「素敵よ。お前もここまでおいで」
「いえ、木に登れないので、ここで本を読んでおきます。帰りたくなったらどうぞ声をかけてください」
「お前、木にも登れないの!」
「インドア派ですから。……キシリア様、そんなに高くまで上って、降りられなくなっても知りませんよ」
「平気よ。子猫じゃないもの」
「子猫?」
「伯母様の家の子猫が、木から降りられなくなって消防士さんを呼んだんですって。私は子猫じゃないから平気よ」「マ・クベ!」
「なんです? 帰りますか?」
「降りられない!!」
「……そこまで行きますから、大人しく待っててくださいよ」「お迎えにきました。キシリア子猫さま」
注:左の四十雀さんの素敵なイラスト二枚から妄想させて頂きました。
「嫌味ね!」
「あいたっ!! どうして叩くんですか!」
「お前、ほんとは木に登れるじゃないの! 嘘つき!!」
「……インドア派は本当ですよ」
「お前にもこの景色を見せてあげたかったのに! もうお前となんか仲良くしないわ」
「そうですか、じゃあ一人で降ります」
「待ちなさい」
「お前と仲良くしないのは、降りてからにするわ」
「綺麗な景色ですね。大きな船が見える。どうぞ、ケーキです。木の上で食べるときっと美味しいですよ」
「おら? お前気が効くじゃないの。さっき私に嘘をついたことは許してあげる」
「左様でございますか……」
「うふふふふ」
「今度はなんです?」
「お前、将来消防士になると良いわ」
「はあ!?」
「それで、私が木から降りられなくなったらいつでも助けに来てくれるの」
「……この前は、病気になったら困るからお医者さん、そのもっと前は旅行がしたいから船長でしたっけ。そんなに色々なれませんよ」
「じゃあ……、じゃあね」
「お前、『私のなんでも屋さん』になりなさい! 私のお願いをいつもすぐに叶えるのよ」
「今とあんまり変わりませんね……」
「何か言った?」
「いいえ、何も」
「お前は私のナイトで、お医者さんで、消防士。私のなんでもやさんなの。いつも私の側にいて、私だけ見てて。私のお願いだけを聞いて。他の人なんか見ちゃだめ。いいこと?」
「そんな事言って、いつか他の男のものになっちゃうくせに」
「え? なあに? なんですって?」
「大きくなってもあんまり綺麗にならないで下さいね」
「!!! お、お前なんて事言うのよ!!! わ、私は大きくなったら絶対絶対ぜーったい綺麗になるんだから!! お父様もお母様も『キシリアは絶対美人になる』って言ってくださるんだから!! 馬鹿馬鹿バカバカ!! マ・クベの、バカ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「あいたたたたたたた! 判りましたよ。判りましたからそんなに怒らないで下さい。今のは微妙な男心から出たたわ言だと思って忘れてください」
「ビミョウナオトコゴコロ?? お前の言う事はいつも難しくてよく判らない。私が子供だと思って馬鹿にしてるわ!」
「世の中には判らない方が……」
「まだ言うの!? 突き飛ばすわよ!!」
「どうぞ。降りられなくても構わないのなら。キシリア子猫さま」
「お前、本当に頭に来るわ!!」
「ごめんなさい。意地悪しすぎました。貴女が望むのなら、何にだってなってあげますから機嫌を直してください」
「じゃあ、キスして。仲直りのキスよ。私もしてあげるからお前もしてね」
終