願わくば今日という日は…お前の瞳に一番初めに映るもので有りたい。















『For you』





渋るスコールに無理矢理取らせた特別休暇。
半日だけしか取れなかったソレに対して俺はせいぜい眉間に皺を寄せて睨みながら、不満気に鼻を鳴らして講義したが…まぁそれもいい。
特別な日は思い出には残っても、意図しない日常の中で不意に思い出すような事は無い。
それよりは普段の日々に紛れている方がずっといい。
…それがお前の一部になれば…尚、イイ。





─── 昨夜から日付が変わるその時までずっと放さなかった。
スコールは俺がさっきから時計を意識してるという事にも気付かず、日中に使い果たした気力と今、消耗させた体力のせいで今にも崩れ落ちそうな儚い表情で闇をさ迷っている。
一気に堕ちる事の無いように気遣いながら緩慢に繰り返す律動。
それは時計の針と同じスピード。
一秒毎に近づく記念すべき明日、スコールは確かにこの世に生まれ落ちたのだ。
鳥の雛は生まれ落ちたその時に一番初めに見た動くものを親だと思って慕うようになる。
それはそいつにとって絶対無二のものになるという事。
それはそいつにとって失くしては生きていけなくなるほどに強烈で凶暴な想いになる。
例えそれが人には通用しないもので有ったとしても…願わずに居られない。



願わくば今日という日は…お前の瞳に一番初めに映るもので有りたい、と。



「スコール」

細く掠れた声を上げるしか出来なくなっていた体を抱き寄せて、その虚ろな瞳を呼び起こすように
願いを込めながら静かにその名を口にした。
闇ばかり見ていた瞳が…漸く意思を持って鈍く輝き、俺を睨んで来る。

「いい…加減、に…」
「解ってる。…スコール…スコール、愛してる」
「サイ、ファー?」
「愛してる…」
「っ…んぁ!ああっ!ひ、あああっ!!」

時計の針がカチリと一つ進んで…俺は俺自身の望みをまず一つ叶えた───















─── 瞼の裏に満ちた赤い太陽は…生まれ落ちる前の光景に似てるという。
ならば目覚めもまた一つの始まりだろう。
一日の始まりとしての目覚めと。
一年の始まりとしての目覚め。
横に有る温もりは瞼を閉じたままでも解るほどに俺に体を寄せて、まるで生まれ落ちる事を恐れているように思えた。
ゆっくりと瞼を持ち上げると見えるのは陽に照らし出されたダークブラウン。
少し身体の位置をずらして額を覆うそれをそっと掻き分けると、その下には伏せられた柔らかい睫と微かに顰めた眉。
暫くその表情を堪能した後、すっかり目覚めた身体を温もりをシェアしていたベッドから起こした。
横目だけでちらりとその寝顔を今一度見つめてみる。
その光景は俺にとっては何にも替えがたい秘密。
ただ、愛しくて。
ただ、恋しくて…。



願いを込めて髪に落とした唇。



…だがスコールは指先で微かにシーツを掻いただけで、目覚める様子は無かった。

(チッ…やっぱりダメか)

自分のしている事が可笑しくて声には出さずに笑いを噛む。
目の前で無防備な寝顔を晒している罪作りな唇がうっすらと開いて微かな笑みを形作った。
それを見ているだけで顔が綻ぶ。

(お前が今、俺の前に居るという奇跡に)

腕の力を頼りに不自然な形に頭を傾けて…そっと唇を重ねた。

「ん…」

ゆっくりと離れる視界の端で、もぞりと指先が動いて。
近すぎる距離から漸く焦点が合う位置まで離れた時に溜息と同時にうっすらとその瞳が開かれた。

「スコール」

呼ばれた名前に微かに揺れた瞳は…うっとりしたような眼差しで俺を見た。
朝日を取り込んだ瞳は透き通るようなブルーグレイ。
淡い光を宿すその瞳に己を刻み込むように覗き込みながらそっと囁いた目覚めの合図。

「おはよう。目、覚めたか?」

微かに気配で笑って頷いたスコールの額にもう一つキスを落として…そうして俺は漸く一番言いたかった言葉を口にしたのだった。



「誕生日おめでとう」




† Fin †





---あとがき---

この作品は勝手に挿文状態にしてしまったイラストを描かれた北さんに捧げます。
むしろ押し付け…(強制終了

つーか久しぶりに砂利吐きそうなほどに甘くなりましたね。
ただ甘いだけじゃなく、エロが入ってしまう辺りがやっぱり私です…orz

ちなみに挿文させて頂いたイラストが文章内に挿入されてる形態のものが、有難くも北さんのお宅にて掲載されております。



Special thenks:北様



writing:H16.09.11





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