『ある晴れた金曜日』 『ある晴れた〜』と言う題の割には雨が降っている。 じゃあある雨の金曜日と言えば良いじゃないかと思われるとそれまでなのだが、そこを敢えて『ある晴れた金曜日』にした。 むしろ晴れでなければいけない。 雨はおろか曇りなど言語道断。 とても中途半端で気持悪い。 察しの良い方は気付いているだろうが、今回のBGMがそれなのだ。 まさに『ある晴れた金曜日』。 今日は金曜ではないが現に晴れている。 先週の金曜は晴天だった。 現実の話をしだすときりが無いので話を進めたいと思う。 雨が降っているのだ。 スピラに。 降り続いている雨は草木を濡らし、建物をけぶらせている。 そんな話、有ってたまるかと言わないで欲しい。 雨が降らないと始まらないのだ。 どうも雨季のようでスピラの民は降り出した雨に驚く訳でなく足早に家路をたどる。 今やこのミヘン街道には人の姿はない。 チョコボ達は身を寄せ合い、地面に蹲って不用意に体温が奪われるのを防いでいた。 動物の本能的な行動である。 旅行公司のチョコボの世話をしている者達は自らが濡れるのを構わず、屋根から周囲をぐるりと囲む柵に布を渡して簡易な屋根を作ってやっていた。 いつも人が溢れているルカのブリッツスタジアムはただ雨がベンチや床を叩き付けている。 その音はまるで万雷の拍手のように無人のスタジアムを包んでいた。 しかし今回の舞台はミヘン街道の旅行公司でもなく、ましてやルカでもない。 ならばドコなのか。 気分換えませんか? 所、変わってココは某宿。 変わるのかよ! 某宿ってドコだよ?! 旅行公司じゃねーのかよ!! …思わず自分でツッコミを入れる程あいまいだが某所、某宿で納得して頂く他はない。 その某宿でたむろ…もといこの雨で旅の中断を余儀なくされた皆様、良くご存じの召喚士様一行が居た。 「いつまで降るんスかね…」 退屈そうに窓を叩き付けていく雨を見ているのはティーダ。 もう既にこの雨で旅が中断して3日目なのだ。 1日、2日は確かに嬉しかった。 しかし。 3日目ともなると体の疲れはすっかり取れて無駄に元気なのだ。 今ならトーナメントが有っても休み無しで行けそうッス!──とティーダは思っていた。 だが試合どころか旅にも出れない。 ブリッツの選手兼ガードにはこの雨は退屈以外何者でもなかった。 「大体いつまで続くものなんスか…この雨」 「…一週間は続くかも知んねーなぁ…」 「一週間も続くんスか?!えー…嫌だなぁ…」 「イヤっつってもしょうがねーだろ…天気ばっかはよー…」 晴れさせる事も出来るのだが。 不満をぶつぶつ言っているティーダの姿をこっそり笑っていたのはアーロン。 ワッカの向かいの椅子に腰掛け、朝から入念に愛剣と腕輪の手入れをしている。 どうもこの人もする事が無いらしい。 「黙れ」 剣の手入れをする手を止めてふと呟いた。 サングラスの影から少しだけ覗く眼差しが鋭くにらんでいる。 しかし誰かに言うには小さな声だった。 まさか『おどす』の時のセリフの練習なのだろうか。 「うるさい」 やはり誰に言うでなく独り言のように呟いた。 独り言を言うアーロン。 実に不思議な光景である。 「いい加減にしろ」 不機嫌そうだ。 「誰に言ってると思ってるんだ」 誰に言ってるのかはこっちが知りたいところだ。 「貴様、ふざけてるのか!」 独り言にしては気合いが入っている。 独り言にも全力投球、アーロン、35才。 「誰が独り言だ!そんなものに全力投球する訳が無いだろう!」 余りの迫力にワッカ、ビビる。 ティーダ、固まる。 端で集まって雑談をしていた三人娘達も何故か思わず小声だ。 それに気付いたアーロンが顔を上げると皆、一斉に視線を泳がせた。 正面に居たワッカに至っては意味もなく立ち上がり“は、腹減ったなぁ…”と呟いている。 朝食は食べたばかりなのに。 「ふ…」 この人でも恥ずかしかったらしい。 「悪かったな…これでも一応人並みの感情くらいはある」 そう呟きながら立ち上がったアーロンはその場を後にして部屋に篭ってしまった。 アーロン、メンタルブレイク。 「アーロンさん…疲れてるのかな…」 部屋に篭ったアーロンを見送ってすぐユウナが口を開いた。 「どうしてもおっちゃんは前線に出っぱなしになっちゃうもんねぇ…アタシなんかチョイッと盗んだらはい、サヨナラー!…だもん」 「私も回復の時くらいしかみんなの役に立てないよ…」 何やら雰囲気が微妙に暗い。 そんな会話を聞いているのかいないのかさっぱり解らない顔で立っているキマリ。 良く見ると耳がユウナ達の方に向けられている。 聞いているようだ。 「あー!もう、何か面白い事無いんスか?!」 退屈に思わず声を上げるティーダ。 面白い事は有ったが教えようがない。 うろうろと落ち着き無く歩き回っていたがふと何か思い付いたように立ち止まった。 「ワッカ、ワッカ」 「お?何だ?」 何やらコソコソと話始めた二人に気付いたのはリュック。 行動派の彼女はすぐさま立ち上がって二人の間に入り込んだ。 「それ、面白そー!ね、ユウナんとルールーも誘おうよ」 「ユウナは良いけどよー…ルーはこう言う悪ふざけ言ってもやらねーだろ」 「そーかなぁ…言ってみるだけ言ってみるよ!待ってて!」 何をする気かは知っているが、取り合えず三人共楽しそうである。 リュックが説明するとやはりルールーはイマイチ乗り気ではなかったが、ユウナが “一緒にやろう” と誘うのを断れなかった。 「ねーねー、おっちゃんとキマリも誘おうよ」 「キマリはダメよ」 「え、何で?」 「じゃああんたはアノ格好出来るの?私はゴメンだわ」 一同一斉にキマリを見る。 肩に輪、胸元に飾り、腰当て…フンドシ。 それも白。 リュックは首を横に振った。 「あの…ワッカさんのも…ちょっと…」 ユウナの言葉にルールーが頷く。 リュックも頷く。 ティーダも頷く。 「何でお前まで頷くんだよ!」 「だってワッカの服、デカそうッス」 女性陣ティーダとワッカを見比べて、頷く。 「あ、じゃあおっちゃんも無理だねぇ」 「でもアノ服なら女子でも大きくても問題なしッスよ?」 「違うよ、おっちゃんがアタシの服に当たったら着れそうにないじゃん」 その場に居た全員が想像した。 花も恥じらう小柄な乙女の服を着るアーロン、35才。[View] 夢に見そうだ。 誰もがそう思ったのだろう…笑うに笑えないと言うような不思議な顔でうつ向いている。 「アーロン、却下」 ティーダの呟きに皆一斉に頷いた。 「クジ作ろー!」 言うが早い、リュックは店員に紙を貰うと、4人の名前を書いて小さく折り畳んだ。 「んじゃ、これ手の中でよーっく混ぜてよ」 「よっしゃ、ほれよこせ」 ワッカがクジを手の中でこれでもか!と言う程混ぜ、それをそれぞれが思い思いに手を伸ばして広げた。 「俺、ルールーッス!」 「あんたが?私はユウナよ」 「私はリュックの服」 「アタシがチイの服だから、まずアタシがチイから服借りて」 「リュックの服をユウナが、ユウナの服を私が着てからあんたに渡すわ」 「その間、俺は?」 「待ってるしかないでしょ。我慢しなさい」 「うっす!」 そして4人はぞろぞろと移動していった。 残された二人はふと同じ事を思う。 その間ティーダは裸か…。 「今のうちに祈れ」 △ × □ ○ ←→ ○ 入力成功!! 「何で俺なんだあああーっっ!!」 …室内にも関わらずワッカは綺麗な弧を描いて飛んでいった。 南無阿弥陀仏、チーン。 「あ、おっちゃん体調はイイの?」 ティーダの服を着たリュックとリュックの服を着たユウナが揃って顔を出した。 「何をしているんだ…お前達は…」 「見たまんま。服の取り替えっこだよ。どう?“似合うッスか?!”」 「似合っている。リュックもユウナも可愛い」 本日初めて口を開いたキマリの言葉は二人を喜ばせた。 「ルールーはどうした」 「ルールーはねぇ…苦戦してるの…」 「うん…私の服だと…」 そこまで言って二人は押し黙る。 アーロンは納得してそれ以上の追求をしなかった。 バァン! 「ワッカさんふっかあぁつ!」 入り口の扉を大きく開け、上から下まで濡れネズミになったワッカが帰ってきたが。 「わぁっ、やっぱルールーってスタイルイイよね!」 「苦しいから話するのキツイんだけど…」 ユウナの服を着たルールーの登場のせいで霞んでしまった。 リュックとユウナだけではなくアーロンやキマリすら見ない。 ワッカ、メンタルブレイク。 「ティーダ遅いねー」 「本当だね…あっ来たみたい」 廊下の奥からゆっくりと足元を確かめるように歩を進めて来る姿。 「「「「「「 あ 」」」」」」 その姿が広間に現れた時、ティーダ以外の全員がそう言った。 ──ルールーの服はご存じのように胸元が大きく開いている。 支えているのはアノ大きな胸。 しかしティーダには勿論無いに決まっている。 ティーダもそこに気付いて悩んだ末…。 「ジャストサイズッス!」 そう言って胸を張った。 一同絶句。 胸の代わりにブリッツのボールが2コ詰められていた。 ユウナとリュックは思わずルールーの胸を見る。 ジャストサイズ。 「わはははははっ!お前のチチは公式ボールサイズだったのか!」 皆が言いたくても言えなかった一言をワッカが笑いながら言った。 「最後まで耐えられる?」 微笑んだルールーが両手を高く上げた。 T・アルテマ。 「のわああぁぁーーーっっ!!!」 ワッカの声が高くこだました。 E N D ちょっと遊んでみました(笑) |