前のページ終わりから既に1時間ほど経過したものと思って続きを読んで頂きたい。 …で。 ジェクトが爆睡し始めてからおよそ1時間ほどが過ぎ。 未だ爆睡中のジェクトの傍らでアーロンとブラスカが茶の銘柄について熱く語り合っていた時。 ドォーン!!と言う地鳴りと共に獣の戦いの雄叫びが村を震わせた。 「来ましたね…」 「はい!オイ、ジェクト起きろ!!行くぞ!」 アーロンに揺すられて寝惚けた頭をぼりぼりやっているジェクト。 まだ寝足りないご様子である。 そんな様子を見たブラスカは優しく微笑んで。 「ジェクト、連続魔法でアルテマと召喚獣、どっちが良い?」 顔はこの上なく優しく微笑んでいたが目がマジである。 やりかねない。 この人の今までの調子では確実にやりそうだ。 いいや、やる!(断言) 「よっしゃ、アーロンちゃん行くぞ!!」 効果覿面。 気合を入れたジェクトは剣を片手に逃げる様に猛スピードで表へと駆け出し、単身オーガの群れに飛び込んでいく。 「ちゃんを付けるなと言ってるだろう!!」 憤慨しながら出遅れたアーロンもそれに続いて群れの中へと突入していった。 …1人…また座り込んだと思ったらおもむろに茶を啜るブラスカ。 「あ、あの…」 「何か?」 「行かなくても良いんですか?」 「ああ…そうだね、もう少し雑魚の数が減った頃に行って助けようかな?」 他人事の様に呟いてまた茶を啜っている。 仏の顔をした鬼である。 思わず村人Aがアーロンとジェクトの無事をエボンに祈ってしまってもしょうがない。 しかし次の瞬間。 「来ましたね…」 低くポツリと呟くや否やブラスカは己のロッドを掴んで凄まじい速さで外へ駆け出した。 何事かと外を覗いた村人Aが見たのは信じられない速さで移動していくブラスカの背中。 ジェクトとアーロンがだいぶ疲れているのをすり抜け様にケアルガを放って、回復しておきながら自分は更にその向こうから新たに湧いてくるオーガの群れに突っ込んでいく。 ついでにそういう事には現在隙だらけのジェクトの尻を撫でていくのも忘れてない。 四方八方から飛び掛ってくるオーガ達に連続魔法でファイガを浴びせ倒していきながら一直線に森に向かっていく蓑虫の様な法衣の姿。 頭の飾りも今までに無いほど靡いている。 ブラスカの猛突進が突然止まったのは森の入り口だった。 ものの2分ほどの出来事である。 更に息切れ一つしていない。 もう人間じゃ無いとしか言いようが無い。 そのブラスカの前に立ちはだかるのは1匹だけ違う魔物。 お約束のボス敵登場である。 それも相手はモンスター闘技場に登場する4本腕の人喰鬼『闘鬼』 なかなかの強敵である。 「お手柔らかにお願いしますよ?」 言葉は通じる筈も無いのに微笑を浮かべてロッドを構えるブラスカ。 その姿に挑発する様に指差し、ちょいちょいと手招きをして4本の腕を高々と上げた闘鬼。 どちらも臨戦態勢である。 「ブラスカっ?!」 「ブラスカ様っっ!!」 ようやくブラスカの状況に気付いた二人であったが助けに行きたくても群がる雑魚の数が多すぎる。 自分の事に手一杯なのが現状。 二人の声に振り返りもしないブラスカはギラギラした目で闘鬼を見つめてポツリと呟いた。 「コレを倒したら、宿と夕食…そして久々にジェクトと…ふふふ…」 偉大なる大召喚士は俗世が抜けない所か、欲の塊の生臭坊主の様だ。 今までブラスカを崇め奉っていたエボンの民がこの事実を知ってしまったらきっと寝込んでしまう事だろう。 一部は喜ぶかも知れないが。 その時、何故かオーバードライブゲージが一つ上昇。 ブラスカ、オーバードライブ!! ダブル召喚、アニマ&バハムート!! 幾らオーバードライブした居るとは言えど二体同時召喚とは非常識な事この上ない。 侮りがたし、ブラスカ。 さすがの闘鬼も上級召喚獣を二対も同時に出されてはたまったものではない。 心成しか怯えている様にも見えてしまう。 更にこの事を前以て知っていたのか、それとも偶然か…二対ともオーバードライブが満タンな状態での登場である。 既に闘鬼の方が可哀相である。 しかしもう逃げる事余裕を与えてくれるほどブラスカは甘くない。 アニマの攻撃! 『カオティック・D』 ………。 闘鬼戦、あっけなく終了。 「もう終わりなのかい?」 苦笑を浮かべたブラスカはポツリと呟いた。 まだ力を持て余したバハムートを見上げて“勿体無いなぁ…”と考えたブラスカが何気無く振り返るとそこにはまだオーガ達と必死に戦っているジェクトとアーロンの姿。 ちょっと何かを考えるブラスカの図。 「ジェクト、アーロン!伏せろ!」 説明は一切無しの命令口調。 何が何だか解らないままへろへろになりかけているジェクトとアーロンが崩れる様にその場にしゃがみ込んだ、次の瞬間。 頭の上をバハムートのメガフレアが通り過ぎていく。 後もう一瞬遅かったら…───ジェクトは背筋に寒いものを覚えながらその光景を唖然と見ていた。 あれほど自分達が苦戦を強いられていた相手達はいとも簡単に光線を浴びて焼き尽くされ、大量の幻光中になり辺りを漂う。 「片付け終了…だね」 ブラスカはあくまでも爽やかに笑っていた。 一人でも十分じゃなかったのだろうか…。 その夜は村を上げてのお祭り騒ぎである。 今まで村を離れて隠れ住んでいた者達も戻って来て、村は僅かながら活気を取り戻した様だ。 みんな満面の笑顔を浮かべて魔物を退治してくれたブラスカ一行を祭り上げている。 その状況に照れ戸惑うアーロン。 場慣れした様子で自信満々、調子に乗って村娘なんかを口説いているジェクト。 その後ろをスーッと音も無く近づいた影がポツリと呟いた。 「ジェクト、良い度胸ですね…ウフフフ」 ジェクト、石化。 固まってしまったジェクトの後ろから何食わぬ顔で現れたのはもちろんブラスカである。 「ああ、どうしたんだいジェクト。石化して…早く解除しなくては!」 途中まで見事なまでの棒読み。 村人が唖然としている中、ひょいっとジェクトを肩に担ぎ上げたブラスカは今夜借りる事になった民家に突進していく。 見た目より馬鹿力である。 「あ、暫く集中させて下さいね?」 扉を閉めかけて振り返り、ニッコリ。 悪魔の微笑みは何故か村人全員+アーロンの首を激しく縦に振らせてしまう魔力が有る様だ。 その夜、ジェクトが祭りの輪に戻ってくる事は無かった。 アーメン。 翌朝、まだ夜も明けきらぬ頃。 「挨拶は宜しいのですか?」 「ああ、見送られるのは苦手でね…このまま静かに立ち去る方が良いよ」 朝靄立ち込める村を抜けて旅を再会したブラスカ御一行。 最後尾で昨夜のダメージが抜けていないジェクトを除いてアーロンもブラスカもやけに爽やかだった。 「では旅を続けようか」 「はい!」 「ぉぅ…」 1人だけやけにブルーである。 朝から笑顔も爽やかに元気よく歩き始めたブラスカの後ろに尊敬の眼差しをキラキラと輝かせて付いて行くアーロン。 その後ろでヨロヨロと腰を庇いつつどうにか付いていくジェクトの姿が朝靄の中に消えていった。 ブラスカ一行が救った村の村人達が目覚める頃にはブラスカ達の姿は無く。 それと同時に何故か村中の金品も一切無くなっていた。 行け行け、ブラスカ様! 暗黒道をどこまでも!! はい、今回も勢い良く馬鹿です(笑) |