龍の絡み






「ちゃんと溜めてきた? 俺の言ったとおり」

 ベッドに腰掛けた天が、フローリングの床に正座させられた原田を見下ろしながらそう言った。

天は、二週間前に原田と別れる際に、ある約束をさせていたのだ。

次自分に会うまで、射精しない事。

でなければ、二度と抱かないと。

原田は、その理不尽な要求を飲んだ。そしてやっと、最後に抱いてもらった日以来天に会う事ができたのだ。

長い間禁欲していれば、一定のピークを迎えれば楽になるのだが、天はそこらへんは見越していて、長すぎもせず短すぎもしない一番辛い時期を選んできた。

「して……へん。あん時、お前としたのが最後や」

 辛そうに眉根を寄せ、うめくように原田がそう言う。

 原田は、先ほど天の前で屈辱的なストリップをさせられ、今は一糸纏わぬ全裸で、天の前で罪人のように正座させられていた。

 筋肉質の体は弛んだ所などなく、よく発達した胸筋や腹筋、太い首や張った太股が男らしく逞しい。
 
 背から太股の裏、腕、胸元、その体に鮮やかな刺青が施され、原田の体は惚れ惚れするほど美しかった。手を後ろに回しているのは、天の言いつけに逆らいそうになるのを必死に堪えているからだ。

「ふーん。自分でもしてない?」

 人の悪そうな笑みを浮かべ、わざと焦らして天はそう言った。

「してへん」

 そう泣きそうな声で言った原田の股間に、立派なものが隆々と上を向いている。

 二週間も溜め込んだものが、やっと解放されると原田の中で暴れている。触れてもいないのに、これからの期待と、天に見つめられているというだけで勃起している。

「だから、早よ、早よ触ってや」

「んー?」

 駄々っ子のように体を揺らすと、原田のペニスも左右に揺れた。まるで十代の少年のように上を向いている原田のペニスを、天がしげしげと眺めた。

 勃起は十代のようでも、原田のペニスは可愛らしいものではない。血管の浮いた太い幹に、完全に露出したエラがよく張った亀頭の、使い込んだ大人のペニスだ。

鈴口からは透明な液体がたらたらと溢れて床を汚している。ぎんぎんに張り詰めたその姿は凶悪でさえあった。

「やだね」

「なんでっ……!?」

 意地悪く天が言うと、原田が恨みがましい目で天を見て瞬間的に叫んだ。

「俺、お前の言う通りにしたやん……っ」

 これが、関西で幅を利かせている暴力団の組長か……と思うほどの情けない顔をしている。情けなくて、悲しくて、して欲しくて、知らず知らずのうちに涙目になる。

 天の要求を、捨てられたくない為に必死に飲んだ。脱げというから天の前で脱いだし、裸になって正座しろというから、その屈辱にも耐えて天に従った。なのに、天はまだ原田に触れてくれない。

「ほんま、頼む、お願いや、気ィ狂いそう」

 息も絶え絶えになって原田はそううめいた。

「チンポ、扱いてやっ……」

 目に涙を浮かべながら必死な顔でそう言った原田を、天がにやにやと見つめる。

 今の原田には、プライドも何も無い。ただ射精する事しか考えていない人形だ。そのためなら、何もかもかなぐり捨てて天の言う事を聞くだろう。

 自分は、たしかに原田を心身ともに支配している。という確信が天に生まれる。

「へぇ〜、ご立派な暴力団の組長さんが、『チンポ扱いて』ねぇ〜」

 天を必死で見つめる原田を、言葉で嬲る。天の言葉に、一瞬原田の顔が歪んだ。

「よっぽど溜まってたんだな、原田」

「お前がそうさせたんやろ!」

 原田の目から、涙が流れた。羞恥を押して頼んでいるのに、天は聞き入れてくれるどころか、ベッドから立ち上がろうともせずに原田に酷い言葉をかける。

「あーダメダメ。床に擦り付けて出そうっての? そこまでして欲しいわけ? 浅ましいよ、あんた」

 我慢できず、前かがみになってペニスを床にこすりつけようとした原田の体を、天が乱暴に後ろ髪を掴んで上げさせた。

「せっかく溜めたんだからさ、もっと楽しまなきゃ」

 涙でぐしゃぐしゃの顔を自分に向けさせ、天はそう言ってにやっと唇を吊り上げた。

「俺が」

 そう言って、天が声を上げて笑った。

「鬼!」

 天の酷い言葉に、原田の目から新たな涙がぽろぽろとこぼれた。いつもきっちりと撫で付けている金髪は無残に乱れ、兎のように赤い目が天を睨みつける。

「その鬼に涙目でチンポ扱いてって懇願したの誰かね? 組長さん」

 天は笑いをおさめてそう言い、黒い拘束具を取り出した。

「あんたほっといたら自分でやっちゃいそうだから、縛ろうか」

 そう言って、原田の背に回った。

 原田は不安げな顔をしながら、それでもおとなしく天に従う。

 原田の広い背中にある、見事な和彫りの龍が天を睨む。躍動感のある龍は、今にも天に飛び掛りそうだ。

鱗の緑がかった鮮やかな青に、龍の体を舐める炎の赤が妖艶で美しい。額のぼかしも見事で、黒が全体を統一し引き締めている。逞しい体に彫られたそれらは、原田の体を見事に彩っていた。

この美しい体は、滅多に見られるものではない。原田の相手をする女でさえも、こうもまじまじと見ることは許されないだろう。その原田の体を、天は存分に目で楽しんだ。

関西有数の暴力団の組長として君臨するだけでなく、一筋縄では行かないヤクザ者を纏め上げた原田の力に、皆が平伏す。原田の背には、万物の長たる龍が相応しく、また原田もその神獣を負うに相応しい男だ。

 その男が、天によって無残に乱れさせられ、屈服させられそうになっている。

後ろにまわした原田の手は、両方とも無残な引っかき傷だらけだった。ペニスを扱きたい衝動を抑えるために、自分の腕に爪を立て、かきむしって耐えていたのだ。

 その傷だらけの腕に、天の手が優しく触れた。

 こんなになってまで自分の言いつけに従おうとしている原田に、激しい愛情を覚える。

 だが、天は優しい言葉をかけずに、原田の両腕を上げさせ、頭の上で拘束する。首輪付のそれは、首輪と手かせがハーネスで繋がっており、悪戯するようにぐいとハーネスを引いた天に、原田が体勢を崩した。

 手かせ、首輪に加え、天は原田に足を開いて膝を折らせ、両足とも太股とふくらはぎを密着させて拘束した。

 これから何をされるのかと迷子の子供のように不安そうな原田を見て、天が満足そうに微笑む。

 拘束を終えた後、天が取り出したクリップを見て、原田の顔が歪んだ。

 天は、原田のその反応を無視して、原田の乳首にクリップを挟む。バイブ付のそのクリップは、細かい振動を感じやすい乳首に与え、甘い毒のような快楽を与える。

「うぐ……」

 体がびくっと跳ね、押し殺した喘ぎ声が原田の口から漏れる。

「反対もね」

 そう言って、天は両方の乳首にバイブ付のクリップを挟んだ。

「乳首モロ感の原田にゃ、きついかな?」

「はぁ、ああ、うう……ッ」

 快感に返事も出来ず、原田はいやいやと頭をふった。よしよしと天は原田の頭を撫でると、立ち上がって原田の体を足で転がす。

「ケツ出しな」

「いやや、いややっ」

 天の言葉に、原田が怯えた表情で抵抗した。抵抗といっても、手と足を緊縛されて転がされた状態では、せいぜい恐怖の混じった目で天を見るくらいだが。

「気持ちよくしてやろうってのに、強情だな」

「俺、それでイけへんもんっ……」

 天が、素直にアヌスを攻めるつもりで無い事は、とうに原田に見抜かれている。

「さすがに学習したみたいだな」

 原田の言葉に、天が苦笑した。

「原田、ケツマンコで感じまくるくせに、どーしてもイけないもんな」

 楽しそうにそう言いながら、天はアナル用のバイブにコンドームを被せ、ローションを塗る。強い快感の中で、イけない苦しみに苛まれると判っていながら、天はやめるつもりは無い。

「嫌や……っ」

 原田の抵抗の言葉は、途中で途切れた。コンドームを被せ、粘度の高いローションをたっぷりと塗られた細めのバイブは、多少の抵抗の後ずずっと原田のアヌスに入る。

「うぉ……。ううう」

 腹の底から出しているような低い喘ぎ声が原田の口から漏れた。

「けだものみてぇ」

 原田の声を聞き、そう言って天がくくっと笑った。

すでに、原田の耳には天の言葉は入っていない。

ひっくり返されたカエルのような格好で、乳首とペニスをビンビンに勃たせ、アヌスにはバイブが挿入されている。目が空ろになり、口からは涎がこぼれ、口元から喉をべたべたに汚した。

 原田の人間としての意識が消えかけた瞬間、コンコンというひかえめなノックの音と、小声で天を呼ぶ声がマンションの部屋の外から聞こえ、はっと意識を取り戻させた。

「っと、一時中断。さすが時間通りだな」

 天がそう独り言を呟き、原田に背を向ける。

「なんや……? 嫌、いやや、行かんといて……」

 天に向かって、原田は必死で懇願した。こんな格好で一人放り出される情けなさと寂しさを考えたら、死んでしまいそうだ。

「あんた、放置プレイ嫌いだものな」

 だが、天はそう言って笑っただけだった。

「ほんまこのまま一人は嫌や。気ぃ狂う、堪忍や。俺、お前の言う事何でも聞いてきたやろ? エエ子にしとったやん」

「うん。まあそうなんだけど」

 原田の切羽詰った声も、天の気持ちを動かす事はなかった。天は原田を見もせずに、黒いアイマスクをごそごそと探して取り出す。

「静かにしてな。少しでも声出したら、その格好のまま山奥に放り出すぞ」

 アイマスクを嫌がる原田に付け、ぎゅっと優しく抱きしめて、残酷な言葉を耳元で熱い息と共に囁いた。

「天!」

 視力を奪われ、暗闇に放り出された原田の悲痛な叫びが部屋に響く。暗闇は感情を増幅し、不安や恐怖に、まるで子供のように心細く恐ろしい。

「辛かったら、バイブをケツからひり出せよ。そのために細めの奴にしたんだから。優しいだろ、俺って」

 しかし、原田にかけられたのは、その天の言葉だけだった。

 ドアが閉められると、室内に低いバイブのモーター音と、縛られた原田が取り残される。大声で叫びそうになるのを、原田は必死で堪えた。

 暗闇の中にいると、視覚以外の他の感覚が敏感になる。否応無しに乳首やアヌスに感じる刺激に集中させられ、犬のようにハァハァと荒い息をつきながら涎を垂らしつづけた。

 鋭敏になっている原田の耳に、ドアの向こうの会話が飛び込んでくる。

 聞きなれた声に、原田がショックを受けた。

 ひろゆき!?

 原田の耳に入ったのは、ひろゆきの声だった。借りてたCDを返しに来ました。とひろゆきは言い、そのまま帰ろうとするのを天が引き止めている。

 天、あいつ何考えとる!?

 原田の脳裏に嫌な予感が広がった。恐らく、ここでひろゆきが来たのは偶然ではない。わざと天は今ここにひろゆきが来るように画策したのだ。

この姿、ひろに見られたら……。

そう思うと、ものすごい恐怖に体が震えた。暴れて頭を壁に打ち付けたかったが、拘束された今のままではそれもままならない。第一、暴れたりして音を立てることなどできない、それこそ身の破滅だ。

原田は、ともすれば快楽と恐怖で飛びそうになる意識をどうにかまとめ、隣の部屋の会話に意識を集中する。

「しようぜ」と天が言うのが聞こえた。原田の頭がかっと熱くなる。ベッドルームには自分がいるのだ。天はどうするつもりなのか。

だが、ひろゆきは天の誘いを時間が無いからと断り、ほっと一安心する。と、天が食い下がった。

「抜くだけでいいから」

「ちょっと天さんってば、ダメです」

「えー? なんで、しようぜ?」

「昨日もしたじゃないですか」

「今日もしたい」

耳に入る二人の甘い会話に、原田の目から悔し涙が流れた。天は、家に帰れば二人も嫁がいるし、家の他にもう一つ借りているここでは、ひろゆきと甘い生活を楽しんでいる。

原田には禁欲を命じておきながら、自分はこうやって奔放にセックスを楽しんでいたのだ。

 こんな男の言う事を聞いて、こんな恥ずかしいまねをしている自分が心底情けなく思った。

「愛してるぜ、ひろ」

 俺、お前にそんな事言われた事ない……。

天がそうひろゆきに言っているのを聞いたときには、快感も何もかも吹っ飛び、自分が空っぽになった気さえした。

「やりたい時ばっかりそれなんだから……」というひろゆきの愚痴に、二人の仲睦まじさを垣間見て、原田は余計泣きたくなった。だが、部屋の向こうでは、原田の気持ちなどお構いなしに事態は進んでいる。

「え? ここでするんですか」というひろゆきの言葉に、「たまにはいいだろ?」と天が言う声がし、服を脱がせているらしい衣擦れの音が聞こえた。

原田の嫌な予感が膨らむ。

天は、原田に自分とひろゆきとのセックスを聞かせるつもりなのだ。

いややっ、こんなんいやや、聞きたくない、やめてくれ。

俺が壊れる!!

悔しくて、唇からかすかに呻き声が漏れた。騒ぐとその格好で山奥に放り出すという天の言葉を思い出し、必死に耐えた。

ひろにはあないに優しくするくせに、俺には……。

俺は、お前の何やねん。俺がお前の言う事聞かんかったら、お前はホンマに俺を捨てるんか?

そう思うともう出ないと思っていた涙がとめどなく出た。

その原田の気分を変えたのは、ひろゆきの喘ぎ声だった。

「んっ、気持ちい……い」

 ひろゆきのその声を聞いた途端、原田の股間が再びかぁっと熱くなる。心はこれ以上無いほど沈んでいるのに、体は反応している。その正反対の感覚に原田は戸惑った。

 ひろゆきの喘ぎ声は、まるで女のようだった。感じても獣の呻き声のような声を上げる原田とは違い、声質を除けば、声のトーンや感じが女そのものなのだ。

 その声に、原田の長い間押さえつけられていた雄が反応する。

 萎えていた股間が、勢いを取り戻す。男の征服欲が、ひろゆきに突っ込みたいと暴れだした。それに原田は驚き、戸惑った。心と体がばらばらになったようだ。

 アイマスクをされた暗闇の中で、原田はひろゆきを抱く妄想に取り付かれていた。天に大事に大事にされているのであろうひろゆきに乱暴につっこみ、泣かせてかき回すその妄想にペニスは張り詰める。

その妄想を振り払うと、今度は、ひろゆきに己を深く差し入れ、激しく出し入れする天の姿が生々しく思い出された。

乱れる二人の姿を、息遣いまで聞こえてきそうなほどはっきりと思い出すことができる。

 原田は、一度だけ、天とひろゆきのセックスを見たことがあるのだ。

 東西戦を行った料亭で、偶然見てしまった秘め事。

天の低いささやき声と、くすくすと笑うひろゆきの声、笑い声がやがて喘ぎ声に変わり必死にこらえようとしても、ひろゆきの口からは、情欲に濡れ、熱を帯びた高い声が漏れる。

細く開いた障子の隙間から、薄闇の中で、細身のひろゆきの体に大柄な天が覆い被さっているのが見えた。

 ひろゆきの体は、天によってまるで人形のように軽々と持ち上げられ、ゆさゆさと揺らされていた。時折びくっと跳ね上がる足が痛々しく、大型の獣が獲物を食らっているような、どこか残酷な光景だった。

それ以来、あの日見た光景を思い出しては何度も自慰をしてきた。

 原田の雄の部分は、ひろゆきに挿れたいと思うのだが、それよりも、原田の妄想の中では、ひろゆきのように犯されたいと思う方が興奮した。そんな自分に戸惑ったが、自慰の途中でアヌスをいじると、強い快感にそんな戸惑いは吹き飛び、天に抱かれたいという気持ちが募るばかりだった。

 ひろゆきの小さな尻を左右に広げ、アヌスに極太のペニスをあてがう。アヌスを押し広げながら、ぐちゅぐちゅと音を立ててひろゆきの尻を思う様犯し、きゃしゃな体を揺さぶってひぃひぃと悲鳴を上げさせる天。

 あの時見てしまった、筋肉質の天の体と、それに絡みつくひろゆきの白くてしなやかな裸体が、原田の脳裏に焼きつき、瞼の裏にいつまでもちらつく。

 激しく焦がれた。綺麗だと思った。いやらしいと思った。

 あの日以来、原田は魅入られてしまったのだ。

狂ってしまった。

我慢しきれずにとうとう天をセックスに誘うと、拍子抜けするほどあっさりと天は原田に応じた。

だが、そこから原田の地獄が始まる。

 原田は天との行為に夢中になった。だが、初めの興奮が過ぎ去ってしまうと、気がついてしまったのだ。

幾ら体を繋げても、心は満たされない……と。

肉欲は満足しても、天とひろゆきの交わりを見てしまったときの、あの焼けるような興奮は得られなかった。

 そんな時、天があの一方的な要求を原田に突きつけたのだ。

原田の妄想の中で、ひろゆきに出し入れするのが天になり、自分になり、天にペニスを入れられ、女のように喘いで天にしがみつくのがひろゆきになり、自分になり、はてはひろゆきになって天に愛される。

激しい嫉妬と共に、その妄想に欲をたぎらす己がいる。

好きな男が、他の男を抱いているという嫉妬心と、憎いはずのその男を抱きたいという欲望、単に吐き出したいという肉欲、バイブによって与えられる刺激。これらがごちゃ混ぜになって原田は朦朧とした。

この異常な状態に、自分が壊れていくのを感じる。

 ちゃう、こんなん望んでるんやない……。

 かすかに残った理性がそう思うが、原田の雄はひろゆきに突っ込みたいと暴れ、ひろゆきになって天に抱かれたいという屈折した妄想が頭をちらついてはなれない。

 いや、俺、本当は、こうなるのを望んでたんと違うか?

 そうぼんやりと思い直した。心身ともに激しく苦しみながら、代わりに、焼けつくような強い何かを味わっている。初めて天とひろゆきのセックスを覗いた時のような、強烈ななにかを。

「ん……、天さん、い……い……っちゃい、ます……」

「いいよ、イけよ」

 ひろゆきの鼻にかかった甘い声が天の名を呼び、天が優しくひろゆきに答える。原田の頭は色々な感情が焦げ付いて焼ききれそうだ。

 やがてすぐにひろゆきが一層高い声を上げた。

「気持ち良かったか?」

「はい……」

「天さんも」

「ん」

 天の優しい声のあと、先に出したひろゆきが、今度は天を口で愛撫しているらしき気配がした。

 天の感じている声が原田の耳に入るたび、嫉妬と欲望が増大する。

 俺も、天のチンポ舐めたい……。

 最後には、馬鹿のようにそれだけを考えていた。








「お待たせ」

 声と共に、天が原田のいるベッドルームに戻って来た。先ほど帰ったひろゆきはベッドルームへ来る事は無く、この姿を見つからなかったのは幸いだったが、それ以外は最悪な気分だ。

「ククク、そんな恨みの篭った目で見るなよ」

 床に転がされたままの原田の前にしゃがみこみ、天がそう言う。

「原田、前に見ただろ、俺とひろのセックス。あれがずいぶんお気に入りだったみたいだから、もう一度聞かせてやったのに」

 天の言葉に、原田の顔がかあっと赤くなった。天は、原田がひろゆきとのセックスを見ていたことも、それをネタに自慰をしていた事も、何もかもお見通しだったのだ

「なんだ、やっぱりまだイけてないんだな」

 まだ張り詰めたままの原田のペニスを一瞥して、天はそう言った。

「おどれはっ、ひろと……」

 我慢できず、原田は狂犬のように噛みつかんばかりの勢いで天にそう怒鳴った。

「ああ、ほぼ毎日してるよ。嫁さん達ともね」

 だが、天は熱くなっている原田を全く相手にもせず、悪びれた様子も無くそう言った。

「大体さ、あんたひろに嫉妬してるのか? それとも俺に嫉妬してるの?」

「くっ……」

 自分でもよく判らない部分を突かれ、原田が口篭もった。

お前が憎いのだけは確かやと喉元まで引っかかっているのに、言えない。

「聞いてたと思うけど、さっき俺抜いちゃったからさ、やる気無えんだよ」

 天は、本当にやる気なさそうにベッドに腰掛け、ぽんと真っ黒なディルドを原田に放り投げた。

「だからさ、自分でやってくれよ」

 原田は、放り出されたディルドに見向きもせず、無言で天を睨む。

「ほら、原田がわざわざ俺のから型取って作った特注品。あんたお気に入りだろ」

 反抗的な態度の原田に、しょうがないという風にため息をつき、天は真っ黒なディルドを拾い上げた。コンドームを被せ、原田の口元に押し付ける。

 その真っ黒なディルドは、天の言葉通り、原田が天のペニスから型を取ってつくらせた特注品で、浮いた血管も、カリの張り出し具合も、竿の太さや長さ、反り具合も天と全く同一だ。

 原田は、天を睨みながら、そのディルドに舌を這わせた。やがて原田はディルドのフェラチオに夢中になり、天がディルドを後ろへ引いていくと、それを追って原田が前のめりになって倒れそうになる。そんなに舐めたいのかよ、と天が笑い、吸盤付のそのディルドをフローリングの床に固定する。

 原田が四つん這いになってそのディルドを舐めまわしていると、天が原田の背後に回り、首輪はそのままに、手首と足の拘束を解いた。

「俺に挿れられてると思ってさ、自分でしろよ」

 天がそう言いながら。四つん這いになって尻を上げているため、目の前にさらされている原田のアヌスに、たっぷりとローションを塗りこんで指でマッサージする。

天の生指でアヌスを責められ、原田が甘いため息を漏らしながら、至福の表情でディルドをしゃぶる。

原田のアヌスが、先ほどの攻めと天のマッサージで十分柔らかくなっているのを確かめると、天が原田の首輪に繋がっているハーネスを引いた。

「それはおしまい。次はこっち」

 ディルドのフェラチオを強制的に中断された原田は天を睨むが、天はお構いなしに原田の両膝の裏を抱え、まるで小さい子にトイレをさせるような格好で原田の体を抱き上げた。

 そのままゆっくりとディルドの上に原田の体を沈める。ローションでたっぷり濡らされ、柔らかくほぐされた原田のアヌスは、唾液で濡らしただけの太いディルドをずぷりと飲み込んだ。原田は小さな呻き声を上げただけで、天のペニスと同じ形をしたディルドをあっさりとアヌスの中に収める。

「さっすが、簡単に入るじゃねえか」

 天のからかう言葉も、原田の耳には入らない。

「あ……天」

 額に金髪をいく筋か張り付かせ、切ない顔をして原田が喘ぎ始めた。

「あん、エエ……、すごく……、ううっ」

「俺のチンポ、気持ちいい?」

「ああ、ええ。天のチンポ、気持ちエエ……。はぁ……、うぐぁぁっ」

 床に固定したディルドに跨り、騎乗位の要領で尻を振る。自分の感じる部分に擦りつけ、体を上下して出し入れし、前後に動いて中での存在感を楽しんだ。

「気分出てきたね」

 天が原田の乱れた様子を楽しそうに眺め、M字開脚している原田の正面に立つ。

 髪を乱し、顔を赤くして息を荒げ、床から生えたペニスに跨って尻を振る。原田自身の股間も、張り詰めて先走りの液を垂らすペニスがびくびくと脈打っている。

「すっげぇ眺め」

 原田の広げられたアヌスからぬぷぬぷと出入りする太いディルドを見て、天がそう言った。

「これ見たらどう思うかね、原田の部下たちは。組長がチンポ入れられるのが大好きなど淫乱って知ったら、案外可哀想に思ってみんなで輪姦してくれるかもよ?」

「天のじゃなきゃ、嫌や。俺の体は天のものや……っ」

 意地悪な天の言葉に、原田がそう駄々っ子のように叫び、いやいやと首を振った。

「泣くほどケツ突かれるのいいかねー?」

「ちゃう!」

 尻を振り、泣きながら抗議する原田に、冗談だよと天がいい、軽く唇にキスをした。

「はっ、あっ、はっ……」

 くいくいと前後に腰を動かしながら、顔を赤くして原田が天を見る。

「俺、嫌や、これでイくの。嫌や……。天ので、天のチンポでイきたい」

「判ったよ」

 原田の言葉に、ベッドから天が立ち上がった。着ていたシャツを無造作に脱ぎ捨てる。それを見た原田の顔がぱっと嬉しそうに輝いた。

原田はディルドを己の体内から抜き、立ち上がった天の前に膝立ちになった。急いで天のジーンズのベルトを外し、ファスナーを下ろして下着ごとジーンズを足元まで引き摺り下ろして、天のペニスを掴む。

 そのまま、我慢できないという風にぱっくりとくわえ込んだ。いつもは苦しくて大嫌いなディープスロートを、今日は自分からする。喉の奥まで天のペニスをくわえ込み、締め付けると、天の口からうめきが漏れた。嬉しくなり、歯を立てないように歯を唇でガードし、天のペニスを咥え、頭を上下させて吸い上げる。そうしていると、見る見るうちに天のペニスの硬さが増してきた。

「もういいよ」

 仁王立ちのまま、自分のペニスをしゃぶる原田を見下ろしていた天が、そう言って原田を四つん這いにさせる。生ちんぽ欲しいと上目使いで小さく懇願する原田に軽く頷いた。

「ああっ、天っ!」

 亀頭のひやっとした感触が原田のアヌスにしたかと思うと、狭いアヌスを押し入って天の大きなペニスが押し入ってきた。生のペニスは、原田に直接天の体温を伝えてくる。

天のペニスが熱い、ビクビクと脈打つ天のペニスを体内に感じ、強い喜びを感じる。

 天は原田の腰をがっちりと抱え、力強い腰の動きで原田を責める。

「ああっ、ええ、すっごくエエ。本物の天のチンポのほうが……凄い、ええ、うぐぁ、ひぃ、ぐうう……」

 単調なバイブとは段違いの天の腰の動きに、原田が喜色の混じった悲鳴を上げた。刺激を与えられて敏感になった原田のアヌスが、天のペニスをくわえ込む。

 しばらく、二人して獣のように体を貪りあう。ガタイのいい雄同士のまぐわいらしく、動物めいた呻き声と、ぐちゅぐちゅという粘着質な音、荒い息が部屋に満ちる。

「種付けしてや、天、中で、出して……っ」

「ああ、お望み通り種付けしてやるよ」

 鮮やかな刺青を背負った原田の背に覆い被さり、体を密着させて原田を突きながら、天が耳元で囁いた。

 原田の背中の龍が天の顔のすぐ側にある。その龍ごと原田の体を抱きしめる。

雄々しい龍を天が抱く。龍が天に絡みつく。

二人が一つになったと錯覚するほど、強く、心も体も絡み合う。

腰を動かしながら、手を回し、原田の乳首をひねり上げると、原田の中がきゅうっと締まった。

 乳首をこねくり回しながらアヌスを責めると、それが一番好きな原田は尻を振ってよがる。

「天、エエ、凄い、ああっ!!」

 絶頂の寸前まで上りつめ、快楽に我を忘れかけている原田の肩を、天が血が出るほど強く噛み付いた。その瞬間。

「あ、ああ、ぐぅお……っ」

 一際大きな叫び声を上げると、原田の体がぶるぶるっと振るえた。体が敏感になりすぎて、天が噛み付いたことさえ快感に感じてしまったのだ。

びくんとペニスが動き、触れていないペニスの先から精液が溢れてくる。直接ペニスを扱いた時のように勢いよく飛び出すのではなく、天に後ろを攻められはじめてから勢いをなくし、だらりと垂れ下がったペニスからトロトロといつまでも流れ出る精液に、天が目を見張った。

通常の射精とは比べ物にならぬほど長く、強い快感に翻弄され、恍惚の表情で原田が絶頂を味わっている。天が原田を突くたびに、ぴゅっ、ぴゅっとペニスの先からいつまでも精液が漏れ出て、原田が狂ったようによがる。

俺の体、どうなってしまったんや!

そう原田が空恐ろしくなるくらい精液はトロトロと漏れつづけ、射精など比にならない強い快感を長く強く感じる。本当に、全身が性感帯になったようだ。

天が突いている間中、原田はずっとイき続けている。その声や仕草のいやらしさと、天のペニスから精液を搾り取ろうとしているような締め付けに、やがて天も我慢できなくなる。

「俺も……イク……」

 かすかに血のにじんでいる原田の背の噛み後を舌で舐め取り、面白がって原田を突いていた天がやっとそう苦しげに言った。

 長い間執拗に原田を責め上げていたさすがの天も、眉根を寄せ、原田の体内で射精する。

「はぁ……っ」

体内で、熱くて激しい天の射精を感じ、原田が至福の表情を浮かべた。

 吐精し、硬度を失ったペニスを抜こうとして動くと、中の圧力に押されてずるりと天のペニスが押し出されてきた。

天がふーっと大きなため息をつきながら原田から離れると、がくりと原田が床に崩れ落ちる。

「原田、できたじゃねえかトコロテン! 偉い偉い」

 荒い息をつき、前後不覚の原田の耳に、嬉しそうな天の声が入る。テクニックと調教のかいあって原田にトコロテンさせたのが嬉しいのだ。

原田がのろのろと体を起こすと、天が原田のペニスを掴み、中に溜まった精液を扱き出した。

 俺、トコロテンしたんや……とぼんやり原田が考える。今までどんなにアヌスを責められてもイけなかったのが、今日の天の責めではじめて体験した。

ペニスには直接刺激を与えず、アヌスの奥の前立腺を責められて絶頂に達すると、普通に射精するよりも何倍もの強い快感が得られる。

アナルでイく。すなわち、トコロテンするのは、精神的なものが大きいとは聞いていたが、こんな思いするならもう二度とごめんや。という気持ちと、でも死ぬほど気持ち良かったな。という気持ちが複雑に入り混じる。

「にしても量多いな。本当に溜めてたんだな」

「だからそう言ったやろ!」

「怒るなよ。見ろよ、純白で綺麗だぜ。意外だなー。もっと黄色っぽくなるかと思ったのに」

 指ですくい上げた精液を鼻に近づけ、天はくんくんと匂いを確かめた。天の行為に、原田の顔が羞恥に染まる。

「匂いもほとんどねえな」

 天はそう言うと、ねっとりと糸を引く指先を原田の口元に差し出した。

「ほれ、味は?」

 天の言葉に逆らえず、舌を伸ばして、ぺろりと天の指に乗った己のものを舐める。素直に従った原田を見て、天が優しく微笑み、まだ精液のついた原田の舐めた指を自分もぺろりと舐め上げる。

「トコロテンおめでとう。俺も苛めたかいがあるってもんだ」

 口では優しくそう言いながら、天は原田の顔に精液を塗りつけた。顔中をべたべたに汚されながら、原田が天を睨みつける。

「お前……っ、ひろにはあないに優しくしてからに……、俺、『愛してる』なんて一回も言われた事あらへん!」

「だって、ひろは優しくしてやらなきゃ駄目なやつだからな」

「え……?」

「原田は、俺に優しくされるより、俺に苛められる方が愛されてるって感じるんだろ? 俺、原田の事愛してるよ。じゃなかったらこんなめんどくさい事するかよ」

 天の言い出した事に、原田が口をつぐんだ。

 たしかに、俺は、こうやってMっぽく扱われた方が好きかもしれん。と思ったのだ。

甘やかされるのも好きだが、こうやって無理やり強制されたほうが、かえって自分の好きなように振舞える。

今も、自分で自分を押さえつけ、やりたいけど、できない。というような欲望を、天に上手くリードされて吐き出した気がするのだ。

事実、今までのストレスは嘘のようにすっきりしてるし、普通のセックスだったら、トコロテンできなかっただろうと思う。

天はそれを知ってたんか……?

そう思って原田がちらっと天を見ると、天はにやっと笑って口を開いた。

「だから、両方平等に愛してやってるって、判っかんねぇかなあ?」

 先ほどの天の言葉には納得しかけた原田だが、そう言った天の言葉には目をむいた。

 なんやそれは!

 お前はただの浮気もんやろが!

 そう原田が思いっきり突っ込もうと息を吸い込んだ瞬間。

「平等にねぇ……」

 不意に、背後から発せられた地を這うような声が二人の耳に入った。予想してなかった出来事に、二人して飛び上がるほど驚く。

「うわっ、ひろっ!?」

 後ろを振り向いて叫んだ天の声が、おもわずひっくり返った。三分の一ほど開いた寝室のドアの向こうに立っていたのは、先ほど用事があるといって帰ったはずのひろゆきだったのだ。

「何度呼んでも出てこないと思ったら。こんな事してたんですね……」

 ひろゆきの言葉に、壊れたチャイムの修理を面倒だとほっといていた事を天は激しく後悔するが、後の祭りだ。

「おかしいと思ったんですよ。借りたものも貸したものもほったらかしの天さんが、日にちどころか時間まで指定して返してくれなんて言うから」

 ひろゆきが、恐ろしく冷たい目をして天を見てそう言う。

「いや、これはっ、そのっ」

 天は大慌てで弁解しようとするが、この現場を抑えられて、弁解できるものではない。

原田ともセックスしている事は、ひろゆきには言っていなかった。しかも、先ほどのひろゆきとの絡みをプレイに利用したことも多分ばれている。

「どうなんですか、原田さん? 天さんのこと庇いますか? 原田さんもずいぶん天さんに酷い事されたみたいですけど?」

 すうっと目を細め、ひろゆきが剣呑な目で原田にそう問い掛けた。天にとっては、ひろゆきがどこまで知っているのか判らないのがいっそう不気味だ。下手な事を言って墓穴を掘りかねない。

「ひろ、そいつはお前を裏切ったヤリチンや、いてもうたれ!」

 ひろゆきの問いに、原田が迷わずそう言う。

「う、裏切ったな原田!?」

「裏切ったもなにもあらへん! 俺とお前は最初から敵同士や! 用が済んだ後にお前にかける情けなんかあるかいっ!」

「原田〜〜〜」

 ひろゆきの登場で形勢不利になった天に、原田が先ほどまでの恨みを晴らすように、思いっきり言いたい事を言う。さすが、職業柄弱った人間には容赦しない。

原田の言葉に、天が悲痛な声を上げ、ひろゆきが満足げに頷く。

「さっきから聞いてたらずいぶん都合のいい平等ですね……。説明してもらおうじゃないですかっ、天さんっ!?」

「いやっ、ひろ、ごめんっ!! 俺馬鹿だから! 制御できないっ、頭悪いから!」

「じゃあ、馬鹿な天さんにも判るように、体で覚えてもらいましょうか!」

 幸いここにはいろんな物がありますしねぇ……と先ほどまで原田に使っていたSM道具をわざとらしく見てひろゆきがそう言うと、天が、お、おい、まじかよ……とかすかに狼狽して言った。

「思い知れ、ざまあみろや、アホッ!」

 怒りのひろゆきにたじたじの天によっぽど気が晴れたらしく、虎の威を借る狐状態の原田が心底嬉しそうに言うと、天を睨んでいたひろゆきが遠慮がちにちらちらと原田を見た。

「原田さんも早くシャワー浴びて服着てください……」

 顔を赤くして、目を反らしながら言ったひろゆきの言葉に、首輪、精液まみれ、全裸の己に気がつき、原田は七転八倒の恥ずかしさを味わうのだった。



 結局、たっぷり絞られた天は「今度悪さをしたら、屈強な黒人ホモに犯されてもかまいません」という念書を書かされた。

その念書は、原田の事務所の耐火金庫に、登記簿謄本や株券、金塊、数億円の現金と共に大事にしまわれている。


ENDE

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