と、大きな青いたまねぎに乗って砂漠を越えた事が一番楽しかったです」
「わあ、すごい!」
「ねえ、そのたまねぎはどれ位大きいの? エレカくらい?」
「いいえ、もっとです」
「じゃあ、このお家くらい?」
「いいえ、もっともっと」
「すっご〜〜い」
「砂漠ってどんな感じ? 本当に砂だらけなの?」
「空の上から、砂漠を見ると、月に照らされてとても綺麗でした。どこまでもどこまでも一面砂で、とても幻想的でしたよ」
「お姫様って、ミネバの好きなお姫様?」
「そうですよ」
「お姫様は髪の毛は何色?」
「燃えるような赤です」
「髪は長かった?」
「ええ、とても。結った髪を解けば腰まで届きそうなほど」
「いいなぁ……。ミネバもそれくらい髪の毛伸ばしたいなぁ……」
「象牙の櫛ですいて差し上げると、猫のように目を細めて喜んでくれました」
「いいなぁいいなぁ。ミネバも触りたい」
「ねぇ、ミネバの描くお姫様に似てた?」
「うーん、そうですね。ミネバ様の絵のお姫様みたいに目は大きくてキラキラしてませんでしたね……。三白眼でしたから」
「さんぱくがん?」
「睨まれると怖かったですよ。とても、どきどきしましたけどね」
「怖かったのに。どきどきしたんだ? 大好きだったの?」
「大好きでした。愛してました」
「ミネバもおじさまのお話してくれるお姫様大好きよ」
「綺麗なドレスは着てた?」
「ドレスも、あまり着ていませんでしたね……。でも、たまにドレスを着るとミネバ様の絵のお姫様みたいに美しかったですよ。皆が彼女を振り返る。もちろん私も」
「ドレス、どうして着なかったの? ミネバだったら毎日着たいなぁ」
「時代が、彼女にドレスを着せなかったんですよ」
「????」
「でも、ドレスなんか着なくても、彼女は充分お姫様でした」
「彼女は生まれなどではなく、才能と厳しく、優しいお心など、その高潔な精神で王者足りえてらっしゃいました」
「わかんないな……」
「簡単に言うと、頭が良くて、強くて、優しくて、かっこよかったんですよ」
「ミネバも、かっこよくて、強いお姫様になりたいな」
「なれますよ」
「ほんと?」
「お姫様が、ミネバ様におまじないをかけてくださったから」
「ミネバ、お姫様に会ったことがあるの!?」
「ミネバ様は覚えてらっしゃらないでしょうけど、ミネバ様がうんと小さい時に、お姫様に抱っこされた事があるんですよ」
「ミネバ様のお母様が、お姫様みたいな頭のいい人になれるように抱っこしてあげてくださいとお願いしたら、可愛い、可愛いって返そうとしないものだから、ミネバ様のお父上が慌ててましたよ」
「あーあ、何で覚えていないんだろう。お姫様のことも、お父様の事も、お母様の事も。……会いたいな」
「皆、ミネバ様をとても愛してくださったんですよ。ミネバ様が覚えて無くても、ご両親の愛はミネバ様の中に生きてるんです。あなたがここにいて、生きている事こそ、沢山の人の愛の証なのですよ」
「それにね」
「お姫様は、ミネバ様と同じく、冷蔵庫の下の黒い虫が大っ嫌いだったんですよ」
「え、ほんと? お姫様にも怖いモノがあったの? ミネバと同じ?」
「ミネバ、いっぱい勉強してお姫様みたいになるね。ミネバがおじさまのお姫様になってあげる」
「そしたら、おじさまも寂しくないでしょ?」
「ミネバ様はミネバ様でいいんですよ、私はミネバ様がいてくれるだけでとても救われてるのですから」
「うん。でもミネバかっこよくて強いお姫様になりたいの!」
「なれますよ、ミネバ様ならね。私のお姫様よりもっと強くて賢いお姫様に」
ENDE
20050519 UP