雪が、空から舞い落ちる。 絶え間なく上から下へと。 与えられた質量とそこにかかる重力に任せて。 時に風に舞い上がって空高く昇ったとしても。 それは一時の幻想のような儚さではらはらと。 雪が、降っていた。 辺りを真白に染め上げるほどの雪が。 そんな景色の中に2つ、影が対を成すように立っている。 どちらもただ互いを見つめたままのような。 それでいて背中を向け合ってでも居るかのような空気を滲ませて、微動だにする事無く。 そう…ただ、立ち尽くしていると言うべきのような風情で。 2つは立っていた。 絶え間なく降り積もる雪景色の中に。 どのくらいの時間そうして居たと言うのだろうか…影達の上にはやがて白く雪が積もり。 それでも2つは動かずに。 ただ、互いを見ていた。 「どうしても、か?」 「そうだ」 不意に影の一つが声を発する事でそれが人だと解る。 それに呼応したもう一つの影。 この白い世界に相応しく、凛とした響きの声はまるで何かを切り捨てるかのように短い。 それからはまた暫くの間、2つは動かずに互いを見ていた。 いや、動けなかったというのが正しいのだろうか。 1歩でも足をどこかにやれば、目の前に立つ対のようなその影も動いてしまう。 指1本さえ動かせないような空気が2つの間には流れていた。 …その時、一陣の風が2つの間を駆け抜ける。 どちらが先に動いたのか。 それを証明するものは何もなく。 気付けば既にそこに2つの影が有ったのだ、という事すら夢のよう。 辺り一面、真白な景色の中で2つ影だけが動いている。 白だけの景色の中を吹き抜ける風の音に紛れ、響き渡るは金属音。 それに続く炸裂音。 絶えず雪を踏む足音と。 時々発されるのは呻きの様な。 それともただの呼吸のような。 互いの瞳に映るのは白の中に在る互いの存在だけ。 「何笑ってんだ」 「何も。そういうアンタも笑ってる」 「さぁな」 ふと足を止めた瞬間を見計らったように。 1つが真っ直ぐ構えた漆黒のガンブレードの先に居るもう1つに問いかける。 仄白い光を放つガンブレードの向こう側で、もう1つはそう問い返す。 それが何を意味するのか…互いには言葉にしなくても伝わっているかのよう。 互いの表情が意図的に僅かに緩み…次にはまたその場に居ない。 大気がもつ冷たさは既にどこか遠くにあるようで。 この舞い落ちる雪さえ、2つには温度のないただの白だと言わんばかりに。 吐き出す息がそれぞれの軌道を示すように虚空に残され。 淡く消えた後には何もない。 誰が為に2つは戦うか。 それは2つにしか解らない。 ─── やがて幾許かの時が過ぎ。 ふと2つは手を止めた。 それぞれが纏う衣は既にボロボロで。 荒々しい呼吸を抑える事もせず。 ただ真っ直ぐに互いを見つめたまま、白の中に佇む。 「おい」 1つが小さく息を吐いてゆっくりとそう切り出した。 「…ああ」 もう1つも小さく息を吐いてそう返した。 そして沈黙が2つの間をゆっくりと流れる。 何が “おい” で “ああ” なのか。 それを理解出来るのは2つだけ。 静かに伸ばされた掌は何を意味するのか。 それを見つめる瞳は何を思うのか。 ふと零れ落ちた吐息は白い大地の上に凍って落ちた。 「ス、コール…」 微かに、しかしはっきりと告げられた言葉は不自然に途切れ。 ただの白だった筈の大地には黒いような、赤いような染みが静かに広がっていく。 大きな掌が見上げる青白い顔を包み。 ただ愛しいと告げるよりも雄弁に頬を撫で、髪を撫で。 「生きろ」 短く告げられた言葉が引き金のように、2つは元々1つで在ったというかのように抱き合った。 閉じられた瞳から流れ落ちた涙。 追い詰められた時間を惜しむように。 赤く染まった掌がもう1つの頬を捕らえ。 2つは深く深く口付けを交わす。 …それはとても静かな情景だった。 先程までの瞬きすら許されないような時間は既に終わりを告げていた。 ただそこに有るのは1つの影だけ。 後はただ、吹き荒ぶ風が舞い散る白を弄ぶように。 山に、街に、家に、人に。 全てのものの上に白を乗せて綺麗にしていく。 そこで何が有ったのか。 知るのは立ち尽くした影1つ。 既にご覧になった方もいらっしゃるとは思いますが、冬のリンクラリーイベント『re-Born』のゴールページの方へ投稿させて頂いたサイスコかどうかすら不明な作品でした。 どうなんですかね?(何が むしろどうしたかったんですかね?(聞くな 多分、この時ほぼ同時に改稿を進めていた『Snow Dance』の影響が過分に出ていたのだとか言うのは最早いい訳でしょうか。 ちなみに『Snow Dance』の方は未だに纏まりません(´・ω・`) |