「僕、誘われてるんですよ、たまに」

 どこか余所余所しい最初のセックスの後、シャワーを浴びてベッドへ移った。いつもならそこで二度目のセックスをする所だが、ひろゆきは憑き物が落ちたかのように先ほどまでの熱を失い、赤木もひろゆきを放っておいた。

 赤木さん服汚してすいません。お前のほうがどろどろだろ。という会話を交わした後は、気まずい沈黙が流れていた。やがて、やはり表情一つ変えず、世間話でもするように唐突にひろゆきはそう言った。

 やっと口に出したか。

 赤木は内心をひろゆきに悟られぬよう無表情のままそう思い、上体を起こして煙草に火をつけた。

 ひろゆきも、枕を下に敷いてうつ伏せで肘を尽き、体を持ち上げて、サイドボードに手をのばした。煙草を取ろうとすると、赤木が自分の煙草を差し出す。スイマセンと小さく呟いてひろゆきは先ほどまで赤木が吸っていた煙草を咥えた。

「ありがちな話なんですが、相手はその……男の上司で。その人、触ってくるんです。故意なのか偶然なのか判らないくらいにさりげなくですけど。これってセクハラですかね? やっぱり」

 煙草の煙を吐きながら、冗談めかしてそう言ってひろゆきは笑ったが、目が笑っていない。全く空ろな笑みだった。

赤木は無言で、ひろゆきの言葉に返事をしなかった。今ひろゆきは赤木の言葉を欲していない。それが判っていて黙っている。ひろゆきはただ今口に出して聞いて欲しいだけなのだ。

「最初はおかしいな? と思うくらいだったんですけど、段々エスカレートしてきて、まあさすがに判るわけですよ。他の人ならいざ知らず、僕は」

 そう言って、ひろゆきはやっと隣の赤木の顔を見た。

 出口を求めて彷徨っているような、不安定で思いつめた目は、赤木のよく知っているひろゆきだ。だが、今はその目の中に自嘲の光があった。あまりよくない傾向だ。今のひろゆきは、赤木を誤魔化したいのではない、自分を誤魔化したいのだ。

「赤木さんとこうしてるから、意味が判る。ああ、こいつオレとしたいんだなって」

 相手のサインが判るから、これだけ動揺しているのではない。男を相手にしているとばれた事や、逆らえない上司から誘われているというだけでは、自分が何故これだけ動揺しているのか説明がつかない。

「……で?」

「嫌じゃないんです、それほど。好きではないですけど。そんな自分に戸惑ってるっていうか、でもやっぱりしちゃいけないなぁとか思うんですけど」

 ひろゆきを誘っている相手は、年上の妻子のある上司だった。後腐れなく金も有って顔もいい。ひろゆきが本気で嫌がったならやめてくれるだろう。やめないのは、ひろゆきが抵抗らしい抵抗をしないからだ。

面倒くさい……と思っているのだ。断るのも、誘いに乗るのも面倒くさい。どっちつかずで行為だけがエスカレートしている。

 される行為そのものよりも、面倒だ……と感じる自分がどれだけ無気力で腐っているか、知りたくないそれを薄々感じるからひろゆきは苛立っている。


「でも……」


 面倒くさい。最初はそうだった。でも、今は違うだろ?


 もうひとりのひろゆきがひろゆきの心の奥からそう囁いたとき、ひろゆきが言いよどんだ。


「試してみたんです」

 一瞬口篭もったそう口に出したひろゆきの顔が偉く緊張していた。もうどうにでもなれと自暴自棄になった臆病者の顔だ。

「あ?」

 赤木の顔が少し不快そうに顰められた。

ひろゆきの要領を得ない話し方にも、表情も、何もかもがよくない事を感じさせる。もしひろゆきが他の男と寝たとしても、その事実だけなら赤木はこんな顔はしない。むしろ下手したら面白がって笑うかもしれない。赤木は、そんな事よりもひろゆきの心が淀んでいるのが気に入らないのだ。

「その人に触られている間中、俺に触れるこの手が、赤木さんの手だったら……って目を閉じて考えてみたんです」

 心にやましい事を抱える人間が常にそうするように、赤木の目を見ずにひろゆきがそう言った。

「そしたら、すっごく燃えちゃって、そいつの手の中に出しちゃいました、僕。会社の非常階段で」

 そう言ってひろゆきは唇をゆがめて笑った。ひろゆきを見る赤木の目がますます冷たくなる。ひろゆきは、それが判っているから赤木の顔が見られない。軽蔑されてもいい。どうにでもなれ。という自暴自棄。もし本当にされたら死ぬほど後悔するくせに。

「嫌な遊びを覚えちゃったな……って判っています。でも、次やられた時は、最後までを断る自信ないです」

 最初は嫌だった。面倒だと思った。

 だが、そのうち、嫌ではなくなってきたのだ。赤木のものじゃない誰かの愛撫はたしかに新鮮だったし、見つかるかも……とか、いけないことをしている……というスリルもあった。くわえ、会えない赤木の代用にするようになってからは、むしろ期待している自分がいる。

 その遊びは、ひろゆきの無気力な心にほんの少し火をつけた。少しだけ、自分が捨ててしまった手に入れられないものに恋焦がれる苦しさを忘れられた。

 これが火遊びなら、東西戦の時感じたあのひりひりするような熱いものは地獄の業火だ。こんな質の悪いモノはいらないと、赤木や天のような人間なら言うだろう。

 だが、俺はこんな事で心の空虚を満たそうとしている。

俺が欲しいものはこんなもんじゃないのに、すぐ手に入るものでお茶を濁そうとしている。そのうえ、ほんの少しでも赤木さんが動揺してくれたら……なんて思っている。

最低だ。

そう思って目を閉じ唇を噛むと、ひろゆきの頭上から声が降ってきた。

「疲れているな、ひろ」

 赤木の言葉には、何の感情も篭っていない。だから余計に情けなさが募る。

「ええ、疲れています」

 ゆっくり目を開け、ひろゆきは情けなく呟いた。

 サラリーマンでいる自分に、生きている実感が湧かない。自分に自信が無いから赤木を試したいなどと思うのだ。

 なら本当の自分とは? と問いかけられると考え込むが、少なくとも今の生活では生きている実感など無かった。ただ寝て、起きて、働いて、飯を食って、寝る。死なないから生きている。そんなからっぽな毎日がこの先も延々と続くのだと思うと、気が狂いそうだ。


 かといって、この生活を捨てようとも思い切れない。


「本当に疲れます」

 どうして何もしていないのに疲れるのか……。

 ひろゆきが心の中で呟いた。

出口の無い迷路を彷徨っているような空しさは、心を蝕む。心を疲れさせる。

 本当に、これだったら天さんや赤木さんと同じ生き方をしたほうがましだったのではないか?

 自分が二流だとしても……。二人の境地に絶対に届かないとしても……。

 そうふと思っては、日常の雑事にまぎれてまた消える。また誤魔化す。そして日がすぎる。

「足掻いているのか?」

 赤木がもう一度ひろゆきに声を掛けた。

「足掻いていませんよ。流されているだけです」

 ひろゆきはぽつりとそう言って、吐き出した煙がゆらゆらと天上へ消えていくのを眺める。

「嫌じゃなかったら楽しんじまえばいいんだ。ああだこうだと言い訳しないで」

「え?」

 突然の赤木の言葉に、ひろゆきが目を丸くした。

「今、お前の置かれている状況を楽しんじまえばいいのに。お前はなぜそうしない?」

「え、だって」

 男同士の不倫を楽しめ……と言われてるのも同然の赤木の言葉にひろゆきはかなり動揺した。

 倫理的な正しさから外れているばかりか、自分を裏切ってもいい。とも取れる赤木の言葉にひろゆきは狼狽した。

 赤木さんにとって俺はどういう存在なんだ? そう思った。

「何かをする前から、あれはダメ、これはダメってしてるんだろ?」

 ひろゆきの狼狽を知ってか知らずか、赤木はちらりとひろゆきへ視線を送ってそう言った。ひろゆきに、自分以外の男と楽しめ。と言った事など、全く気にしていないように。

 赤木がひろゆきに渡した煙草を取り返し、口に咥えて煙を深く吸い込む。

「結局何もしていない」

 煙を吐き出し、そう言った。

「その……通りです」

「それ位なら、楽しんじまえばいいんだ」

 そう言って、赤木は煙草の火を消した。二本目の煙草には手を出さない。

 一瞬ショックを受けたが、その言葉で赤木が何を言いたいのか判った。

赤木は、色々言い訳をして動かないなひろゆきを叱咤したのだ。

だが、赤木の意図が判っても、ひろゆきの動揺は収まらない。今の自分はつまらない人間だとはっきり判って、口が渇いて、嫌な汗が出た。

「モラルに常識……ってやつか? なんでそんなにまともである事にこだわる?」

「なぜって……」

 ひろゆきには、なぜ? などと考える事さえなかった。当たり前では無いかそんな事は。

「お前にな、普通の生活しろって言った奴は……」

「天さんと沢田さん?」

 かすれた声でひろゆきは呟いた。赤木が軽く頷く。

「ああ、二人は……、本当におまえのことを考えて言ってくれたと思うんだが、な」

 そこで言葉を切り、赤木はじっとひろゆきの目を見た。

「その言葉は、おそらくひろには正しくねえんだ」

 ひろゆきは無言で赤木を見詰め返す。今まで自分が信じてきた事を覆すような事を言い出す赤木に、声が出なかった。

「虎に肉を食うな草を食う生活をしろって言っても、無理だろ。草を食って生きてる奴がこの世のほとんどだからって、お前もそうだとは限らない。肉を食わなきゃ生きていけない奴ってのは、少なくても確実にいるんだ」

 赤木の言葉にひろゆきの心が揺らぐ。

 世の大部分の人が送っている、いわゆる「まともな」生活。自分もそう生きられるはずだと何の疑問も抱かず思っていた。皆が自分と同じように生活して、輝いている人も大勢いるというのに、どうしても自分は生きていると感じられないのはなぜだか判らなかった。

「お前、俺は赤木さんとは違うだとかなんとかうだうだ抜かすが、どこが違うというんだ?」

 赤木は、そう言ってかすかに青ざめているひろゆきをじっと見た。

「お前は俺と同じ、人の魂を食わなきゃ生きていけない人間だろう? 俺とお前は同じ血が流れている。お前の魂は、長い間食いものを与えられなくって、痩せ細っちまってるよ、かわいそうにな」

 赤木は目を伏せた。煙草を手に取り火をつけ、煙をふーっと吐き出し、後は何も言わない。

「僕が、赤木さんと同じ人間なのかは判りませんが……。東西戦の時のような、あの、ひりつくような感じ、息をするのも憚られる緊張感、魂を食い合うあの感じは、確かに忘れられません」

 ひろゆきは、何かを思い出すかのように一旦言葉を切った。

「僕は、麻雀をしているあの時、……生きてた」

 一呼吸置いて、ぽつりと呟く。


 麻雀をしている時、辛かった、苦しんでいた、喜んだ。なにより、俺は楽しかった。

 赤木の言葉に、どっといろんなものを思い出す。


麻雀は魂を食い合うようなギリギリの感じをひろゆきに与えてくれた。


動悸がするほど破滅の予感にフラフラしながら、同時に生きていることを強烈に感じていた。


「いわゆる普通の生活をしていても輝いている人は大勢いる。きっと天さんも沢田さんも僕がそうなるのを望んで言ってくれたと思うんですけど、僕はできなかった。自分の才能の限界に気がついて、なんの目標も無くただ逃げていただけだけで……、結局なにもしていなくい。それで、生きられるはずが無いですね」


 判ってたはずじゃないか?

 俺には麻雀しかないって。思ったんじゃないか? 大学をほったらかして大阪まで行った時。

 どうして忘れてしまってたんだろう?

 そう思ってひろゆきは強烈に泣きたくなった。


「才能とか何とかは関係ねえだろ……? 人の魂の味を知っちまった俺たちにはそういう生き方しか出来ないんだ。そういう人間なんだよ」

「俺たちって、言ってくれるんですね」

「そもそも、普通の生活とかまともな生活って何なんだ? 意味が判らねえぞ? 今のお前はまともなのか? お前にとっての普通とかまともな生活ってのがどんなもんか、もちっと考えろ、ひろ。今の仕事を辞めろとは言わないが、それでお前が生きられないのならさっさと見切りをつけちまえ。才能があるとか無いとか、成功するとかしないとか、そんな事は枝葉の事なんだ。お前にはそうするしかないんだろ? なら、それでいいんじゃねえか?」


そうだ。俺には、それしか、ない。


 赤木の言葉にひろゆきはそう思い、シーツをぎゅっと皺になるまで握り締めた。


「俺たちみたいに」

 強張った顔のひろゆきにそう言って、赤木はククッと笑った。

 赤木の手が伸び、ひろゆきの体を捕らえる。ベッドに仰向けに組み伏せられ、自分を組み敷く赤木をひろゆきが戸惑った瞳で見る。

 赤木はもう一度ククッと笑い、ひろゆきに軽くキスをした。

「んっ……」

「もっと苦しめよ、ひろ」

 首筋に舌を這わせ、耳元で赤木がそう囁いた。耳の後ろを大きく舐めると、そこが弱いひろゆきの体が強張る。

「……っ、え……?」

「苦しいと、ギリギリまで自分を追い詰めると、生きてるって感じるだろ?」

 ひろゆきの戸惑いを楽しむように、赤木は笑っている。そう言いながら、赤木の手はひろゆきの肌を触れるか触れないかの距離で弄り、首筋や胸元に軽いキスを落とす。

じらされ、ひろゆきが濡れた目で赤木を欲しがる。

「届かないモノに自分の身が焼き尽くされるほど焦がれて、みっともなくじたばた足掻いてみせろよ」

「あ……っ!」

 赤木の手に袋を軽く握られ、ひろゆきが甘い嬌声を上げた。

「ひぃ……、ああ……、っつ、は……」

 じわじわと手のひらで転がされ、ひろゆきは涙目で赤木にもっと強い刺激を懇願するが、赤木は冷たい笑みを浮かべてその願いを拒絶する。

「でもな、気にいらねえな」

「ひあ……っ」

 赤木が言葉と共に、手の中にあるものをぎゅっと掴み上げた。苦痛にひろゆきが目を見開き、体を震わせて耐えている。

「酷い……」

「先にやったのはお前だろ?」

 赤木が愛撫を止めて笑うと、仕返しですか? とひろゆきがぶつぶつ言いながら、体を起こした。気に入らないという赤木の言葉がかすかに引っかかったが、追求はしなかった。

「やられっぱなしは嫌ですからね」

ひろゆきがそう生意気な事を言って、赤木の側にシックスナインの体勢で寝そべる。丁度メビウスの輪のようにお互い少し体をひねると。四つん這いになるよりリラックスして互いを愛撫できる。

ひろゆきがそっと赤木の太股の付け根に舌を這わせた。太股の内側をかするように触れ、袋を悪戯するように軽く咥えて引っ張ったり、皺に沿い、硬くした舌でついと舐める。

ひろゆきも赤木をじらし、なかなか肝心な部分には触れない。

なるほど、これでお互い様って訳か?

そう思って、赤木はひろゆきのペニスに手を伸ばした。亀頭に中指を引っ掛け、手で包んで撫でるように刺激してやる。

ぴちゃ……とひろゆきが立てる音が赤木の耳に入った。唾液をたっぷり赤木のペニスの先に乗せて舌で舐め、根元を手で扱きながら、もう片方の手は、睾丸をやわやわと転がす。

 赤木も、ひろゆきのペニスを手で扱いてやりながら、袋を口に咥えて少し引っ張る。


「赤木さん、今まで何してたんですか?」

「色々だな……」

 答えになってない。とひろゆきが思う。

「俺寂しかったです、会えなくて」

「じゃ探しに来いよ。ハワイまで来ただろ? ひろ。あの時みたいにな」

 赤木のその言葉にひろゆきがはっとする。

 昔の自分は、そうできた。だが、サラリーマンをしている今の自分は、そうできない。その道を選んだのは自分だ。

 赤木が会いに来てくれないとばかり思っていた。だが、赤木にとってみれば、ひろゆきの方が自分から離れたと思っているだろう。

 赤木さんも、少しは俺に会いたいと思ってくれたかな……?

 思っても聞けずに、その代わりに優しく愛撫を続ける。

 しばらく、ゆっくりとお互いを愛撫することに熱中する。お互い喧嘩腰で性急に上り詰めた先ほどと違い、激しくは無いがしっとりと心地よい時間を過ごす。

「ひろ、もう仕舞いだ」

 やがてそう言って、赤木が腰を引く。

「やです」

「後で好きなだけしゃぶらせてやるからイイ子にしな」

 そう言うと、名残惜しそうにひろゆきが赤木のペニスを放した。


ひろゆきの腰を腕で攫い、ぐいと上げ、尻を高く上げた四つんばいにさせる。赤木の目の前に、ひろゆきの真っ白い尻が露になった。

赤木はひろゆきの尻肉を掴み、左右に広げた。その中心部分を、硬くした舌を伸ばして突付く。

「あっ、ンっ……」

 ひろゆきの口から甘い声が漏れた。そこを舌でつつかれただけでびくっと体を震わせ、快感に溶けそうになる。赤木がわざと卑猥な音を立ててそこを舐めまわすのが耳に入り、羞恥に顔を赤くした。

 やがて、赤木が離れていく気配がして、赤木の唾液に濡れた恥ずかしい部分が空気に触れ、ヒヤリとする。

 刺激に飢えて思わず腰を振って愛撫をねだると、赤木の笑い声と共に、つぷっと中に何かが入ってくる感触がした。

 ひろゆきがよく知っている赤木の指の感触。先ほど既に一度赤木を受け入れているので、指はすんなりと入った。

 赤木の指が、たっぷりとローションを内側に塗りこむ。しばらくすると指は二本に増やされ、ひろゆきの体を徐々にほぐしていく。

 前立腺をぐーっと押されたり、中で悪戯するように指を動かすと、ひろゆきが快楽に悲鳴を上げていやいやと首を振った。入念な愛撫によって、ひろゆきの狭いそこは、赤木の指に吸いつくようにトロトロしている。

「……ちまえ」

早く赤木を入れて欲しくて、思わずひろゆきが口を開きかけたとき、ぼそっと赤木がなにかを呟いた。

「え?」

 思わずひろゆきが素に戻る。四つん這いのまま後ろの赤木を振り返ると、赤木は面白くなさそうな顔をしている。

「辞めちまえ、会社なんか」

 そう言うと、ひろゆきの中から指を抜き、ふいと顔を背けた。

「さっき言うつもりはないとか言ったくせに……」

 赤木の前に正座に座りなおし、ひろゆきは呆れたようにそう言った。

 「気にいらねえな」という赤木の言葉は、これだったのだ。あの時ちゃんと聞いておけばよかったと思い、機嫌を伺うようにひろゆきは赤木を見る。

いいところで愛撫を止めて急にそんな事を言い出す赤木に、ひろゆきは怒らない。赤木の気まぐれに慣れているという事もあるが、愛撫を中断された事より、赤木の機嫌を直す方がひろゆきにとっては重大なのだ。

「さっきの話のそれと今のこれとは別な話だな」

「え……、ってことは……」

 ぽつりと呟かれた聞き捨てならない赤木の言葉に、ひろゆきが赤木の顔を覗き込む。

「それ、ひょっとして嫉妬ですかァ?」

 ひろゆきが冗談めかしてそう言った。

「んー……?」

 ひろゆきの期待の入り混じった渾身の問いにも、赤木の気のなさそうな返事に、やっぱり……とひろゆきが落胆すると。

「だったらどうするよ」

 ぼそっと一言赤木がそう呟いた。

「え、赤木さ……っ」

 てっきり無視されると思っていたから、ひろゆきは赤木の言葉に仰天した。不意に起こった奇跡にひろゆきが固まっていると、赤木がひろゆきを押し倒した。

「話はもう終わりか、ひろ?」

 赤木さんから言い出したんじゃないか! と言いたかったが、ひろゆきが何か別の返事をしようと一呼吸置いた瞬間。

「じゃあやるぞっ……!」

 ひろゆきの返事を待たず、というか元々聞く気は無かったらしく、赤木はそう言ってひろゆきの片足を肩に掛けた。

「仕切りなおしだ」

「え……!?」

「さっきのあんなんじゃあ、ひろを抱いた気になれないだろうが」

 そう言って、赤木が冷たく笑った。

 ひろゆきが泣こうが喚こうが容赦しない顔だ。

 ひろゆき一人で勝手に盛り上がり、一人で勝手にイった先ほどのセックスがやはり不満だったらしい。

 さっき謝ったのに、やっぱり許してなかったのか……!?

 そう思ってひろゆきが青ざめていると、ふと視界に入ってきたものに目が止まった。

「う……っ」

 赤木の股間で、先ほどまでひろゆきになすがままにされていたものが、今ひろゆきに牙を向こうとしている。

「お前、俺に拗ねた態度とった事やら他の男の事うだうだ抜かしやがった事やら、色々後悔させてやる」

 ククク……と冷たい笑みを浮かべる赤木に、ひろゆきの全身の血が引いた。


 これから、比較的眠っていた赤木を起こしたらどうなるのか、ひろゆきは身をもって知ることになる。



                              

                                             ENDE


20061202 UP


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