『いろは』






「今度の土曜、空けとけ」

すれ違い様にそう微かに告げた声
耳慣れたその声はいつ聞いてもよく響く
何事かと視線で追っても
何も無かったかの様に振り返りもせずに
つまりは俺の意見は元から聞くつもりは無いと言う事

宣言された土曜が近づく
だかすれ違う事が有っても
隣に座るような事が有っても
例え俺から 一体何の用なんだ と問いかけても

「土曜になったら解る。絶対に空けとけよ?」

そう笑って立ち去るだけ

一体何のつもりなのか
考えれば考えるほどに解らなくなる
結局の所
アイツの考えはいつまで経ったとしても
俺には解りはしないんだ…と
そう自分の中で決着をつけて



それでも釈然としないままに
アイツに予約されたかの様な土曜が来た





目覚めはいつもどおり
何度も何度も念を押されたせいで
なかなか取れない休みまで取ってしまって
またこれで来月まで休めないな…と溜息を吐く
だるい体で何と無く身支度を整えてみても
あれだけ俺に何度も念を押した男は何の音沙汰も無く
訳が解らないまま
ただ呆然としたまま
何もしないままで半日が過ぎた



いつの間にかうとうとと眠りに落ちかけていたらしい耳に
『起きろ』
あの良く響く声がポトリと俺の上に落ちてきた
ぼんやりとした覚醒
ぼやけたままの脳の芯に
衝撃的な囁き

「襲っちまうぞ、コラ」

それでも上手く働かない頭を緩く振って
滲んでるような視界にその姿を捉える
暈けた肌の色に滲んだグリーンが
殊更優しく笑いながら俺を見ている気がして
その表情を良く見たくて
ごしごしと目を擦る



万華鏡の様に
ぐるりと滲んだ景色がゆっくりと戻っていきながら
不意に色を変えた

それがサイファーの腕の中なのだと気付くのには
まだ寝惚けている頭には厳しくて
何が起きたのかも解らずに
ただ黙って抱き締められたままで
呼吸に乗って体の中まで染み渡ってくる様な
アイツの香りに包まれている



「誕生日おめでとう」



こっそりと秘密を打ち明ける様な
らしくない囁き
驚くべき出来事も
冷房で冷えてしまった体を温める様な
包み込む温もりに掻き消されて
そっと目を閉じて ありがとう と呟いた

忘れられていたと思っていた
誰も覚えてなど居ないと思っていた
予想は綺麗に打ち消されて
閉じた瞳から想いが零れそうになる



プレゼントが欲しい子供じゃ無い
それでも
誰かにたった一言だけ
心を込めた おめでとう を
そう願っていたから

後はただ黙ってその存在を
生きてるという事を
確かめ合うように抱き合ったまま
動かずに…





後で解ったのは…その日の休日というもの自体が俺への誕生日プレゼントだったと言う事。
そうして俺は無駄に待ち呆けていた自分自身に苦笑し
新たな1年をまた刻み始める。





† Fin †





---あとがき---

心を込めたおめでとうはどんなプレゼントより勝る…筈…多分(自信なし/オイ
去年よりも少しだけ前向きになれたら良いなと自分自身にも言い聞かせていたりもします、はい。



writing:H15.08.23





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