= 愛の継承 =



 許してください とは言えなかった。
 許さない とは言われなかった。

私も共に償う筈の罪を一人で背負った青年。
その凛々しき横顔はこの胸に痛い棘の様に今も刺さったまま…。





彼が傷付き、苦しんでいるのはまるで手に取るように感じていた。
それでも彼はもう私の差し伸べる手を取りはしない。
拒絶に似た強さで振り解く意識は…ただの意地などではなく私を守る様に優しく、強い。

こんなに離れた場所に居るのに。
もうあなたは私の騎士では無いのに。
それでも繋がりは途切れる事無く続き…彼が感じる苦痛や痛みを共に胸の内で受け止めながら、何も起こってないかの様に振る舞い、過ごす日々。
それは私が受けなければならない、罪。
共に歩むべき騎士と離れる道を選んだ私への罰。









───私は今、エスタに居る。
それは自ら望んだ訳ではなく、シドの勧めに従った事で存在しうるだけの朧な。

『イデア、申し訳無いのですがリノアと共にエスタに行ってくれませんか?』

シドがそう切り出してきたのは全てが終わった翌日の朝。
穏やかな1日の始まりの挨拶を何年ぶりかに交わして微笑み合った後の事。
その一言で私は悟ってしまった。



私には二人の騎士が居る。
一人目は共に連れ添い、長きに渡って私を愛してくれているもう既に老いたる騎士。
もう一人は私の中の悪しき魔女がその心の隙に滑り込み、絡め取ってしまった若き騎士。

その若き騎士の意志が傍に感じられない。



それが全ての答え。





『…行ってしまったのですね?』
『ああ、昨日の内にね』
『解りました。私はエスタに参りましょう…リノアにはもう?』
『ええ、君に告げる前に連絡を。迎えを出していますのでもう直にココへ』
『では私もすぐに仕度を』
『…申し訳有りません』

微笑み合いながら頷き合って、向けた背に…シドの抑えきれない震えを滲ませた謝罪の言葉が縋るように追いかけてきた。
私はただ黙って、首を横に振る。
返り見たシドは笑顔とも泣き顔ともつかない様な顔でただ真っ直ぐに私を見ていた。

『解っています。ですからそんな顔をしないで下さい』
『イデア、済まない』
『…あなたがそうして私に謝るのは何度目でしょうね?そして私はその度に同じ事を言いましたわ。 “解っています” と。…この言葉に嘘偽りなど有りません』
『ははは…そうだったね。…私は何度君に謝れば良いのだろう…?何度言っても、きっと足りはしない。足りないんだよ…』

すっかり俯いてしまったシドの柔らかい栗色の髪が朝日に照らされて小さく揺れていた。
体の横で白くなってしまう程に握り締められた両の拳が何も言わなくても彼の心を私に表していた。
だから私はその固く握り締められた手を取り、漸く顔を上げてくれたシドのその青空のような色をした眼差しに訴えるように静かに尋ねる。

『あなた、私が以前言ったあのお願いを覚えていますか?』
『ああ、覚えているとも。忘れる筈がない。誰でもない、君の願いだ』
『今度も守ってくださいますよね?』
『…勿論だとも。さあ、そろそろ時間だ。行っておいで、イデア』
『行ってきます、あなた』





…それがシドと交わした最後の言葉。
あの日からもう3年。
長くて短い月日。

「イデアさん」

充てられた部屋からテラスに出て大陸を渡る生暖かい風を頬に感じながら意識を集中していた時…灯りを落とした室内からリノアが声をかけてきた。
近付いてくる姿が月に照らされてそのまだ僅かに幼さを残す表情を露わにする。

「今日もやる…?」
「ええ、私があの子にしてあげられる事はこれだけですから」
「あの子だって!サイファーもイデアさんにかかったらただの子供なんだ?」
「そうですね…サイファーだけでなく、スコールもキスティスもゼルもセルフィもアーヴァインも…皆私の子供同然でしたから」
「…私のパパもイデアさんみたいに私の事思ってくれてるかな?」
「勿論です。子を思わない親など居ませんよ」
「ふふ、ならいいなぁ…」

そんな風に笑う仕草を見ているとそこらに居る女性と変わりないように思える。
だが彼女もまた魔女。
私が倒された時に私の中に居た悪しき魔女がその力を継承させてしまった、魔女。

「じゃあやろっか」
「ええ」

向かいに腰掛けたリノアの手を取り意識をゆっくりと紡いでいく。
私達の共通点は同じ魔女から受け継いだ力。
そうして主を失った魔女の騎士。



今は囚われの身のその気高く優しい騎士の為に。



意識を高めると良く解る。
もう私の内には僅かな魔力しか残されてはいない。
こうして頼らなければ罪を償う事も出来ない程に。
立ち上る魔力を糸を紡ぐように撚り合わせて。

『エルオーネ、お願いします』
『はい』

私達はそれぞれ別の場所に居る。
だがその声は確かに伝わり、誰にも知られる事なく静かに毎夜繰り返されていた。
誰にも知られてはいけない…秘め事。










意識が宙に漂い、時はその力を失う
距離は意味を持たず
壁は存在しないかの様に立ち消える
目下で眠るは主を失くした騎士
その内に閉ざした記憶

彼は恐れていた
その記憶に触れられる事を
その記憶が暴かれる事を



これはあなたへの償い
望むのなら封じましょう
子守唄を謳ったあの時の様に
望むのなら受け止めましょう
揺り籠を揺らした手を以って

光が世界を包めば 痛みが
永久に続くような 苦しみが

ならば闇が包むこの時だけは
全てを忘れ 緩やかに眠れ…






「…本当にこれで良いのかな?サイファーが知ったら怒りそう」

己の身の内に戻ってきたのを感じながらゆっくり目を開けると同じ様に戻されたリノアがそう呟いた。

「良くは無いでしょう。いずれ彼は私がしてる事によって苦しむかも知れない。ですが、今はこうするしかないのです。騎士を失った魔女がどうなるかはご存知?」
「知ってます」
「騎士にも同じ事が言えます。一度魂に付けられた印は消えません。それは魔女を失ったのちも力を発し続けるのよ…彼が生きてる限り、それは永遠に続く苦しみになります」
「…」
「あなたとスコールは仮の契約を結んだだけ。だからこうして離れていても、もしどちらかを欠いても問題は有りません。ですがサイファーは…」
「魂の契約を結んでしまった?」
「…ええ。アルテミシアは私の騎士では自分の力を十分に発揮出来ないのを知っていたのですよ。だからサイファーを選んだ」

…それは私も私の騎士も感じていた事。
アルテミシアの力は巨大過ぎて私では抑え切れなかったように。
私の騎士はアルテミシアの騎士になるには何かが足りなかった。

「イデアさんの騎士って、サイファーじゃなくて…シドさん?」
「そうです。シドが私の騎士。サイファーは私の騎士では有りません」
「アルテミシアの騎士なんだ…サイファーって」
「ええ、今はもう存在さえしない未来の魔女のその騎士。魂に付けられた印の力は未だ彼を蝕んでいるのに守るべき魔女はもう居ないのです。彼はその力を感じながらこれから先も生きて行かなければならないのですよ…」
「…何だかサイファー可哀想だね…」

生暖かい風が私とリノアの髪を揺らしていく。
それは月明かりの中で一筋の闇を漂わせるように切なく靡いた。
やりきれない思いが支配する。





アルテミシアは望んでいた。
未来永劫、己に付き従う騎士を。
誰よりも深い愛情を持つ純粋な心を求めてしまったが故に選んだ。

サイファーは望んでいた。
この身を捧げて守り通すべき魔女を。
誰にも愛されなかった寂しい心に触れてしまったが故に選ばれた。





まるで求め合うように望んでしまった。
けれどそれは本来の魔女と騎士の関係には有るまじき危うい繋がり。
本来望むべき者を見失った者達がまるで寄り添う様に求め合い、そして契約を結んでしまった。

片方を失っては成り立たない関係を。
望むがままに。





「…今のサイファーはまるでパンドラの箱のようなものです。不用意に開いてしまえばその中からありとあらゆる罪が零れだし、今度こそ本当に…彼は魔力に飲まれてしまう。それはもう破滅しか残されてはいない道なのです」
「そっか…」



私が受け入れた魔女がサイファーに刻み付けてしまった見えない烙印。
それを封じ続ける事が私の償い。

私が受け止める痛みとは別の痛みを抱えながら…それでも尚、微笑み続ける事が
“私ではあなたを守れません” と悲しそうに嘆いた私の騎士の選んだ償い。

愛しい子供達を巻き込む事を知りながら、止める手立てを見つけられなかった 私達 の償い───




















───それは穏やかな午後の一時。
胸騒ぎは一瞬。
次に押し寄せてきたビジョンは私が何よりも恐れていたもの。

「あああっ!!」
「イデアさん?!」

思わず頭を抱えて顔を伏せてその光景を振り払おうと頭を振る。
傍で声を掛けてくれるリノアのその声さえも霞むほどに強烈な光景。

(駄目…サイファー、そっちへ行ってはいけません!!)
『まま先生!今の光景は何?!』
「イデアさんっ!!何が見えるの?!教えて!」
「リノ、ア…エルオーネ…サイファーが…」
「サイファーがどうしたの?エルオーネさんも見えてるの?!」

どうやらエルオーネにも見えてしまったその光景は私の何を捨てても止めなければならないものだった。



このままでは “魔女の騎士” が暴走する。



「…二人とも協力してくれるかしら…」
「え、うん…良いけど、私は何をしたら良いの?」
「魔力を貸して。私達の力を合わせればきっと可能な筈…」
『まま先生、それは駄目!危険だし、失敗したらまま先生だけじゃなくてシド学園長が…』
「危険は重々承知です。けれど今は一刻を争う時。今、成さなければいつ成すのです?例えそれが私だけでなくシドさえも苦しめる事になっても…彼は理解して、笑って許してくれます」
「…私、協力する。サイファーに何が起こるのか解らないけど…イデアさんが決めた事だもん。協力するよ」
『…解りました。私も協力します…だけど帰ってきて、まま先生』
「有難う、二人とも。私は素敵な娘を二人も得た気分です」

目の前のリノアが照れた様に笑うのを見詰めて私も微笑んで。
程なく駆け込んできたエルオーネとも頷きを交わす。

「それでこれから何をするの?」
「…時間圧縮」
「えっ?」

リノアの問に呟くように答えたエルオーネはまだ躊躇うように視線を彷徨わせている。
これから行う事を漸く知ったリノアが私を見ていた。

「…アルテミシアの様に途方も無い魔力が有る訳ではない私達が行える時間圧縮はほんの少しの間の限られた空間のみにです。そしてその僅かの間に私は時さえも意味を成さないその空間に身を投じて、サイファーの元へ。リノアさん、あなたはその間魔力を放出し続けて貰わなくてはなくてはなりません。それでも協力してくれますか?」
「うん、大丈夫」
「エルオーネ、送ってくれますね?」
「…はい」

そうして私達は願った。
己の中に流れる魔女の血に問いかける様に、静かに、力強く。










お願い
私の中に残された魔女の血よ
どうかその最後の力を私に
全てを失くしても構いません
私と私の騎士が償わなければならない
その罪を償う時が来たのです

どうか私達にその時を

与えて










落ちていく
昇っていく

肌に触れる時が
温かく
冷たく
纏わりついては
離れていく

地に叩き付けられる様な重力
天に昇っていく様な浮力

満ちた光と
迫り来る闇が
鬩ぎあい
交じり合い

望む場所へと私を誘う











「っ?!テメェ今、どこから出てきた!?」
「魔女!!」

目の前に現われたのはアルテミシアの騎士。
見慣れた私の愛すべき人達の居る場所。

『悲しき魔女のその騎士よ。あなたへの罪を償う時が来ました。さぁ私の手を。今、あなたが向かうべき場所へを誘いましょう』
「…本当だろうな?」
「サイファー!誘惑拒否!!絶対駄目!」
『時間は有りません。決断を』
「信用してやろうじゃねぇか。俺をスコール達の所に連れて行け!」
「サイファー!」

彼は躊躇わなかった。
アルテミシアさえ愛と錯覚してしまった真っ直ぐな瞳を私に向けて不敵に笑うと私が差し出した手を取る。
私の正体を知っていた少女が彼を止めようと伸ばすその手も取って、運命の場所へと誘うべく歩を進めかけた時。



「イデア!!」



飛び出して来たその人が今までにないほど悲痛な声で私の名を呼んだ。
私はただ微笑みながら頷く。
愕然としたように立ち尽くしている私の騎士は沈痛な面持ちだったその表情を緩めて少し悲しそうに …しかし殊更優しく笑った。
朧になっていくその顔を瞳に焼き付けるように見詰めながら、私達を飲み込んだ空間は再び緩やかにその入口を閉じていく。





封印を施すように。




















時は一瞬。
溢れる光の中に魔女の騎士を押し出して、振り返る事無く目の前で繰り広げられている戦場へと駆け出す背中を見送った。

(後はあなたが切り開かなくてはならない…今こそあなたに掛けられた呪縛を自らの手で打ち破るのです、サイファー…)

…私はそのまま戻らないつもりだった。
その事を何も言わずに理解してくれたシドは遥か昔に約束したように…ただ何も言わずに笑って、見送ってくれた。
けれど呼び戻したのはエルオーネの声とリノア。

『まま先生!』
「イデアさん!」
「エルオーネ…リノア…」
「イデアさんが戻らないなら、私も戻らない。ここに居る!」
「それは駄目です。あなたは戻って」
「イヤっ!…お願い、一緒に戻ろう?エルオーネさんやシド学園長の為にも…私ね、イデアさんの事お母さんみたいに思ってるの。だから居なくなっちゃイヤ!」

その光景が昔、スコールに追われて私の前に現れたアルテミシアの悲しげな瞳と重なる。



誰にも愛されなかった魔女。
誰かに愛されたかった魔女。

だから受け止めた。



「…帰りましょうか…」
「本当?!」
「ええ、これ以上誰かに涙を流させるような事はもう…したく有りません」

嬉しそうに笑ったリノアに頷いて…共にその歪んだ空間からまた光の溢れる世界へ。
室内で祈る様に佇んでいたエルオーネに泣き顔で抱き締められて、傍らで再び私に抱きついてきたリノアの髪を梳くように撫でながら…窓の外に広がる空を見上げる。
蒼とも緑とも付かない空がどこまでも続いていた───




















 = 運命の歯車 =



───彼が全ての引き金だった。
始まりを引いたものが終わりを引く。
そんな事はいつの時代だって在り得る事ではない。
むしろ有得ない。
だが彼は確かに終わりを引いたのだ、自らの手で。





正直、そうするつもりはなかった。
あの場所にラグナが居なかったら私は残酷にもただ見ていただろう…彼らが戦っていた時の様に。
私はいつだって影だ。
ただ見ている。
いつだってそうしてきたものだったが…ラグナは違う。
彼は自ら率先して切り開いていこうとする。
そうして私はいつだってそんなラグナの傍に居たのだ。
いつだって。

『そんなの可笑しいだろ?!』

だから彼がそう叫んだ時にも私は傍に居た。
目の前にある3重の扉の向こうでは今も戦ってる者が居る。
自らの生を賭けて。
それを救おうとする者。
このまま見捨てようとする者。
私がどちらかと聞かれたらどちらでもなく…ただ見ようとしていたのだ。
彼が今、尚戦っている事を知りながら。

「キロス君、キミもそう思うだろ?な?な?」
「ふむ…確かに君の言った事はあながち間違いでもないが、正解でもない。…正解など誰も持っていやしないんだよ、ラグナ君」
「だったら正解が出るまで黙って待ってろって言うのかよ!んな事、洗濯物が乾くの待ってるのとは訳が違うんだぞ?!待ってる時間なんか無いじゃんかよー!」

そう、君はいつだってそうだ。
“傍観者” であろうとする私の手を引いていつの間にか中心に引き摺り込む。
そうして私はそれが嫌ではない。

「しょうがないな…彼はO型だそうだね?だったら私がそうだ。だから私が行こう。もし何らかの変化が有れば即、魔法研究所に自ら赴く事をココに居る君達を証人として宣言しておけば問題は無いだろう?私はただの大統領補佐官なのだからね」
「いや、しかし…」
「うぉっ、キロス君やるなー!さすが俺が見込んだ男だぜっ!よ、いい男っ!」
「…茶化して良い時と悪い時くらい自分で判断出来る様になって欲しいものだね、君には」



初めはただ見ていようと思ったのだ… “運命” と言うものがどこに転がるのか。
だがそうも行かないという事は、私が依頼した任務から戻ったアーヴァイン君の口から出た事実を聞いてからだった。



…私なら見ている。
だが私の傍に居るあの男だったらどうだ?
きっと立ち上がるに違いない。
そうして私をまた中心に巻き込んでいくんだ…きっとそうなる。
だったら時には先手を打って自ら踏み込んでいく、と言うのは一体どういう気分がする物なのだろうと言うのは性質の悪い興味にも似た感情からだった。

“大丈夫だ、今ならまだ間に合う。止めよう”

それは私が自らの手で運命を転がし始めた最初の一言だった…───










───即、連絡を取ったラグナも勿論私の意見に賛同してくれ、珍しく迅速にガーデンの方へ通達を出してくれていた。
もっともその内容がてんででたらめだったせいで結局私が戻ってから、改めて連絡する破目になったのだが。
シド学園長もこの由々しき事実を重く受け止めて動いてくれる事を承諾してくれた。
証拠は十分にある。
だったら後は勢いに任せて駆け抜けるだけだと笑って言ったラグナの言葉を思い出しながら、私は 『エスタ』 の使者として、そして代表代行としてシド学園長と共にガルバディア政府に赴いていた。
最悪の事態を想定して仕度していてくれたSeeD達が動いてくれたのもまたこの迅速なる詰問の場へと進む道になってくれた。
それぞれが自らの手で自らの運命を転がしていく。
それがまとまりを見せ、意思を持った時…初めて “奇跡” と呼ばれる事が起こるのだ。

「…我、ガルバディア政府がそういう事を行っていたと言う事を認めよう…。サイファー・アルマシー個人に対する人としてならぬ行為が有った事も認め、私は責任を持って大統領の座を辞任する」
「了承しました。辞任は今月内に。今回の事態に至った研究の資料、及びサイファー・アルマシー個人に対するデータの一切をガーデンに返還する旨を書類に」
「解った」
「…ガルバディアが何か事を起こさない限りは “沈黙の都市” と呼ばれる我らエスタが動く事は無いとココに宣言しましょう」
「ぅ…うむ…」
「 “ガーデン” は今回の件の一切の資料を最重要機密として保管した上でどこにも出しはしない事をお約束しましょう。あなたの名誉がこれ以上穢されないように」

他の誰にも知られる事無く、迅速にそして速やかに行われた詰問はそれまで決して首を縦に振りはしなかったビンザー・ディリング大統領に責を問い、認めさせる事が出来た。
それは確かに歴史が一つの線を引き、終わりと新たなる始まりの区切りを付けたという事だった───




















 = 魔女の騎士 =



───“魔女の騎士” が居た。
ガキの頃に見たあの映画の中で雄雄しく魔女を守ったあの魔女の騎士が。
その姿に自分を重ねていつか俺もそうなると信じてた。
そうして己が望むままに差し出された魔女の手を取り、魔女を守る騎士として戦場に立ったのはいつだったか。
だがそれは自分が思い描いていた姿とは違っていたという事に気付いたのは全てが終わってからだった。

『なぁ、俺とアンタ…何が違ってたんだ?あんたに憧れて魔女の騎士になったってのにアンタみたいに全てを救うどころか俺は…』
『何言ってんだよ。救っただろ?』
『…何を…』
『君は救っただろ、一番大切なものを』
『一番大切なもの…?』
『そうだぞ?魔女の騎士が全てを救えたのは一番大切なものを守ってたからだ。世界を救おうなんて事はこれっぽっちも考えた事ないんだからなっ?!』

一番大切なものを守っていたから。

『大切なものを守るからこそ騎士なんだぞ?魔女だったら誰でも良いって訳じゃなかった。別に魔女じゃなくてもぜぜん、良かったんだ』

魔女じゃなくても…。

『君は守っただろ?一番大切なものを。だったら胸張って戻っても良いんじゃんかよ!君は騎士だ。俺が認めてやるっ!』

俺は戻っても良いのか…?
本当に?
本当に戻っても良いのか?



どんどん遠ざかっていくその姿を追いかけて答えを聞こうと闇を走っていた。
右も左も前も後ろも無いただ真っ暗な闇。
足にはそれなりの自信が有った割には一つも追いつけない所かどんどん引き離されていく影。
もう手を伸ばしても届かない。
そうして諦めるのは酷く簡単だった。
ただ立ち止まれば良い。
立ち止まって頭上を見上げてみればどこまでも闇しかなかった筈の一部が綺麗に裂けたようになっていて、そこから溢れる光は酷く眩しくて。

…そこに行けば答えが見つかる気がした。
だから俺はまるで導かれるようにその光が射す方へと歩き始める。
やがてその一条の光が地上に射す場所を目にする事が出来る様になるにつれて聞こえてきだしたのは、誰かの泣き声。
俺はそれが誰だかと言う事を知ってる気がしていた。





誰でもじゃなく “誰か” であるその人物に ただ会いたい

胸を掻き毟りたくなるような 慕情

それが誰に向けての感情なのかも思い出せないという ジレンマ

そしてこの沈黙が酷く息苦しくて身悶えもせずに悶えた

訳もなく泣きたくなっていく…










『もう大切なもの、見失うんじゃないぞ?!』











ドンッ!と背中を突き飛ばすような勢いで背後から飛んで来たその声に押し出されるように光の中に包まれて…次いで頬に鈍い痛みが走った。

「…サイファー!!!」



その衝撃は声になり
その衝撃は俺の意識を揺さぶり
その衝撃が俺の記憶を呼び覚ました。



(ああ…俺は知ってる。この声を、この存在を…俺は知ってる…)

意識した途端に身体のあちこちが ミシミシと軋む様な痛みを訴え、更に足元では激しく言い争ってる声がする。
一人は多分この状況から、看護婦。
もう一人は風神。

あと一人は…───



































───さっきからやけに不機嫌そうな気配。
その横顔を見る度に俺は笑い出しそうになっていた。

『俺は騎士になるぜ?』

さっき俺がそう宣言したのが原因だろう。
スコールは “まだ懲りてないのか” と呆れて、そしてこの様だ。
だがそう思う原因を言ったらコイツは一体どういう反応をするのか…それを考えると笑い出しそうになって堪らない。





俺は騎士になる。
何よりも大切なものを守る為に。
もう一度、騎士として立ち上がる。

もう二度と見失う事はないだろう。





いつだって奇跡は望み、願い、立ち向かい続ける者の上に降る。





† Fin †






---あとがき---


本編にあたる 『Cross Road』 と共にウェブイベント 『冬季限定メルトン*キッス』 に投稿させて頂いたものでした。
テーマは “奇跡” 。

…と言う事で本編の方では人の力の届かない所にある 運命的な奇跡 を。
こちらの補足編の方では人の力が合わさって起こる 人為的な奇跡 を意識して書かせて頂いた訳ですが。
何と言うか全体的に重いです。
内容もサイズも…(遠目

イベントの方ではテーマにそぐわないと言う事から削除していた = 愛の継承 = の章も挿入する事が出来てちょっと嬉しかったりします。
実は一番大好きな章なので挿入できて嬉しかったり。
しかし野放しにしてると色々書き始めて止まらなくなるのは私の悪い癖です。



writing : H16.01.02




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