叩いて被ってジャンケンポン
ココは某宿。 だから某宿ってドコだよ! スピラのどこら辺なんだよ! またやってしまったがあくまでも某宿だ。 スピラのどことは言えない。 その某宿でサボり…ではなくこの雨で旅を中断されているご存じ、召喚士一行。 「昨日は面白かったねー!今日は何する?」 「今考えてた所ッス!」 「オレは面白くとも何ともねーよ…」 まぁまぁ…──とティーダがワッカをなだめて、また三人で考え始める。 「そうだ!みんな!」 やはり昨日同様何か思い付いたらしいティーダが全員を集めた。 「“叩いて被ってジャンケンポン”って知ってるッスか?」 「何だそりゃ」 「知らないわ」 「…あれか…」 みんなが一様に頭を悩ませる中、アーロンだけは知っていたらしくボソッと呟いた。 実はティーダが幼い頃にティーダに教わり、今まで一回も勝った例しが無いのだ。 “幼いティーダをオレが叩いたら…”そう思うと勝っても叩けず、負けて被ろうとするとティーダのスピードにやられ続け…。 現在157連敗中。 「うるさい」 また変な目で見られたいのだろうか。 「……」 アーロンが黙ったところでティーダの説明が始まり…組み合わせまで決まった。 「いいとこ見せるよ?!」 「一気に決めてくぞ!」 第一回戦、ティーダvsリュック。 早さがほぼ同時な上に勘の良い二人はなかなかの好勝負を見せていた。 決着付かないよー…──リュックは困っていた。 そして。 「叩いて被ってジャンケンポン!」 ドムッ!! 「ほいっ!」 「んぐっ?!」 “ポン!” と言った瞬間。 アルベド印の閃光弾が炸裂。 目をやられた隙にティーダの頭にピコピコハンマーも炸裂した。 ダメージ1。 「卑怯ッス!!」 「でも勝ちだもーんっ!」 周りの者はティーダ同様目をやられていて何が何だか判らない。 「リュックの勝ち、だな」 アーロンが呟いた。 この人だけはサングラスのお陰で事の次第をきちんと確認出来たらしい。 更に似たような手を昔にもやられ、それでも勝ちだと言い張られた事を覚えていたようだ。 案外根に持つタイプらしい。 「……」 学習能力は有るようだった。 さすがにもう変な目で見られるのはイヤなのだろう。 「なりふり構ってられないわね」 「……」 第二回戦、ルールーvsキマリ。 室内にルールーの声だけがこだまする。 だから優勢…と言う訳では無かった。 ジャンケンでは勝つのだが叩けないのだ。 「キマリ、上手いッス…」 思わずティーダが呟くほどに。 しかし防御ばかりでは勝てる訳がない。 更にルールーはキマリが “チョキ” を出せないのを知っていた。 この勝負は持久戦よ!!キマリが疲れて遅くなればこっちのものだわ!──とルールーが思った次の瞬間。 「ポン!!」 ピコッ! 「うっ!」 キマリが勝った。 この時を待っていたとばかりの電光石火。 普段の姿からは思えぬような早さである。 「どうして私が叩かれるのよ!!今のいったい何なのっ?!」 ルールーは混乱していた。 それもそうだろう。 ルールーは “パー” を出したのだ。 勝てる筈だった。 否、勝つ勝負だった。 なのに。 「い、田舎チョキ…」 皆が混乱している所でティーダが呆然と呟く。 「何だそりゃ」 「知ってるわ…でも “グーチョキパー” って技に摩り替えられ易くてエボンの教えでは禁じられていた筈…」 そんな事まで禁じているとは知らなかった。 「ロンゾの男達のみが使える。誇り高きロンゾだけの手だ」 「そんなの認めないわよ!」 「でも…チョキには間違い無いッス…」 ティーダの言葉にみんな頷いた。ルールーはとても悔しそうである。 本気になるような事なのだろうか…? 「やれやれ…」 「さーて、やったるかぁ!」 第三回戦、アーロンvsワッカ。 『叩いて被ってジャンケンポン!!』 二人の声が揃って室内に響いたその時。 「暗闇でびびってな!」 ジャンケンに負け、ヘルメットを被ったアーロンに向かって事も有ろうかブリッツボールが飛んだ。 しかしアーロンは腕輪で防御。 ステータス変化さえ防ぐ。 さすがアーロン、伊達に生きて…否、死んでない。 「言い直すな」 こちらに釘を指す事を忘れずにワッカをにらむ。 脅えるワッカ。 「お前はハンマーじゃなくボールを使うのか…イイだろう。俺も…これでやる」 机の上にゴトッと置かれたのは事も有ろうか“正宗”。 大人気無い。 「お前も切るぞ?!」 遠慮するが、どうやるつもりなのかだけは知りたい。 「……続けるぞ」 伝説のガード、答えられず。 そう言って有無を言わせない勢いで “叩いて被って…” と唱和した。 『ポン!』 「ふんっ!」 「のわぁっ!」 ダメージ限界突破!! 「常にこう有りたいものだな」 初勝利。 伝説のガードは遊びにも全力投球だった。 「……」 勝ち手は攻撃力255で正宗使用の“兜割り”。 弱い者イジメに等しい。 「……」 ふと立ち上がったアーロンが懐を探る。 そしてそれをワッカに向かって投げた。 『フェニックスの尾』 伝説のガードの割にみみっちぃが放置するよりはまだマシだ。 「なんか燃えてきたー!」 「…」 準決勝一回戦、リュックvsキマリ。 相変わらず無言のキマリ。 前回のそれぞれの戦いぶりを見ているとこの勝負も良い勝負になるものと思われた。 しかし。 「さいならっ!」 リュックとキマリ、基本的なスピードに差が有りすぎた。 リュック圧勝。 「かるいかるい」 キマリは無言だった。 「…出番か」 「ユウナ、入ります!」 準決勝二回戦、アーロンvsユウナ。 シード権を獲得していたユウナの登場である。 しかしどう見てもこれは弱い者イジメな戦いである。 なにしろ17才のか弱い乙女vs遊びにも全力投球な伝説のガード(攻撃力255)なのだ。 「……」 「ええっと、ジャンケンで勝ったらハンマーで叩いて、負けたら防御で良いんですよね?」 しかもユウナはこのゲームに馴れていない。 例えアーロンに157連敗の経験が有ったとしても余りにも差の有る戦いである。 「ふっ…好きなように戦ってみろ」 「はい!やってみます!」 アーロン、勝ちを確信した余裕の笑み。 「うるさい」 そして勝負は始まった。 ジャンケンで連勝し続けるアーロンの攻撃が容赦無く続いていた。 『叩いて被ってジャンケンポン!』 ユウナ、オーバードライブ! マスター召喚・イクシオン!! 『トールハンマー』 「「「「「?!」」」」」 その場に居た全員が固まった。 ジャンケンで初めて勝ったユウナは事も有ろうか召喚したのだ。 “ハンマー”に間違いは無かったが。 「お疲れ様でした」 さすがの伝説のガードも召喚獣には勝てず。 室内にユウナの爽やかな声が響き…他の者は無言だった。 「お願いします」 「大ピンチ」 決勝戦、ユウナvsリュック。 いきなりリュックが弱気なのには訳がある。 既に召喚しているのだ。 それもアニマ。 こんなのどうやって叩けって言うのー?!──とリュックは困惑していた。 考えてみて貰いたい。 リュックの前に立ちはだかるアニマ。 とにかくデカイ。 10m近くは有ろうかと言う巨体である。 他の召喚獣と比べてみても怪物じみたアノ顔。 祈り子が女性とは思えない。 更にどこからとも無く伸びている鎖でぐるぐる巻きである。 一体どこに繋がっているのだろうか。 足元からは得体の知れないうめき声が聞えた気がして、リュックは思わず “ひぃ” とうめき、椅子の上に体育座りしてしまう。 ついでに思い出したく無い事まで思い出してリュックはもう泣きそうだった。 数日程前、何気無くユウナに聞いたので有る。 カオティック・Dの時にだけ姿を見せるアニマの本当の姿を。 足元にそれが居るのだと思うと床に足も下ろせない。 精神戦だった。 まだゲームは始まってもいない。 「じゃあ、やってみよう!」 ユウナがにこやかに声をかけた次の瞬間。 「わーっ!許してっっ!!」 リュックは体を丸めて既に戦う気力がゼロどころかマイナスで有る。 ユウナ、戦わずして勝利。 本日の教訓。 “ゲームをやる前にルールはちゃんと決める。” E N D やっぱり遊んでしまいました☆(縛) |