天旋地恋










 廊下を歩いてたら、拉致された。


「とっとと歩け、この豚」

 手を後ろに回し紐で縛られ、俺は五嶺様に連行されている。まるで囚人だ。

 退院してすぐにまさかこんな仕打ちを受けるとは夢にも思わなかった。さすが五嶺様だ。

 あの病院でのお優しい五嶺様はなんだったんだろう? まさか、俺の見た夢か。

 先日、無事退院いたしましたと五嶺様の部屋へ挨拶に行った時なんか、本当にお優しい顔をして、「傷はもう大丈夫なのかぃ?」とお言葉をかけてくださったのに。

 俺が「もう全然平気です。多少傷が引きつるくらいで」と言った時は、俺の傷を優しく撫でながら、「すまなかった」とまで仰ってくださったのに。

 すべては、今俺が受けている鬼畜行為の前ふりだったんだろうか?

 ありえる。

 入院してからこのかた五嶺様は優しすぎた。

 優しくしておいて恐怖のどん底に陥れる。五嶺様がやりそうな方法だ。



 廊下を歩いてたら、足を引っ掛けられた。


 絶妙のタイミングで差し出された五嶺様の足袋を履いた白い足に、俺は見事なほどのリアクションで躓いた。どったんと音を立てて派手に転ぶと、勢いでよく磨かれた五嶺邸の廊下をつつーとすべる。

 いきなり何するんですか若! と抗議する前に、俺の背中には五嶺様が圧し掛かっていた。

 恐怖のあまり言葉も出ない俺に、五嶺様は悪魔のようににやりと笑う。

 しゅっとご自分の髪を束ねている白い髪紐を解くと、はらりと黒髪が肩に広がった。

 髪を解いた五嶺様を見るのは、あの時以来だ。

 五嶺様に体を貫かれたあの時以来。

 なっ、何を。

 恐怖に体がすくむ。

 あの時と今と、どっちが怖いかと言えば今の方が断然怖い。あの時の五嶺様は正気じゃなかった。だけど今は五嶺様は確実に何かをたくらんでいる。五嶺様が正気で、俺を真剣に酷い目にあわせようと思ったら、あの程度で済むわけが無いのだ。

 言葉が出ず、口をぱくぱくさせている俺に、五嶺様は悪魔の笑みを浮かべながらその紐で俺の手を後ろに回し縛った。

 立ち上がるように命令され、不自由な体で俺は立ち上がる。

「あのう、五嶺様、俺が一体何を……」

「黙って歩け、豚」

 血も涙も無い五嶺様の冷たい声。





 五嶺様の部屋に着いたら、転がされた。

 

 俺の背中を、五嶺様が後ろから蹴飛ばす。俺は達磨のように布団の上にころりんと転がる。なす術も無い。

 布団の上に転がされた俺が身をひねって恨みがましく五嶺様を見上げると、五嶺様があざ笑う。

「いいざまだねぃ、エビス」 

 意地の悪い笑みを浮かべながら、うつ伏せに転がされた俺を乱暴に仰向けにする。

 後ろ手に縛られた俺の上で、五嶺様が笑ってる。

「こんな事されても、抵抗できないよ」

 そう仰って、五嶺様が笑い顔のまま俺に口付けた。

 俺の反応を見るために、はっきり目を開けている。


 赤い唇がかすかに開き、舌が覗いてる。

 まつげが長い。

 ああどうしてそんな意地の悪い顔をしているのに、そんなに綺麗なんだろう?

 俺はこんな酷い事をされているという事実を忘れ、五嶺様のお顔に見とれた。


 近づいてくる五嶺様の宝石のような黒い瞳に、仰向けになった俺が映っている。

 唇がふさがれる。

 五嶺様がようやく目を閉じる。


 病院でしたキスとは全然違う。

 もっと野蛮で、エロティックな。

 体が熱くなるような、情欲を煽るキス。


 ぴくんと体が反応する。眠っていた欲望が目覚め、雄の本能が頭をもたげる。

 手に触れれば満足? 笑ってもらえれば満足? そうたしかに昨日までの俺はそうだったろう。

 今の俺はそんなものでは到底足りない。

 征服せよと本能が命じる。

 遠慮なくやってやれ。

 指で、舌で、存分に。

 このお方を骨の髄までしゃぶりつくせ。

 俺の体にしがみつかせ、一晩中歓喜の声を上げさせてやる。喉がかれて声がかすれても許してなんかやるもんか。


 煽ったのは五嶺様。

「エビス……っ!」

 五嶺様が驚きの声を上げた。

 そりゃそうだろう。完全に押さえつけたと思っていた俺が抵抗したのだから。

 俺は手首を縛る紐を解き、完全に自由になった両手で五嶺様の肩を掴んだ。意外な俺の行動に抵抗できない五嶺様と、いとも簡単にくるりと体勢を入れ替える。

 俺の下で、五嶺様がありえないと言うお顔をされている。

 次は俺の番だ。


 五嶺様、あなたは知らない。

 俺は、あんな紐くらいいくらでも解けたんだ。

 五嶺様は俺を無理やり支配してたと思っていただろうけど、実は俺が自分の意思で従ってたって事。

 ほら、油断するから、俺なんかに噛み付かれる。



「五嶺様」

「やめ……!」

 俺は囁き、慌てて俺を押し返そうとした五嶺様の唇を無理やり塞いだ。

 俺の下で五嶺様が抵抗するのを上手く押さえつける。

「あ……、っは」

 五嶺様の唇から甘い吐息が漏れる。体はとっくに抵抗するのをやめている。

 角度を変えて、何度も何度も口付ける。

 唇を甘噛みして、舌先で唇のふちを舐める。

 本当は、五嶺様のお顔を犬のように舐めまわしてしまいたかったが、かろうじてそれは堪える。 

 さぁ、これで判っただろう。俺が死ぬほど五嶺様の事を愛してるって。

 俺は本気ですよ、五嶺様。

「まさか、お前がそんな事をするとはねぃ」

 はぁはぁと息をつきながら、キスで潤んだ目で五嶺様が仰った。驚きと呆れ半々な声色。

 その目は、まだ俺に陥落していない。反骨精神十分だ。でもそんな目で睨みつけられたって逆効果だとこの人は判ってない。

「変わったな、エビス」

 一瞬真剣な目をして、五嶺様が仰った。

「今までの俺とは違いますよ、五嶺様」

「生意気だねぃ! その口ふさいでやるよ」

 けんか腰のキス。

 今度は五嶺様が飛びつくように俺に口付けた。噛み付くような激しいキス。

 俺の舌を吸い上げ、絡ませる。

 ごろごろと布団をはみ出して転がりながら、じゃれあって何度もキスする。誰が上になっても、下になっても関係ない。


「ここまで来たら、ためらう方が阿呆でしょう?」

 五嶺様を組み敷き、俺はそう言った。

 俺も欲しい。五嶺様も欲しがってる。するこた一つ。

「言うじゃないか、エビス」

 くっと楽しそうに笑って五嶺様が仰った。上気した頬とぬれた唇が俺を誘っている。

「聞き分けの良い腰抜けのお前がねぃ」

 馬鹿にしたように五嶺様が仰い、挑むように俺を見た。

「アタシに手を出せなかった臆病者が!」

 何時もの俺なら、五嶺様のその目に怯えてすくみ、ただ土下座してその目から逃げる事だけを考えていた。

 この世で一番恐ろしかったその目。

「いつでもアタシの顔色を伺ってびくびくしているお前みたいな腰抜けが、アタシを本当に抱けるのかねぃ?」

 五嶺様お得意の過剰な威圧と恫喝。人を見下す態度。

 以前の俺なら、五嶺様にそう言われれば直ちに平伏して許しを請うただろう。

 従の分際で主を求めるなんて恐れ多い。

 そう思って臆病に逃げ出しただろう。

 お生憎だが、今宵の俺は、五嶺様の脅しには屈しない。

 逃げるのはもう止めだ。傷つく覚悟は出来てる。

 俺はあなたの本心をちゃんと知ってる。信じる強さを手に入れたんだ。五嶺様を手に入れられる寸前まで来て、怖気づく馬鹿がどこにいる?

 火の中の栗上等。喜んで火に手を突っ込んでやる。

 虎穴? 堂々と入ってやるよ。

 それで五嶺様を得られるんなら安いもんだ。

「抱けますよ」

 俺はきっぱりと言い切った。

「俺を煽った事、後悔しますよ。本気で遠慮しませんので」

 俺を脅した事、俺の気持ちを試したこと、後悔させてやる。

 俺がこの十年、どんなに五嶺様を愛していたか、たっぷりとそのお体に知っていただく。

「五嶺様、今までご自分でも聴いたこと無い自分のお声を聞く事になりますよ」

「はぁ〜〜? お前が、アタシにかい?」

 ふんと鼻で笑い、俺を馬鹿にした声色。俺を見下すその目に闘志がわく。五嶺様がわざとそんな態度を取ってるってのは判ってる。これは俺達の戦いなのだ。

 弱みを見せれば食われる。

 はったりと、恫喝と、恐喝と、嘘と、本当と、胸いっぱいの愛で俺は勝ってみせますからね。

 まっ、五嶺様に負けたって幸せなのに変わりないので良いんだけど。でも、普段やられっぱなしの五嶺様に一泡吹かせたい。

「いいだろう。好きにしろぃ」

 五嶺様が挑発するように仰った。

「これは命令だからねぃ」

 そのお言葉ににやりと笑いそうになるのを必死で堪えた。五嶺様、ご自分の死刑執行書にサインしておしまいになった。五嶺様のご命令とあれば、命に代えても果たさねばなるまい。

「アタシに、お前が漢だってこと証明してみせろ」

 俺の首に腕を絡ませ、五嶺様は引き寄せる。俺はその手の軽い力に逆らわず、五嶺様のお顔に近づく。

「お前とアタシをぶち壊せ」

 耳元で熱い息と共にそう囁かれた。


 五嶺様は俺を怒鳴りつければ良い。

 俺は平伏してひたすら許しを請えば事足りる。

 どこか俺達はずっとこのままでいれば安心だと思っていた。

 お互い違うものを求めながら。


 素直に言えなかった五嶺様。

 信じることが出来なかった卑屈な俺。


 欲しいから。

 昔の俺と五嶺様を壊す。

 


 俺はマントを脱ぎ捨て、五嶺様のお体に飛びつく。

 手を伸ばして、袴の紐を解いた。

 足からいっきに袴を引き抜くと、短い上着と襦袢、下着だけになる。まるでミニのワンピースを着ているみたいな、太腿もあらわな五嶺様に俺はむしゃぶりついた。

 下着を脱がせ、襦袢の合わせ目を広げると、五嶺様の白い素肌が露になる。

「そんなにがっつくな、エビス」

 くすくすと笑いながら五嶺様が仰る。まだまだ余裕綽々といったところ。

 もう一度キスをして、そのまま首筋にもキスをする。

 白くてきめの細かい、しっとりした肌。唇を這わすだけで気持ちいい。

「んっ!」

 小さく声を上げた五嶺様の耳を噛むと、ぴくんと体が跳ね上がる。首筋を強く吸い上げると、逃げるように身をよじった。すかさず、無防備になった反対側の首筋を舌で舐め上げる。

「感じやすいんですね」

 耳元で囁くと、かぁっと耳が赤くなった。

「まるで、女の人の体みたいだ」

 意地悪く言う俺の手は、五嶺様のわき腹の辺りを触れるか触れないかの距離で撫でる。

 五嶺様が感じてしまい、ぞくぞくと体を震わせると、今度は腰骨の出っ張りの部分を撫でてやる。あくまでも軽い愛撫を、しつこい位に重ねてやるのだ。

 舌で、二の腕の裏や脇の下を舐め上げる。肝心なところには触らない。

「あっ、あ……」

 かすかな声が五嶺様のお口から漏れる。ご自分のお体がこんなに感じるとは知らなかったのだろう。女を抱いた事はあっても、抱かれるのは初めてに違いない。そう思うと、俺は内心の暗い喜びに笑みを浮かべた。

 感じてはいるが、まだ、理性は保っていられる。そう思ってらっしゃるのだろう。五嶺様は俺のなすがままにされている。

 白い胸に、いやらしいほど鮮やかな桜色をした乳首の周りを舐める。

 じっくりと周りから責めて、爪先で、乳首の先をカリッと引っかいた。

「あぁんっ」

 思わず大きな声を出してしまい、五嶺様の顔が羞恥に染まった。俺はそれを見てないふりをしてやる。

 俺のぷっくりした指で乳首を摘むと、こりこりと刺激を与える。

「く、ふぅ。んんっ!」

 ご自分の手に噛み付き、五嶺様が声を堪えた。いくら声を抑えたって、物欲しそうに腰をくねらせてるんだから、意味が無いのに。

「ここいじられるのお好きなんですね? 両方いじってあげますよ」

 俺は五嶺様にわざとらしく笑いかけ、指の腹でくにくにと両方の乳首をいじる。

「や、あ、エビス。あっ、んっ、んっ」

 五嶺様の目が欲望で濡れてる。普段のきつい目を知る俺には余計いやらしく思える。

 もうだいぶ息が荒く、白い頬が赤く上気している。

「あっ、もっと」

 ついに陥落した五嶺様の唇から、催促の声が漏れた。

「おねだりですか? いいですよ」

 素直な五嶺様も大好きです。と言ってから、俺はすっかり敏感になった乳首を大きく舐め上げた。

 固くした舌でくにゅくにゅと乳首を刺激し、反対側をしつこくいじる。

 クチュ……とわざと音を立て、乳首に吸い付く。真っ赤に充血した乳首を歯で軽く擦り、甘噛みすると、五嶺様が大きく声を上げる。

「ああっ、あっ、んっ」

 まさか、乳首だけでイっちゃうんじゃないか、この人。俺がそんなことを思うほど、善がってくれる。

 俺は舌で五嶺様の体を舐めながら下へ降り、形の良いへそを愛撫する。

 五嶺様はくすぐったそうに身をよじったが、まさかそのくすぐったさが快感に感じるとは思ってなかったらしい。

 俺の肩に手をかけた五嶺様の爪が食い込む。

「はぁ……ん」

 太腿に手を触れると、明らかにびくっと大きく体を震わせた。

 くぅっと漏れそうになる声を抑えられる。軽く爪を立てると、びくっと体が震えた。足の付け根をグッと押して刺激し、太腿を最初は少し力を入れて揉む。徐々に太腿を丸く円を描くように撫でる。今度は強い刺激は与えない。

 五嶺様の足の間にあるものが、半勃になって、先端からとろりと透明な蜜を垂らしている。

 俺はそれを横目で見ながら、太腿を舐め上げた。

 まだ、まだだ。まだ触ってあげない。


「エビス……」

 欲望にぬれた切ない目をして、五嶺様が俺を見る。

「触って……」

 赤い唇が動くのを、俺は魅入られたように見ていた。

 ちきしょう。これだけ責めてるのに俺が先にイっちまいそうだ。

 腰にクる五嶺様のいやらしい顔と声に、俺の股間もはちきれそうになる。

「まだ、駄目ですよ」

 俺はそう言って、五嶺様の股間に顔を埋めた。

 桜色の窄まりと、五嶺様自身の間に舌を這わせる。ここも、男がかなり感じる場所だ。

 蟻の門渡りと呼ばれるその部分を舌で何度も往復し、根元をしつこく舌で責めて焦らす。

 まさかそんな所を舐められるとは思っていなかったらしい五嶺様が、かすかに嫌がって身じろぎしたが、俺は無視した。すぐに五嶺様の艶っぽい喘ぎ声が漏れ始めたので、きっと気に入ってくださったんだろう。

 俺は、さりげなく舌を今まで舐めていた所から下へずらした。

 ちろりと一瞬だけ桜色のすぼまりを舐める。

「くふうっ!」

 不意打ちに、五嶺様の体がぶるぶるっと震える。予想以上にこちらの感度が良い。これはやりやすいぞと俺は内心ほくそえんだ。

「っふぁ……」

 桜色の窄まりにふっと息を吹きかけると、ぴくんと体が動いた。

「エビスッ!」

 さすがに、五嶺様の怒声が聞こえる。がばっと体を起こし、俺を睨みつける。

 ちぇっ。さっきまでの五嶺様のほうがずっと可愛いのにな……。

「あまり変なことするんじゃないよ」

 さすがにここはガードが固い。

「へぃ」

 俺は殊勝な顔をして返事をした。内心で舌を出しながら。

「怖いんですか、五嶺様?」


 まさか五嶺様がそんなはず事無いですよね。というニュアンスで、俺は言った。

「俺が?」

 言い終わるなり、かっと五嶺様の顔が怒りで満ちる。

「そんな訳有るか、この豚」

 売り言葉に買い言葉、五嶺様がそう仰った瞬間に俺はすかさず口を開く。

「じゃぁ、黙って抱かれたらいいでしょう?」

 俺を殺しそうな目で五嶺様は俺を睨みつけるが、言い返せない。

 その隙に、俺はさっさと五嶺様の腰の下に、枕やらなにやらを詰め込んで押し倒した。腰が浮き上がってやりやすい。

 五嶺様の顔が羞恥で歪む。無理も無い。俺の目の前に、五嶺様の恥かしい部分全てが無防備にさらされているのだから。

 俺は、勃起して天を向いている五嶺様自身の先から溢れる蜜を指で掬い取った。

 ヌルっと桜色の窄まりに塗りつける。「ん」と五嶺様が眉根を寄せ、声を出すのを耐えられた。

「だんだんここが、女みたいに柔らかくなって来るんです。ローションでぐちゃぐちゃにして突っ込むと、ホント気持ち良いらしいですよ?」

 円を描くように、そこを撫でる。人差し指と中指で挟むようにして柔らかく解す。つんと突付く、びくっと体が震える。

 俺の言葉と、いま自分がされている行為に、五嶺様の白いお体が恥じらいでさっと赤く染まる。

「俺も、もちろん五嶺様もね」

 言いながら俺もシャツのボタンを外し、ズボンを下げる。

 張り詰めた俺の股間を五嶺様がかすかに恐怖の混じったお顔で見つめている。

 下着を取ると、ぶるんと俺自身が外気にさらされた。

「これが、五嶺様の中に入るんですよ」

 これ見よがしに俺は言う。五嶺様のお顔が一瞬怯えた。

「そんなの、入るわけないだろぃ!」

「大丈夫」

 俺は言って、再び五嶺様のそこに触れた。

「入るまで可愛がってあげますからね、ここ」

 にこりと笑って、俺はマントの下に隠し持っていた袋の中から、さまざまな道具を取り出す。

「おっ、お前、そんなもの」

 カラフルな「お道具」を見て、五嶺様の顔が嫌悪と恐怖に染まる。汚物を見る目で見られてしまったが、俺はあえて無視した。

「いや、こんなもの持ってるときに五嶺様に捕まったものだから、いつばれるか冷や冷やしましたよ」

 なんというか、どうせやるならベストを尽くさないと嫌なんだ俺。特に今回は五嶺様と……ということで、いろいろ勉強したし、とりあえず「お道具」も買い漁った。

「使ってもいいですか?」

 駄目元で聞いてみるが、返事は予想通り。

「絶対に嫌だからねぃ!!」

 ちぇっ。まぁ、まだこいつらが無駄になったと決め付けるのは早い。たしかに処女の五嶺様には刺激が強すぎるだろう。

 でも、これだけ感じやすい体を持ってるんだから無駄にはならないかも。と淡い期待を寄せる。

 すっかり機嫌を損ねた五嶺様の胸元をいじりながらキスをする。

 抵抗するように俺の舌を無視していたが、すぐに唇から吐息が漏れ、俺の舌にご自分の舌を絡ませる。ほんとえっちだよなぁ。

 俺は、再び五嶺様の足の間に顔を埋める。五嶺様の期待した顔をわざと無視する。

 ちろ……と五嶺様の恥かしい部分に舌を這わせる。「はぁん」と甘い声をあげ、五嶺様がびくっと反応する。

「んっ、はっ、あっ」

 そこを舐められ、五嶺様が喘ぎだした。声を堪えようと必死に手を噛むが、五嶺様のかすかな抵抗むなしく、そのお口からはいやらしい声が後から後から漏れる。

 俺は、指と五嶺様の窄まりにたっぷりとローションを塗り、指をあてがった。

 最初は、とんとんと入り口をノックするように愛撫する。

 ひくっ、ひくっと五嶺様の体が動く。円を描くようになで、ゆっくりとほぐれてきた所で、俺のひとさし指が吸い込まれるように中に入った。

「ひぅっ!」

 ゆっくりとそこに出しいれすると、五嶺様の目から涙がこぼれた。気持ち良いんだ! と俺が内心でほくそえむ。

 入り口を解すように、円を描くようにかき回すと、五嶺様が背を反らす。

「まだ指しか入れてないのに」

 俺がからかうように言うと、涙目で五嶺様が俺を見た。

「エビス、そこ、嫌だ……っ」

 第一関節の辺りまで中に差し入れ、ぐるりと回すと、明らかに反応が違う。

「ああ、ここですか?」

「ひっ……。嫌だって、言って……る」

 ゆるいマッサージを続ける俺に、五嶺様はまるで駄々っ子のように嫌々と首を振った。

 俺は、十分にそこが緩んできたのを確認して、更に指を奥に進める。

「んっ、やっ」

 粘膜を擦られる快感に、五嶺様が悲鳴を上げた。「あああっ」という甲高い悲鳴とともに、体が震える。ほんとに、何度も言うが、やらしい。

 俺は、慎重に五嶺様のお体を探り、こりっとしたしこりを探す。

 前立腺を見つけ、ぐーっと押すと、五嶺様が困ったように眉根をよせた。

「なんだかそこ、ぴりぴりするよぅ……」

 気持ちよさとも、くすぐったさとも違う感触に戸惑っているようだ。

 俺もどうしていいのか判らぬままそこへの刺激を続けていると、いきなりぴくっと五嶺様の体が反応した。

「あっ、あっ、エビス、そこ、やぁぁっ!!」

 急に強い快感を感じたらしく、五嶺様がぴんと体を反らせた。

「嫌だエビス、なんか変だよぅ。ああっ。体の奥が、変になる」

 信じられぬ事に、五嶺様は自ら腰を使って俺の指を中にこすりつけた。すかさず、俺はローションをたっぷりと塗って、五嶺様に入れる指を二本に増やす。

「中が、凄く、熱い。なんだか、欲しくて、たまんないよぅ」

 俺が指を出し入れすると、五嶺様の声から情欲に濡れた甲高い声が漏れ、もっともっとと涙目で訴える。

「口で、してあげましょうか?」

 俺は息も絶え絶えな五嶺様に向かってそう言った。

 頭がおかしくなるほど気持いいのに、五嶺様はイけないのだ。

「ここと一緒に」

 ぐりっと挿入した指で中をかき回す。

「んふゥっ!」

 歯を食いしばっても、五嶺様の唇からは甘い声が漏れる。

「お辛そうですねぇ」

 俺はわざと慇懃無礼に言った。

「ここだけじゃ、イけませんものねぇ」

 ぐちゅぐちゅといやらしい音を立て、俺は指でかき回し、中に差し入れた指で広げたりと悪戯する。

「あっ、エビス、口で、あっ、してくれ」

 他でもない五嶺様が、そんなにお辛そうなお顔で、俺みたいな豚に懇願されてるのだ。聞かねばなるまい。

 俺は、ちろりと五嶺様自身の先っぽを舐めた。

「んあぁぁぁぁっ!」

 涙を流して、五嶺様が悲鳴を上げる。裏スジを舐め上げ、鈴口を舌でこじ開ける。でもその刺激では五嶺様はまだイけない。亀頭だけ舐めてもイけないのだ。

「見るなッ!」

 亀頭の先を、執拗にぺろぺろと舐めながら、俺が五嶺様をじいっと見つめていると、五嶺様がお怒りになる。

「五嶺様のお味がします」

 俺はわざとにやりと笑い、見せ付けるように鈴口に溜まった蜜を舐め取った。

「エビス、もう、イかせて……」

 五嶺様はもう泣きそうだ。俺もそろそろ頃合だろうと思う。これ以上焦らして嫌われるのは嫌だ。

「判りました」

 俺は、五嶺様の後ろを攻めながら、左手でサオを掴んだ。口にやや深くくわえ、チュッ、チュッといやらしい音を立てて吸い上げる。

 亀頭や裏スジを舌や唇で責めながら、左手の親指と薬指で輪を作り、五嶺様自身を囲む。そのまま指を上下させてサオを軽く扱きながら舌を使うと、五嶺様が声を上げた。

「あぁあっ、あぁぁぁぁっ!!」

 お声と共に、俺の口の中に五嶺様のご精がどくどくと勢いよく流れてくる。凄く量が多い。俺は、流れてくる精液を思いっきり吸い上げた。射精の瞬間に吸い上げられて、五嶺様が身も世も無いほど善がる。

 ごくりと喉を鳴らして、俺はそれを嚥下する。

 ちゅるちゅると尿道に溜まった精液も残さず吸い上げ、綺麗に舐め取った。

 五嶺様は、ぐったりと布団の上に横たわっていた。まるで捨てられた白い花のよう。

 荒い息をつき、とろんとした目で呆けた顔をしている。

「そんな顔して、それほどよかったんですね。俺も嬉しいです」

 大好きな人をイかせ、あまつさえその人のものを受け入れた満足感で俺もいっぱいだった。

「多分、俺はもっと量多いです。五嶺様の中にたくさん出してしまうと思いますけど笑わないでくださいね」

 俺がそう言うと、頭が真っ白で何事か全く理解して無いらしい五嶺様が頷いた。

 ぐちゅ。と挿入した指を動かすと、ようやくあっと高い声を上げる。

「ああっ、やだ、エビス、ひっ!」

 射精した後の敏感な体が、貪欲に後ろで快感をむさぼる。

「もういいかなぁ? もうずいぶんいじりまくってるから、すっかり広がっちゃってますよ、ぱっくり口開けてる」

 指をいったん引き抜き、ローションを足しながら俺は言った。そこを少し引っ張っただけで、すぐにめくれて中を見せる。人差し指と中指で挟んで広げると、ぱくっといやらしく口をあけた。

「別に俺は急ぎませんよ。ここに快感を覚えてもらうまで、じっくりやりますから」

 ぐったりとして抵抗できない五嶺様にそう言うと、今度は、指を三本そこに入れる。

「痛いですか?」

 俺の問いに、五嶺様は首を振った。

「苦しいですか?」

 その問いには、かすかに頷く。俺は、中で指を動かし、徐々に解す。ここには、部分的にきつい箇所があって、挿入するには、そこを上手く広げてやらないといけないのだ。

「ああっ、ふぅ……っ、んあっ!」

 ここまでくると、かなり五嶺様もここで感じてしまうらしく、好い声で鳴いて下さるので、拡張が楽しくて仕方が無い。

 じっくりと緩めてやると、そこの肉が指に絡み付いてくる。

「もう指三本入っちゃいましたよ。もう俺の挿れても大丈夫ですね」

「そんな大きいの……」

 五嶺様が、俺の股間を見ながら小さく呟く。

「大丈夫ですよ」

 俺はにっこりと微笑んだ。

「五嶺様のここ、とろとろになってますから、苦しいかもしれませんけど、多分痛くは無いですよ」

 そう言って指を抜くと、緩めた五嶺様のそこが口をあける。締まらないうちに、俺は急いで自分のいきり勃ったものを宛がった。

 そこに先ほどまで挿入されていたごつごつした指より、こっちの方がはるかに大きいが、楽に入る。

 思ったとおり、たっぷりローションを注ぎ込み、丁寧に緩めていた五嶺様のそこは、やや抵抗したが俺の亀頭を飲み込んだ。ここさえ挿入できれば後は楽だ。俺はゆっくりを腰を五嶺様のほうへ進めた。

 ズル……と粘膜が擦れる快感に、五嶺様が背を反らせ悲鳴を上げた。

「ひぁぁあああぁぁっ!」

「ほら五嶺様、大丈夫でしょう?」

「ああっ、エビス、エビスッ!」

 ズッ、ズッと深く挿入するたび、五嶺様が悲鳴を上げる。俺も、五嶺様の柔らかい粘膜の感触を存分に味わう。

 最奥まで入れると、俺は五嶺様の腰を両手で抱え、ゆさゆさと揺らした。

「ねぇ五嶺様、こうして揺らしたら、奥に俺が居るのが判るでしょう?」

「あっ、エビス、あっ。お前が、アタシの中にいるよぅ。あっ、もっと!」

 ゆっくりと出し入れすると、五嶺様が俺にしがみついた。背中にぎりぎりと爪が食い込む。足を俺の腰に絡め、もっと、もっととねだる。

 ローションと五嶺様の粘膜、俺自身が擦れて、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が響く。

「アタシは、お前にこんな事されて……あっ!」

 快感と背徳感で、五嶺様がもみくちゃにされている。こんな所で感じてしまっている。という戸惑いと罪悪感が、より一層快感を煽る。

「変な、声が、出るよぅ、エビス、嫌ぁ……」

 ぼろぼろと涙を流し、自ら腰を振って俺を求めながら、五嶺様が仰った。

「いいんですよ、声出して。もっと聞かせてください」

 俺は、五嶺様をなだめるように言い、己を出し入れする。

 五嶺様のいいところにあたるよう、さまざまに角度を変えて挿入する。ひときわ高く鳴く箇所に擦りつける。

 ゆっくり出し入れを繰り返しながら、五嶺様の乳首をひねる。「いやぁああぁぁああっ!」と高い声をあげ、五嶺様の中がきゅうっと締まった。

「ちょっと、激しくしますね」

 俺が一言言うと、うんうんと必死に五嶺様が頷いた、多分判って無い。

 俺は、乱れて張り付いた五嶺様の髪の毛を指で整え、ぐっと五嶺様の腰を掴んだ。

 ゆっくりとした動きを、だんだんと激しいものにしていく。五嶺様の奥へ、奥へと力強く突いてゆく。

「あ、あ、あっ、んっ、エビス。やぁっ、や、ん……」

 五嶺様が善がりまくる。

 ローションをたっぷり使い、とろとろに拡張した五嶺様の中は最高に気持ちがよかった。女なんかめじゃない。ぐちゃぐちゃに俺に絡みつき、きゅうきゅうと締め上げる。いやらしい音が絶え間なく響き、俺は射精に向かって動きを早めた。

 俺の太いものが、五嶺様の前立腺や最奥を付きまくる。

 俺の突き上げと、自らの動きに、五嶺様が眉根をしかめ、快楽にお顔をゆがめている。

「五嶺様のなか、凄いです。凄く気持ち良いですっ!」

 ずぷっ、ずぷっと五嶺様の中に突き入れながら、俺は叫んだ。頭が真っ白になりそうだ。限界が近い。

「ああぁあああああああっ!!」

 五嶺様が大きく叫んだ。大きく背を反らせ、俺にしがみつく。血が出るほど俺の背中に爪を立て、俺の腰に絡めていた足が、ぎゅっと俺を引き寄せる。

 もっと自分の奥へ奥へと俺を導くように。

 五嶺様の中が、きゅうっときつく締まった。

「五嶺さまっ!!」

 どくどくどくっと、ものすごい量の精液が俺から放たれる。

 ぴくん、ぴくんと痙攣をする五嶺様の中へ流れ込む。

「アラ、凄いねぃ」

 一足先にイき、ぜいぜいと荒い息をついていた汗だくの五嶺様が、にやりと笑って俺の顔を見る。 

「お前の出した勢いがあんまり凄いから、アタシの中で熱いのが出てるのが判るよ」

 五嶺様のお言葉に、俺は赤面してうろたえた。



 朝が来るまで何度も何度も、それこそ獣のように俺達はまぐわった。

 翌朝。


 声を出しすぎて喉がつぶれ、かすれた声で、五嶺様が「負けた」と悔しそうに小さく呟いたのを、俺は大変満足な気持ちで聞いていた。


「次は覚えてろぃ、エビス」

 屋敷の皆に知れぬよう、早朝に五嶺様のお部屋を出る俺の背に、声がかけられたので慌てて振り向く。

 体中に赤いあざを散らした五嶺様が、襦袢を軽く羽織った半裸のままぎろりと恐ろしい目で俺を睨みつける。よっぽどプライドを傷つけてしまったようだ。

 ひゃぁ……。と怯える気持ちも無いでもなかったが、ここで弱みを見せるわけにはいかない。

「返り討ちにさせていただきます」

 わざとふざけて慇懃無礼に答えた俺に、五嶺様は恐ろしい目をしたままふっと口元だけで笑い「めっちゃくちゃの、ぎったぎたにしてくれる」と恐ろしい言葉を残して布団を引っかぶった。


 楽しみ半分、恐怖半分の俺がいる。







20090912 UP
初出 20060812発行 世に五嶺の花が咲くなり


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