“抱いてくれ” それは弱気な俺の下心。 口の中で呟くだけが精一杯の。 誰でもない、あんたにだから抱かれたいと思う。 誰でもない、あんただから欲しいと思う。 体の横で握り締めていた手が震えだす。 帰ってこない返答に唇を噛んで。 自分が僅かながらでも呟いてしまった言葉への後悔を溜息に乗せて床にこぼした。 振り返らない白い背中。 縫い付けられた様に逸らせない視線。 苦しくて堪らないのに求めてしまう存在は前を向いたまま。 いつまで俺はあんたを見てればいい? もう、苦しいんだ。 耐え切れずに俯いた俺の前で振り返る気配。 「今の、本気か?」 静かな声がそう問いかけてきた。 …答えられない。 答えられる筈がない。 床を見つめたままの視界に映る黒い靴が一歩前に出された。 「答えろ、本気で言ったのか?」 強く握り締めた指先が痛い。 やましい気持ちが治まらない。 頷けばそれで解決する筈なのに固まってしまった体が言う事を聞かなかった。 あんただから抱かれたい。 あんただから欲しい。 気持ちは全てそういっているのに。 “そういえば…” 不意に切り出された言葉。 「お前、今日、誕生日だったよな?」 すっかり忘れていた事を持ち出されて思わずその意図を探ろうと顔を上げた。 真っ直ぐ射抜く様な瞳が俺を見ていた。 「プレゼントやろうか?」 ニヤリと何かを企む様に口の端を持ち上げたその不敵な笑いにぞくりとしてしまう。 避ける暇もなく急速に間を詰められた耳元。 『愛してる』 確かに囁かれた言葉。 「俺の今日をお前にやる。だからお前の今日を俺によこせ…いいな?」 嘘を吐けない距離でそう念を押した瞳が、唇が…俺を捕らえて離さない。 愛を囁くよりも甘く。 その声が告げた“Happy Birthday” 生まれたままの姿で どこよりも安心出来る腕の中で 後はただ泣き声を上げるだけ。 脳味噌が暑さで醗酵している模様。 スランプだからと言い訳してみたり…ごめんなさい、甘いです(色んな意味で |