◆Sweet Pain◆
 


うふふふふ……という若い女の笑い声がマ・クベの耳を擽った。

抵抗も許されぬまま、忍び寄る手がファスナーをゆっくりと下ろす。そっと白い手がその奥に潜り込んでいった。

嬲られ、酔わされ、身体を良いように弄ばれて快楽に喘ぐ。

果てには、自分で自分を慰めるようにキシリアから命令された。逆らえずに、半立ちになった自分のものを握る。

「お前がこれを覚えたのは、いつからです?」

 高貴な声が、マ・クベの耳元で囁かれた。姿勢が崩れ、半ば犬のように四つん這いになりながら、マ・クベは自らの手で自らのものを扱いている。その後ろからマ・クベの身体を抱くように、キシリアがぴったりと密着してマ・クベを煽る。

背後から伸びる、マ・クベの手に添えられた一回り小さなほっそりした女の手。その手がマ・クベを良いように操っている。

 戸惑うように動きが止まるマ・クベの手ごと動かして扱き上げたかと思うと、悪戯するように先に軽く爪を立てたり、優しく撫でたりする。

 自分の手のもたらす快楽と、他人の手で与えられる快楽に、マ・クベが身悶える。

「ああ、キシリア様、お許しを……」

 うわ言のようにそう言うと、目を閉じ、ゆっくりと頭を振った。シャツも上着も捲り上げ、背中にキスを落としていたキシリアが動きを止めた。

「答えになってないな。はぐらかすつもりか?」

自分に逆らった罰としてキシリアが肩に噛み付いた。

痛ゥ! とマ・クベが小さくうめき、びくっと身体を震わせる。噛み付いた所にかすかに滲んでいる血を舌で舐め取った。

「じゅう……ろくの時、女に教えてもらいました」

 罰を与えられ従順になったマ・クベが、そう告白する。

 一つしかない窓から差し込む弱々しい光に埃がキラキラと輝いてた。美術品を仕舞ってある棚、締め切って埃っぽい空気。忘れかけていた思い出がキシリアの言葉で鮮明に思い出された。



薄暗い部屋で初めて交わった女に、丁度キシリアにされたように教え込まれたのだ。

「女?」

 キシリアの声が少し硬くなった。マ・クベの表情は伺えず、キシリアにはじっとりと汗をかいてきた男の背を睨みつけた。

「そう、です……っ」

「今は、その女の事を思い出しているのか?」

「はい……」

「気に食わんな」

正直にそう言うと、敏感な先の方に爪を立てられた。苦痛にマ・クベの顔が歪む。

「私で、した事は有るのか?」

 キシリアがそう言うと、ああ……とマ・クベが苦しげにうめいた。

「貴女を、汚したくはありません」

「……私では、しないのか」

「ですが、思い浮かぶのは、貴女の事ばかり……。申し訳、ありません」

 キシリアと自分の手で与えられる快楽に顔を紅潮させ、喘ぐように許しを請うた。自己嫌悪がマ・クベの声に色濃く滲む。

「よい。そなたなら許す」

 欲望の対象にされたにもかかわらず、悪い気はしなかった。むしろ満足げに、キシリアがそう言った。

「マ・クベ、最後にしたのはいつです?」

「キシリア様が、地球にいらっしゃる前の日に……」

 キシリアの意地の悪い尋問は、まだ終わらなかった。愛しい下僕がどれほど自分を求めて飢えていたのか全てを吐かせてしまいたい。

「お前の中で、私はどうしてるのですか?」

 マ・クベが恐れていた事にキシリアがとうとう触れた。正直に答えて、冷笑でもされたら心が死んでしまう。

「お許しください」

「答えよ!」

 鞭のように、ぴしりと言葉がマ・クベを打った。本当に苦痛を与えられているように、うう……とマ・クベが喘ぐ。素裸のマ・クベの心に、キシリアの打つ鞭の痕が蚯蚓腫れになり、かすかに血を滲ませている。

「私を、愛してくださいます」

 とても曖昧な表現で、マ・クベはキシリアの更なる鞭を覚悟したが、幸運にも、または残念にも、キシリアはそれ以上追求しなかった。

 その代わり、別の問いをマ・クベに投げかける。

「私の何処が一番いい? 胸か? それともお尻? お前が極上だといつも言ってくれる私のなかですか?」

 キシリアの楽しげな声とは逆に、嬲られて爆発寸前のマ・クベは、苦痛に耐えるような表情で身を震わせている。

「す、全てです。貴女の全て。唇も、指先も……、全て」

 喉を仰け反らせ、絶頂に達する時のかすかに開いた赤くぬらぬらと光る唇、キシリアのほっそりとした手、指、爪の先、声、長い髪……。全てが愛しく、全てが欲しい。

「ふふふ、ならば私を楽しませた褒美に許可してやるとしよう」

 マ・クベの答えに満足し、キシリアがこれ以上無いほど上機嫌に笑って、ぎゅっと締め付けていたマ・クベの根元から指を外してやった。マ・クベを握る手に力を入れ、扱き上げる手を早める。

ああ! と悲鳴を上げ、マ・クベから放たれた白濁液が自身とキシリアの手を汚す。

 申し訳ございませんと弱々しくマ・クベが呟いた。キシリアがマ・クベと汚された手を奇妙に誇らしい思いで眺める。

キシリアがマ・クベの荒い息をつく身体をもう一方の手で優しく抱きしめ、頬にそっと口付けた。

                                    





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